期待の新鋭切り絵アーティスト柴田あゆみさんのアトリエへ遊びに行ってきました!【取材レポート】

和傘、うちわ、提灯などの伝統的な工芸作品や、折り紙、ちぎり絵、落語の紙切りなど、日本では昔から多様な「紙」文化が根付いてきました。手先が器用な日本人にとって、「紙」は繊細な美しさを表現するために最適な媒体だったのかもしれません。

現代に目を向けてみると、特にここ最近注目されているのが紙を切り抜いて「絵」を作り上げる「切り絵」というジャンルです。「紙」と「ハサミ」さえあれば誰でも今日から簡単に楽しむことができるという手軽さも加わって、趣味として楽しむ人も増えているといいます。

そんな中、この「切り絵」を極め、アート作品として世界中で発信を続けているすごい作家さんと出会うことができました。それが、今回の記事でご紹介する横浜出身の柴田あゆみさんという若手アーティストです。

アトリエ内に置かれたガラス棚の中には、柴田さんが特に大切にしている思い出深い作品が展示されていました。

出会いのきっかけは、柴田さんが楽活の運営メンバーと同じ高校出身だったこと。SNS経由で作品をひと目拝見して、その凄さに楽活編集部一同びっくり。そこで、ちょうど現在日本で滞在されているとの知らせを聞き、早速アトリエを訪問させていただくことにしました!

柴田あゆみさんってどんなアーティストなの?

柴田あゆみさんの近影(アトリエ内にて)/日本で開催した最初の個展は、実家の近所にある馴染みの寿司ギャラリーで開催するなど、庶民的な一面もある柴田さん。

柴田さんは、これまでニューヨークやパリなど、主に海外でアーティスト活動を重ねてきました。日本で本格的に活動を始めたのは2018年12月からと、割と最近になってからなのです。そのため、国内ではまだそれほど知られていないかもしれません。

しかし、2020年はいよいよ生まれ故郷・日本で注目の個展も目白押し。いよいよ今年は飛躍の一年になりそうな予感がしています。

おそらく、熱心なアートファンを含め、おそらくこの記事ではじめて柴田さんのことを知ることになる人も多いはず。そこで、まずは柴田さんの切り絵作品の魅力を早速知っていただくことにしましょう!

柴田あゆみさんの独創的な切り絵作品を大紹介!

日本では、柴田さんの他にも「切り絵」ジャンルで活躍する優れたアーティストが数多くいます。ネコや犬といった、暮らしを楽しくしてくれる小動物をかわいく切りぬいた作品や、神業的な職人芸で、驚くほどの緻密な作品を作り上げる超絶技巧作品などまさに多士済々。繊細な手工芸を得意とする日本人ならではですね。

もちろん、柴田さんの作品にも「きれい/かわいい」「超絶技巧」といった要素はしっかりと散りばめられています。

しかし、柴田さんの作品の一番の特徴は「作品の3次元性」です。

1枚の切り絵を単独で見せるのではなく、何枚も、時には何十枚も重ねたり、丸めたりすることで、作品に奥行きや立体性を持たせているのが特徴なんです。平面作品というよりは、立体彫刻作品や現代アートのインスタレーション作品に近い趣きがあると言えるかもしれません。

柴田さんの作品を見ていると、いつの間にか作品の中に入り込んでいるような不思議な没入感をたっぷり味わえます。平面としての切り絵を何層、何十層も重ねることで、非常に味わい深い神秘的な世界が現れてくるのですね。

また、作品のサイズも変幻自在。鑑賞者が作品の中にすっぽり入ってしまうような、巨大な紙のインスタレーションから、ガラスの器の中に入ってしまうような手のひらサイズの小さな作品まで、これまでの個展では様々なスケール感の作品を一度に色々体感できるような仕掛けが凝らされていました。

「一つの作品がそれぞれ一つの独立した「宇宙」のようなものなんです」と柴田さんは言います。まるで森のような大きな紙のインスタレーション作品の中に、さらに小さな作品群が散りばめられた展覧会での光景は、まさに最新宇宙論で語られる、マルチユニバース的な宇宙観が反映されているのです。

柴田さんが切り絵アーティストになった意外なきっかけとは?

アトリエ内での貴重な制作風景。使っている道具も、文房具屋で簡単に手に入る普通のデザインナイフやカッターマットなのです。

そんな独創的な「切り絵」作品を精力的に制作し続ける柴田さんですが、アーティストとしてはわりと遅咲きで、かつユニークな経歴の持ち主なのです。

柴田さんは、短大在学中から音楽活動で「表現者」として試行錯誤してきました。しかし音楽活動に対して限界を感じた柴田さんは、25歳の時に自分にとっての「柱」を探すため、アメリカへの留学を決意します。

しかし留学先として選んだニューヨークでの現地での生活は、柴田さんにとって生易しいものではありませんでした。英語という「言葉の壁」に翻弄され、友人や教師とのコミュニケーションはもちろん、日常生活にも一苦労する毎日でした。時間の流れや人の流れも非常に早く、都会の喧騒の中で疲れ切ってしまったのだそうです。

そんな中、柴田さんが街の雑踏、雑音から逃れ、心を落ち着かせるために時折通ったのが、下宿先の近所の教会でした。外界から壁一つ隔てた教会の中には、まるで別世界のような静寂さがありました。教会は、柴田さんにとって心を鎮めることができる貴重な空間だったのです。

柴田さんに転機が訪れた舞台は、まさにこの教会でした。

ある日、いつものようにその教会でボーッとしていた時、ステンドグラス越しに室内へと入ってくる荘厳な光を見て、「これだ!」とインスピレーションが降りてきたのだそうです。そこで、小学校低学年の時、図工の時間に黒い紙を切って、セロファンを貼る工作がきれいだったことを思い出して、黒い紙を買って自宅に帰って早速やってみたら、小学生の時に感じたような、心が満たされる感覚が戻ってきました。本当に楽しくて、時間を忘れて無我夢中でいくつも作ってみたのだそうです。

そこで、柴田さんは次にカラーセロファンではなく、ただ切り絵に色紙を重ねて、窓越し、影越しの光に当ててみることにしました。そうすると、それも非常に美しいものに仕上がったのです。この時が柴田さんオリジナルの「切り絵」の原型が完成した瞬間でした。

そこで、いくつか作品のストックができた時に、試しに友達に観てもらうことにしました。すると、その作品が評判を呼び、あっという間に近くのギャラリーで展示してもらえることに。さらに、ギャラリーでの展示が口コミで評判を呼び、面白がってくれたNYのアートファンの縁がつながって、「切り絵」アーティストとして実績を少しずつ積んでいくことになっていたのだそうです。その後、柴田さんは切り絵以外のアートも勉強するため、4年間みっちりアートスクールで学びを深めました。

「光」によって魅力を増す作品群

もう一度じっくりと柴田さんの作品を見てみましょう。

もうお気づきかと思いますが、柴田さんの作品は、どれも「光」を当てることによって独特の魅力を獲得しているのですね。

元は非常にシンプルな真っ白な紙なのに、温かみのある乳白色の光に照らされることで、まるで作品に命が与えられたようにも見えますよね。光が当たることで、作品が作り出した幻想的で美しい陰影も鑑賞ポイントです。

柴田:「ステンドグラスって、そこに光が当たることで美しく輝きますよね。私の切り絵も同じで、作品に光が当たって明るい部分と影が当たる部分に分かれることではじめて命が入るんです。最初はキャンバスとしての真っ白い紙がただ一枚あるだけですが、私が紙を切ることで光を取り入れるんです。陰と陽が交わるような感覚ですね。世界の中で陰と陽が一つになって、命が宿るプロセスと同じなんだなと思っています。」

幾層にも重ねた切り絵が醸し出す繊細な美しさ

柴田作品のもう一つの面白さは、何十層にも切り絵を重ねた作品の立体性です。一つ一つは紙を切っただけの単純な平面でも、パラパラマンガのように少しずつ変化をつけながら立体的に重ねるだけで、ものすごい没入感を生み出しているのですね。

しかし、柴田さんの作品は、その積み重ねられたレイヤーを切り離して1層ずつに分解した時、そのすべての層にひとつひとつ独立した世界が作られていることなんです。紙を重ねて一つの作品として見た時、鑑賞者から見えなくなってしまう部分にもちゃんと切り絵でモチーフを表現しているんです。

なぜ、あえて見えない部分にもモチーフを切り込むのですか?とお聞きしたところ、「自分自身が納得する世界を作りたいので、たとえ見えない部分であっても手を抜かず精魂込めて作ることが大切だと思います。人が見ていなくても神(紙)様はちゃんと見ていますから」と答えていただきました。

こうした手を抜かず、一つ一つの作品を作り込む姿勢にも、プロのアーティストとしての確固としたプライドを感じることができました。

気になる柴田さんの今後の活動内容は?

ここまで見てきたとおり、柴田さんのアーティストとしての凄さはわかって頂けたと思いますが、その作品の素晴らしさは、実物を見てこそ!オンライン上の画像でもこれだけSNS映えするくらい美しいのですから、実物を目にしたら絶対あなたも柴田作品の虜になってしまうことは間違いありません!

そこでおすすめしたいのが、この夏以降の柴田さんの個展です。現在、夏~秋にかけて、2件の個展が予定されているんです。

銀座・和光「柴田あゆみ切り絵展 ひかりの集い -Le banquet de Lumiére-」
開催日時:2020年8月8日(土)~8月19日(水)
開催場所:銀座・和光 本館地下(〒104-8105 東京都中央区銀座4丁目5-11)
公式HP:https://www.wako.co.jp/exhibitions/next

「柴田あゆみ展」(仮題)
開催日時:2020年9月12日(土)~12月20日(日)
開催場所:富士川・切り絵の森美術館
    (〒409-2522 山梨県南巨摩郡身延町下山1597)
公式HP:https://www.kirienomori.jp/art_museum/50/

まず、8月からは、いよいよ東京の都心でも個展を開催。開催地は銀座・和光と、これ以上ない好ロケーションです。より多くの人に柴田さんの作品がお目見えすることになりそうです。柴田さんが理想とする「銀座」をイメージした新作をはじめ、これまでの代表作品が展示される予定です。初めて観る人への「入門編」としても最適かもしれませんね。

特別に見せて頂いた「銀座」をイメージした切り絵作品の一部。人間と自然が完璧に調和した、柴田さんが考える理想の「銀座」が再現されています。

8月8日のオープニングは銀座・和光の開店する10時30分~17時まで。8月16日(日)14時からは、トークイベントや柴田さんによる切り絵の実演パフォーマンスも予定されています。ぜひお見逃しなく!

続いて9月には、切り絵を専門とする美術館での大規模個展も開催予定。こちらは柴田さんが得意とする、等身大の切り絵を80層以上重ねた大規模なインスタレーションも登場予定。「富士川クラフトパーク」という富士山麓のテーマパーク内にある美術館です。観光とセットで楽しんでみてもいいですね。

今後、楽活では全力で柴田さんを応援していきます!

柴田あゆみさんの作品、いかがでしたでしょうか?

真っ白な紙を切り抜き、光と立体感をもたせた独創的な作品群は、日本人らしい繊細さと美しさにあふれていますし、各作品が持つハッキリとしたメッセージ性も魅力の一つです。今後、楽活では、編集部を挙げて柴田さんを応援していきます。個展などの作品発表の機会には、逐一追いかけて取材を重ねていく予定なので、お楽しみに!

柴田あゆみさんのプロフィール

アトリエ内に飾られたお気に入りの作品について解説する柴田さん。まるで我が子を慈しむような柔らかい表情が印象的でした。

横浜出身、2007年にニューヨークに移り、国立アカデミーにて版画とマルチメディアを習得。2015年よりパリに移り、パリ市運営のアトリエ59リボリにて2年間の展示と制作活動を行う。パリ滞在中、フランス最大のペーパーアーキテクト会社より支援を受け、4メートル四方の大型作品の展示やフランス老舗ブランドrepetto本店にて特別展示や、その他多数展示を行う。2018年より横浜を拠点として活動中。同年、イタリアミラノマルペンサ空港での大型作品の展示や、ドイツ国際アートトリエンナーレにて入賞。2020年には、銀座・和光での個展(8月月予定)、富士川・切り絵の森美術館(9月12日~)などより一層の活躍が見込まれている。

公式HP:https://www.ayumishibata.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/ayumishibatart/
公式Instagram:https://www.instagram.com/ayumishibatart/?hl=ja

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