アート

春を感じるような華やかさ。『ヘレンド展 ―皇妃エリザベートが愛したハンガリーの名窯―』(パナソニック汐留ミュージアム)

2016年より全国を巡回してきた『ヘレンド展 ―皇妃エリザベートが愛したハンガリーの名窯―』がパナソニック汐留ミュージアムにおいて開催中です。3月21日(水・祝)が見納めとなります。ショップに行けば目にすることができる陶磁器を展覧会という形で見ることにどれほどの価値があるの? と疑問に思われるかもしれませんが、ヨーロッパの名窯と讃えられるヘレンドの歴史的な陶磁器を一堂に鑑賞できることはそうはありません。

ハンガリーを代表する高級磁器窯として高い評価を受けてきたヘレンドは、首都・ブダペストから南西に約110キロほどの静かな田園地帯にあります。ナポレオン戦争後、ヨーロッパ全土に平和が戻り、様々な産業が各地に興り始めた1826年にヴィンツェ・シュティングル(1796〜1850)により創業したヘレンドは、オーストリア帝室・ハンガリー王室御用達としてフランツ・ヨーゼフ1世の庇護を受けて発展し、各国の王侯貴族に愛されました。

1839年にヘレンドに資本参加し、シュティンゲルより製作所を譲り受けた中興の祖であるモール・フィシェル(1799〜1880)は、非凡な芸術的才能とビジネスセンスを兼ね備えた人物で、貴族や裕福な市民向けの注文に応えていく中で、飛躍的に技術力を磨いていきました。また、ロンドン、パリ、ウィーンといった世界万国博覧会に積極的に参加して優れた製品の数々を出品し、大きな注目を集めました。

青地色絵ネオロココ様式人物図植木鉢 1890年代 ブダペスト国立工芸美術館蔵

色絵金彩花束文鳥飾り果物皿 1880年頃 ヘレンド磁器美術館蔵

フィシェルは、多彩な文様と繊細な絵付け、精巧な透彫りや塑像飾りなどの最高峰の装飾技術を開発するとともに、シノワズリ(17世紀後半から18世紀にかけてヨーロッパで流行した中国趣味の美術様式)と呼ばれ最高品質とされた中国の磁器から学び、次いで人気のあった日本の磁器とともに、忠実な複製品を作るとともに、東西文化を高いレベルで融合させた作品を次々に生みだしました。本展ではこうした東洋文化の影響を色濃く受けた作品も多数展示されています。

色絵金彩「伊万里」様式人物飾り蓋容器 1860年頃 ブダペスト国立工芸美術館蔵

フィシェルの息子、孫と経営が引き継がれたヘレンドでは、熟練の手作業の絵付けを活かした高い技術も継承され、技術革新への取り組みも熱心に行われました。透かし彫りの装飾で二重の器壁を持つ「ウエールズ」文のように東洋的な磁器の装飾はより絢爛に洗練され、柿右衛門磁器に特徴的なモチーフを取り入れた「ゲデレー」文はハンガリー人の憧れの的となりました。このシリーズはフランツ・ヨーゼフ1世の皇妃(王妃)エリザベートが愛したゲデレー宮殿用として彼女のために作られたものでした。

黄地色絵花卉文龍飾りティーポット 1860年頃 ハンガリー国立美術館蔵

色絵金彩「ゲデレー」文ティーセット 1875年頃 ブダペスト国立工芸美術館蔵

展覧会終盤の展示では、現代のヘレンドの人気製品をコーディネートした写真撮影コーナーが用意されています。第二次世界大戦後、共産主義政権の中で国有化され、贅沢が禁じられたため普及品の生産を余儀なくされたヘレンドが、再び経営の独立性を取り戻し現在に至るまで、高い芸術性と独創性を維持してきたことがわかる逸品でした。

展覧会出口手前に設置された「写真撮影OK」コーナーに設置されたティーセットのコーディネイト

約230点と過去最高の出展規模になったという、今回が日本で3度目の開催となるヘレンド展。正直なところ、これまでヨーロッパの陶磁器にはほとんど興味を持っていなかったのですが、実際にヘレンドが約200年の歴史で生みだしてきた素晴らしい作品群を目の当たりにして、大いに感銘を受けました。「百聞は一見にしかず」とはまさしくこのことと意を得たりでした。

その全盛期ですら決して工房の経営状態が良好とは言えず、不安定な国情や政治情勢から歴史の波に翻弄され続ける中、職人達が技術の粋を尽くした作品を生みだし、東西文化を高いレベルで融合し、時間をかけてオリジナルの独自性を築いてきたヘレンドの歴史と精神性が感じられる素晴らしい展覧会です。春を感じられるような華やかさを目にする、またとないこの機会にぜひ。

展覧会情報:
『ヘレンド展 ―皇妃エリザベートが愛したハンガリーの名窯―』
会期:2018年1月13日(土)~3月21日(水)
会場:パナソニック汐留ミュージアム
住所:〒105-8301 東京都港区東新橋1-5-1
開館時間:10:00~18:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:毎週水曜日※3/21は開館
観覧料:一般 1000円 / 65歳以上 900円 / 大学生700円 / 中・高校生 500円
問合せ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
公式展覧会HP http://panasonic.co.jp/es/museum/

かるび

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メーカー、IT企業で勤務後、41歳にして1年間のサバティカル休暇へ突入。現在は、ブロガー&Webライターとしてアートや映画について主催ブログ「あいむあらいぶ」(http://blog.imalive7799.com/)にて日々見聞きした出来事を書き綴っています。

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