19世紀末から1914年頃までの、パリが最も芸術的に華やいだ時代「ベル・エポック」に焦点を当てた展覧会「ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に」が、12月15日(日)まで、東京・パナソニック汐留美術館で開催されています。
ベル・エポック期から1930年代にかけて、絵画や工芸、舞台芸術、音楽、文学、ファッション、科学といった幅広い分野の文化を展覧していきます。
会場には、トゥールーズ=ロートレックやジュール・シェレのポスター、当時のブルジョワ階級の女性や子どもたちの衣服やアクセサリー、エミール・ガレやルネ・ラリックの工芸作品など約250点が展示され、当時のパリの活気が伝わってきます。
本展覧会は、2018年に公開されたフランスのアニメーション映画『ディリリとパリの時間旅行』に着想を得て企画されました。
この映画は、ニューカレドニア出身の主人公が、多くの芸術家たちが活躍していたベル・エポック時代のパリにやってきて、誘拐事件の謎を解いていく物語です。映画には、ロートレック、シャガール、女優のサラ・ベルナール、そして文学者のプルーストなどが登場し、展覧会にもその時代を代表する作品が展示されています。
そして、アメリカ在住の実業家で慈善家でもあるデイヴィッド・E.ワイズマン氏とジャクリーヌ・E.マイケル氏夫妻のコレクションが展示作品の中核をにないます。多くの日本初公開作品も含まれているこのコレクションには、当時のモンマルトルの雰囲気が色濃く反映されています。本展覧会を4つの章に沿って、当時の歴史とともに見どころをご紹介します。
第1章 古き良き時代のパリー街と人々
パリは、1870年から71年にかけて普仏戦争やパリ・コミューンといった大きな混乱を経験しましたが、その後、約50年にわたって平和で安定した時代が続きます。この時期にオペラ座やエッフェル塔、サクレ・クール寺院といった、今でも有名な建物が次々に建設され、パリは急速に大都市へと発展します。
街の生活も大きく変わる中、さまざまな階層の人々が交わり、豊かな芸術活動が盛んになっていきます。裕福なブルジョワ階級の女性たちは、自宅に音楽家や詩人を招いてサロンを開いて交流していた一方、カフェやキャバレー、バーで過ごす労働者や下層社会の女性たちも、芸術家たちにとって魅力的な題材となっていました。
芸術家たちは、変わりゆくファッションにも注目しながら、絵画やポスター、工芸品を通じてパリの現代的な生活を表現していきます。
ベル・エポック期を華やかに彩ったマイセンの磁器
ザクセン侯国のアウグスト強王のもと、錬金術師ベットガーらが磁器の焼成に成功し、マイセン磁器が誕生しました。シノワズリやロココ様式が取り入れられ、20世紀にはアール・ヌーヴォーやアール・デコといった新しいデザインも加わりました。18世紀に作られた食器は、調味料やお菓子を置くためのセンターピースなどで、食卓を華やかに彩りました。本展では、花をつけた樹木の装飾が食卓に彩りを添える作品も展示されています。
第2章 総合芸術が開花するパリ
モンマルトルは、パリ北部に位置し、サクレ・クール寺院を擁してパリ全体を見渡せる、世界中から観光客が訪れる名所。19世紀から20世紀にかけて、ナポレオン3世によるパリ大改造で中心部から移り住んだ市民たちが集まり、キャバレーやダンスホール、カフェが立ち並ぶ活気ある歓楽街でした。
情緒あふれる坂道や風車、ブドウ畑が残る素朴な風景、そしてにぎやかなキャバレーやカフェの雰囲気は、アトリエを構えた画家たちにとって理想的な題材でした。文芸キャバレー「シャ・ノワール」では、影絵芝居が上映され、ドビュッシーやサティが演奏するなど、芸術と文化が交わる場となり、多くのアーティストたちがジャンルを超えて交流し、新たな作品を生み出していった場所でもありました。
「赤い風車」という名で知られるキャバレー、ムーラン・ルージュは1889年に開店し、多くのスターダンサーを輩出。トゥールーズ=ロートレックやスタンランなど、多くの画家や版画家がムーラン・ルージュを題材に作品を残しています。
本章では、ルノワールやロートレック、ルグラン、イベルスらが描いたモンマルトルの人々を通して、当時の芸術家たちがどのように影響を与え合い、その成果を作品に反映させたかをご紹介します。
シャ・ノワールを世界的に有名にした猫のポスター
テオフィル=アレクサンドル・スタンランは、スイス生まれの画家・版画家で、モンマルトルを舞台に活躍し、ムーラン・ルージュやシャ・ノワールなどの仕事を手がけました。特に、シャ・ノワールの有名な猫のポスターで知られています。
第3章 華麗なるエンターテイメント 劇場の誘惑
ベル・エポック期のパリでは、キャバレーやダンスホールが重要な役割を果たしていましたが、特にモンマルトルの劇場がエンターテイメントの中心地としてさらに発展させていきます。「テアトル・リーブル(自由劇場)」は、エミール・ゾラやヘンリック・イプセンの革新的な演劇を上演し、多くの芸術家が舞台装飾や挿絵に関わることで、視覚芸術と舞台芸術の融合が進みました。
また、サーカスも芸術家たちに強いインスピレーションを与え、特に「シルク・メドラン」などは重要な存在でした。フォリー・ベルジェールでは、ロイ・フラーの最新技術を駆使したダンスが披露され、モンマルトルを中心にパリのエンターテイメント文化が花開きました。
パリ北部では、新しい文化やダンスホール、キャバレーが大いに栄えました。特に初のポスターデザイナーとされるジュール・シェレの作品や、影芝居を再現した映像作品に注目。また、詩人や作家たちが影響し合い生まれた作品も紹介されています。
「近代ポスターの父」と評されたジュール・シェレ
ジュール・シェレは、フランスの画家であり、リトグラフ作家、イラストレーターです。彼は出版物や商品、劇場の宣伝用に1,000点以上のポスターを制作し、「近代ポスターの父」と評されました。
近代的な都市が整備され、消費社会が発展する中で、ポスターという広告メディアや商業デザインを大きく進化させた人物でした。彼の作品は、明るく鮮やかな色彩と躍動感あふれる構図が特徴的です。
第4章 女性たちが活躍する時代へ
世紀末のパリでは、フェミニズム運動が盛んになり、家庭の枠を超えて社会で活躍しようとする女性たちが登場してきます。教育を受けた女性たちは、教師として働くほか、医師や科学者としても活動し、1903年には物理学者マリー・キュリーが女性初のノーベル賞を受賞し、女性の社会進出を象徴する出来事となりました。
舞台用冠《ユリ》は、アルフォンス・ミュシャがデザインし、ルネ・ラリックが制作したとされ、1895年初演の劇作家エドモン・ロスタンの『遠国の姫君』でサラが身に着けました。また、公演用プログラム《テオドラ》の表紙にラリックがイラストを提供した珍しい例も紹介されています。
この女性たちの活躍は、芸術の世界にも広がり、メアリー・カサットやシュザンヌ・ヴァラドンといった女性画家が、男性中心の美術界でも積極的に作品を発表し、その存在感を示しました。舞台芸術では、サラ・ベルナールがパリのみならず、ロンドンやアメリカでも成功を収め、国際的に人気を博していきます。
また、ファッションや装飾美術にも変化が訪れ、これまでの優雅な曲線美から、より活動的で自由なスタイルが登場し、女性の社会的役割の変化を象徴するものとなりました。
まとめ
会場全体の雰囲気は、壁紙の模様、工芸品、当時の服飾や絵画作品などにより、まるでベル・エポックの時代にタイムスリップしたかのような印象を受けます。また、エントランス前の映像コーナーでは、カジノ・ド・パリや有名なサーカス団の映像、アリスティード・ブリュアンの歌声など、貴重な映像資料も見ることができます。こちらも併せて、お楽しみください。
展覧会情報
展覧会名 | ベル・エポック―美しき時代 パリに集った芸術家たち ワイズマン&マイケル コレクションを中心に |
会期 | 2024年10月5日(土)〜 12月15日(日) |
会場 | パナソニック汐留美術館 |
開館時間 | 10:00~18:00(最終入場は17:30まで) ※11月22日(金)、29日(金)、12月6日(金)、13日(金)、14日(土)は夜間開館 20:00まで開館(ご入館は19:30まで) |
休館日 | 水曜日(ただし12月11日は開館) |
入館料 | 一般:1,200円、65歳以上:1,100円、大学生・高校生:700円、中学生以下:無料 ※障がい者手帳をご提示の方、および付添者1名まで無料でご入館いただけます。 |
美術館ウェブサイト | https://panasonic.co.jp/ew/museum/exhibition/24/241005/ |