本好きもアート好きも必見!「図書館」を作る「本」のアート「THE LIBRARY」

その白い部屋には本が並んでいます。

上の段に表紙を見せて置かれている本は、表紙はおおむねオリジナルの絵画、イラストや写真などで彩られています。かと思えば表紙にペンでタイトルと著者名だけを書いて閉じたものもあります。

下の段の本たちは、本の形すら取らないような、それでも「本」であると主張しているような本が多いようです。内容も一冊一冊さまざまです。表紙を開くのが怖いような本もあります。

これらの作品は、一般的に『ブック・アート』と呼ばれる、「本をテーマとしたアート作品」です。

『本』のアートとして作られたものなら、ここではどんなものでも本になり得ます。素材も紙ばかりでなく、粘土、本物の葉っぱ、ガラス、アクリル板など様々です。

この展覧会『THE LIBRARY』は、1994年に東京のギャラリーで始まり、今年で30周年だそうです。この展覧会を企画したART SPACEさんに、展示会場でお話をうかがいました。

――「楽活」のコンセプトが「はじめの半歩」ということで、「THE LIBRARY」を30年前にはじめて企画されたいきさつを教えてください。

ART SPACE (以下、A): 1993年11月に、東京の青山で「Gallery ART SPACE」をオープンしました。1994年の6月ごろ、ギャラリーの企画展として「なるべく誰もやったことがないこと」を探していたんですね。それで、「自分にしかできない企画って何だろう」と考えました。

A:私は「本」という「もの」が本当に好きなんです。「読書」じゃなくて,「本」が。さらに言うと、「本屋」という存在が非常に好きなんです。

――「図書館」より「本屋」だったんですか?

A:中学生まで本屋がない環境だったんです。高校に進学してからはじめて街の本屋に通う生活となって、そこからが本への関わりのスタートなんですね。大人になってからは、旅行に行った時は必ず本屋を見に行く。本屋を巡る。本を探すのではなく、本屋を探す。

一方で、当時同じ本屋に毎日通うということもしました。本を探しに行くのではなくて。棚が変わっているとかね。本屋の棚って生き物でしょ? 

――それは、棚の中に特定の本を探しているのではなく、棚の本の並びかたそのものに興味があるということですか。

A:そうです。

この展覧会には『THE LIBRARY』ってタイトルがついてるけど、本来『図書館』ではなかったんです。

――えっ?

A:『本屋』で展覧会というのは難しい。その時『THE LIBRARY』という言葉を思いついたんです。感覚的なことですが。

そして、「自分にしかできないことはこれじゃないかな」と思い、展覧会を企画しました。展覧会の出展作家は最初54名でした。知り合いの作家に「本の作品を作ってほしい」と依頼して作ってもらったものです。ほぼ全てが立体作品。

吉田けいこさんの作品

――あえて特に立体の作家に声をかけたのですか?

A:いいえ、当時は個人が「本」を作るのは難しかったんです。まず、製本が出来ない。30年前は、オンデマンドもカラーコピーもなく、本を個人が簡単に作れる時代ではなかったです。立体の作品ならほぼマルチプルでしょ。立体にするしかない。

――コミックマーケット(日本最大の同人誌即売会)は当時すでにあったように思うのですが。

A:それはオフセット印刷でやっていて、印刷代が大変高価なものでした。カラーコピーが1枚500円とか、そういう時代でした。それが大きいのと、その頃はPCのWindowsが登場する前ですよね。

――そうです。

A:後に私も買いましたが、当時は20万を超えました。だから、個人ではそうそうデータ入稿ができない。本を小部数作るより、立体作品で本を表現する方がやりやすい。そんな時代のことです。

――30年でいろいろなことが変わってきていますね。

A:本屋にも、本の『流動性』があります。棚が変わったり,本が売れて無くなったり,新しい本が入ってきたり。

――1年目は東京、2年目は、東京・京都の2カ所で開催されましたが、それから宮城、愛知、福岡、北海道など,開催場所が増えていっていますね。これには訳があるのでしょうか。

A:場所がいろいろというのは、同じことを別の場所で、別の地域で行うと、別の意味が生まれるじゃないですか。それを目指しました。

それと、「ネットワーク」を作ることをまず第一に考えていたのかもしれません。しかも、今のインターネットとは違うネットワークを。多分ミニコミの思想とだいぶ被るでしょう。ミニコミ誌は「ネットワークの本」ですから。

――そうですね。今日では「コピー誌」「ZINE」と呼ばれることも多いですが、ネットワークを作りたい、という思いは共通していると思います。

A:京都のような別の場所で展覧会をする、ということもネットワークづくりなんですよ。大学に入ってすぐ、具体美術の嶋本昭三さんと知り合ったことがきっかけで、京都市美術館の「京都アンデパンダン」展に出品しました。1985、86年には写真を使ったインスタレーションを展示しました。卒業後、京都のギャラリーで個展もしました。

福本浩子さんの作品
洞内由紀子さんの作品

――ブック・アートを読みとくはじめの半歩を「THE LIBRARY」で踏み出すなら、どんな『本』がおすすめでしょうか?

A:本の形をして、絵本ではない、写真集でもない、ストーリーのない何かを探してみてください。もう作品でしかない、そんな『本』を見つけてみるのが面白いんじゃないでしょうか。

更に言いますと、手に取れるというのが重要なんです。この展覧会にはあまり規則はないのですが、サイズはA4までになっています。A4までは手に取って見れる。それが重要なんです。本は「手に収まる一つの宇宙」といえます。作品1点を見ることが、個展を見るようなことと同じ意味を持っている。ここには作品が91点ありますが、91点がそれぞれ1つ1つの世界になっています。本でない形の本、本の形をした本ではない本を体験できるのがこの展覧会の面白さだと思います。「本の原点」ということを考えると、自分のやりたいこと、好きなものを一つの形に収めて、手に取れる大きさにしたものなんじゃないかと思います。

山崎小枝子さんの作品

――「THE LIBRARY」の今後の見通しについてお聞かせください。

A:このままで続いていくでしょう。でも、変わり続けもします。出展作家が毎年変わっていきますからね。

――今日はどうもありがとうございました。

今回は2023年3月の「THE LIBRARY in KYOTO 2023」京都展を取材してきましたが、2023年8月の「THE LIBRARY 2023」東京展は、まさに30周年というタイミングで行われます。こちらも作家や作品が入れ替わっていることでしょう。楽しみです。

「THE LIBRARY 2023」基本情報

「THE LIBRARY」ウェブサイト
http://the-library.org

「THE LIBRARY 2023 in KYOTO」
開催期間:2023年3月14日(火) ~3月19日(日)12:00~19:00
     *会期中無休、最終日は~17:00
開催場所:MEDIA SHOP gallery
住  所:京都府京都市中京区 河原町三条下る大黒町44 VOXビル1F

「THE LIBRARY 2023」
開催期間:2023年8月2日(水) ~8月12日(土)12:00~19:00
     *会期中無休、最終日は~17:00
開催場所:TOKI Art Space
住  所:(東京都渋谷区神宮前3-42-5-1F(東京メトロ銀座線外苑前駅より5分)http://homepage2.nifty.com/tokiart/

●東京展の募集要項
『本』を作ることに興味のある方はぜひチェックして下さい。あなた自身の『本』のはじめの半歩になるかもしれません。
http://the-library.org/document.2023-B.html

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