結成100周年!「分離派建築会」とは何か(分離派建築会100年 京都展特集Vol.1)

パナソニック汐留美術館で2020年12月まで開催された「分離派建築会100年展」。最初はなんだか難しそうだな・・・と思っていたのですが、展覧会を観てびっくり。約100年前に「日本の建築を変えてやろう!」と意気込んで活動した若者たちと、その後彼らの残した偉大な足跡には非常に感銘を受けました。

展覧会ももう終わりか・・・と思っていたら、、、!

なんと京都でも開催されるじゃないですか!

しかも、よくよくプレスリリースを読み込んでみると、元々本展は広い京都国立近代美術館の面積で作品を選んだらしいのです。なので、東京展ではスペースの都合から展示できなかった作品や資料も一挙展示されるらしい・・・。

であれば、これは徹底的に掘り下げてみなければ・・・と思い、楽活編集部にかけあって、楽活では初めての試みとなる「全5回」での特集記事を組んでみることにしました。

京都展は、新年早々となる2021年1月6日(水)からのスタート。

前日から京都入りして、内覧会やミュージアムショップなどを取材させて頂く予定ですが、まずはスタート前に展覧会の概要や「分離派建築会」について紹介してみたいと思います。京都国立近代美術館の特定研究員・本橋仁さんのコメントを交えて詳しく見ていきましょう!

「分離派建築会100年」ってどんな展覧会なの?

展覧会「分離派建築会100年 建築は芸術か?」は、そのタイトルが示すとおり、1920年に結成され、主に大正~昭和前期に活動した建築運動「分離派建築会」について、中核メンバー9名の足跡を中心に、建築図面や模型、各種資料など約250点で振り返る展覧会です。

★展覧会チラシ
https://www.momak.go.jp/wp-content/uploads/2020/10/flyer-440.pdf

1920年に結成された分離派建築会は、日本の建築史の中でも、近代建築の「はじまり」を告げる象徴的な存在として非常に重要な建築運動です。にもかかわらず、これまで彼らの業績を体系的にまとめた大規模な展覧会は開催されたことがありませんでした。

実際、この展覧会が開催される前に「分離派建築会」という単語を聞いたことがある人はかなり少なかったのではないでしょうか?

仕事柄、僕のまわりには相当な濃ゆいアートファンの友人がいるのですが、彼らもまた「分離派建築会」について全く知らなかったそうです。せいぜいが「分離派」という言葉から「クリムトの弟子なのかな?」というあたりをつけるのが精一杯の状況でした。

そう、100年も経てばアートだって建築だって大半は歴史の間に埋もれ、忘れ去られていくものなのですよね。

ですが、そこに「待った」をかけた人たちがいました。それが、これからご紹介する「分離派100年研究会」という有志の研究者グループです。

「分離派100年研究会」とは?なぜ今、展覧会をやることになったの?

やっぱり見ている人は見ているものです。

「分離派建築会」がもうすぐ結成100周年を迎える2012年から、京都の研究者を中心として彼らのことを研究するために各方面の有識者が集結。「分離派100年研究会」というグループを結成したのです。

分離派100年研究会ホームページ
https://bunriha.com

こちらのHPを丹念に見ていくとわかりますが、彼らは2020年を一つのゴールとして、様々な会合やシンポジウム、出版など、これまで様々な活動を続けてきました。

その活動の集大成となるのが、東京と京都の2箇所で開催される展覧会「分離派建築会100年 建築は芸術か?」だったのです。

本展には、これまで「分離派100年研究会」がまとめ上げてきた「分離派建築会」についての研究成果が余すことなく出展されます。驚くことに、約70%の展示が【美術館初公開】なのだそうです。まるで100年ぶりにタイムカプセルを開けるような、そんな未知の驚きがたくさん待っているのではないかと思います!

分離派建築会って?

分離派建築会創立時の集合写真 1920(大正9)年2月1日 写真提供:NTTファシリティーズ

それでは、もう少しだけ分離派建築会について深く見ていくことにいたしましょう。

分離派建築会は、現・東京大学の前身となる東京帝国大学の建築学科を卒業した6名のメンバーを中心に、日本の新しい建築を作り出そうと集まった若手建築家有志の集まりです。メンバーは、石本喜久治、瀧澤眞弓、堀口捨己、森田慶一、山田守、矢田茂、山口文象、蔵田周忠、大内秀一郎の全9名。

「我々は起(た)つ。過去建築圏より分離し、総(すべて)の建築をして真に意義あらしめる新建築圏を創造せんがために。我々は起つ。過去建築圏内に眠つて居る総のものを目覚さんために溺れつつある総のものを救はん(すくわん)がために。我々は起つ。我々の此(この)理想の実現のためには我々の総てのものを愉悦の中に献げ、倒るるまで、死にまでを期して。我々一同、右を世界に向つて宣言する。」

大学を卒業後、建築家としての第一歩を踏み出した彼らは、このような宣言文を発表し、まだ誰も達成したことがないような新しい建築を生み出そうと決意します。

いや、これは熱いですよね。まさに若気の至り。怖いもの知らずです。僕ももう気づいたらこんなにオッサンになってしまいましたが、また彼らのようにフレッシュな気持ちでいたいものです・・・。

展覧会を予習するなら、まず「分離派建築会」の作家をチェック!

山田守 卒業設計・国際労働協会 1920(大正9)年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻

さて、本展を楽しむには、いろいろな切り口があるでしょう。でも、もし行く前に事前に予習しておくとするなら、やっぱり王道なのはその作家について少しでも事前知識を入れておくことでしょう。

・・・ですが、正直なところ分離派建築会の9名全員の名前と業績をいきなり全部覚えるのは難しいかもしれませんよね?!印象派だって何人もいますけど、有名なのはモネとルノワールぐらいですし。

そこで、今回本橋研究員に、9名のうち【3人だけ】まず覚えて帰るとしたら誰と誰と誰になりますか?とお聞きしたところ、以下の3名をご紹介いただきました!

本橋研究員オススメの建築家1:堀口捨己

堀口捨己 紫烟荘 1926(大正15)年 『紫烟荘図集』(洪洋社)所収 東京都市大学図書館

過去を否定しながら新しい様式を作り出そう、としたのが大正時代の近代主義建築運動でしたが、堀口捨己(ほりぐちすてみ)は少し違うアプローチを取りました。

すなわち、「過去から学んで新しい時代を作り出そう」としたのです。

では、堀口は過去の何に学ぼうとしたのでしょうか。

それが、「茶室」でした。堀口は、それまであまり注目されていなかった日本の伝統建築の一つとして茶室に目を向けた最初期の研究者となりました。

堀口が目をつけた茶室の魅力とは、堀口が「非相称性」という言葉で言い表した通り、左右非対称の形やデザインでした。パルテノン神殿を頂点に、約2,500年続く西洋建築では黄金比や左右対称などの美学が形作られてきました。

ですが、堀口は来たるべき日本のモダニズム建築での新しい美の規範を作り上げるにあたって、西洋建築ではなく茶室の中に現れた左右非対称のアシンメトリーな世界観から学ぼう、と提唱したのですね。

それに何より「捨己」っていう求道者っぽい名前もかっこいいですよね。

本橋研究員オススメの建築家2:森田慶一

森田慶一 京都帝国大学楽友会館 1925(大正14)年 撮影:2020(令和2)年、若林勇人

森田慶一(もりたけいいち)は、建築家としての活動よりも、どちらかといえば「なぜ建築というものがあるのか」という哲学的な思考を極めた人です。

「建築ってなんだろう」という基本中の基本を突き詰め、古代ラテン語で書かれた古典を読み込んで翻訳したりと、気合が入りまくっていました。

彼は若くして京都大学の教授職のポストを得ます。彼は在学中、文学部哲学科とも密接に交流するなど、「建築論」をどんどん突き詰めていきました。また、森田の薫陶を受けた後続の研究者も続々登場。

今でも、京都大学の中には他の建築学科にはない「建築論」という建築分野が用意されています。「建築論」の京都学派とも言われています。京都国立近代美術館は、いわば森田慶一の流れを引く京都学派のホームグラウンドともいえますね!

本橋研究員オススメの建築家3:山口文象

石本喜久治、山口文象 白木屋百貨店 透視図 1928(昭和3)年 石本建築事務所

戦前、著名な建築家を輩出する最大の教育機関は東京帝国大学でした。「帝大卒業生こそが、国家建築を主導するんだ」というプライドもありました。

分離派建築会もまた、中核となる創設メンバー6名は帝大生だったわけですが、後から加わった山口文象(やまぐちぶんぞう)はどういうわけか、大工の徒弟から上がってきたシンデレラボーイ的な超叩き上げメンバーなんです。

エリート集団の中にずかずかと入って対等にやりあえる能力も凄いですが、異分子を受け入れ、仲間に引き入れてしまう広い度量を持っていた分離派建築会のメンバーも凄いですよね。

山口文象は、建築設計活動のあり方を変革した人でもありました。それまでは、辰野金吾(たつのきんご/東京駅を作った巨匠)や片山東熊(かたやまとうくま/奈良国立博物館・仏像館や東京国立博物館・表慶館などを作った巨匠)といった建築家が個人の名前で設計活動を行うのが主流でした。

しかし、山口は従来のかたちではない、匿名性が高い「共同体」としての建築家たちの設計組織を構想。それが「RIA」という今では名門となった建築設計事務所へとつながっていきます。ためしに「RIA」が手掛けた最近の建築をググってみると、ショッピングモールやオフィスビルなど、各都市のランドマーク的な建物をいっぱい手掛けています。

マンガで見る!分離派建築会

また、メンバーのうち山田守の孫にあたるマンガ家Y田Y子さんによるマンガも、展覧会公式HP上で誰でも読めるようになっています!

https://www.momak.go.jp/wp-content/uploads/2020/12/manga-no1.pdf
https://www.momak.go.jp/wp-content/uploads/2020/12/manga-no2.pdf
https://www.momak.go.jp/wp-content/uploads/2020/12/manga-no3.pdf

分離派建築会結成時の若者たちの熱量や、分離派建築会結成の意義、その後の発展の様子などが非常にわかりやすくまとまっています。各メンバーと主要作品をまとめた「分離派建築会メンバー図鑑」もオススメです!

京都国立近代美術館では冊子化を実現。平日の来場者のみ限定で、先着2000名で配布することになりました。会場で見かけたら、ぜひ手にとって楽しんでみてください!

まとめ

本橋研究員から、来館者へのメッセージをいただきましたので紹介しておきますね。

「建築っていうのは皆さん誰しも生活とは切り離せない部分だと思います。今から約100年前、自分たちの理想とする未来の建築を作ろうと活動した分離派建築会のメンバーが、どんな思いを持って建築を作ってきたのか、あるいはどんな未来を描いて作ろうとしていたのか、そういった面を感じ取っていただけたら嬉しいですね。」

展覧会はまもなくです。まだ見たことのない100年前の建築の世界が京都国立近代美術館で、あなたの訪問を待っています!(第2回へ続く)

展覧会基本情報

分離派建築会100年 建築は芸術か?
会場:京都国立近代美術館[岡崎公園内]
(〒606-8344 京都市左京区岡崎円勝寺町)
休館日:月曜日、1月12日(火)(1月11日(月・祝)は開館)
会期:2021年1月6日(水)~3月7日(日)
※会期中に一部展示替あり
(前期:1/6~2/7 後期:2/9~3/7)
開館時間:9時30分~17時
(金、土曜は20時まで。入館は閉館の30分前まで)
観覧料:一般1,500(1,300)円、大学生1,100(900)円、高校生600(400)円
※( )内は、前売と20名以上の団体料金。中学生以下、
心身に障がいがある方とその付添者1名は無料(要証明)。
前売券は1月5日(火)まで主要プレイガイド他で販売
主催:京都国立近代美術館、朝日新聞社
公式HP:https://www.momak.go.jp/
電話:075-761-4111

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