アート

【茶の湯ファン必見】桃山時代の侘茶を体感!2019年秋、東京で開催中の2つの茶陶展を見逃すな!【展覧会レポート】

2019年は茶の湯で使われた陶磁器の展覧会が大人気。特にこの秋、東京で開催中の三井記念美術館「高麗茶碗」展サントリー美術館「黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部-美濃の茶陶」展の2つは、桃山時代以降、茶の湯の世界で伝統的に使われてきた代表的な茶碗を、近代数寄者の旧蔵作品など、多数の名品で徹底的に掘り下げた画期的な展覧会となっています。

展示品一つ一つが非常に小さいので、西洋美術の巨匠や荘厳な仏像が並ぶ展覧会に比べると派手なインパクトこそありませんが、出品されている作品は両展とも茶の湯の歴史を作ってきた名品揃い。茶の湯好きなら絶対見逃せない好展示となっているのです。

美術鑑賞の基本は、まずは良い作品をたくさん見ること、と言われますよね。そこで今回楽活編集部では、「茶の湯をこれから見たい!」という人にとって「はじめの半歩」を踏み出すためにオススメしたい2つの展覧会の取材レポートをお送りしたいと思います!

「黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部-美濃の茶陶」(サントリー美術館)

今から約400年前、戦国時代末期~桃山時代にかけて、日本では各地で「茶の湯」が大流行。それまで華麗で美しい「唐物茶碗」がもてはやされていた時代が終わり、千利休に代表される「侘び」の美意識に沿った和物茶碗が日本各地の名窯で焼かれました。

そして、それまで備前や信楽といった「六古窯」に代表される無彩色の焼締陶器しかなかった日本のやきものの世界に、突如として「色」と「かたち」のバラエティ豊かな装飾・造形でブレイクスルーを果たしたのが、この時期に美濃地方(現在の可児市・土岐市・多治見市など)で焼かれた一連のやきものでした。

織部州浜形手鉢 桃山時代 17世紀 サントリー美術館蔵

本展は、展覧会名に列挙されている通り「黄瀬戸」「瀬戸黒」「志野」「織部」と呼ばれる、桃山時代に焼かれた茶の湯のやきものを、前後期約140件もの名品で展観する非常に力の入った展覧会です。

「色」や「造形」の豊かさに注目

展覧会場に入ると、まず美濃茶陶が生み出された起源が直感的に理解できるような展示からスタート。中世以降、日本では「唐物」と呼ばれた中国陶磁器を手本に、その土地で得られる土や釉薬をやりくりしてコピーを作ろうと様々な試みが行われてきました。

美濃で生み出された「織部」や「志野」もまた、当初は中国産陶磁器の形態や質感を模倣するところから始まったと言われます。

こうして、美濃の茶陶におけるにぎやかな色彩は、どうにか唐物の華やかさに近づけようと職人たちが創意工夫する中で生み出されてきたのです。美濃茶陶の主要な種類がほぼ全て出揃った本展では、様々な名品を通して、桃山時代に大流行した様々な「色彩」をたっぷりと楽しめます。たとえば、

・「黄瀬戸」の”黄色”
・「総織部」の”緑”
・「志野」における長石釉の”白”
・「鼠志野」の”灰色”
・「鳴海織部」の”赤”
・「瀬戸黒」の”黒”

など。当時、須恵器の延長線上に造られていた日常生活雑器に囲まれて過ごしていた桃山時代の庶民にとって、美濃茶陶に突如溢れ出した色彩は刺激的だったかもしれませんね。

瀬戸黒茶碗 銘 礎石 桃山時代 16~17世紀 サントリー美術館蔵/光源の下で黒光りする漆黒の瀬戸黒。引き込まれるような澄んだ「黒」をぜひ体感してみてください!

また、色彩だけでなく、鉄絵などによって釉薬の下に筆で描かれた「絵付」の文様も楽しめるのが美濃の茶陶の特徴。素人以上達人未満の絶妙な「素朴絵」は、日本の四季折々の花鳥・山水風景や絵草紙をヒントに描かれたとされています。

鼠志野草文額皿 桃山時代 16~17世紀 サントリー美術館蔵/美濃地方特有の「鬼板」と呼ばれる土が焼き上げられると独特の灰色に発色します。

また、「織部」などに見られる左右非対称で人為的に歪ませた造形も桃山時代特有の面白さがあります。千利休亡きあと、独自の感覚で桃山時代の「侘び茶」をプロデュースした古田織部の美意識が反映されたとされる作品や、国際色豊かな桃山時代特有の異国情緒漂うデザインを味わってみてくださいね。

感涙!昭和の巨匠が作り出した傑作群

本展で最もおすすめしたいのが、美濃桃山茶陶の復興に人生を捧げた二人の昭和の大陶芸家、荒川豊藏と加藤唐九郎の作品が10点ずつ揃った展示エリア。

一介の陶片を手がかりに、それまで不明とされてきた「志野」の正確な生産地を執念で突き止めた荒川豊蔵、13歳で陶芸家デビュー以来、亡くなるまで約80年間生涯を陶磁器制作に捧げた加藤唐九郎は、生涯を通じて「志野」や「織部」の復興を通して美濃茶陶の美意識を体現しようとしました。

そんな二人の最高傑作ばかりが揃った約20点、ぜひ堪能してみてください。見れば見るほど、美濃茶陶の伝統に立脚しながら、400年前の職人たちを凌駕する前人未到の領域へ踏み込んでいたことがよくわかります。

近代数寄者旧蔵のオールスターが集結!

そして展示後半では、根津嘉一郎、益田鈍翁、原三渓、藤田傅三郎、畠山一清、野村徳七、松永安左エ門など、錚々たる近代数寄者が旧蔵した美濃茶陶がこれでもかとばかり出展。

特に目立ったのは「志野」の充実ぶり。三井記念美術館の至宝「卯花墻」(うのはながき)を筆頭に、国内の名品をほぼ全部狩り尽くしたかのようなゴージャスな展示には恐れ入りました。

志野茶碗 銘 朝日影 桃山時代 16~17世紀 公益財団法人香雪美術館蔵

いやはや、サントリー美術館のキュレーション力には脱帽です。これだけ集めるのにどれだけの下準備が必要だったのだろうと、その作品収集にかける徹底的な情熱にはいつも嘆息してしまいます。

高麗茶碗展(三井記念美術館)

サントリー美術館の物凄い展示に負けず劣らず凄かったのが、三井記念美術館の「高麗茶碗」展です。もともと同館では、絵画や書籍、茶碗など茶道美術の展覧会に非常に力を入れて取り組んできました。すでに過去の特別展の中で、「楽茶碗」「唐物茶碗」「桃山茶陶」等の大型特集を実施。

そこで今回、同館では残された有力な茶陶分野である「高麗茶碗」の特別展を開催することになりました。本展では、日本の茶の湯で侘び茶が大成された桃山時代、上述した美濃茶陶と並んで大流行した「高麗茶碗」を16世紀~17世紀に制作された名品約120点で大特集。

【重要文化財】粉引茶碗 三好粉引 16世紀 三井記念美術館蔵

高麗茶碗は素朴で庶民的な味わいが親しみやすい一方、「どれを見ても同じに見える」「分類が多すぎて難しい」と言われることもあり、意外に難解なイメージも持たれがちですよね。

しかし、本展では初心者がつまづきやすいポイントを押さえた解説パネルとともに、時代別の分類展示でしっかり整理されています。具体的には、高麗茶碗の発展の歴史を追っていきながら、時代別に大きく3タイプに分けて展示を見ていくことになります。

朝鮮半島の日常雑器が茶の湯で大ブレイク!

大井戸茶碗 上林井戸16世紀 三井記念美術館蔵/釉薬が窯の中で流れた跡や、高台の釉薬が縮れて収縮した梅花皮(かいらぎ)がたっぷり楽しめます。

まず展示の最初の方で楽しめるのが、16世紀に朝鮮半島において「日用雑器」として焼かれた茶碗類。朝鮮人が米やおかずを盛って食べていた素朴なご飯茶碗が、侘茶の世界では茶陶へと早変わり。「見立て」が得意な日本人は、彼らの日用雑器を「茶陶」として見立てて、三島、刷毛目、粉引、井戸、蕎麦、斗々屋、熊川、割高台など細かく分類して茶の湯で重宝するようになりました。

三島茶碗 二徳三島16世紀三井記念美術館蔵

確かにそれぞれの名称と、各茶碗の特徴を覚えたり、比較したりするのは少し大変ですが、よーく見ると一碗ごとに作行きや釉調が違っていて、微妙な違いを個性として大切に扱った江戸の数寄者たちのマニアックな視点に驚かされます。

日本向けに輸出された「日本人好みの」朝鮮陶磁

御所丸茶碗 古田高麗 16~17世紀 個人蔵

1580年代までは朝鮮の日用雑器に独特の侘びた風情を感じて高麗茶碗を重宝していた日本人ですが、華やかな造形性・色彩を持つ美濃や備前などの和物茶陶が流行しだすと、高麗茶碗に対する嗜好も、朝鮮当時の伝統にはみられないような器形のタイプが好まれるようになります。

御所丸茶碗 16~17世紀 三井記念美術館蔵/ほとんど黒織部と見分けがつきません。

1590年代に流行した御所丸、彫三島、伊羅保、金海茶碗といった茶碗は、アシンメトリーでにぎやかな色彩となっており、どこか美濃茶陶と雰囲気が似ていますよね。詳細な経緯は不明ですが、この頃になると日本から朝鮮半島現地の工房に日本人好みの茶碗や鉢などを注文した形跡が見られるのです。

伊羅保片身替茶碗 銘両国 16~17世紀 個人蔵/伊羅保茶碗も、鳴海織部のような片身替わりで釉薬が掛分けられています。

日本人が「釜山」に出張所を作って焼いた御本茶碗

御本内刷毛目茶碗 茂三 銘松嶋 17世紀 個人蔵

そして江戸時代に入ると、徳川幕府は朝鮮通信使を介して朝鮮王朝と積極的に外交を行うようになります。その一つの成果が、対馬藩が釜山に約10万坪と広大な敷地を借りて現地で経営した「倭館」でした。この「倭館」内の窯で釜山近辺の陶工を招いて焼かれた茶陶が「御本茶碗」です。

現地へ細かく仕様を決めて注文するだけでは飽き足らず、日本人プロデューサーが現地に渡って制作指揮を執る事で、より日本人好みの作品を作ろうと考えたのでしょうね。当時の茶人達の高麗茶碗にかける貪欲さがよくわかります。

ちなみに、御本茶碗の焼造期間は1639年~1718年まで、実に約70年間に及んだのだそうです。

半使茶碗 17世紀 個人蔵

また、展覧会場では御本茶碗との判別が難しい半使茶碗(はんすちゃわん)と呼ばれるタイプも展示。この半使茶碗は、朝鮮通信使の通訳たちが、来日に際して津島に持ち渡り、対馬藩に売ったとされる茶碗です。釜山金工の陶工に造らせていることから作行きは御本茶碗に非常に似ています。

これらの御本茶碗、半使茶碗といった分野は、昭和50年代になって対馬藩の古文書の存在を通じて明らかになったばかりで、まだまだこれからの研究が待たれるところです。今後の新発見に期待ですね!

茶の湯の名碗三昧でこの秋一気に審美眼をレベルアップするチャンス?!

今回紹介させて頂いた2つの展覧会は、共に東京都心で開催されているので、半日あれば2つ一気に回れてしまいます。

ひょっとしたら初心者のうちは「どれも同じに見えてしまう」と感じられるかもしれません。特に数十種類に細かく分類されている高麗茶碗は、しっかり見ても「これ、どう違うの?」と思うような非常に微細な違いしかわからないことも多いです。

でも、よーく観察していくとどの茶碗も一つ一つ細部は全部違っています。古来から茶の湯の達人たちは、こうした微細な違いに目をつけ、イマジネーションを膨らませて「銘」を付けて楽しんできたのです。ぜひ、我慢強く観察することで、先人たちの美意識を感じ取ってみてくださいね。

国宝や重要文化財をはじめ、戦前の名だたる数寄者が競うように集めた「美濃の桃山茶陶」と「高麗茶碗」名品群が一挙に見られる大チャンス。上級者から初心者までオススメです!

展覧会基本情報

展覧会名:「黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部-美濃の茶陶」
会期:2019年9月4日(水)~11月10日(日)
会場:サントリー美術館
公式HP:https://www.suntory.co.jp/sma/

展覧会名:特別展「茶の湯の名碗 高麗茶碗」
会期:2019年9月14日(土)~12月1日(日)
会場:三井記念美術館
公式HP:http://www.mitsui-museum.jp/

かるび

かるび

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メーカー、IT企業で勤務後、41歳にして1年間のサバティカル休暇へ突入。現在は、ブロガー&Webライターとしてアートや映画について主催ブログ「あいむあらいぶ」(http://blog.imalive7799.com/)にて日々見聞きした出来事を書き綴っています。

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