アート

【ミュージアム・プレイリスト】第3回 皇妃たちの音楽『ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界ーー1780年パリに始まるエスプリ』

絵画と音楽には、時代ごとの空気感やメッセージに満ちた「物語」があります。
近年関心が高まりつつある、美術とクラシック音楽のコラボレーション。
このコラムでは、音楽キュレーター高野麻衣が、展覧会のために選曲したプレイリストをご紹介いたします。

【6月のプレイリスト】
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三菱一号館美術館(東京・丸の内)で開催中の『ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界ーー1780年パリに始まるエスプリ』展を訪れました。

パリ・ヴァンドーム広場の名門のなかで最も長い歴史を誇り、フランス革命を見届け、ナポレオンの戴冠式をも彩ったジュエリー・ブランド「ショーメ(CHAUMET)」。期待を胸に会場に足を踏み入れた途端、予想をはるかに超える美のオーラに圧倒されます。

歴史の中のショーメ

入口正面で私たちを迎えてくれるのは、堂々たる皇帝ナポレオンと皇妃ジョゼフィーヌ。ショーメの創業者マリ=エティエンヌ・ニトは、ふたりの御用達だった。

第1章「歴史の中のショーメ」に捧げる1曲目は、この展示風景にぴったりのベートーヴェンのピアノ協奏曲「皇帝」です。

“音楽界の皇帝”ベートーヴェンは、ナポレオンの1歳下の同世代。思春期にフランス革命の影響を強く受け、のちにナポレオンを讃える交響曲を作曲しました。華麗なイントロに鳴り響くピアノの音は、まるで宝飾品のきらめきのよう。

展示室には、19世紀半ば、皇帝の甥ナポレオン3世の皇后となったウジェニーの肖像(1853年)や、19世紀末のベルエポックの華スターン夫人の肖像(1889年)が、それぞれの人物や時代にちなんだジュエリーとともに展示されている。

「皇妃マリー=ルイーズのアクロスティック・ブレスレット」(1810年)は宝石のイニシャルで秘密のメッセージを作り上げるもので、このジュエリーの贈り主ナポレオンと皇妃自身の名や生年月日、出会いの日、結婚記念日が記されている。

マリー・ローランサンが描く肖像画にも、ショーメのジュエリーが描かれていたなんて!

次々に現れる高貴な女性(ミューズ)たちの回廊に合わせたいのが2曲目。太陽王時代のヴェルサイユで活躍し、19世紀末の作曲家ラヴェルにも愛されたフランス音楽の魂、クープランの「神秘的なバリケード」です。

素晴らしいティアラの饗宴

そして、いよいよ1つめのクライマックス、圧巻のティアラたち!

「ロイヒテンベルクとして知られるティアラ」(1830〜40年頃)。

「ペイン・ホイットニー夫人(ガートルード・ヴァンダービルト)の翼のティアラ」(1910年)。翼のティアラはまるでワルキューレ(戦乙女)のよう。

「ブルボン=パルマとして知られるフクシアのティアラ」(1919年)。

頭部を飾るジュエリーであるティアラは、古代ギリシャが起源。皇妃ジョゼフィーヌによって、ナポレオンの第一帝政時代にリヴァイヴァルしました。

ベルエポックのパリでは、上流階級の女性である証に。「豊かな時代はシンプルに。不安な時代は人々が癒しを求めるので、複雑な植物モチーフなどが好まれます」という学芸員さんのお話も興味深かったです。

高貴な女性たちの、密やかなおしゃべりの気配漂うこの空間に合わせたい3曲目は、現代のミューズ、歌姫アンナ・ネトレプコによる「ジャスミンとばらの二重唱」(ドリーブ:歌劇『ラクメ』より)。香り立つようなソプラノの歌声が、繊細な宝石たちのプリズムと調和します。

長大なガラスケースの背後には、ジュエリー制作前の最終段階である模型「マイヨショール」がずらり。ひとつひとつに女性たちの物語を感じる。

旅するショーメ

つづいて第4章は「旅するショーメ」。「歴史」の次は「地理」の冒険です。

中国やインドなど、東洋の世界からもインスピレーションを受けてきたショーメ。エキゾティズムを堪能する4曲目は、クープランと同じフレンチ・バロックの作曲家ラモー「優雅なインドの国々」からの1曲をピアノ演奏で。

カラード・ストーンに彫をほどこした巨大な「ホープ・カップ」(1853-55年)。ギリシャ神話の物語を描きながらも、どこか東洋的。(撮影:チバヒデトシ)

第6章「身につける芸術=ジュエリー」で嬉しかったのが、前田侯爵夫人・菊子さまに会えたこと。近所にある旧前田侯爵邸に残る彼女の主寝室は、わたしの心のオアシスのひとつなのです。

前田菊子侯爵夫人(左)。日本大使館付武官だった夫のロンドン赴任中、バッキンガム宮殿の拝謁式に出席したときたの礼装。ショーメのティアラを身につけている。

こちらは「ヘッドバンドとしても着用可能な8個のサファイアのネックレス」(1925〜30年頃)。

菊子さまがつけているアール・デコ風のティアラは、帯状のバンドー(1920年代に流行したヘッド・ドレス)で、胸飾りとしても使用可能。5月の英国のロイヤル・ウェディングで、メーガン妃がつけていたティアラにも似ています。

5曲目はそんな菊子さまの肖像に捧げる「わたしが街を行くと」(プッチーニ:歌劇『ラ・ボエーム』より)。

映像表現とのコラボレーションも必見

手前が「6羽のダイヤモンドのツバメの連作」(1890年)。背後を飛びまわり、時折ジュエリーと一体化する映像の小鳥たちが愛らしい。

終盤の2つの展示室には、映像演出が満載でした。

6曲目は、かわいい小さな鳥たちに合わせてダカンのピアノ曲「カッコウ」を聴いてみましょう。

そしてラスト、第8章「遥けき国へ――ショーメと日本」。

手前は「マリー・アントワネットの日本の漆器コレクション」。フランス革命の折に、ショーメの創業者ニトが助け出したものだそう。

フランス革命以来230年あまりの長い歴史のなかで、ショーメは日本の自然や工芸にいくたびも着想を得てきました。

最後のインスタレーションの中央に燦然と輝くのは、この展覧会のために制作された「シャン ドゥ プランタン」。墨と漆の世界を表現したこの作品の世界観に合わせ、7曲目は最も有名な“音楽のジャポニスム”『蝶々夫人』より「ある晴れた日に」はいかがでしょうか。

まさに「美を浴びた」という満足感。三菱一号館美術館やその中庭では、美しい空間に留まり、ゆっくりと余韻を味わうこともできる。(撮影:チバヒデトシ)

「ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界――1780年パリに始まるエスプリ」は9月17日(月・祝)まで開催中。アートを味わう上質な時間のおともに、ミュージアム・プレイリストをぜひ、ご活用ください。

(選曲・文・写真:高野麻衣)

【展覧会開催概要】
展覧会名:ショーメ 時空を超える宝飾芸術の世界――1780年パリに始まるエスプリ
会場:三菱一号館美術館
会期:2018年6月28日(木)~9月17日(月・祝)
開館時間:10:00~18:00
※金曜、第2水曜、9月10日~13日は21:00まで
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
※7月16日、9月10日、9月17日と、トークフリーデーの7月30日、8月27日は開館
展覧会ホームページ:https://mimt.jp/chaumet/

高野 麻衣

高野 麻衣

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コラムニスト。上智大学文学部史学科卒業。歴史をベースに音楽、美術、マンガやアニメについて​幅広く執筆・講演。著書・CDに『フランス的クラシック生活』(PHP新書) 『マンガと音楽の甘い関係』(太田出版)『マリー・アントワネットの音楽会』(ワーナーミュージック)などがある。ラジオ『Memories & Discoveries』(JFN系列)出演中。

Instagram:https://www.instagram.com/_maitakano

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