アート

【趣味れーしょん美術館】#004:『ミケランジェロと理想の身体』展で筋肉を讃えよう!

ほんわかして輪郭が曖昧な身体表現。荒々しく残った削り跡。いまいち定まらない表情。この彫刻は……未完成じゃないか!

ミケランジェロ・ブオナローティ《ダヴィデ=アポロ》(1530年頃) フィレンツェ、バルジェッロ国立美術館(撮影:チバヒデトシ)

世界一有名な彫刻家ミケランジェロの未完の作品です。絵が上手い彫刻家のため、パトロンたちから「絵、描いてよぉ〜」とせがまれ、絵ばっかり描かされていた彫刻家です。

可哀想なミケ(ランジェロは省略するのが通)は元祖・筋肉フェチで、技量の真価は大理石彫刻で発揮されるのでした。だから、《ダヴィデ=アポロ》も肉体美を表現した傑作の男性像となることは間違いなかったのですが……。

本人が途中で放棄しちゃったのだから、仕方ないよね。ところで、本点を含むミケの彫刻2点が来日する『ミケランジェロと理想の身体』展が始まったの、皆さんご存知でしたか?

「ミケランジェロと理想の身体展」入り口のビジュアル(撮影:チバヒデトシ)

とはいえ、ランジェロ(あえてミケを省略するのも通)が制作した作品は2点のみ。西洋の美術史における「肉体美」や、ミケを崇拝する芸術家による「ミケを描いた作品」を語る美術品が展示されています。つまり、ミケに続く私たちこと筋肉フェチのための展覧会です。あの国立西洋美術館の敷居が急に低くなりましたね!

ヴィンチェンツォ・デ・ロッシ《ラオコーン》(1584年頃) ローマ、個人蔵、ガッレリア・デル・ラオコーンテ寄託(撮影:チバヒデトシ)

「古代のカッコいい像」といえば《ラオコーン》なんですよ。大元の作品は古代ギリシャ時代に作られた彫刻で、これがミケランジェロたちルネサンスの時代に発掘されました。

「なんか凄い躍動感ある彫刻が出てきた!」ってことでラオコーンは一斉を風靡。その流れでヴェンチェンツォ・デ・ロッシが制作したラオコーン像が来日しているのです。

こちらは写真撮影OKなので、スマホやカメラで写真を撮ってみてくださいね。フラッシュなど光は厳禁ですので、そこはよろしくお願いします。同じ筋肉フェチとして、清く正しく美しくありましょう。

《プットーとガチョウ》(1世紀半ば) ヴァチカン美術館(撮影:チバヒデトシ)

「理想の身体」といえばどんな身体ですか? と100人の筋肉フェチに聞けば、260人から「競泳選手のような肩の広い逆三角形」と回答いただくことでしょう。しかし、本展は赤ちゃんや子供の身体も忘れないから偉い。

ぷよぷよして可愛らしい赤ちゃんですね。顔、腕、脚の肉が余っている感じなんて、柔らかそうで大理石とは思えません。ガチョウを片手で押しつぶしていることを除けば、素晴らしくリアルな赤ちゃん描写です。

ちなみに私も「プットーって何?」と思ったので、調べてみました。要約すると「裸の赤ちゃん天使」で良さそう。ですが、キューピッドとの微妙な違いや、どの神話に出てくる何だとか、結構難しかったです。迷宮入りするので、読者の皆さまは疑問に思っても調べずに流すことをおすすめします。

パッシニャーノ(ドメニコ・クレスティ)《ミケランジェロの肖像》(17世紀初頭) 個人蔵(撮影:チバヒデトシ)

ミケを崇拝する画家や彫刻家による、ミケを描いた作品もありました。余談ですが、ミケは若い頃に鼻の骨を折ったため、ぐにゃっと曲がった鼻だったんですよ。でも肖像画ではちゃんと、いやむしろ高めの鼻が。本人に「鼻は高く!」と頼まれたのか、画家サイドの忖度があったのか…

なぜ鼻の骨を折ったかというと、「お前、絵ヘタだな」とお友達を挑発し、殴られたからです。アホであります。天才ってどうしてこうも性格が…まあ、折られた箇所が手ではなかったことを、不幸中の幸いと思っておきましょう。

ミケランジェロ・ブオナローティ《若き洗礼者ヨハネ》(1495-96年) ウベダ、エル・サルバドル聖堂、ハエン(スペイン)、メディナセリ公爵家財団法人(撮影:チバヒデトシ)

スレンダーな男の子の像ですが、よく見るとツギハギだらけ。フランケンシュタインかと思いましたねー。傷だらけの天使ですよ。

なぜツギハギだらけなのでしょうか。それは、20世紀前半のスペイン内戦で6割方失われ、残った14個のパーツから復元されたからです。いつか他の破片が見つかったときに復元箇所を取り外せるよう、マグネットで繋いでいるのだそう。仮止め状態なのです。

ミケランジェロ・ブオナローティ《若き洗礼者ヨハネ》(1495-96年) ウベダ、エル・サルバドル聖堂、ハエン(スペイン)、メディナセリ公爵家(撮影:チバヒデトシ)財団法人

それにしても、半分以上が無くなっても復元できることに驚きますよね。戦争で歴史的な文化財が失われるのはよく聞く話。つまり壊す人がいれば直す人もいるということ。アートのお医者さんがいるんだね。

壊す人がいたとしても、美しいものは不滅だし、フランケンのように蘇ります。究極の肉体美を表現したミケの作品には不遇のものも多いけど、傷だらけの天使だから愛しいのかも。この傷は「理想の身体」の虜になった人々が作品を守り抜いてきた人類の歴史だね。今日このときまで作品を守ってきた全ての人に感謝したい気持ちになりました。アーメン。

展覧会情報:
「ミケランジェロと理想の身体」
会期:2018年6月19日(火)~9月24日(月・休)
会場:国立西洋美術館(東京・上野公園)(〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7)
開館時間:午前9時30分~午後5時30分(金、土曜日は午後9時まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日、7月17日(火)
※ただし、7月16日(月・祝)、8月13日(月)、9月17日(月・祝)、9月24日(月・休)は開館
公式サイト:http://michelangelo2018.jp/

明菜

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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館めぐりの楽しさを発信。西洋美術、日本美術、現代アート、建築、装飾、ファッションなど、扱うジャンルは多岐にわたる。人間より猫やスズメに好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

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