アート

【残り3週間】全作品が20世紀西洋美術の巨匠揃い!「トライアローグ」展で公立美術館の底力を体感してきた!

2020年秋、ポーラ美術館が海外オークションにて約30億円でゲルハルト・リヒターの作品を落札した、という報道が、アートファンの間で話題になりました。

その話を聞かされた時「ポーラ美術館、お金あるんだなぁ」というのんきな感想と同時に、「これはもう海外の著名な作家の現代アート作品は、公立美術館で集めるのは無理なんじゃないの?!」と思ったものです。

しかし、現在横浜美術館で開催中の展覧会「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」を見て、ちょっと一安心しました。なぜなら、20世紀初頭から後半までの約100年間の西洋の近現代美術の著名な巨匠ばかりを集めた約120点の作品すべてが、主催の3館の所蔵品のみで構成されていたからです。

そこで、昨年末に特別に許可を得て、館内の展示風景を取材させていただきました。閉幕まで残り約1ヶ月となりましたので、まだ見ていない方のために、展覧会のみどころをまとめてみました!

「トライアローグ」展とは

本展「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」では、日本でも有数の20世紀西洋美術コレクションを所蔵する横浜と愛知、富山の公立美術館3館が、それぞれ自分たちの作品をもちよって、20世紀の100年間の美術を総括してみよう、という展覧会です。

ひょっとしたら、「あぁ、なるほど。コロナで外国から借りるのが難しいから、国内のコレクションを有効活用しようというわけね」と考えてしまうかも知れません。

でも、実は本展の企画は、コロナ前から始まっていたそうなのです。日本にある美術品を、もう一度しっかり見直してみて、新しい読み方ができるかどうか3館でやってみよう、と立ち上がった企画でした。まるで現在のこの状況を予見していたかのようなタイミングの良さですよね。なんという慧眼。

そこで、最終的に展示向けにピックアップされた作品が、70作家123点。(※横浜美術館への出品はうち118点)非常に充実した作品数ですよね。本展では、これらの作品群を、年代別に時系列で約30年刻みに区切って、3章構成で組み立てられました。

具体的に見てみると、

第1章…1900~20年代まで
フォーヴィスム、キュビスム、ドイツ表現主義、ダダイスム、ロシア構成主義などの作品を順番に展示。
第2章…1930~50年代まで
シュルレアリスムを中心に、抽象表現主義、アンフォルメルまでを特集。
第3章…1960~90年代まで
ネオ・ダダ、ポップ・アート、ヌーヴォー・レアリスム、ミニマル・アート、コンセプチュアル・アートなど、多元化する現代アートの様相を俯瞰する。

とおおよそこのような内容になっています。第1章、第2章では「ああ、美術館の中にいるな」という感じですが、第3章に入ると、急にどこかの芸術祭の会場のようににぎやかな構成になっているのが印象的でした。

「トライアローグ」展に集まった公立美術館3館を紹介!

1)横浜美術館

引用:写真AC

本展の開催館。企画展では、非常に大規模なブロックバスター展が開催されることもあれば、地元横浜で活躍した近現代のアーティストを特集するエッジの効いた展覧会まで様々です。

中でも、企画展と同時開催される所蔵品展「横浜美術館コレクション展」は絶品。洋の東西やジャンルを問わず、12000点以上を収集した近代以降の膨大な美術コレクションから、毎回テーマ別に厳選された作品は見応え十分。基本的にコレクション展示室は個人利用に限り写真撮影可能なのも嬉しいところです。また、名品を見せる一方で、地元・横浜ゆかりの美術に寄り添ったキュレーションは非常に新鮮です。ここでしか観られない、横浜ならではのアーティストの作品も多数展示されます。

2)愛知県美術館

引用:写真AC

1992年、前身である愛知県文化会館美術館のコレクションを引き継いで開館。名古屋市内の心臓部とも言える栄の複合ビルの中に入居するので、交通の便も非常に良好です。

市内のもう一つの公立美術館「名古屋市美術館」が地元・名古屋の美術に密着した収集ポリシーを掲げていることから、差別化を図るために、より一層国際性の高い作品群を収集してきています。2020年現在、約8500件を所蔵。ピカソやクリムト、マティス、ボナールといったフランス美術の巨匠はもちろん、キルヒナー、ノルデ、レームブルックなどドイツ表現主義の作家の絵画・彫刻が充実しています。

3)富山県美術館

引用:写真AC

2017年、富山県立近代美術館のコレクションを引き継ぎ、富山駅からほど近い風光明媚な富岩運河環水公園に新規オープン。前身となる富山県立近代美術館の開館時には、富山県出身の著名な美術評論家・瀧口修造のアドバイスにより、日本で初めてジュアン・ミロの作品購入に踏み切るなど、ピカソ、デュシャン、ポロック、ウォーホルといった20世紀の前衛美術に強みを持っています。また、14,000点を超えるポスターコレクションも国内屈指。アートだけでなく、デザインを絡めた企画展に秀逸な内容が多いです。

また、同館の屋上スペースは非常に開放的で、コロナ前は夜10時までライトアップされ、誰でも楽しめるよう開放されていました。地元市民の憩いの場としてだけでなく、富山を代表する新たな観光地にもなりつつあります。

さて、それではこの特徴ある3つの公立美術館がお互いの強みを持ち寄って展示を作った結果、どのような展示になったのでしょうか。70作家、約120作品がずらりと展示された充実の展示室内から、僕が特に見どころだと考えた特徴を5つに分けてご紹介したいと思います!

みどころ1:3館比較展示「Artist in Focus」が面白い!

本展では、3館が共に作品を所蔵しているアーティストについては、「Artist in Focus」という特別な括りでまとめられていました。それぞれ制作時期やコンセプトが異なるピカソやミロ、アルプ、エルンスト、ウォーホルなどが、連続で並んだ光景は壮観。1作品だけでもなかなか見られない近現代作家の巨匠の作品が、整然とホワイトキューブに並んだ光景をぜひ味わってみてください。

たとえば、展示室の入り口すぐのところに特集されているピカソを見てみましょう。

右から、富山県美術館が所蔵する「肘掛け椅子の女」、横浜美術館の「肘かけ椅子で眠る女」、そして富山県美術館の「座る女」ですね。すべて(3点中2点は全くそうは見えないけれど)女性の肖像画が並べられています。

すべてパブロ・ピカソ、左:「座る女」1960年、富山県美術館蔵 中:「肘かけ椅子で眠る女」1927年、横浜美術館蔵 右:「肘かけ椅子の女」1923年、富山県美術館蔵

こうして並べてみることで、まず直感的にわかるのが、ピカソの画業の変遷ですね。通称「青の時代」と呼ばれる、陰鬱な色彩の具象表現からキュビスムへと移行し、その後一旦具象へと戻り(右)、シュルレアリスムが勃興するとシュルレアリスムの要素も貪欲に作風に取り入れていく(中)。そして、最後に初期のキュビスム的な表現へと回帰しているわけです(左)。

こうしてみてみると、コロコロと画風が変わっていて、並べてみても一見全部同じ作家が描いたとは思えないかもしれません。実験的精神を持ち、時代にあわせて大胆に画風を変化させることを厭わなかったからこそ、変化の激しい20世紀モダンアートの世界でも確固たる存在感を保ち続けることができていたのかもしれませんね。

それにしても、画風は変わるのに、描く対象はずーっと自分の好きになった女性像が多かった、という妙な一貫性も見えたりきたりもして面白かったです。

すべてフェルナン・レジェ 左:「緑の背景のコンポジション(葉のあるコンポジション)」1931年、愛知県美術館蔵 中:「コンポジション」1931年、横浜美術館蔵 右:「インク壺のあるコンポジション」1938年、富山県美術館蔵

こちらは、ピカソと同時代に、キュビスムやシュルレアリスムを作風に取り入れてカラフルなオブジェを描いたフェルナン・レジェの作品。レジェは、ピカソとは逆で、年代が異なってもそれほど作風はドラスティックには変わっていないように見えますね。

この写真のように、3作品をちょっと引いた位置から均等に眺めてみると、抽象化された無機物と有機物が組み合わさった構図、工業製品などを想起させる「機械礼賛」的なモチーフ、ビビッドな色彩感覚などはどの作品にも共通しているな、というのがよくわかります。

みどころ2:ダダの中心メンバー・アルプの制作を支えたある女性の存在とは?!

すべてハンス(ジャン)・アルプ 左:「鳥の骨格」1943年、富山県美術館蔵 中:「瓶と巻き髭」1923-26年、横浜美術館蔵 右:「森」1917年頃、愛知県美術館蔵

こちらは、第一次世界大戦中から国際的に展開された芸術革命運動「ダダイスム」の創始者の一人であるハンス(ジャン)・アルプの作品群です。こちらも、横浜・富山・愛知の3館からそれぞれ1作品ずつ出品された「Artist in Focus」としてコーナーが特設されています。

特に、この写真左の金色のオブジェは、制作意欲を失って詩作にふけっていたアルプが、再び彫刻制作へと向かった際の、記念すべき復活第1作として知られます。

では、なぜアルプは一時期のあいだ、制作をやめてしまっていたのでしょうか。

そこで、ヒントになったのが壁に掲示されていた「ふたりのアルプ」とタイトルがつけられた解説パネルでした。

ちょっと話は長くなりますが、実は、彼の作品の背後には、最愛の妻にして、無名の芸術家であったゾフィー・トイバーという存在が見え隠れします。

1915年、彼はゾフィーと出会って以来、約30年弱の間、人生の伴侶として共にかけがえのない時間を過ごします。(西洋美術では、次から次へと無節操に女性に手を出す巨匠が多い中、これは立派。)

ですが、悲劇がアルプを襲います。1943年1月、なんとゾフィーはガスストーブの故障による一酸化炭素中毒で偶発的に亡くなってしまったのでした。それで、妻の死にショックを受けたアルプは、約4年間もの間、彫刻作品の制作をやめてしまった……というわけなんです。

ここで解説パネルを読んで「おやっ」と思ったのが、ゾフィーは、いわゆる「アーティストの妻」として奥ゆかしくアルプを支えただけでなく、多くの作品でゾフィーと共同制作を行っていた可能性が示唆されていることです。

では、なぜゾフィーのクレジットが残った作品が少ないのかというと、彼女がアルプと共同制作を行った作品には自らの名前やテキストをほとんど残さなかったから、ということだそうです。

面白いのが、二人の造形上の嗜好の違いです。丸みを帯びた柔らかい造形を好んだアルプに対して、直線的、鋭角的なフォルムのデザインが持ち味だったゾフィーと、二人の作風は互いに正反対でした。まさに「水と油」ですが、このカップルの場合は、上手く混ざりあってプラスの方向に働いていた、というわけですね。

そういえば、本展に出品されている70作家の内訳を見てみると、女性作家はわずかに6名。こうした人数構成を見るだけでも、20世紀の西洋美術史は、現代に至るまで圧倒的に白人男性が中心の世界だったのだな、ということが改めて浮き彫りになりますよね。
(※ちなみに、女性作家6名の内訳は、ガブリエーレ・ミュンター、マヤ・デレン、メレット・オッペンハイム、ブリジット・ライリー、ジャンヌ=クロード、ジョージア・オキーフの6名。ぜひ注目してみて下さい!)

みどころ3:シュルレアリスムの巨匠の作品群は圧巻!

さて、第2章で一番印象に残ったのが、シュルレアリスムの作品群でした。ちょうど第二次世界大戦前後に、アートの中心地がパリからニューヨークへと移りゆく中で盛り上がった国際的なアートのムーブメントが、シュルレアリスムです。

シュルレアリスムの作家たちは、「夢」、「無意識」、「偶然性」といった要素をアート作品に導入し、人間の意識下に眠っていたイメージの断片を、現実離れしたような幻想的な景色に描いたり、何かに憑依されたようなランダムな線描で表現しようとしました。

ここで、3館の作品が集結したのが、マックス・エルンストの作品です。

すべてマックス・エルンスト 左:「ポーランドの騎士」1954年、愛知県美術館蔵 中:「少女が見た湖の夢」1940年、横浜美術館蔵 右:「森と太陽」1927年、富山県美術館蔵

展示を担当した大澤学芸員のお話によると、エルンストは、数ある作家の中でも最も混沌とした第二次世界大戦の時代の影響を受けた象徴的なアーティストの一人なのだそうです。

第二次世界大戦が勃発した時、彼はパリで活動していましたが、ドイツ人だったために当局から「敵性外国人」として収容所へと送られてしまいます。この収容所時代に構想して、収容所から開放された後に制作した作品が、横浜美術館が所蔵する「少女が見た湖の夢」でした。

しかし、解放されたといっても、彼には帰る場所がありませんでした。なぜなら、祖国ドイツはヒトラーが政権を握っていたからです。エルンストの前衛的な作風を理解できなかったヒトラーは、彼に「退廃芸術家」という烙印を押して弾圧を強めていたので、祖国にも帰ることができません。

そこで、アメリカの有力なコレクターのペギー・グッゲンハイムらの援助を受けてニューヨークへと亡命。新天地で芸術活動を継続することになります。その亡命先のアメリカで、ニューヨークのフリック・コレクションを訪れた時、レンブラントの「ポーランドの騎手」という作品を見た彼に、ビビッとインスピレーションが下りてきます。そこで制作されたのが、愛知県美術館が所蔵する「ポーランドの騎士」でした。

つまり、彼の作品を時系列でたどるだけで、ある市民の一視点に立った第二次世界大戦の歴史も同時に語れてしまう、ということなのですね。美術史って奥深いな、と思いました。

両方ともルネ・マグリット 左:「王様の美術館」1966年、横浜美術館蔵 右:「真実の井戸」1963年、富山県美術館蔵

また、ルネ・マグリットの代表作「王様の美術館」については、横浜美術館が特別企画を用意してくれています。それが、下記の一連のYoutube動画にある「《王様の美術館》からつむぐ物語」というちょっと変わった関連イベント動画です。

このイベントでは、ルネ・マグリットの傑作「王様の美術館」をみて、その絵をもとに創作したショート・ショート(約400字)での物語を広く募集。応募作1,002点の中から、選ばれた入選作3点を、俳優・ダンサーの森山未來が物語を朗読し、物語の世界観を表現するパフォーマンスをYoutubeで発表しています。

これが、結構面白いんですよね。

3本ともYoutube上で公開されていますが、どれも非常によく絵の世界観とマッチしたストーリーでした。(あと、森山未來のパフォーマンスもキレキレで凄く良いです)

マグリットの不思議な作風には、人間の想像力を刺激してくれる特別な力があるのかもしれません。1本3~4分程度の短い動画なので、時間の空いた時にでも、ぜひチェックしてみてください。見終わった後、自分でストーリーを考えてみるのも面白いかもしれませんね。

みどころ4:表現が多様化!まるで遊園地のような第3章

個人的に見ていて一番楽しかったのが、第3章です。アートのあり方が非常に多様化した1960年代以降、もはやアーティストたちは一つの主義主張や会派を結成してグループ内で結束して活動するよりも、「個」を前に出して自分だけのオリジナリティを追求して行くようになります。絵画・彫刻・オブジェといったカテゴリ分けすらも意味がないような、混沌とした展示風景が広がっていました。

左:フランシス・ベーコン「横たわる人物」1977年、富山県美術館蔵 中:フランシス・ベーコン「座像」1961年、横浜美術館蔵 右:イヴ・クライン「肖像レリーフ アルマン」1962年原型制作、愛知県美術館蔵

見て下さい、この右端の作品を。金一色に装飾されたカンヴァスから、青一色に塗られた男性の半身像が飛び出した美しいのか、不気味なのかわからないような変わった作品です。

本作は、イヴ・クラインというヌーヴォー・レアリスムを代表するフランスの作家による作品ですが、それにしてもこの「クライン・ブルー」の青の美しさ!作家自ら塗料開発に携わって生み出された「青」の吸い込まれるような鮮やかな色合いには、強い中毒性があります。

しかし、何故にこれほど美しい青を、オッサンの半身像をコーティングするために使うのか…。美しいのだけど、思わず笑いをこらえきれない不気味な作品は、一度見たら忘れられない衝撃がありました。

左から、ロイ・リキテンスタイン「スイレン-ピンク色の花」1992年、富山県美術館蔵、ロイ・リキテンスタイン「ピカソのある静物(版画集『ピカソへのオマージュ』より」1973年、横浜美術館蔵、アンディ・ウォーホル「レディース・アンド・ジェントルメン」1975年、愛知県美術館蔵、アンディ・ウォーホルの写真作品群(作品名省略)横浜美術館蔵

続いては、アメコミ作品をパク…いや、利用してサブカルと融合したようなポップ・アートで有名なリキテンスタインの作品も2作品出ていました。

2作品のうち、右側の女性像はピカソへのオマージュだな…というのはなんとなく当たりがつきました。ですが、左側の葉っぱみたいなモチーフは何だろう…?!と思って調べてみたら、なんとこの葉っぱは、モネ晩年の連作「睡蓮」へのオマージュであるというのです!

モネの作品から着想を得てオマージュ的な作品を作る作家は現代でも多数いますが、これはちょっと面白いですよね。ミュージアムグッズの柄に使ったとしたら、非常にお洒落だと思います。

アンディ・ウォーホル「マリリン」1967年、富山県美術館蔵

第3章で特に大きく展示面積が取られていたのが、ポップ・アートを代表する作家アンディー・ウォーホルです。3館それぞれの所蔵品を持ち寄った展示は圧巻でした。

ウォーホルは生涯で非常に多くの肖像画を手掛けましたが、まずは定番の「マリリン」から。

ウォーホルが現代アート界の寵児へと上り詰めるきっかけとなった記念碑的な作品です。本作は映画で撮られた写真を引用して、版画化しているのですが、今、仮に同じことをやったとしたら、著作権的にどうなのでしょうか?!

左:アンディ・ウォーホル「レディース・アンド・ジェントルメン」1975年、愛知県美術館蔵 右:アンディ・ウォーホルの写真作品群 横浜美術館蔵

マリリン・モンローの版画連作を制作した後、ウォーホルは1965年に画家引退を宣言し、しばらく実験映画に傾倒して絵画制作から離れます。しかし、1970年代に入ってから、彼は再び肖像画に戻ってきました。愛知県美術館の「レディース・アンド・ジェントルメン」は、この時期の作品です。

よく見ると、マリリンの作品よりも、少しだけ自らの絵筆の跡を残すなど、絵画的なアプローチが取られています。

それにしても美しい作品です。写真展などでも、黒人モデルは原色系のファッションがツヤのある地肌に映えることが多いですが、本作で使われた紫やピンク、緑といったビビッドなアクリル絵具が、彼女の洗練された都会的な美しさを引き立たせているように感じました。

そして、その横に展示されている一連の小さな写真群は、ムハメド・アリやアーノルド・シュワルツェネッガー、シスヴェスター・スタローンといったセレブたち。ウォーホルは、既存の写真では飽き足らず、とうとう自分自身で被写体を撮影するようになっていったのですね。

ちなみに、若かりし頃のシュワルツェネッガーかっこよすぎです。ぜひ探してみて下さい!

みどころ5:先見の明があった!?リヒター渾身の力作!

左:ゲルハルト・リヒター「オランジェリー」1982年、富山県美術館蔵 中:クリスト「包まれた旧ドイツ帝国国会議事堂、ベルリンのためのプロジェクト」1986年、愛知県美術館蔵 右:クリスト&ジャンヌ=クロード「ランニング・フェンス、カリフォルニア州ソノマ郡とマリン郡」1972-76年(1979年刊)、富山県美術館蔵

さて、第3章のラストには、ゲルハルト・リヒターの大作が満を持して登場。

こちらは富山県美術館が所蔵しているのですが、まさか、これも先日のポーラ美術館のように、購入には相当大枚をはたいたのではないだろうか?!と勝手に心配して見ていたら、実はそうではないんです。

こちらの作品が購入されたのは、今から37年前となる1984年。1982年に開催された国際美術展「ドクメンタ」に出品され、その2年後、富山県立近代美術館で開催された「富山国際美術展」にも出品され、その時にそのまま美術館でお買い上げとなったようなのです。

気になる購入金額ですが、なんと1千万円未満だったとのこと。これはかなりお買い得だったのでは?!

リヒターは、現在もっとも作品価格が高騰している人気現代アーティストの一人ですが、若い時ならちゃんと買える価格だったのですね。

左:クリスチャン・ボルタンスキー「シャス高校の祭壇」1987年、横浜美術館蔵、右:ジョージ・シーガル「ロバート&エセル・スカルの肖像」1965年、愛知県美術館蔵/近年、大規模な回顧展で日本でもお馴染みとなったボルタンスキーも、近年急激に作品価格が上昇中の人気作家。本作は、約30年前の1992年に今よりも遥かに「手頃な」価格で購入されました。

まさに先見の明とはこういうことを言うのかと。

実は、富山県美術館だけでなく、横浜美術館、愛知県美術館もみな、同時代の作家の作品を積極的に集めているそうです。そうすると、中には作品に光るものを感じて購入を決めたけれど、その作家が思ったよりも人気化せずに美術史の中で埋もれた存在になってしまうリスクだってあるかもしれません。

ですが、公立美術館には厳しい予算制限があります。ロシアやアラブの大富豪のように、100億円単位でお金を動かせるわけではありません。だから、数十倍、数百倍と値上がりしてしまう前に作品を押さえることが大事なのですね。ぜひ、これからもこの3館のスタッフの方には頑張っていただきたいです!

まとめ:横浜美術館休館前の集大成的な企画展でした!オススメ!

実は、横浜美術館は2021年3月1日から、大規模改修工事のため長期休館に入ってしまいます。3館とも一切出し惜しみなく、力作が一堂に会した本展は、まさに休館前のラストを締めくくるのにふさわしい良展示でした。仮に、本展に出品された作品を全部オークションで売却したとしたら、何百億円になるのでしょうか?それくらい、名品揃いの展覧会だったと思います。

「三人寄れば文殊の知恵」とは良く言いますが、まさに三館の作品群が出揃うことによって可能になった比較展示が、新たな作品の楽しみ方やストーリーを生み出しているようでした。やっぱり作品を並べて「くらべてみる」のは、最強の鑑賞法ですね。

そうそう、こういうご時勢ですので、トライアローグ展にどうしても足を運ぶのが難しい、という方には朗報です。

本展の公式図録にはISBNがつけられており、Amazon他、一般書店でも幅広く発売されていました。実際、僕も展覧会終了後、内容が素晴らしかったので東京駅近くの八重洲ブックセンターで購入しました。全作品が1点ずつ丁寧に解説がつけられ、初心者でも理解できるようできるだけ平易な解説になっていたのもポイント高し。読み物としても純粋に楽しめる良質なクオリティでした。

また、横浜美術館のWebサイトや公式Youtubeなどには、自宅で楽しめるコンテンツもたくさん用意されています。そして、本展はこの後、愛知県美術館、富山県美術館にも巡回予定。遠方の方は巡回展もおすすめです!(それまでにコロナが収まっていますように!!)

展覧会基本情報

展覧会名:「トライアローグ:横浜美術館・愛知県美術館・富山県美術館 20世紀西洋美術コレクション」
場所:横浜美術館(〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1)
会期:開催中~2021年2月28日(日)
公式サイト:https://yokohama.art.museum/special/2020/trialogue/

かるび

かるび

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メーカー、IT企業で勤務後、41歳にして1年間のサバティカル休暇へ突入。現在は、ブロガー&Webライターとしてアートや映画について主催ブログ「あいむあらいぶ」(http://blog.imalive7799.com/)にて日々見聞きした出来事を書き綴っています。

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