アート

光をつかみ取る~写真家・田原桂一を偲んで:ポーラミュージアムアネックス

東京・銀座のポーラ ミュージアム アネックスにおいて、6月1日(金)より、写真家・田原桂一の個展「Sens de Lumière」がはじまった。(会期は6月10日まで)

1951年に京都で生まれた田原は、20歳でフランスへ渡り、日本の柔らかい光とは異なった鋭い光に出会い、衝撃を受け、写真家としてのキャリアをスタートした。以来、パリを拠点に、一貫して「光」をテーマとしながら、写真のみならず、彫刻、映像、インスタレーションなどの分野で幅広く活動してきた。

これまでにも木村伊兵衛写真賞(1885年)をはじめ、フランス芸術文化勲章シュヴァリエ(1993年)、パリ市芸術大賞(1995年)などを受賞し、各方面から高い評価を受けてきた。最近では、2017年、プラハ国立美術館にて、舞踏家の田中泯を被写体とした「Photosynthesis1978-1980」の世界初の大規模な展覧会も行われた。

同じく2017年の6月には、ここポーラ ミュージアム アネックスでも、「Les Sens」と題した個展を開催。2015年にリヨンで発表した、手をモチーフにした作品を日本で初めて公開したほか、床一面に砂を敷き、光のオブジェやレーザーによるプリズムの投影も行なわれた。いずれも田原自身の、「光を操りたい、庭を作りたい。」とのアイデアによる演出だったが、残念ながらオープンの直前、開催を見届けることなく亡くなられた。65歳のことだった。

あれからちょうど1年。つまり今回の「Sens de Lumière(光の感覚)」は、田原の一周忌にあたる節目の展覧会でもある。

目立つのは「トルソー」だろう。ルーヴル美術館などのヨーロッパの古い彫刻を撮影し、石やガラスに焼き付けたシリーズで、中でも石の作品は、モチーフの石彫と、石自体の質感が重なり、独特の趣きをたたえている。さも古代の遺跡から掘り起こされた、石版のようにも見えるかもしれない。

田原の展覧会として思い起こすのは、2004年に東京都庭園美術館で行われた「田原桂一:光の彫刻」だ。当時の新旧作による大規模な個展で、アール・デコ調の室内空間との相性も良く、各々に登場する彫像が、あたかも昔から旧朝香宮邸に設置されているかのような錯覚に陥るほどだった。

また期間中には、本館の正面を用いた光のインスタレーションも行われ、彫刻「光の門」も青い光でライトアップされた。ご覧になった方もおられるのではなかろうか。

ハイライトは「窓」にあるかもしれない。布に直接、風景を印画した最初期の作品で、会場を見渡すように掲げられていた。そして左右には、田原が愛用していたフランス製のソファが置かれ、そこを同じく遺品であろうヘビ革のランプが明かりを灯していた。風景から滲み出す光は実に荘厳であり、まるで祭壇のように見えたのは筆者だけだろうか。あたかも田原の存在が感じられるかのようだった。

さらに奥の小部屋では、田原のアトリエでの制作時の様子を映像(約8分)で紹介。過去にNHKの日曜美術館で特集された内容だが、石を現像液につけて、像を写すシーンなどは必見と言えるだろう。

見るべきは何も作品だけはない。初期作品のデータを記したノートや、ネガフィルムにコンタクトシート、さらにフランスで愛飲していたタバコや、撮影時に使用したカメラなども展示している。

過去の作品集は、実際に手にとって閲覧することも可能だ。それを見ると、良く知られた「トルソー」だけでなく、ポートレートなど、被写体は実に多岐に渡ることが分かるだろう。

近年、先にも触れた東京都庭園美術館の「田原桂一 光の彫刻」をはじめ、2016年には何必館・京都現代美術館での「光の表象 田原桂一 光画展」、さらには昨年に原美術館で「田原桂一 光合成 with 田中泯」などが開催されてきた。

しかし、田原の全体像を振り返る回顧展はなかなか行われていない。写真家の業績を改めて顕彰するためにも、そもそろ大規模な美術館での展覧会が望まれるところだ。

10日間限定の短い展覧会ではあるが、一周忌を迎えた、田原桂一への祈りの空間を体感して欲しい。


展覧会開催概要:
展覧会名:田原桂一 Sens de Lumière
会場:ポーラミュージアムアネックス
会期:2018年6月1日(金)~6月10日(日)
開館時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
休館日:無休
観覧料:無料
住所:中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
交通:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。

公式サイト:http://www.po-holdings.co.jp/m-annex/
Twitter:https://twitter.com/POLA_ANNEX
Instagram:https://www.instagram.com/pola_annex/

はろるど

はろるど

投稿者の記事一覧

美術・音楽ブログ「はろるど」(https://blog.goo.ne.jp/harold1234)管理人。都内の美術館や博物館に出かけては、日々、展覧会の感想をブログに書いています。美術、クラシック音楽、お酒、カープ、地元千葉県の話題などに反応。楽活でも様々な情報を発信していきたいと思います。

関連記事

  1. 【てつとび】美術館編:快適![快速リゾートやまどり]で行く、高原…
  2. イーブイが9人のクリエイターとコラボ!「イーブイズプラスカフェ」…
  3. 「あなたが選ぶ展覧会2017」発表!1位は「ミュシャ展」に決定
  4. 初夏の爽やかな夜にアートを。今週末、六本木アートナイト2018開…
  5. 日本映画再興の起爆剤になるか?国立の映画専門美術館「国立映画アー…
  6. アート好きな5歳の孫とセロテープであそぶ / 瀬畑亮 セロテープ…
  7. リアルな躍動感!マイセン動物園展で陶磁器の楽しさを味わおう!【美…
  8. 日本画を体験型展示で楽しむ!『Re 又造 MATAZO KAYA…

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

シネマ

アート

おすすめ記事

渋谷のバー「Six Sense」が新たな現代アートの発信基地に?!第1回はロシアのアーティストEvgeny Ches氏が登場!

最近、公園や映画館、レストランなど美術館以外でも様々な場所でカジュアルに現代アートを楽しめる場所が…

【青森】十和田市現代美術館の現代アートが楽しすぎる!りんごカレーも美味!

楽活をご覧の皆さん、こんにちは!東京のアートだけでは満足できなくなった、美術ブロガーの明菜です。…

芸術の街「ウィーン」でクリムトの作品をたっぷり堪能してきた!

少し前になりますが、ウィーンに行ってきました。みなさんは、ウィーンといえば何を思い浮かべますか?…

【デュフィ知ってる?】マルチな才能が分かる『ラウル・デュフィ展 絵画とテキスタイル・デザイン』

《ニースの窓辺》 1928年 油彩/キャンバス 島根県立美術館蔵ラウル・デュフィという画家をご存…

令和初の新銘柄が登場!福井発「いちほまれ」が食欲の秋に発売開始!

みなさん、お米は大好きですか?どうも近年、「炭水化物ダイエット」の流行の影響で、敬遠される向きはあ…

PAGE TOP