独自の発想で横浜を活性化!「タヒチプロモーション」大石暢社長ロングインタビュー【前編】

楽活では、これまで「横浜」に関する様々な面白いもの、楽しいものを掘り下げて記事として取り上げてきました。特にここ数年は毎年春から夏にかけて横浜市全域で開催される花の祭典「横浜ガーデンネックレス」を掘り下げてきましたが、取材を重ねるなかで、横浜市と一体となって同イベントを推進する「タヒチプロモーション」という個性派企業と出会いました。

同社は横浜駅西口に拠点を構える企業で、社員はわずか10名ほどの小さな会社です。しかし同社は毎年数十万人を動員する南国の楽園「タヒチ」に関する国内最大のフェス「タヒチフェスタ」を開催し、花を通して世界平和を目指すなど、その業務内容はとてもパワフルでユニークなのです。

そこで今回は、起業してから20年を迎えた同社を率いる代表・大石暢(おおいしとおる)さんにお話をうかがい、「タヒチプロモーション」とはどんな会社なのか?、「タヒチ」とはどんな関係があるのか?、どんな事業を展開しているのか、じっくりとお聞きしてきました。あまり他ではあまり聞いたことがない、奇想天外なその経営方針や、興味深い話が満載でしたので、2回に分けてお送りします。

タヒチとの出会い

――今日はインタビューの機会をいただき、ありがとうございます。まずは、タヒチプロモーションとはどのような会社なのか教えていただけますか?

大石暢社長(以下、大石さんと記載):その質問はよく聞かれます(笑)弊社って周囲から見ると何屋さんなのかわからないって言われることもあるんですが、基本的には社名の通り、「タヒチ」についての事業を手掛けている会社です。タヒチアンダンスのスタジオを立ち上げたことから始まっています。

――タヒチアンダンスがお好きだったのですか?

大石さん:僕じゃなくて、元妻で今はビジネスパートナーであるテ・ラ キョウコが福島県の「スパリゾート・ハワイアンズ」で働いていたとき、いわゆる”ポリネシアンダンス”という様々な島のダンスショーをやっていたことがきっかけでした。僕はその時ホテルマンとして働いていたんですが、夜勤明けに舞台で踊る彼女を見に行ってました。そこで見た様々な南国のダンスのなかで、一番エネルギッシュで激しいタヒチアンダンスを見て魅力を感じたんですよね。そこからヒントを得て、彼女と結婚してから2006年にタヒチアンダンスを軸にスタジオ業を始めたんです。

「タヒチプロモーション」創業以来、ダンサーとして活躍し続けるテ・ラ キョウコさん。タヒチアンダンスを日本に普及させたパイオニアのひとり。

――「タヒチ」って、島の名前は聞いたことあるけれど、ハワイやサイパンよりもちょっとマイナーな感じがしますよね?なぜタヒチに着目されたのでしょうか?

大石さん:最初は、純粋にマーケティング上有利なのではないかと思ったことでした。インターネットでタヒチについて調べると、検索数はそこそこあるのに情報量がすごく少ないんです。タヒチに興味がある日本人は多いのに、当時、まだ商品やサービスなどはあまり紹介されていなかった。そこにビジネスチャンスがあるんじゃないかって思ったんです。それでまず立ち上げたのが、タヒチプロモーションの前身の「タヒチポリホヌ」という会社でした。ポリは「ポリネシア」から、ホヌはタヒチ語で「亀」という意味です。

ーーなるほど、起業のネタとして「タヒチ」にチャンスを感じていたのですね。

大石さん:起業して実際にタヒチにわたって人々と交流してから、タヒチの本当の良さを実感しました。タヒチの人ってみんな底抜けに優しくて、心の広さがあるんです。よくビジネスをやっていると「ギブアンドテイク」が大事だよっていいますが、彼らはひたすら「ギブギブギブ」なんです。もう見返りや損得勘定なしに、困っている相手がいたら一生懸命助けてくれる。彼らから、人間の本来あるべき姿というものを教えてもらいました。なかでもプヌアさんというタヒチのランギロア島の長老には、本当によくしていただきました。こうしたタヒチの人々に何とか感謝の気持ちを伝えて、お返しをしたい、という気持ちから、もっとタヒチの人々や文化を日本人に知ってもらう活動がしたい、と考えるようになって、2008年に「タヒチプロモーション」を創業しました。

――なるほど、人間の温かさに触れて、大石さんご自身が熱心なタヒチファンになられたのですね。

大石さん:それ以外にも、文化の厚みが感じられるのもタヒチの特徴です。タヒチといえば、きれいなビーチ、抜けるような青空、水上コテージといった南国らしい風景が楽しめるだけじゃなくて、ポリネシアの歴史や文化が詰まった魅力ある場所でもあるんです。たとえばタヒチアンダンスを踊る「ヘイバ イ タヒチ」というお祭りひとつとっても、100年以上の歴史があります。また、これは現地のタヒチの人に言われてハッとしたんですが、島の人々に伝統的な「笑顔」が受け継がれているのタヒチの魅力のひとつです。

ーー笑顔…ですか?

大石さん:つまり、生まれてからずっと嬉しかったり、笑うっていうことがずっと受け継がれているんです。笑顔が島中いたるところに溢れているんです。笑うことって、決して誰かから特別に教わるわけではないですよね。なのに、自然と笑顔がこぼれている。それが、島の人々にずっと受け継がれているんですよね。それが私たちのいいところだ、と島民から聞いたとき、「本当に深いな」と思いましたね。タヒチって、もともとの人間の姿やあり方を教えてくれる場所だったんだなと。

けんかが絶えなかった創業時

――ところで、「タヒチプロモーション」社について、なにか創業時の印象的なエピソードはありますか?

大石さん:色々思い返してみたんですが、創業時はとにかく言い争いをしていたことしか印象にないんですよね。元妻のテ・ラ キョウコと二人で起業したんですが、もう「水」と「油」みたいなものだったんですよね。

――「水」と「油」というと…?

大石さん:キョウコはプロのダンサーで職人肌なんですが、僕は経営者で社長じゃないですか。そこのぶつかりあいの葛藤は半端なかったですね。「私はこういうのはやりたくない」「でもお客さん目線で考えると、これはやるべきだ」っていう、お互いの理想が対立するんですよね。もう、きれいなものではないです。夜通し言い争ったりもよくしましたね。良くも悪くもお互い頑固で、妥協することを知らなかったんですよ。でも、その葛藤の中から「タヒチアンダンスダイエット」という思わぬヒット作も生まれたんです。

――「タヒチアンダンスダイエット」ですか?

大石さん:これは「はなまるマーケット」という朝の情報番組で取り上げられたんですけど、タヒチアンダンスを使ってのダイエット法です。もちろん、キョウコはダイエット企画なんてやりたくないって反対でした。でも、タヒチアンダンスを広めるためだから…となんとか説得して、テレビ取材に来てもらって、タヒチアンダンスの動きを大学教授に分析してもらった結果、タヒチアンダンス特有の動作が深層筋を刺激してダイエットに効果があるということが判明したんですよ。

――それはすごい!

大石さん:実はそれがきっかけで、日本でのタヒチアンダンスの認知が少し進んだと思っています。「はなまるマーケット」での特集はものすごい反響がありました。なかなか視聴率が伸びづらい朝の時間帯で視聴率が10%を超えたことで、テレビ業界ではちょっとした”事件”になったんですよね。キョウコは、あの頃”視聴率女王”などといわれていましたから。その時もずいぶん言い争いはあったんですが、最終的にはキョウコが折れてくれて、企画にチャレンジしてくれました。もう感謝しかないですね。その後、教室運営も軌道に乗っていきましたから。

前例がないからこそ挑戦した「タヒチフェスタ」

――その後、ダンス教室の運営を続ける中で、2008年から、満を持してタヒチについての大規模なイベント「タヒチフェスタ」を立ち上げますよね。現在は1回20万人以上来場する巨大なイベントに育っています。なぜ、最初に「タヒチフェスタ」を立ち上げようと思ったのでしょうか?

大石さん:タヒチアンダンスダイエットの成功もあって、ダンススタジオの経営が軌道にのってきたので、いよいよもっと純粋にタヒチの文化を広めたいと思ったんですね。それで、タヒチアンダンスが好きな人達が集まって、ダンスを踊って楽しめる場をつくろうと考えて、「タヒチフェスタ」を考えつきました。

――「タヒチフェスタ」は、現在、入場無料で数千名単位のダンサーが集まる巨大イベントに成長していますが、立ち上げ当初はいろいろご苦労があったのではないでしょうか?

大石さん:いろいろありました(笑)。他のダンススタジオさんに参加を要請したとき、「なぜ私たちがキョウコさんのスタジオに協力しないといけないのか」と難色を示されることもありましたね。タヒチ観光局に相談したときも、「タヒチアンダンスなんて人が来るわけない。やっても無駄ですよ」と冷たくあしらわれたりもしました。だけど、僕はこのイベントを自分たちのものにするつもりはまったくなくて、ただみんなでダンスを楽しく踊って、公平にタヒチ文化を広めたいという気持ちだけでした。最初の数年間は赤字続きだったんですが、回を重ねて口コミが広がって参加者が増えたことで、事業が軌道に乗っていきましたね。

――なにが一番の成功の要因だったと思いますか?

大石さん:タヒチ自体が珍しくて、魅力あるコンテンツだというのもありますが、一番の理由は、多くの人が楽しんで集まれる場所をずっと守り続けてきたことだと思っています。ダンスステージでの発表って本当に楽しいんです。利害関係なく友達が新たにできたり、みんなで楽しみながら目標設定ができたりする。それって、かけがえのない、得がたい経験なんだと思います。実際、ステージが終わると、参加者の方から「来年も絶対出たいです」と言われることが本当に多いんです。みんなの笑顔を見ていると、「今年もやってよかったな」と思うんですよね。

――それにしても、毎年20万人規模のイベントを、わずか10名ほどの少数精鋭で運営されるのは並大抵ではないと思います。なにかコツなどがあるのでしょうか?

大石さん:コツ、というほどのものはないんですが、「このイベントはいずれ成功に向かうはず」という確信があったので、とにかく成功するまではやり続けようと決めていました。ただ、前例がないことをやるわけですから、ビジョンも僕の頭の中にしかないわけです。立ち上げ当初は自分が率先して動いてみせるしかなかったですね。出演交渉、各種機材準備、協賛企業の募集、当局との調整など、一通り考えられることは全部僕自身が先頭に立ってやりました。

――起業家らしく、獅子奮迅のご活躍だったのですね。

大石さん:といっても、ノウハウはゼロなので、僕自身も試行錯誤の連続ですよね。よく失敗もしました。そんな状態なので、当初は開催するたびに大きな赤字を出していました。社員からも「ダンス事業の利益を食いつぶしてまで、無理してやる意味あるの?」ってよく言われましたね。でもイベント運営の経験を積むにつれて収支が改善し、5~6年目くらいから利益が出て軌道に乗り始めると、今度はみんなが僕の見ているビジョンを楽しんで、一緒に乗っかってくれるようになるんです。そこまでが第一段階ですね。

ーーその後はどうされたんですか?

大石さん:軌道に乗った時点で、思い切って全部を社員に任せてみました。タヒチフェスタの場合は、黒字化が見えた段階で江藤(同社取締役)にすべて預けました。それ以降、僕自身はほとんど指示を出さず、スタッフに好き勝手にやってもらうようにしました。というより、一人ひとりが自分でやることを考えて組み立てていかないと、とてもこの少人数で数万人規模のイベントは運営できないと思います。だから、うちのスタッフはみんな最初は素人だったのに、いつの間にか音響照明からIllustratorやPhotoshopを使ったチラシ作りまで、一人何役もこなせるようになるんです。自由な発想で取り組むことで、工夫が生まれるんですよね。だからこそ、あえて僕は社員にほとんど指示を出さないんです。

――大石さん個人としては、「タヒチフェスタ」をやってみて良かったことはなにかありますか?

大石さん:やり続けたことによって、会社運営に大きなメリットがありました。20年やり続けると、日本人だけでなく、タヒチ現地でも「タヒチフェスタ」は有名な存在になっていきました。地元企業やタヒチ観光局なども「協賛」というかたちでお金を出して支援してくれますし、なにか別の仕事でタヒチに飛んだとき、「タヒチフェスタのトオル」です、と自己紹介すれば、たいていの人は僕の存在をすでに知ってくれているので、とてもビジネスがやりやすくなりましたね。いま、タヒチプロモーションではタヒチのさまざまな商材を取り扱ったり、新商品を共同開発しているんですが、「タヒチフェスタ」が名刺代わりになってくれているので、僕自身や会社の信用度がついて、商品開発や事業推進のスピードアップにつながっています。

タヒチフェスタでは、物販ブースも人気。タヒチプロモーションでは、大石さんが現地で探し当てた食材や様々な物産を日本で紹介する物販事業も近年力を入れている。

ーーすごい。好循環が生まれているわけですね!

大石さん:しつこく継続してきたことへのご褒美かなと思っています。「儲かっていて素晴らしいですね」と言われるより、「よくタヒチフェスタを16年も続けてきたね」といわれるのが一番うれしいんです。僕は、それまで誰もやろうとしなかったことを形にする苦労や楽しさを味わいたいと思うタイプなんです。インターネットでなにかしようっていうよりは、インターネットそのものを作りたい。いつもそう思っています。

ここまで、タヒチの人々との交流で得た原体験もとに、「タヒチプロモーション」を起業し、ユニークな発想や行動力で、みんなが笑顔になれる場をつくってタヒチ文化を日本に伝えてきた大石暢社長の軌跡をお伝えしてきました。

2023年、「タヒチフェスタ」は開催16年を迎え、これまでの累計参加者数はのべ200万人を突破。日本最大のタヒチ文化を体感できる祝祭イベントへと成長しています。しかし、大石さんにはまだまだやってみたい規格外の夢があるといいます。そのキーワードは「花」なのだといいます。インタビュー後編では、「花」をめぐる大石さんの構想についてじっくり掘り下げていきます。ぜひ、あわせてお読みください。(後編へ続く)

タヒチプロモーション・基本情報

株式会社タヒチプロモーション
所在地 〒221-0844 神奈川県横浜市神奈川区沢渡3-1東興ビル2F
設立年月日 平成20年7月1日
代表取締役 大石 暢
公式サイト:https://tahiti.co.jp/
公式Instagram:@tahitipromotion_japan

タヒチフェスタについて

「Tahiti Festa」は、南太平洋最後の楽園「タヒチ」をコンセプトにした日本でもっとも大規模なイべントです。入場無料で1日中楽しめ、ダンスや歌、食材などを通して、タヒチをまるごと体感できます。2008年から15年以上にわたって毎年開催されており、初回からの延べ動員人数は200万人以上を記録。世界最大級のタヒチの祭典へと発展しています。

「Tahiti Festa 2024 Musashikosugi」(次回予告)
開催⽇程:2024年9⽉21⽇(⼟)〜23⽇(⽉・祝)
開催時間:10:00〜20:00(予定)
場所:こすぎコアパーク・グランツリー武蔵⼩杉
料⾦:⼊場無料
実施内容:タヒチアンダンスショー/ライブ
タヒチ関連販売ブース/PRブース/ キッチンカーなど
主催:タヒチプロモーション
共催:武蔵⼩杉エリアプラットフォーム
特別協賛:グランツリー武蔵⼩杉協賛:タヒチ観光局/神奈川トヨタ⾃動⾞株式会社/コンラッドボラボラヌイ/ヒルトンモーレアラグーンリゾート&スパ/ヒルトンホテルタヒチ/コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社 
後援:「⾳楽のまち・かわさき」推進協議会

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