17世紀オランダ黄金時代を代表する画家フェルメール。作品が来日するたびに、展覧会場には長蛇の列ができる西洋美術史上最も人気のある巨匠の一人です。
つい3年前、東京・大阪でのべ120万人以上の来場者を集めた「フェルメール展」が大きな話題となりましたが、早くも次のフェルメール展がやってきました。それが今回ご紹介する「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」です。
本展の目玉作品となるのが、修復後日本初公開となるフェルメールの初期の傑作《窓辺で手紙を読む女》です。
本作は、2017年から約4年をかけた修復プロジェクトが完了した後、所蔵館であるドレスデン国立古典絵画館についで、世界で2番目に日本で公開されることになりました。注目点は、修復後に画面へと現れたキューピッドの画中画です。いったい、なぜ今回の修復でこのキューピッドが突然出現したのか、本当に驚きですよね。
本展では、《窓辺で手紙を読む女》の絵画修復をめぐるBefore/Afterを掘り下げて特集するとともに、フェルメールと同時代に活躍した17世紀オランダの巨匠が描いた名品約70点を同時に公開。風景画や風俗画、静物画など、それぞれの分野においてフェルメールに負けず劣らず確かな技量を持った重要な画家たちの作品も合わせて楽しめます。
そこで、いよいよ開幕まで約3ヶ月と迫った今、展覧会の詳細を詳しく見ていくことにいたしましょう。
ドレスデン国立古典絵画館とは
本展は、フェルメール《窓辺で手紙を読む女》をはじめ、展示会場で見られるすべての作品がドイツのドレスデン国立古典絵画館所蔵作品によって構成されます。そこで、まずはドレスデン国立古典絵画館について簡単に見ておきましょう。
ドレスデン国立古典絵画館は、ドイツ東部ザクセン州の州都・ドレスデンのツヴィンガー宮殿の一角にある美術館です。17世紀から18世紀にかけての2代のザクセン選帝侯のコレクションに始まり、15世紀から18世紀の絵画を多く収蔵。特にルネサンス期、バロック期のイタリア絵画、17世紀のオランダ絵画、フランドル絵画が主要なコレクションとなっています。
本展に出品される《窓辺で手紙を読む女》は、1742年にドレスデンのザクセン選帝侯のコレクションに加わりました。また、同館では同じくフェルメール作の《取り持ち女》も所蔵するなど、ヨーロッパでもトップクラスのコレクションを誇っています。
フェルメール《窓辺で手紙を読む女》を修復後、所蔵館以外で世界初公開!
さて、いよいよ本展のハイライトである、フェルメール《窓辺で手紙を読む女》について、詳しく見ていくといたしましょう。上記の比較画像でわかる通り、修復後はかなり画面が明るくなっていますよね。そして、画面右手前のカーテンの後ろ側に、隠されていたキューピッドの画中画が姿を現しました。
こちらは、修復途中で披露された《窓辺で手紙を読む女》。上塗りされた絵具層が取り除かれつつあるのがわかります。では、なぜこのキューピッド像が出現することになったのでしょうか。
本展では、修復プロジェクトに伴って行われた調査や、その修復の過程が、映像やパネル等で詳しく紹介される予定。そこで、展覧会の「予習」を兼ねて、修復プロジェクトの概要をご紹介しましょう。
足掛け約4年をかけた《窓辺で手紙を読む女》修復プロジェクトとは
《窓辺で手紙を読む女》について、手紙を読んでいる女性の背後の壁にキューピッドの画中画が隠されていることは、1979年に判明しました。当時、サンフランシスコでの展覧会に出品された際に行われたX 線調査で新たにわかったのです。当初、研究者たちは、この構図上の大きな変更を行ったのは画家本人であると考えていました。
それから約40年後の2017年3月、ドレスデンで専門家の委員会が招集されます。そこで作品の保存計画が作成され、本格的な修復プロジェクトがスタートしました。
修復にとりかかった初期段階で、キューピッドの画中画を上塗りした部分とそれ以外の部分で、作品の洗浄作業で使われる溶媒への反応が違うことが判明。そこで、絵具の微小なサンプルをいくつか採取し、科学調査が行われることになりました。
調査の結果、キューピッドの画中画部分の上塗りは、フェルメールが亡くなってから相当な時間が経過したあとに施されたことが、ニスや汚れの層を分析することで判明しました。
そこで、2017年12月、専門家委員会の提言を受け、所蔵館は上塗りの一部を試験的に取り除くことを決定します。手作業によって上塗りの絵具層を取り除く作業が慎重に進められました。その結果、隠れていた画中画部分の状態は極めて良好で、フェルメールが描いた当時の状態を残していることがわかりました。
この結果を受け、2018年2月にはすべての上塗りを取り除くことが決定。2019年5月には、画中画を隠したのが画家本人ではなかったという調査結果を公表するとともに、キューピッドの画中画が半分程度露出した、修復途中の作品が公開されました。そして2021年9月、長い修復を終え、画家が描いた当初の姿が所蔵館でお披露目されたのです。
では、フェルメールの作品に描かれたキューピッド像を上塗りしたのは誰なのでしょうか?また、何のために、なぜ上塗りされたのでしょうか?
残念ながら明確な答えはわかっていません。
東京都美術館学芸員の髙城靖之学芸員によると、「キューピッドの画中画が良好な状態であることを考えると、損傷を隠すといった保存上の理由ではなく、一時的な趣味や流行の変化といった美的配慮によるものだったのかもしれません」とのこと。
実は、本作はザクセン選帝侯のコレクションに加えられた1742年当時、レンブラントが描いた作品として収蔵されていました。髙城学芸員は、フェルメールは現在のように名の知られた存在ではなかったので、18世紀当時からヨーロッパ中で絶大な人気を誇ったレンブラント作品に見せるために画中画が上塗りして隠された可能性も考えられる、とも分析しています。
名画に隠された謎は、まだなお解決されていません。ぜひ、修復後の本作を直接あなたの目で見て、「隠された画中画」の謎について、思いを馳せてみてくださいね。
フェルメールだけじゃない!珠玉のオランダ絵画の名品約70点が来日!
本展では、フェルメールと同時代に活躍した巨匠レンブラント・ファン・レイン、ハブリエル・メツー、ピーテル・デ・ホーホ、ヤーコプ・ファン・ライスダールなど、17世紀オランダ絵画の黄金期を彩る珠玉の名品約70点もあわせて楽しめます。そこで、現在プレスリリースとして先行公開された13点の作品を一挙ご紹介します!
レイデンの画家― ザクセン選帝侯たちが愛した作品
ドレスデン国立古典絵画館のコレクションの基礎を作り上げたザクセン選帝侯アウグスト1世と2世。17世紀オランダ絵画の中で、彼らが特に好んだレイデンの画家たちの作品を紹介します。
レンブラントとオランダの肖像画/オランダの風景画
17世紀オランダで重要な地位を占めた肖像画。巨匠レンブラントはこの分野においても大きな足跡を残しました。また、17世紀オランダ風景画は、以後の風景画の発展に大きな影響を与えていきます。
聖書の登場人物と市民生活/オランダの静物画―コレクターが愛したアイテム
聖書の物語と市民たちの日常。オランダの画家たちは、聖と俗の両方の場面を描き出しています。一方、静物画は、この時代のオランダにおいて隆盛を極め、絵画の一ジャンルとして確立されました。
いよいよ開幕まで2ヶ月半!この冬、最大級に注目の西洋美術展!
本展は、2022年1月22日(土)の東京展を皮切りに、北海道や大阪、宮城など各地を巡回。3年前のフェルメール展に続き、今回も多くのアートファンが注目する、ビッグな西洋美術展になりそうです。
約4年をかけて、蘇った名画本来の姿。美術品を守り、後世へと伝えていくための「保存」「修復」についても、これまでになく詳しくクローズアップされています。選びぬかれた名画を鑑賞するだけでなく、最先端の修復技術や、文化財の保存・修復に対する考え方を学べるなど、様々な角度からアートを楽しめる展覧会になりそうです。
楽活では、公開初日にも会場を訪問し、いち早く展示の予定もレポートしていく予定です。続報をお楽しみに!
展覧会情報
ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展
展覧会公式サイト:https://www.dresden-vermeer.jp
東京展
会場:東京都美術館
会期:2022年1月22日(土)〜4月3日(日)
北海道展
会場:北海道立近代美術館
会期:2022年4月22日(金)〜6月26日(日)
大阪展
会場:大阪市立美術館
会期:2022年7月16日(土)~9月25日(日)
宮城展
会場、会期ともに調整中