古のサムライが現代へ!?『野口哲哉~中世より愛をこめて』ポーラミュージアムアネックス
「Clumsy heart」 手にした口紅はオルビスでした。

現代美術家、野口哲哉を知っていますか? 1980年生まれの作家は、幼少期より模型づくりに没頭。大学では油絵を学ぶも、のちに鎧兜を着た武者をモチーフとした人形などを制作し、人気を集めてきました。

中でも一躍注目を浴びたのが、2014年に練馬区立美術館とアサヒビール大山崎山荘美術館において開かれた「野口哲哉の武者分類図鑑」展でした。ヘッドホンを聞くサムライや、自転車に乗る鎧武者などが目を引きましたよ。

当時、「サムライフィクション」や「サムライの誘うバーチャルリアリティ」として、評判を呼びました。ご覧になった方も多いかもしれません。

その野口の久々となる大規模な個展が、銀座のポーラミュージアムアネックスで開催されています。

甲冑を身に着けた武者がハートを描く!?

《Clumsy heart》。背伸びをしたサムライ。左手でそっと体を支えていました。

まず、いきなり登場したのが、一人の鎧武者なるサムライ。後ろを向いて右手を伸ばしていて、指先には、ハートマークが見えました。一体、何をしているのでしょうか?

《Clumsy heart》。手にした口紅はオルビスでした。

ぐるりと回ってみましょう。何と口紅を持ち、タイトルの「愛」ならぬ、ハートを描いています。口を半開きにした仕草は、まさに真剣そのもの。しかし、不思議ですよね。サムライが口紅でハートを描くとは、奇想天外ではないでしょうか。そう、野口は、単に甲冑を身につけた武人を、精巧な人形に表現しているだけではありません。現代とのクロスオーバー、そしてファンタジーとも呼べるフィクション性を伴っているのも、大きな魅力なのです。

誰かに似ていませんか?

《AD16末ー唐冠の兜》/《AD17初ー海洋生物の兜》。兜には海洋生物の尾ひれを連想されるものも。

それにしてもサムライたち、皆、表情が豊かですよね。中世どころか、現代の街角で見かけるような人の表情をしています。皆さんも、一人や二人、似ている人が思い浮かぶかもしれません。近所、あるいは親戚のおじさんでしょうか?まさに市井の人々そのものです。

《Sleep Away》。「善人も悪人も学者も戦士も、皆眠る顔は穏やかだ。」と、野口は語ります。

ぼんやりと遠くを見やったり、疲れた様子で肩を落としていたり、はたまた頰杖をついて、すやすやと気持ち良さそうに寝ていたり…。中には頭を抱えて座り込んでいる者もいます。野口は「武士の姿」ではなく、「武士のような姿をした人間」を制作したいと語っています。そこに、我々がイメージするような、勇ましく、逞しいサムライの姿は見られません。

まるでホンモノ? 古色を帯びた鎧兜の魅力

《ヒューマン・トレース》。よく見ると足元はスニーカー?

もちろん綿密に考証され、緻密に作られた、鎧兜も魅力の一つです。野口は、古色を帯びた甲冑を「秘伝のタレに漬け込んで」と語っていますが、経年劣化による色褪せ、着衣など綻びなども、実にリアルに再現しています。素材には合成樹脂などを利用していますが、まるで鉄のような質感や重厚感が見られます。

兜をかぶったレンブラント!? 「鎧を着た職人」シリーズ

《AD1660 日本の兜を被ったレンブラント》。レンブラントの残した財産目録に「日本の兜」の明記がありました。

「鎧を着た隣人」シリーズにも要注目です。ここでは、鎌倉や室町、戦国の人々の姿を、何と西洋画家の手法に置き換えて描いています。例えば《AD1660 日本の兜を被ったレンブラント》は、レンブラントの自画像へ、日本の兜を被せて描いた肖像画です。

《AD1450~朱波紋入綾包の胴丸》。油絵具をアクリル樹脂に置き換えています。

ある時、野口は好きな西洋画の巨匠が、戦国や鎌倉の武士と同世代であることに気が付いたそうです。レンブラントも、江戸幕府の三代将軍家光と一歳違いであり、しかも兜などの日本の美術品を収集したことが分かってます。意外な接点ですね。

《17C 音楽の寓意~フェルメールに基づく》。フェルメールは円空と同じ年でした。

さらに話題のフェルメールも登場!《17C 音楽の寓意~フェルメールに基づく》は、フェルメールの絵画を引用した作品で、サムライが神妙な面持ちで鍵盤を叩いています。どんな音楽を奏でているのでしょうか。ヨーロッパと日本の時間と空間が、一つの絵画の中に落とし込まれていると言えるかもしれません。

人間の本当の優しさを表現

《STRIPE》。ぐったりとうなだれるサムライ。誰しもが共感を覚えるポーズかもしれません。

そもそも野口は、中学生の頃、幕末に撮影されたサムライの古写真に触れ、まるでエビと人間の合いの子のような姿に、生身の人間の幻影を見出したそうです。さらに「サムライは私達と違うから奇妙な格好をしていたのではなくて、私たちと同じ人間がなぜ奇妙な姿で戦っていたのだろうと思う事が、歴史や人間の見方を大きく転換させてくれるキッカケになります」とも語っています。

《アクションマン・シリーズ》。まるで戦隊モノのようなポーズが楽しい!

甲冑の下から垣間見える、優しげで、妙に愛おしくなるような表情。古のサムライたちも、皆、生身の人間でなのです。一人一人のサムライから、時を超えて、「愛」を感じる、「野口哲哉~中世より愛をこめて~」。ポーラミュージアムアネックスで、9月2日まで開催中です。

「野口哲哉~中世より愛をこめて」は9月2日まで開催中です。

【展覧会情報】
野口哲哉~中世より愛をこめて~ From Medieval with Love
会期:2018年7月13日(金)~9月2日(日)
会場:ポーラミュージアムアネックス
開館時間:11:00~20:00 *入場は閉館の30分前まで
休館日:無休
観覧料:無料
アクセス:東京メトロ有楽町線銀座1丁目駅7番出口よりすぐ。JR有楽町駅京橋口より徒歩5分。
公式サイト:http://www.po-holdings.co.jp/m-annex/
Twitter:https://twitter.com/POLA_ANNEX
Instagram:https://www.instagram.com/pola_annex/

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