こんにちは、京都の美術ライター明菜です。今回は、みんな大好き伊藤若冲の巻物が新たに発見されたということで、作品を収蔵した福田美術館にうかがってきました。
若冲は江戸時代の画家で、鶏をはじめとする動物画などでよく知られています。鮮やかな色彩や大胆な構図が特徴で、独特な表現はむしろ現代的でもあり、令和の今もたいへん人気がある画家です。
今回、若冲が描いた巻物《果蔬図巻（かそずかん）》がヨーロッパで新たに見つかり、福田美術館に収蔵されました。３メートルに近い横長の巻物には、約40種類もの野菜や果物が描かれています。
本作の一般公開は、2024年10月に開幕する展覧会「開館5周年記念：京都の嵐山に舞い降りた奇跡！ 伊藤若冲の激レアな巻物が世界初公開されるってマジ？！」で予定されています。
これに先駆けて、3月5日(火)の記者発表で本作が報道陣に公開されました。私も直に拝見し、もう感動してしまい……！
しかし描かれているのは野菜と果物。「一体何に注目して、何に感動すればいいんだ……？」と疑問に思う方もいらっしゃるのでは。
そこでこの記事では、私が個人的に考える「こういうところを見るとおもしろいのではないか」というポイントをお伝えしていきます。
伊藤若冲ってどんな画家？
果蔬図巻を描いた伊藤若冲（いとう・じゃくちゅう、1716-1800）は、江戸時代中期の画家です。鮮やかな色彩や大胆な構図などに特徴があり、その作風は、現代の「映え」に通じるかもしれません。
しかし、映えは映えでも一過性の「バズ」ではなく、200年以上経っても多くの人の心を惹きつけています。作品と対面すれば、若冲の類まれな観察眼と描写力が見て取れて、長く愛されるのも納得のパワーを感じるはず。
若冲は「奇想の絵師」とも呼ばれ、近年、再評価が進んでいます。2021年には若冲の代表作《動植綵絵》が国宝に指定されました。
果蔬図巻（かそずかん）を深掘りしよう
《果蔬図巻（かそずかん）》は、若冲が76歳のときに描いた作品です。
本作の大きさは縦30.5cm×横277.5cm（跋文部分54.5cmを加えると横332.2cm）で、横は３メートルに近い長さ。唐辛子やカボチャのように馴染み深いものから見かける機会が少ないものまで、約40種類の野菜と果物で構成されています。
福田美術館学芸課長の岡田秀之氏によると、70代の若冲の作品で彩色されたものは数が少ないとのこと。また、跋文（作品に添えられた文章）から依頼主が確定でき、このような作品も珍しいそうです。
跋文を書いたのは、若冲と親交があった相国寺の僧・梅荘顕常（大典）です。若冲の絵が素晴らしいことや、森玄郷という人物の依頼を受けて若冲が制作したこと、その後、大典が跋文を書くに至った経緯などが記されています。
そして！ 本作に対面して何よりも驚いたのが、色の鮮やかさです。保存状態が良いのか、発色が豊かで経年を感じない美しさでした。
題材は野菜と果物でシンプルですが、若冲が描き出した豊かな世界は、宇宙と言っても過言ではないのでは。緑や赤、青や黄色とさまざまな色が対比して使われ、目が覚めるようなハッキリとした印象を生み出しています。
近づいてよく見ると、色のグラデーションや点描など、あらゆる技法によってモチーフの質感を描き分けていることがわかります。見れば見るほど、若冲の絵のうまさが伝わってくる奥深い作品でした。
リアリティはありつつも、絵としての美しさを追求して、デフォルメをしているように感じられます。身近な野菜や果物も、若冲の手にかかれば見飽きることのない名品に昇華するのですね。
【まとめ】一般公開は10月の予定
冒頭でもお伝えしたように、果蔬図巻は10月に開幕する展覧会「開館5周年記念：京都の嵐山に舞い降りた奇跡！ 伊藤若冲の激レアな巻物が世界初公開されるってマジ？！」で、一般公開が予定されています。
本作の発見は、美術館みずから「京都の嵐山に舞い降りた奇跡！」と掲げるほどの出来事です。今年の秋は嵐山で果蔬図巻を観て、ヤバくてエモくてテンションあげみざわ〜！ な体験をぜひ！
詳細情報
| 施設名 | 福田美術館 |
| 公式サイト | https://fukuda-art-museum.jp |
メインビジュアル：伊藤若冲《果蔬図巻》寛政3年(1791)（部分）福田美術館蔵
