アート

時を超え、いまに受け継がれる伝統:【特別展】琳派 俵屋宗達から田中一光へ 山種美術館

17世紀に俵屋宗達、本阿弥光悦によって生み出され、尾形光琳へ、そして酒井抱一、鈴木其一へと引き継がれていった琳派の系譜。2018年は抱一の没後190年、そして其一の没後160年にあたります。山種美術館ではこれを記念し、宗達・光悦から受け継がれる琳派の造形に着目した展覧会を開催。しかし、単なる琳派展ではありません。

その答えが、会場に入ってすぐの展示ケースにおさめられています。

田中一光《JAPAN》 1986年 東京国立近代美術館蔵
©Ikko Tanaka 1986 / licensed by DNPartcom

いつもは肉筆画の入るこのケース。今回はなんとポスターが展示されているのです。こちらは20世紀を代表するグラフィックデザイナー・田中一光の《JAPAN》という作品。そう。この琳派展では、琳派独自の美意識や造形がどのように受け継がれていったのか、その400年経っても色あせない魅力を、近代・現代まで範囲を拡張して展覧しようという試みです。

琳派の流れを俯瞰する

琳派は、「私淑」、つまり直接教えを受けたわけではないが、密かに師と仰ぎ学ぶことで続いてきた

本展は全3章で構成されており、第1章は「琳派の流れ」と題して、祖である本阿弥光悦と俵屋宗達のタッグから近代画家である神坂雪佳までを優品とともに辿ります。

すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、琳派はそのほとんどが「私淑」という形で受け継がれていきました。狩野派や円山派のように師から直接手ほどきを受けず、先達の作品から技術や造形を吸収し、独自にアウトプットをしていったのです。琳派の技術の中でも特徴的と言えるのが、モティーフの「カットアンドペースト」「コピーアンドペースト」です。

山種美術館の顧問を務める山下裕二氏が図録にて解説されていますが、宗達はなかば強引にモティーフを切り取っては貼り付けを行い、続く光琳は国宝《燕子花図屏風》でもわかるように、コピーアンドペーストを巧みに活用しています。そしてその流れは20世紀の一光にも継承されており、前述の《JAPAN》は、慶長7年、宗達が平家納経の補修作業に携わった際に補作したとされる《平家納経 願文見返し》の鹿図をほぼそのまま引用しています。

このモティーフの引用は会場で見ることができるので、ぜひその目で確かめてみてください。平家納経の原本は国宝ということもあり出品されていませんが、本展には精巧に模写された田中親美による模本が展示されています。宗達も自ら《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》に似たような引用していることから、お気に入りの構図だったのかも知れません。

俵屋宗達(絵)本阿弥光悦(書)《鹿下絵新古今集和歌巻断簡》17世紀 山種美術館蔵

 

ところで、琳派と言えばその造形や配置、またトリミングの妙にも驚かされます。これぞまさにデザインの世界!

特に《槙楓図》や、《白楽天図》のインパクトは絶大です。尾形光琳による《白楽天図》の、一見でたらめにレイヤーが重ねられているようでいて計算しつくされた構図は、21世紀の我々の目にも斬新にうつります。
※《白楽天図》については、根津美術館にて開催された『光琳と乾山展―芸術家兄弟・響き合う美意識―』にもレポートがあります。

尾形光琳《白楽天図》 18世紀

 

ちなみに伝 俵屋宗達とされる《槙楓図》は修復を終えてのお披露目となります。今回こちらの作品のみ一般来場者の方も撮影可能となっています。

伝 俵屋宗達《槙楓図》 17世紀 山種美術館蔵

 

続いて光琳の時代から約100年後に「江戸琳派」を確立した酒井抱一。
琳派の持つダイナミックなデザイン性を継承しながら、金のみならず銀にも着目するなど、独自の繊細さをミックスした境地を開拓していきました。

酒井抱一《月梅図》(部分) 19世紀 山種美術館蔵

 

また、琳派の主要な絵師の中で唯一(抱一と)師弟関係を築いた鈴木其一の《四季花鳥図》は、抱一とは一味違った方向性を見せつつ、どこか光琳の《紅白梅図屏風》のような佇まいを感じさせます。

鈴木其一《四季花鳥図》 19世紀 山種美術館蔵

 

「最後の琳派」と呼ばれることも多い神坂雪佳にも注目です。明治から昭和にかけて図案家として活躍した雪佳は琳派に傾倒し、彼が生きた時代と琳派とを絶妙に融合させ、多くの優品を生み出しました。雪佳のデザイン帖ともいえる『百々世草』に納められた作品は、過去に高島屋の広告や、エルメス社のカタログ『LE MONDE D`HERMES』の表紙にも使われたため、ご存知の方も多いかもしれません。大胆なデフォルメと無駄のないデザインは当時高い人気を博し、今なお多くの人に愛されています。

神坂雪佳『百々世草』(芸艸堂)第1巻《八橋》 1987年(初版1909年) 芸艸堂蔵 ※『百々世草』は前期と後期で頁替えあり。《八橋》は前期のみ。

近代画家たちによる琳派への探求心

第2章の「琳派へのまなざし」では、安田靫彦、菱田春草、奥村土牛、速水御舟、福田平八郎、そして加山又造など、近代日本画の精鋭たちが取り入れた琳派に焦点をあてます。明治時代、海外にて高い評価を得た光琳芸術が逆輸入され、国内では大々的な琳派ブームが巻き起こりました。同時に宗達についても再評価が行われ、彼らの存在は日本画壇にも大きな影響を与えます。

速水御舟《翠苔緑芝》 1928年 山種美術館蔵

 

山種美術館が所蔵する作品の中でもひときわ華やかな速水御舟の《翠苔緑芝》。これはまさにその代表格とも言えるでしょう。金地の屏風に鮮やかな色彩、デフォルメされた造形と大胆な配置。空間にぽっかりと浮かぶ陸地は、光琳の《白楽天図》を思わせます。

菱田春草の《月四題》は満月と季節の花木を組み合わせて四季を表現した作品。外隈(外側をぼかし、対象を白く浮き立たせる技法)を使って繊細に描かれた月は、抱一の《秋草図》や《月梅図》に通じる表現です。

菱田春草《月四題》のうち春 1909-10年頃 山種美術館蔵

 

加山又造の《華扇屏風》は、料紙を扱い、扇絵に長けていた宗達を彷彿とさせます。又造本人も「宗達の遺してくれた道は幅も広くまた堅い。そしてそれは遥か彼方の未知の世界へと続いているように見える」と語っているように、宗達から多大な影響を受けたのでしょう。また、山種美術館に入ってすぐに目を奪う《千羽鶴》。こちらの下絵である《濤と鶴》も今回展示されていますので、その巧みな波の表現を、そして重なりあう鶴の配置の妙を、ぜひ味わってみてください。

琳派は危険な世界!?

いよいよ第3章では「20世紀の琳派・田中一光」の作品に迫ります。戦後国際的な活躍を見せたグラフィックデザイナーの田中一光は、早くから琳派に関心を寄せ、そのエッセンスを自身の活動へ取り入れました。目を引く構図に大胆なデフォルメなど、琳派の世界はグラフィックデザインとの共通点が多かったのでしょう。時に曲線を直線に変え、時に図像をさらに単純化させるなどして、一光は「琳派」の技術を使って作品を生み出していきます。時代を超えた繋がりはここでも私淑という形で受け継がれ、見事に20世紀でも輝いたのです。

一光はこう語っています。「琳派は私にとって危険な世界である。さまざまな誘惑をもってせまってくる。せまってくるというのは正確ではない。そこには、あまりにも日本的な情感に満ちたぬくもりと、そのやさしい懐の中にすべり込みたくなるような、ふくいくとした香りがただよっているからだ」

17世紀から脈々と受け継がれている琳派の系譜。
21世紀はいったいどのような作家がそれを受け継いでいくのでしょうか。そういった視点で現代美術を楽しむのも面白いかもしれませんね。

会場風景 ©Ikko Tanaka 1986 / licensed by DNPartcom

山種ならではの、もうひとつのお楽しみ

展覧会のもうひとつのお楽しみと言えばミュージアムショップでしか買えないグッズ。

今回の目玉は何といっても福田平八郎の《芥子花》をあしらったTシャツでしょう。ラフな格好はもちろん、ジャケットからのぞいても素敵なデザインです。こちらは150・S・Mの3サイズ展開となっています。また、通常のチケットホルダーより少し大きめに作られたマルチホルダーも実用的です。

Tシャツ 150・S・Mの3サイズ展開 3,000円(税抜) 限定150枚です!

マルチホルダー 各400円(税抜) 絵柄は速水御舟の《翠苔緑芝》、荒木十畝の《四季花鳥》のうち秋(林梢文錦)と冬《山澗雪霽》。

創作和菓子で作品に思いを馳せるのも楽しい

また、展覧会ごとに用意されるオリジナル和菓子の存在も忘れてはいけません。作品の特徴を上手くとらえてデフォルメされたそれらは、愛らしすぎて選ぶのが難しいほど。
あざやか発色は、合成着色料など一切使っていないというから驚きです。和菓子になった作品にはマークが入っているので、展示室でお目当てを見つけてからカフェで味わうのも山種美術館ならではの楽しみ方ですね。

展覧会情報:

1【特別展】琳派 ―俵屋宗達から田中一光へ―
会期:2018年5月12日(土)~7月8日(日)
前期 5/12-6/3、後期 6/5-7/8 ※期間中一部展示替えあり
開館時間:10時~17時(※最終入館は16時30分)
休館日:月曜日
会場:山種美術館
★各種割引あり。詳細はホームページにてご確認ください。
http://www.yamatane-museum.jp/exh/2018/rimpa.html

虹

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ぼんやりしているうちに一日が終わってしまう怠惰なブロガー。低頻度更新ブログ「雨がくる 虹が立つ」を運営しています。アートと漫画、アニメ、自転車、旅、不思議な話など。心の底から「日々(穏やかで)楽しい生活」を送りたいと思っています。

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