東京駅から電車で揺られること約1時間。東京都心から最も近い風光明媚な海のリゾート地にして、自衛隊や米軍が駐留する軍港も擁するなど、異国情緒あふれる港町・横須賀。駅を降りて街を歩いてみると、古くは江戸時代の黒船来航以来、そこかしこに異国風情が感じられる観光名所がたくさんあります。
そんな横須賀から生まれた、日米文化が融合した独自のファッションアイテムが「スカジャン」です。戦後、横須賀にできた米軍基地に駐留していたアメリカ軍兵士が、基地のエンブレムや自分たちの所属部隊のシンボルが縫い付けられた刺繍入ジャンパーを地元の刺繍職人にオーダーしたのが始まりとも言われています。
現在では日本全国で幅広く愛好者がいるスカジャンですが、今でもその発祥地・横須賀は相変わらずスカジャン文化の聖地であり続けています。
そして、その聖地・横須賀には日本中のスカジャン愛好者から圧倒的な支持を受けている凄いお店があるんです。そのお店の名前は「エムシーハウス/スカティ」(以下、「MCハウス」と表記)です。
今回、楽活では縁あってこの「MCハウス」を取材させていただくことができました!
折しも、「MCハウス」が入居する横須賀市で一番賑わうショッピングモール「コースカ ベイサイド ストアーズ」は、2020年初夏にリニューアルオープンしたばかり。明るく清潔な店内には、プロジェクション・マッピングでの新たな映像演出も始まっていました。それでは、早速詳細にレポートしてみたいと思います!
店内はスカジャン尽くし!迫力の刺繍に圧倒されました!
まず、店内を見渡して圧倒されたのが、店内を埋め尽くす無数のスカジャン!軍艦や海辺の風景を取り入れた横須賀らしいデザイン、ワンピースやベティ・ブープなど親しみやすいキャラクターを取り入れたアイテムまで、非常に多種多様なスカジャンが商品棚にぎっしりと詰まっています。
中でも注目したいのが、浮世絵や国宝絵画など、誰もが知っているような有名な日本美術からモチーフを取り入れた、和柄の渋いデザイン。
かつてどぶ板通り商店街で人気を博した伝説的なスカジャン専門店「ジュピター」から販売の権利や生産委託先を受け継いだことで、こうした国内最高峰のクオリティを誇るスカジャンを多数取り揃えることができたのだそうです。
是非、手に取ってスカジャンの肌触りや重さを体験してみましょう。すると、高価格でクオリティが高いものほど、しっかりとした重量感を感じることに気づきました。
一体、この重さはどこから来ているのでしょうか。
疑問に思ったので、MCハウスの専務取締役・笹井裕子さんにお話を伺ってみました。
「スカジャンのずっしりとした重さの原因は、スカジャンに施された刺繍の厚みによるものなんです。刺繍部分のエントリーモデルでも40~50万針、最高級品になると・・・そうですね、この北斎の鳳凰柄などは約190万針もかかっているんですよ。」
えーっ?!190万針!!?とても人間業とは思えないですね・・・。
「当店で取り扱っているスカジャンの既製服は、専門メーカーが長年の研究を重ねて編み出した独自技術の塊とも言えるんです。制作工場では、最新鋭のコンピューターミシンを駆使して、職人と技術者が連携しながら何十工程もある複雑なプロセスを制御しているんですよ。」
これは驚きました。最近のスカジャンは、職人の経験と最新鋭のマシンの力が融合した凄い逸品だったのですね。
そうして、笹井さんが指し示した、店内で展示販売されている最高級品のスカジャンの一つがこちら。袖口から肩にかけて、ぎっしりと黄金色の刺繍が精緻に施されています。
「実は、当店ではこうした最新技術の粋を集めてつくられた既製服だけでなく、既製服へ刺繍をワンポイント追加したり、職人が昔ながらの手作りで制作するオーダーメイドのスカジャンも販売しているんです。実際にスカジャンを制作する工程も今日お見せすることができますよ。」
とご案内頂いたので、早速お店の奥の工房スペースをお邪魔してみました。
お店の奥の工房スペースでは、日々オーダーメイド製品も作られています!
お店の中の一角に設けられた工房スペースでこの日作業をされていたのは、専属の職人として長年MCハウスのものづくりを支えてきた五十嵐卓夫さん。
そう、MCハウスでは既製品だけでなく、お客さんからの要望に基づいて、世界に一つしかないオリジナルのスカジャンを手掛けたり、お客さんから送られてきた衣類に対して、刺繍を入れたりするオーダーメイドにも対応しているんです。
五十嵐さんの確かな技量は評判を呼び、今では日本全国から注文が殺到。最低でも納期まで1ヶ月以上待ちとなるような人気ぶりですが、それでもここ最近はずっとオーダーが引きも切らないそうです。
この日、五十嵐さんは、ちょうどお客さんから送られてきたスポーツウェアに、荒波の中を軍艦が大海原を勇ましく航行するデザインの刺繍をミシンで手掛けていらっしゃるところでした。
そういえば、この五十嵐さんが使っていらっしゃるミシンも、家庭用ではあまり見慣れないタイプの機種かも知れません。
五十嵐さんの愛機は、大手ミシンメーカーJUKI社の横振りミシン。知る人ぞ知る、プロ仕様に作られたマシンなのです。
通常のミシンと違い、針が横に振れながら縫い進めることができるので、刺繍にはぴったり。手で布を押さえながら、自由自在に刺繍を縫い付けることができるそうです。
とはいっても、横振りミシンは熟練の技量が要求される世界。足元のペダルで針の振り幅を調整し、手元で布を動かして模様のパターン、強弱をつけていく作業は、2年や3年でマスターできる技ではありません。
少し実演して見せて頂きましたが、その技量は圧巻でした。五十嵐さんの腕にかかると、文字から絵柄まで、まるで魔法のように狙い通りにあっという間にかたちが出来上がっていきます。
最後に、横振りミシンで刺繍用に使われている糸も見せて頂きました。
レーヨンです。スカジャン特有の刺繍のつやつやした光沢感は、このレーヨンに由来するものだったのですね。
ちなみに、スカジャンのボディについても、以前はシルクが使われていましたが、レーヨンポリエステルのサテンになり、扱いやすさも強度も以前よりはかなり向上してきたそうです。
そうすると、少し気になるのが「洗濯」のことですよね。笹井さんにお聞きしてみました。
「そうですね。スカジャンは、頻繁には洗わないほうがかっこいいかもしれません。基本的に「汚れ」や「傷」も粋な味を演出する要素になりますし、こうしたUSED感は、スカジャンのアイデンティティにもなりますから。
でも、もし洗うなら自宅用の洗濯機ではなく、基本的にはクリーニングをオススメしています。シルクよりは強度が高いとはいえ、当店で取り扱っているスカジャンは、サテンが傷つきやすくナイーブな上あれだけの緻密な刺繍が施されていますから、自宅の洗濯機で洗うと縮んでしまうリスクがあるんです。」
なるほど・・・。着れば着るほどに味が出て、着る人に馴染んでくるのもスカジャンの魅力ということなのですね。洗う時は「クリーニング」覚えておきたいと思います!
創業時はディズニーの専門店から始まった?!スカジャン専門店へと発展していったユニークなお店の歴史とは
ところで、「MCハウス」というお店の名前は、どこから名付けられたのでしょうか。気になったので、笹井さんに再びお聞きしてみました。
「MCハウスは今のコースカの前身だったショッパーズプラザ・横須賀が誕生した年に、1990年代にアメリカで発表されたブランド『Mickey&Co.』という大人の為のアメリカ直輸入ディズニーアパレル専門店の日本1号店としてオープンしたお店だったんです。
その後、直輸入の版権を持つ商社が『Mickey&Co.』の取り扱いをやめたため、日本のディズニーメーカーの商品を取り扱うファミリーウェア専門店に方向転換しました。一時は、全国に5店舗展開するなど、ディズニー系商品の専門店としてある程度知名度もあったんですよ。」
なんと!最初はスカジャンのお店ではなく、ディズニーの関連商品を販売していたお店だったのですね。
そこから、どうして横須賀を象徴するファッション・スカジャンを取り扱うようになったのでしょうか。さらに笹井さんに聞いてみました。
「当店が、スカジャン専門店へと変わるきっかけになったのが、当店オリジナルの『スカティ』の販売を始めたことでした。近年、横須賀市は人口流出が止まらず、徐々に街全体も元気がなくなりつつありました。そこで、この街を訪れる人々や、この街に生まれ育った子供たちに、もっと横須賀のことを好きになってもらいたい、と考えた弊社代表が、街への恩返しの意味も含めて立ち上げた構想だったんです。」
そこでお店を見てみると、表通り沿いの一番目立つ店頭に、様々な色合いのスカティが並んでいました。価格も1000円台からと、非常に購入しやすく設定されています。
ポイントは、スカジャンの基本でもある「刺繍」が左胸部分に施されていること。横須賀を象徴するような絵柄やアルファベットが、ワンポイント入れられたシンプルで飽きの来ないデザインが特徴です。
MCハウスの「スカティ」は、最初は数種類のプリントTシャツからスタートして、その後、キャップやパーカーなども取り揃えた現在の多彩なラインナップへと成長していきました。今では「スカティ」という商標登録を取得するなど、「スカティ」ブランドは、MCハウスのDNAとも言える主力商品へと成長しています。
では、MCハウスがスカジャンを本格的に扱い始めた決定的なきっかけとは何だったのでしょうか?
それは、スカジャン発祥の地・どぶ板通りで65年の歴史を持つ名店「ジュピター」が閉店を決めた際に、先代のオーナーから「ジュピター」の看板を継いでほしい、と頼まれたことでした。
「突然、面識もない弊社の社長に打診があったんです。なぜ、どぶ板通りで営業をしているわけではない私達に・・・と非常に驚きましたね。でも、お話を伺ってみると、『スカティ』というブランドを立ち上げ、横須賀に根ざしたモノづくりを続けてきた私達の心意気に惚れ込んで下さって打診頂いたことがわかりました。」
「その後、ジュピターさんの取り扱いブランドの販売権利を引き継ぎ、共に横須賀を盛り上げていきたい、という共通した思いの下で仕入先のメーカーさんとも良好な関係を築いて、取り扱い点数をジュピター時代よりも圧倒的に増やすことができたんです。」
なるほど、店内のどこを見回しても陳列棚やディスプレイにぎっしりとスカジャンが展示販売されている今の充実ぶりは、『なんとか横須賀を盛り上げたい』という共通の想いの下、同社が長年の信用と努力の積み重ねてきた結果だったのですね。本当にいい話をお聞きできてよかったです!
新たにスタートしたプロジェクション・マッピングにも要注目!
さて、最後に是非ご紹介したいのが、8月上旬から新たに始まったプロジェクション・マッピングを活用した店内のディスプレイです。僕が取材に伺った日に、ちょうど設営が行われていました。
店内の壁という壁は、すでにスカジャンのディスプレイで全て埋まってしまっているし、どうするのだろう?!と思ってじっと作業を見ていたら・・・。
なんと、プロジェクション・マッピングを投影するホワイトスクリーンは、お店の壁や映写幕ではなく、商品であるスカジャンそのものだったのでした!!
写真のように、真っ白な無地のスカジャンをスクリーンとして映像を映し出す仕組みになっています。地元・横須賀の象徴でもある日米の軍艦が勇ましい音楽と共に登場する約1分間の動画がエンドレスに流れる仕様になっていました。
取材当日、このプロジェクション・マッピングをデザインした女優・かでなれおんさんが設営時の立ち会いとして来店されていましたので、タイミングよくお話を伺うことができました。
「お店でも使われている横針ミシンが左右に動きながら縫い付けていくように、左右に少しずつせり上がりながら、日米の軍艦が刺繍のように描かれていくプログラムをデザインしてみました。横須賀基地を母港とする米軍の『第7艦隊』と、日本の『護衛艦きりしま』が順番に登場するので、ぜひチェックしてみてくださいね。」
現在、このプロジェクション・マッピングが設置されて約2週間が経過。非常に好評で、来店したお客さんからも注目されているようです。地元・横須賀経済新聞でも早速取り上げられるなど、予想以上の反響があったとのこと。MCハウスにまた一つ新しい名物ができそうです。
横須賀のプライドが詰まった地元の名店「MCハウス」の魅力をぜひ体験してみて下さい!
「ぜひ、気軽に手にとってスカジャンの手触りやデザインをじっくり楽しんでみて下さい。試着も大歓迎です。」と笹井さん。
スカジャンは、刺繍の施された位置、分量によって着心地が異なるだけでなく、絵柄や色によっても顔映りが大きく変わってくるそうです。試着することで、当初は考えてもみなかったアイテムが意外にフィットしたりすることも多いのだとか。
ぜひ、横須賀に遊びに来た際はコースカ ベイサイド ストアーズにも足を伸ばしてみてはいかがでしょうか?
お店は、観光案内所やフードコートに隣接する、人通りの絶えない絶好のロケーションにあります。まるでスカジャンの博物館のような店内は、見て回るだけでも楽しいですし、観光のお土産として「スカティ」を気軽に購入して帰るのもいいですね!
MCハウスの店舗情報
店舗名:MCハウス/スカティ コースカベイサイドストアーズ
場所:〒238-0041 横須賀市本町2-1-12 コースカベイサイドストアーズ2F
Facebook:
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