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京都・祇園のディープなカフェ「カフェみずうみ」取材レポート!

30年ちょっと前、神戸から京都に来てみると、京都にはギャラリーがたくさんありました。のちに行った東京の銀座ほど多くはありませんが、当時は例えば三条通りの京極通~蹴上あたりまで行くと、たくさんの現代美術系のギャラリーに出会うことが出来ました。

しかし、最近では京都のギャラリーの事情も変わってきています。ギャラリのオーナーの高齢化や、不景気、さらにはコロナ禍による外出自粛の影響などで、移転や廃業を余儀なくされているギャラリーもあります。

そんな中、若手のギャラリストによる新しいギャラリーやカフェギャラリーが色々京都に出来ています。そんなカフェギャラリーの一つ、と言いますか、前回(下記リンク参照)と今回に分けて、共存関係にあるディープなギャラリーとディープなカフェを紹介します。

祇園。京都の観光地の聖地、とも呼ばれます。そこからほど近いところに、このカフェがあります。

前回は、部屋の右側のギャラリー「monade contemporary | 単子現代」 のご紹介をしました。

今回はその「monade contemporary | 単子現代」と同じ部屋の、入り口から見て左側にある「ことばを食べるカフェみずうみ」の店主uzumimiさんにお話をうかがいました。

――さっそくですが、「ことばを食べるカフェみずうみ」の成り立ちについてお聞かせいただければ幸いです。

uzumimi:そうですね、最初は文化的な空間、飲食を伴う文化的なカフェで、食べたり飲んだりしながら話をするというのがとても好きだったので、いろんな人と文化的なテーマをもって話をするようなカフェにしたいと思いました。その前は普通のカフェをやりたいと思っていたんですけれど。

――コミュニケーションの場としてのカフェがお好きなのでしょうか。

uzumimi:カフェが好きというのは、そこだけじゃなくて、文化と自然を組み合わせたいな、と。たとえば「山」とか「川」とか、自然の名前がついたようなところも好きです。自然の場所じゃなくて、街の中なのに、例えば「喫茶 川」とか、そういう名前のついた飲食店が好きです。全然場所が違うのに「アラスカ」とかそういうカフェも面白いです。そこで、自分でもそういう自然の名前のついたカフェがしたいと思い、「みずうみ」が浮かびました。そういうカフェの定番メニューとして考えたのが「かんじの形をしたクッキー」です。

――ここだけのオリジナルメニューというのがそれですね。

uzumimi:「ことばを食べるカフェみずうみ」で、文化的な空間を象徴するようなお菓子を作りたいなあと思って考えたのが「かんじのかたちをしたクッキー」。名前をつけるとしたら、ことばを食べるってなるかな、と思って。最初は「ことばを食べるカフェ」だけだったんですけど。

――みずうみというと私はつい「琵琶湖」を思い出してしまいますが、もっと小さいみずうみですよね。

uzumimi:みずうみの大きさは特に決まっていませんね。みずうみの「概念」がいいな、と思いました。海だと大きすぎるな、というのはありました。

 ――もともと大阪で活動をされていたということですが、なぜ京都の祇園に移られたのでしょうか。

uzumimi:「みずうみ」の水面に映るもうひとりの自分と話す、「自分自身を巡る観光」というのがコンセプトにありまして。もともと観光が盛んで文化的興味が深い京都で開きたいと思っていて、物件を探してはいました。特に祇園は世界中から観光客が集まる観光の聖地で、祇園の地下というのは狙ったわけではないのですが、その地下に自分自身を巡る観光スポットがあるのは後付けですがピッタリかなと思いました。

ーーなるほど、「自分自身を巡る観光」とは興味深いです。「かんじクッキー」からは「ことば」を文字通り食べる、もっと言えば体内に入れてことばや文字と人が一体となることをイメージしましたが、いかがでしょうか。

uzumimi:言葉が溢れては流れていってしまう情報化社会で、自分も含め人々は自分自身の言葉を失ってしまっているように感じていて、ひとつひとつの言葉を自分の五感でじっくり味わって食べることで、それぞれ自分自身の言葉を取り戻していけたらなという思いがあります。

言葉はそもそも実体のないものですが、それを食べものとして実体化して、食べて自分自身に溶けて一体化することで、自分がその言葉そのものになる感覚や、その言葉を体現するような感覚が起こるかも知れません。

選ぶ漢字も「空」や「開」や「春」など、実体がなくイマジネーションが湧きそうな意味合いのものを選んでいます。

――しかも、素朴な美味しさが魅力的です。強いフレーバーなどを入れると「かんじクッキー」に違う意味を与えてしまうと思うので、この味がぴったりだと感じました。

uzumimi:同じ言葉で同じ材料でも、人により時により意味合いが変わっていく。言葉そのものを味わうというのはそういうことかなと思います。それは人の体から記憶の砂底にいつしかまた埋まっていく。私は色んな人のもうひとりの自分として、湖の底で記憶の砂底に埋まっている言葉の化石を掘り出してカフェで「かんじクッキー」として提供している、という体(てい)でやっています。

ーーたいへん興味深いですね。湖の底の言葉の化石、とはとてもイメージが膨らみます。また、ワークショップも読書会や占いやめずらしいスイーツを食べながら語る集い、など面白いものが幅広くあるようで興味深いです。特に「ことば」を扱うものが多いように思いますが、ワークショップをなさる方はどうやって探されているのでしょうか。

uzumimi:探すというより、店の名前に興味を持って、本や言葉に興味のある方が立ち寄られて、読書大好き、とか、自分でも何か書いている、とかの人が多くいらして。「こんなことしたい」と誰かが言って、それをやってみるという感じです。大阪では主に読書会とかライティングのワークショップをしていました。

私が主体でしたいこと、というより、来られた方のやりたいことを一緒にかたちにしていく。不思議とここに集まるのですね。それがイベントの成り立ちです。それが「自分自身を巡る観光」や等身大の箱庭のような空間「みずうみ」に不思議と合致していて、引き寄せのようなものがあったのかなと。他のイベントやここで出会う人々にもそう感じることが多々あります。

ーーところで、これ、いいですね。懐かしいですね。

uzumimi:学習机はたまたまサイズがいいものがあったので、衝動的に買ってしまいました。まだ京都でカフェを始める前です。その時は「学びの場所」とかそこまでは考えていなかったんですけど、あとから「ああ、そうや」となることが多いんです。どれだけ歳をとっても、楽しく学んでいきたいなあ、と。ここのワークショップやイベントは、楽しいだけじゃなくて、学びを伴ったものがほとんどです。大人になっても知的好奇心をずっと持っていきたいな、と思うので、ここに来るみなさんの知的好奇心を刺激できるような場所を続けたいです。

uzumimi:ちなみに、部屋のシャンデリアは、みずうみに何かが飛び込んだときのウォータークラウンをイメージしています。

――なるほど! ちゃんと意味があるのですね。

――カフェでは占いもなさると聞き、多彩な活動ぶりに驚いています。それらに共通する点は何だと思いますか。

uzumimi:やはり、訪れた方が自分自身と対話するような体験をし、改めて見えていなかった自分に出会うことかなと思います。

占い師は質問者の言葉をよく聴いて、カードからのインスピレーションや占星術のロジックを介して、質問者のまだ言葉になっていない思いや可能性を言葉にして伝えます。

色んな占い師さんによる占いカフェの運営も始まりましたので、祇園の地下みずうみで占ってみたい占い師さんを募集しています。

――色んな占い師さんというと、たとえば、今はここでどんな占いをなさっていますか?

uzumimi:タロット、西洋占星術、四柱推命といった割合ベーシックなものが多いです。また自分の心の中を俯瞰するような「箱庭」セッションは人気があります。私自身は、タロットと西洋占星術をしています。

古来の中国で、亀の甲羅の割れ方で占いをして大事なものごとを決めており、それが様々な文字の形の始まりだったというような話を聞いたことがあり、これにも「ことばを食べるカフェみずうみ」で占いをしていることの不思議な巡り合わせを感じています。

――甲骨文字ですね。文字としても面白いですね。

――祇園でオープンして1年程経ちますが,これからの見通しをお聞かせください。

uzumimi:これまで、自分ひとりで計画を立てたり先の見通しを立てたりしてその通りにうまくいった試しがないので、やはり訪れる方々とお話ししながら、誰かのやりたいことや自然の流れで来るものを受けて、それに合う言葉を選んで「かんじクッキー」を提供する「カフェみずうみ」をやって行くのが良いのかなと思っています。

また本の中で言葉を食べるカフェ、本を体現するブックカフェとして、対話を記録して実際に日々頁を綴っていけたらと思っています。

 ーーそれでは、読者の皆さまへメッセージをお願いします。

uzumimi:みずうみの反対側にあるギャラリー「monade contemporary | 単子現代」では随時アート作品の展示があり、作品からインスピレーションを受けて言葉を選んだ「かんじクッキー」を提供しています。身体ごとアートを体感できるカフェギャラリーをどうぞお楽しみください。また、まだ空いてる時間があるので、読書会や公演や展示など文化的なイベントの企画、レギュラーでも教室やカフェなど、こんなことしてみたいをお気軽に提案してみてください。一緒に企画・運営します。

――いっしょに企画などをしていただけるなら、初めてイベントを企画する人でも心強いですね。まさに「はじめの半歩」です。

uzumimi:みずうみは本や言葉が好き、表現者、占い好きなどが自然に集まって来るような場所になっていると思います。

ーーまさに「引きよせられる」ですね。読者の皆様も、祇園にいらしたら、「ことばを食べるカフェみずうみ」、「monade contemporary | 単子現代」にぜひお立ち寄りください。今後とも共存共栄で行かれたらいいですね。本日はどうもありがとうございました。

基本情報

ことばを食べるカフェみずうみ
所在地:京都市東山区月見町10-2 八坂ビル地下奥
(GoogleMAP「八坂ビル(祇園町南側)」で検索)
オープン:金土日 14時~19時 展示・イベント時随時
公式HP:https://mizuumi-plan.com

堀 博美

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神戸出身、京都在住のフリーライター。専門はきのこ。きのこライターとしての主な仕事に、書籍「きのこる キノコLOVE 111」(山と渓谷社)「ときめくきのこ図鑑」(山と渓谷社)「ベニテングタケの話」(山と渓谷社)「珍菌」(光文社)「毒きのこに生まれてきたあたしのこと。」(天夢人)などがある。WEBや雑誌、新聞などにも執筆経験あり。

一方で、長年現代アートに携わり、現在も制作活動を続けている。
きのことアートはライフワーク。その他、珍しいお菓子、京都街歩き、同人誌イベント、音楽鑑賞(米良美一さん推し)などに興味がある。

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