アート

【てつとび】美術館編:快適![快速リゾートやまどり]で行く、高原の現代美術館『ハラ ミュージアム アーク』

草原の爽やかな風に吹かれる美術館へ

緑に囲まれた牧場を通り抜けると、その向こうに広がる芝生に建つ漆黒の建物が見えてきます。芝の緑と建物の黒のコントラスト、周囲の山々を背の建つ建物そのものがアートであるかのような存在感に、大自然の中にあって、はじめは違和感を感じるかもしれません。それが建物に近づくにつれ、まるで納屋のようなどこか懐かしい外観、黒で塗り仕上げた板張の壁など、どことはなしに親しみが湧いてきます。

『ハラ ミュージアム アーク』という美術館をご存知ですか? アート好きならきっとその名を耳にしたことがあるはず。日本を代表する現代美術館のひとつ「原美術館」の別館です。原美術館は御殿山という品川を見下ろす高台にありますが、この別館もまた群馬県の名湯、伊香保温泉を真近にした、上毛三山のひとつ、榛名山の裾野、標高550mという景色も空気も素晴らしい高原にあります。

広大な芝生地に建つハラ ミュージアム アークの建物を挟んで、山側と麓側、それぞれに芝生の広場が広がり、麓側の先に渋川の町を見下ろし、遠く向こうに赤城山を望む素晴らしい眺望が楽しめます。反対に山側には森を背にし、その向こうには榛名山が聳えます。手前の庭園には屋外彫刻などさまざまな作品が点在します。また、もっとも高い場所にはカフェもあり、美術館の全景を眺めることができます。

美術館は伊香保グリーン牧場に隣接しており、なんとものどかな景色に囲まれています。このような素晴らしい場所にあるのですが、名前は知っているけど、実は行ったことがない……という方もいらっしゃるのではないでしょうか? ぜひ、この機会にハラ ミュージアム アークを知っていただきたいです。

シンメトリーでシンプルな美しい外観のハラ ミュージアム アーク。中央のロビーを中心に両翼とロビー奥にギャラリーがある

どこか優しげな山容の榛名山を背景したハラ ミュージアム アーク。手前の小さなドームはオラファー・エリアソン《SUNSPACE FOR SHIBUKAWA》(2009年)。残念ながら現在は調整中で鑑賞できるのは外観のみ

シンプルだけど温もりのある建築

ハラ ミュージアム アークを設計したのは建築家・磯崎新。磯崎が設計したハラ ミュージアム アークの建築は、現代美術を鑑賞するのに相応しくシンプルな外観をしているものの、杉板を下見張した外壁などの木や石といった天然素材を用いて作られており、優しさや温もりが感じられる建築となっています。展示室の構成は三棟のギャラリーが放射状に配置された、シンプルでミニマムなものとなっております。ギャラリー内は白い壁とグレーの床で統一され、トップライトからの自然光が印象的な、静謐かつ独特の緊張感を保った空間となっています。

3つのギャラリーをつなぐロビーは屋根だけがかかった半屋外となっており、移動の際に一旦外にでる必要があり、そのたびごとに芝生の広場とその向こうの森の緑を目にすることになります。このギャラリーに入って作品に向き合い、外に出て緑に癒やされる。そしてまたギャラリーに、という一連の鑑賞方法がまるで箸休めのような、どこか和食でもいただいているかのような“作法”がなんとも素晴らしい鑑賞体験としているように感じます。

さらにギャラリー棟とは反対側にある渡り廊下の先、建物の北東端 に位置する場所には古美術を中心に展示する特別展示室「觀海庵(かんかいあん)」があります。同館の創立20周年を記念して2008年に増築されたもので、美術館同様に磯崎新の設計によるものです。六間四方約100m²とこじんまりした建物ですが、磯崎が考え抜いた空間コンセプトにより、觀海庵内部に三間四方の書院造の空間が、入れ子のように設えてある、日本の伝統的な空間を意識させるものとなっています。觀海庵へと続く渡り廊下はガラスのない半野外の空間となっており、赤城山を望む緑豊かな絶景に出会え、下界では味わえない空気が楽しめる絶好のビューポイントとなっています。

半屋外の渡り廊下の先に突き出るように「觀海庵」があります

觀海庵の内部には入れ子のように書院造りの展示空間が設えてあります。ここでは東洋の古美術と現代美術が同時に展示されることも。写真左は狩野永徳《虎図》、写真右は狩野派《雲龍図》(いずれも展示終了)

現代といにしえが交錯する空間

『ハラ ミュージアム アーク』は1988年に開館しました。同館は原美術館とともに博物館法に基づく登録博物館施設であり、特定公益増進法人の認定を受けた財団法人アルカンシェール美術財団を運営母体としています。同館は現代美術作品により構成される「原美術館コレクション」と東洋古美術の「原六郎コレクション」の2つの美術コレクションで成り立っています。

原美術館コレクションは、原美術館の創設者で現館長の原俊夫が、草間彌生や奈良美智、ロバート・ラウシェンバーグといった、1950年代から現在までの著名な現代美術作家の作品を幅広く収集してきたものです。一方、原六郎コレクションは原館長の曾祖父にあたる、維新志士を経て日本の近代化に貢献した実業家・原六郎が蒐集した、日本の近世絵画や書、工芸、中国美術を含む貴重なコレクションです。

原美術館コレクションの現代美術作品は、おもに同館にある3つのギャラリーである「現代美術ギャラリーA・B・C」の3室において展示されています。また、和の空間である「觀海庵(かんかいあん)」では原六郎コレクションを中心に展示しています。觀海庵という名称は和歌や書を嗜んだ原六郎が「觀海」を号していたことに由来します。

とりわけ現代美術ギャラリーでは、現代美術の最先端を常に私達に見せてくれる“原美” の別館であるハラ ミュージアム アークだけあって、年間を通じてさまざまなテーマで企画展が行われており、こうしたいわばリゾート地にありながら、アートのトレンドに触れることができる、現代美術作家の世界が展開する他には見られない展示を行っています。

現在、日本の優れた現代美術を海外に紹介してきたプロジェクトを振り返る『アートを発信するー原美術館発国際巡回展の軌跡』を開催中(6月24日まで)。荒木経惟、遠藤利克、川俣正、倉持史朗、杉本博司、福田美蘭、森村泰昌、束芋といった、錚々たる作家陣の作品が居ならぶ。写真は森村泰昌の作品

草間彌生の作品で構成された一室。小窓を覗き込むと水玉かぼちゃの世界が広がる

彫刻家・戸谷成雄の《森II》は圧巻。ギャラリー一室を使って設置されたさまざまな手法が木に施された“森”が現出する

戸谷成雄《森II》。生と死、動と静、といった対照的な表情が感じ取られる

アートをイメージしたスイーツもお楽しみに

ギャラリーでの展示を堪能したあともまだまだ楽しめるところがあります。現代美術ギャラリーのロビーから見える屋外の広場にはアンディ・ウォーホルの《キャンベルズ トマト スープ》をはじめ、国内外の現代美術作家による常設作品が展示してあります。また、現代美術ギャラリーと觀海庵側の渡り廊下への途中にある中庭ではフェデリコ・エレーロの《Landscape》が鑑賞できます。

ジャン=ミシェル オトニエル《KOKORO》(2009年)

フェデリコ エレーロ《Landscape》(2008年)

メナッシュ・カディッシュマン《プロメテウス》(1986年)

左は小野節子《夢》(2012年)、右は宮脇愛子《うつろひ `89 カシオペア》(1989年)

古郷秀一《限定と無限定》(1985年)

これらの屋外彫刻を鑑賞しながら、コーヒーブレイクはいかがでしょう? ミュージアムカフェの先駆けである原美術館と同様、ここにも『Cafe d`Art(カフェダール)』があります。パスタなどの軽食も楽しめますが、なんといっても外せないのがその時々に創作される展示作品を模したイメージケーキです。これは訪れた記念も含め、外せないところです。

美術鑑賞の合間に「カフェ ダール」の開放的なテラスでお茶を

生サラミソーセージ、ドライトマトとブラックオリーブのジェノベーゼパスタ。間違いのないおいしさ。高原でいただくパスタってこんなにおいしいとは。サンドイッチもおいしそうでした

戸谷茂雄の《森Ⅱ》を模したイメージケーキ

いかがでしょう? ハラ ミュージアム アークに少しでも興味をもっていただけましたでしょうか。群馬の伊香保は旅と言うには近く、気軽に行くにはちょっと遠い。美術館に行くなら、都内はもちろん、北寄りよりも伊豆や箱根のある南寄りにもたくさんあるし、と思っていた方もここなら行ってみたいと感じていただけたかと思います。

また、短いながらも旅を満喫したい方には、群馬への電車の旅の楽しさ、手軽さを「鉄旅編」でおわかりいただけたと思います。あとはきっぷを手にするだけ。きっと次の週末は旅人になっていただけるでしょう。では、また旅先でお目にかかりましょう。

【美術館情報】

[施設名]ハラ ミュージアム アーク(HARA MUSEUM ARC)

[公式サイト]https://www.haramuseum.jp

[開館時間]9:30〜16:30(入館は16:00まで)

[休館日]木曜日(祝日と8月を除く)、展示替え期間、1月1日、冬季 ※荒天時には臨時休館する場合あり

[入館料]一般1,100円/大高生700円/小中生500円/70歳以上半額

ハラ ミュージアム アーク+伊香保グリーン牧場セット券 一般1,800円/大高生1,500円/中学生1,400円/小学生800円

[交通案内]JR上越線「渋川駅」より伊香保温泉行きバスで約15分「グリーン牧場前」下車。徒歩7分

あわせて、【てつとび】鉄旅編:快適![快速リゾートやまどり]で行く、高原の現代美術館『ハラ ミュージアム アーク』もぜひ!

千葉 英寿

千葉 英寿

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アート、デザイン、エンタテイメントとテクノロジーに関連したクリエイティビティについて横断的に取材、執筆活動を行っているフリーランス・ジャーナリスト。メディアやアプリの企画を手がけ、ファシリテーションなども行う。また、さまざまな美術館に足を運び、今後の美術館のあるべき姿を考える美術館研究家としても活動。週4日の美術館、ギャラリー通いは当たり前。デジタルハリウッド大学大学院客員教授(2011〜2016)。元書店員(西武百貨店、リブロ)。仙台出身。

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