建築家ガウディが魂を込めた光降り注ぐ聖堂「ガウディとサグラダ・ファミリア展」

建築家アントニ・ガウディ(1852~1926年)が手がけた建物は、ひとめ見たら忘れられない形と色をもち、命の輝きを感じさせます。ガウディが魂を込めた聖堂を紹介する「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が東京・竹橋の東京国立近代美術館で2023年9月10日まで開催されています。滋賀の佐川美術館(9月30日~12月3日)、愛知の名古屋市美術館(12月19日~2024年3月10日)にも巡回します。

140年以上も建設が続く、サグラダ・ファミリア聖堂

展示室入口のパネル、写真のサグラダ・ファミリア聖堂は2023年1月に撮影されたもの

ガウディ建築はスペイン・バルセロナに6カ所の世界遺産がありますが、この展覧会ではサグラダ・ファミリア聖堂の歴史とガウディの創造の源泉を100点以上の図版、模型、映像、資料などで紹介します。「サグラダ・ファミリア」は「聖家族」という意味で、イエス・キリスト、聖母マリア、養父ヨセフの家族を指します。

サグラダ・ファミリア聖堂は、1882年に着工し、資金難やスペイン内戦、新型コロナウイルスの影響などで中断されながらも建設が続いています。ガウディ没後100年にあたる2026年には、聖堂中央に最も高い塔となる「イエスの塔」が完成予定となっており、聖堂自体の完成時期も視野に収まってきました。

「降誕の正面」で歌う天使たち

「サグラダ・ファミリア聖堂、全体模型」スケール1:200 2012-23年
制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室 サグラダ・ファミリア聖堂 

この展覧会の見所は、多くの模型を展示した「第3章 サグラダ・ファミリアの軌跡」で、サグラダ・ファミリア聖堂の起源から現在までの全軌跡をたどることができます。

上記の完成時の模型では中央に最も高く、十字架を載せた高さ172.5mの「イエス・キリストの塔」が確認できます。次に高いのは、その右にある、星を載せた高さ138mの「マリアの塔」で2021年12月に完成しました。

このふたつの塔の下には「降誕の正面」があります。「降誕の正面」はイエス・キリスト誕生の喜びを表わし、中央の扉「愛徳の扉口」の柱にはイエス誕生を喜ぶマリアとヨハネの像があります。

外尾悦郎「サグラダ・ファミリア聖堂 、降誕の正面:歌う天使たち」サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面に1990~2000年に設置 作家蔵

「愛徳の扉口」の上の段に「歌う天使たち」の群像があります。会場に展示されているのは、1978年から彫刻を担当してきた日本人の外尾悦郎が復元した石膏像で10年間、聖堂に設置されていたものです。2000年からは砂岩の像に置き換わっています。

外尾悦郎「サグラダ・ファミリア聖堂 、降誕の正面:歌う天使たち」 部分

ガウディは聖堂を飾る彫刻も制作しました。モデルはバルセロナに暮らす人々に頼み、モデルをさまざまな方向から撮影したり、体から型を取ったり、骨格模型なども利用して、聖堂に設置したときに、どの方向から眺めても自然な姿に見えるように検証を繰り返しました。しかし、ガウディがつくった設計図や彫刻、模型などの資料はスペイン内戦で多くが失われてしまいました。

外尾が復元にあたって参照にしたのは、ガウディがつくった原寸大の模型の写真だけでした。写真には6体のものと7体のものがあり、外尾はガウディがどのように考えていたのかを想像し、「降誕の門」では3の倍数が基本にあることから9体の群像にたどりついたそうです。

展示室で群像を見ると、微笑みながら少し唇を開いて歌っているように感じられます。「歌う天使たち」の9体の彫像は、下の段の生まれたばかりのイエス・キリストを見ています。天使たちはキリストの誕生を祝う歌を歌っているのです。

ステンドグラスの光に満ちた森

「サグラダ・ファミリア聖堂、身廊部模型」縮尺1/25 2001~02年 制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室 西武文理大学

サグラダ・ファミリア聖堂は多くの柱に支えられています。柱には4段階の幅が異なる線が刻まれ、上に行くほど線は細かくなり、最後は線が消えてなめらかになっています。この柱の稜線によって聖堂の内部は「森」のように感じられます。

身廊部模型では、すべての柱が天井に向かって枝が分かれ、天井を支えていることがよくわかります。

アントニ・ガウディ「サグラダ・ファミリア聖堂、柱頭模型」
左:回廊の円柱 右3点:降誕の正面、内部側ギャラリー いずれも制作年不詳(複製) 早稲田大学建築学教室本庄アーカイブス

円柱の上部「柱頭(ちゅうとう)」の4種類の模型が並んでいます。写真の左から、左右反対方向の二重ラセン、右ラセン、左ラセン、ラセンなしの模型です。ラセンの柱はバロック建築の特徴ですが、ガウディはラセンがつくり出す形で美しい影を生み出しました。

ゴシック聖堂の内部は伝統的に「森」と捉えられてきました。サグラダ・ファミリア聖堂はステンドグラスからの光によって、木漏れ日が降り注ぐ森のように感じられます。ステンドグラスの色は白い柱や床にも色の影を落としています。第3章最後の部屋にある大画面の4K映像では聖堂内部のようすを体感することができます。

天に向かう18本の塔

中央は「サグラダ・ファミリア完成予定図」 2023年6月現在

サグラダ・ファミリア聖堂には3つの正面があり、「降誕の正面」の反対側にあるに「受難の正面」はジュゼップ・マリア・スビラクス(1927~2014年)が1986年からキリストの苦悩と哀しみをキュビスム的なスタイルの彫像で制作しました。建設中の「栄光の正面」(大正面)は、永遠の命の喜び、創造の日々などを表わすもので埋め尽くされる、壮大な建築が生まれることでしょう。

サグラダ・ファミリア聖堂には18本の塔があります。もっとも高い「イエス・キリストの塔」、次に高い「マリアの塔」、イエスの塔を囲む「福音書作家」の4つの塔、「12使徒の鐘塔」があります。

「サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:鐘塔頂華の模型」スケール1:25 2005~10年
制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室 サグラダ・ファミリア聖堂 

12使徒に捧げられるのは「鐘塔」といい、司教の象徴からデザインされ、頂点に十字架を掲げ、使徒の頭文字、祈祷の言葉が刻まれています。ヴェネツィアの工房に注文した金と赤、黄色のガラスタイルが色鮮やかです。

アントニ・ガウディ建築の源泉

アントニ・ガウディの卒業設計(建築家資格認定試験)「大学講堂、横断面」(ファクシミリ) 1877年(オリジナル) ガウディ記念講座、ETSAB

ガウディの創造の源には、西欧やスペイン独自のイスラム建築、地元スペイン・カタルーニャ地方の歴史、自然観察、幾何学があります。

ガウディの設計図が何点か展示されています。卒業設計の図は、ガウディ自身がグアッシュで細かく丁寧に描き、とりわけ青いドームの天井画は絵画としても素晴らしいものです。直筆のノートは細かな文字でびっしりと埋まっていました。現在の建築家は完成図を自ら描くことはなく、さまざまな作業が専門化されています。ガウディの時代には、設計だけでなく、画家のようなデザイン技術が求められ、さらにガウディは家具や彫刻までも手がけていました。

ガウディが学生時代に図書館で読み漁った資料

1883年、31歳のガウディは2代目の建築家に就任し、1926年73歳で路面電車事故によって亡くなるまで、サグラダ・ファミリア聖堂の設計・建設に心血を注ぎました。42歳からはほかの仕事をやめて、聖堂建設だけに専念し、生活のすべてを捧げたといわれています。

左:コローニア・グエル教会堂、逆さ吊り実験(写真中央は部分模型)
右:コローニア・グエル教会堂、地下聖堂模型/1:25/ともに1984~85年 西武文理大学

ガウディは建築構造について深い知識を持ち、さまざまな実験を行っていました。左の「逆さ吊り実験」は、コローニア・グエル教会(1898~、未完)のために実施し、理想的なアーチ形を探るためにひもにおもりをつけて垂らし、建物の設計に生かしました。模型の下には鏡があるので、覗いて見ましょう。

アントニ・ガウディ「サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面の浮彫」 1894~1905年頃 サグラダ・ファミリア聖堂
手前左から:カエル、巻き貝、葉3種、アヒル  奥左から:蚊、花、バラ

聖堂を飾る彫刻は聖人や天使だけではなく、「降誕の正面」には聖堂の近くで暮らしている虫や動物、付近に生えている植物をじっくりと観察して浮き彫りにしました。土地の力を聖堂に集めているようです。

展覧会の最後には、ガウディのいくつかのメッセージが入れ替わりに現れます。「建築は有機体を創造する。それ故、この有機体は大自然の法則に合致した法則をもたなければならない。」展示を見たあとでこの言葉は心に深く残りました。

2005年には、ユネスコの世界文化遺産に、「降誕の正面」と地下礼拝堂が「アントニ・ガウディの作品群」として登録されました。この地下礼拝堂には73歳で亡くなったガウディが眠っています。

展覧会は4つの章で構成され、第3章では一部を除いて写真撮影ができます。

第1章 ガウディとその時代

第2章 ガウディの創造の源泉

第3章 サグラダ・ファミリアの軌跡

第4章 ガウディの遺伝子

図版・資料も充実したカタログ

「ガウディとサグラダ・ファミリア展」公式図録

図録の表紙写真、左の塔は2022年12月に完成した「福音書作家ルカの塔」、ルカは羽を背にイニシャルがついた書物を掲げ、古代に犠牲にされたシンボルの牡牛が現わされています。右の星形の塔は2021年12月に完成した「マリアの塔」です。ふたつの塔の間にクレーンが見えています。

本文には「アントニ・ガウディ年譜」「バルセロナ地図とガウディ建築」「サグラダ・ファミリア聖堂建設の変遷1882-2026」などを多数の写真、図版とともに掲載し、展示を補う豊富な資料が掲載されています。ガウディが惹かれ、参照した建物の紹介も貴重です。

サグラダ・ファミリア聖堂に関連する書籍

展示の最後、特設ミュージアムショップでは、サグラダ・ファミリア聖堂や建築に関連する書籍、建築模型も多種そろっています。

展覧会オリジナルのアクセサリー

展覧会のオリジナルグッズはクリアファイルやペンなどの文具、アクセサリーなど、バラエティに富んでいます。

なお、スペイン・バルセロナのサグラダ・ファミリア聖堂は予約をすれば見学でき、エレベーターで塔に登ると、バルセロナ市内を展望し、彫刻を近くで見ることもできます。

展覧会基本情報

「ガウディとサグラダ・ファミリア展」

開催場所:東京国立近代美術館 
東京都千代田区北の丸公園3-1
会期:2023年6月13日(火)~ 9月10日(日)
休館日:月曜日(ただし7月17日は開館)、7月18日(火)
開館時間:10:00~17:00(金曜・土曜は10:00~20:00)
     *入館は閉館の30分前まで
観覧料:一般 2200円、大学生1200円、高校生700円、中学生以下無料 事前予約不要
展覧会公式ホームページ

巡回予定:滋賀会場:佐川美術館 2023年9月30日(土)~12月3日(日)
     愛知会場:名古屋市美術館 2023年12月19日(火)~2024年3月10日(日)

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