アート

【ミュージアム・プレイリスト】第2回「英国紳士の音楽:くまのパディントン展」

絵画と音楽には、時代ごとの空気感やメッセージに満ちた「物語」があります。美術館で音声ガイドを聴いていたら、一枚の絵画の前で流れだした音楽に涙が出るほどの共鳴を味わった――そんな経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。近年関心が高まりつつある、美術とクラシック音楽のコラボレーション。このコラムでは、音楽キュレーター高野麻衣が、展覧会のために選曲したプレイリストをご紹介いたします。

★5月のプレイリスト

現在、Bunkamura ザ・ミュージアム(東京・渋谷)で開催中の「生誕60周年記念 くまのパディントン展」。英国を代表する児童文学「パディントン」シリーズをめぐる旅は、ロンドンに実在するこの駅ではじまります。


プレイリストも1曲目、20世紀の英国を代表する作曲家エルガーの「威風堂々」からはじまり、「木星」で知られるホルストの知られざる名曲「ブルック・グリーン組曲」へ。そして3曲目は、英国の自然と民謡を愛したヴォーン・ウィリアムズが、ラファエル前派の画家ロセッティの愛の詩に曲をつけた「静かな午後」

1956年のクリスマス・イヴ、妻へのプレゼントに小さなくまのぬいぐるみを買ったマイケル・ボンド氏。当時パディントン駅の近くに住んでいた彼は、ぬいぐるみにパディントンと名づけ、その子ぐまを主人公にしたお話を執筆。

それが、物語の始まりでした。


4曲目は、エルガーの「愛のあいさつ」
「くまのパディントン」は、南米ペルーからひとりで英国にやってきた子ぐまが、パディントン駅でやさしいブラウン夫妻に出会い、さまざまな騒動を巻き起こしながら家族となっていく物語。展覧会では、ペギー・フォートナムをはじめとするおなじみの挿絵の原画や世界中で出版された絵本、さらにボンド氏の仕事道具やインタビュー映像が紹介され、私たちをノスタルジックで愛に満ちた英国への旅に誘います。



「どうぞこのくまのめんどうをみてやってください。おたのみします」

そんな札をつけたパディントンのモデルが、第二次世界大戦のロンドン空襲から郊外に逃れた子どもたちだったなんて、私はこの展覧会にゆくまで知りませんでした。そこにはボンド氏のやさしい眼差しと、平和への願いがあふれていました。

5曲目は、戦争と平和を問いかけつづけた作曲家ブリテンが、イギリス民謡を編曲した「サリー・ガーデン」を。

私が英国の歴史を学ぶようになったきっかけは、少女時代に図書館で出会ったシャーロック・ホームズと、この「くまのパディントン」でした。
複雑な歴史背景は知らずとも、そこに描かれたポートベロ通りといった地名や、「お十一時」のココアと菓子パン、トフィーやママレード、パディントンが挑戦するガーデニングやパリ旅行を通して、遠い外国への憧れをふくらませたのです。

絵画もクラシック音楽も、すべてその延長線上にあるものでした。

これらを日本に紹介してくださった翻訳家・松岡享子さんの監修も、この展覧会をより味わい深いものにしています。

6曲目は、ラターの「レクイエム」から天使のささやきのような「ピエ・イエス」
日本での展覧会の開催を心待ちにしながら、ちょうど1年前の2017年6月に逝去されたというボンド氏に捧げます。

プレイリストの最後、「悲しき片想い」は、パディントンの生まれた1950年代のヒットソング。時代と暮らしとアートは、いつだってつながっているのです。
「くまのパディントン展」は6月25日(月)まで開催中。アートを味わう上質な時間のおともに、ミュージアム・プレイリストをぜひ、ご活用ください。

★5月のプレイリスト

★展覧会情報
展覧会名:生誕60周年記念「くまのパディントン展」
開催場所:Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:2018年4月28日(土)~6月25日(月)
休館日:5月8日(火)・6月5日(火)
開館時間:10時~18時(入館は17時30分まで)
※毎週金・土曜日は21時まで(入館は20時30分まで)
公式HP:http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_paddington

高野 麻衣

高野 麻衣

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コラムニスト。上智大学文学部史学科卒業。歴史をベースに音楽、美術、マンガやアニメについて​幅広く執筆・講演。著書・CDに『フランス的クラシック生活』(PHP新書) 『マンガと音楽の甘い関係』(太田出版)『マリー・アントワネットの音楽会』(ワーナーミュージック)などがある。ラジオ『Memories & Discoveries』(JFN系列)出演中。

Instagram:https://www.instagram.com/_maitakano

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