アート

日本初公開の絵画も!メトロポリタン美術館のコレクションに見る500年の西洋絵画史

コロナ禍で海外旅行ができないどころか、テレビや雑誌でも、海外の特集が少なくなった気がしませんか。国内の情報が充実したのは嬉しいけれど、たまには異国の空気を感じたい……。

そんな中、大阪市立美術館で始まったのが『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』です。大阪での会期終了後は、東京の国立新美術館に巡回予定。「こういうときだからこそ国際的連帯をしたい」と、ニューヨークにあるメトロポリタン美術館から提案があったとのこと。

展示風景

本展には、15世紀の初期ルネサンスから19世紀の印象派・ポスト印象派まで、約500年の西洋絵画史を代表する巨匠の絵画が揃い踏みしています。ヨーロッパの絵画を生で鑑賞でき、異国の空気を吸える展覧会でした。早速、展覧会の見どころを紹介していきましょう!

メトロポリタン美術館ってどんな美術館?

メトロポリタン美術館正面入口 © Floto+Warner for The Metropolitan Museum of Art

アメリカ・ニューヨークにあるメトロポリタン美術館は、1870年に創立された美術館です。なんと作品が1点もない状態からスタートしましたが、個人コレクターからの寄贈などにより、今では世界各地の考古遺物・美術品を150万点余り有する世界有数の美術館となりました。

同館のヨーロッパ絵画部門のコレクションは、1871年にヨーロッパの画商から購入した174点に始まります。その後、寄贈・遺贈と購入によってコレクションは拡充し、今では2500点以上に及ぶヨーロッパの絵画を収蔵。その中から65点が今回来日しており、なんとそのうち46点が日本初公開なんです!

本展で展示されるのは、ラファエロ、フェルメール、モネ、ルノワール、ゴッホなど、西洋絵画史のハイライトとなる重要な画家の作品ばかり。しかし画家のネームバリューだけでなく展示構成が見事で、西洋絵画好きの胸をズドンと撃ち抜く内容でした。絵画史に着目しながら、見どころを詳しく紹介していきましょう。

伝統 VS 革新

展示風景

展覧会のなかで、「絵画史の重要なポイントが詰まってる!」と感じたのが、ジェロームとクールベが並んだ箇所です。

ジェロームは、伝統的な絵を重視したアカデミズムを代表する画家。絵の表面は筆の跡が残らないほど滑らかに仕上げられ、目に映る光景を撮影したかのようなリアリティーがあります。「ピュグマリオン」はギリシャ神話に登場するキプロス島の王で、題材もアカデミックです。

ジャン=レオン・ジェローム 《ピュグマリオンとガラテア》 1890年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館

しかし、ジェロームが活躍した時代、絵画史は大きな転換点を迎えました。理想化せずに現実を描く「写実主義」や、筆の跡を残してでも明るい画面を追求する「印象派」の画家たちが登場したのです。

理想美を追求し完璧な画面を求めたジェロームにとって、写実主義や印象派の絵は、「丁寧さに欠けている」「完成度が低い」と感じられたのでしょう。ジェロームは印象派を激しく批判しました。

ギュスターヴ・クールベ 《水浴する若い女性》 1866年 ニューヨーク、メトロポリタン美術館

本展でジェロームの作品と隣り合わせで展示されるのは、写実主義を代表する画家クールベ。写実主義の画家たちは、アカデミズムに反抗するような形で、現実を理想化せずありのままに捉え、キャンバスに表現しました。

クールベは反骨精神の塊みたいな人で、たくましくてカッコいいんですよ。自信作が1855年のパリ万博に落選したとき、「俺は俺で展覧会を開く!」と博覧会場の近くに小屋を建て、自分の作品だけを展示する個展を開きました。これが世界初の個展、と言われています。

展示風景

伝統を重んじるジェロームと、反逆児クールベが、本展では隣り合わせに展示されています。そう思って眺めると、2枚の絵の間にバチバチと火花が見えるような……?

小道具の変化

西洋の絵画は宗教画・歴史画に始まり、時代が進むにつれて、風景画や静物画が受け入れられるようになってきました。「絵とは何を表現するべきものか」が変わったのです。

15世紀~16世紀頃の絵画は、主に宗教画です。キリスト教やギリシャ神話の場面を、文字がわからず聖書などが読めない人にもわかるように、絵で伝えたのです。

ルカス・クラーナハ (父) 《パリスの審判》 1528年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Rogers Fund, 1928 / 28.221

そのため、人や物といった小道具が、絵の中に大量に描き込まれています。無意味な小道具はありません。すべてに意味があり、どれも聖書や神話を理解するためのヒントになっているのです。

ただし、現代の日本人に理解できるかというと……ちょっと難しいでしょうね。あくまでも、当時のヨーロッパの人々にとっては、文字よりも伝わりやすかった。「キリスト教って良いな」と感じられたのです。

ヨハネス・フェルメール 《信仰の寓意》 1670-72年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 The Friedsam Collection, Bequest of Michael Friedsam, 1931 / 32.100.18

17世紀のオランダ絵画も、小道具を詰め込みまくっています。この時代は、小道具に意味を象徴させることに加え、いろいろな質感の物を描いて画家の技量を示しました。ツルツルのガラスから、もふもふの毛皮まで、何でも描けますよ、と絵でアピールしているのですね。

本展で展示されるフェルメール《信仰の寓意》も、「引き算の美学」でおなじみのフェルメールにしては、たくさんの小道具を描き込んでいます。テーブルの上にあるもの、床に転がっているものに、フェルメールはどんな意味を込めたのでしょうか。

展示風景

長らく西洋絵画では「小道具に意味を込め、鑑賞者に情報を伝える」のが主流でしたが、この常識が崩れたのも、写実主義が台頭した頃でした。本展では、ゴヤとマネが描いた少年の絵が並べて展示されており、小道具のシンプル化がよくわかる展示構成です。

フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス 《ホセ・コスタ・イ・ボネルス、通称ペピート(1870年没)》 1810年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館

一見、ゴヤの絵はおもちゃに囲まれる少年の肖像画ですが、おもちゃに見えるものが、実は軍人を思わせるモチーフであることがわかるでしょうか。描かれているのは、おもちゃの馬、羽根飾りがついた帽子、太鼓、銃剣。スペイン独立戦争で戦った兵士から着想を得て描かれた、とされています。子どもの無垢さと戦争が、対比されながらも違和感なく融合した、ゴヤの力量がわかる作品です。

エドゥアール・マネ 《剣を持つ少年》 1861年 ニューヨーク、メトロポリタン美術館

一方、マネが描いた少年は、剣を持っているだけのシンプルな絵。マネは写実主義の画家で、クールベと同じように伝統に反抗する立場を取りました。小道具が限りなく少なく背景がグレーの絵画、つまり私たちが写真館で撮影した記念写真のような絵は、マネが始まりとされています。

この辺りから、「小道具を描き込んで、情報を伝えなければならない」という呪縛から、絵画は解き放たれていきます。

クロード・モネ 《睡蓮》 1916‒19年 ニューヨーク、メトロポリタン美術館 Gift of Louise Reinhardt Smith, 1983 / 1983.532

例えばモネの睡蓮。モネは睡蓮を繰り返し描きましたが、聖書や神話の物語が伝わってくるわけではありません。約500年の歴史の中で、人が絵画に求めるものは変わり、絵画も役目を変えてきました。その変遷は、小道具を始めとする「絵に何を描くか」に表れています。

約500年の西洋絵画史を俯瞰できる展覧会

西洋絵画史の転換点を中心に見どころを紹介してきました。約500年の歴史を一望できる展覧会なので、作品を比較しながら歴史の流れを見ていくと、面白いのではないでしょうか。

私はというと、アカデミズムのジェロームも大好きだし、写実主義のマネとクールベも大好きなんですよ……。現役時代は対立していたかもしれませんが、天国では仲良くやっといてください、と思います。

展覧会情報

『メトロポリタン美術館展 西洋絵画の500年』

展覧会公式サイト:https://met.exhn.jp/

【大阪展】
会期:2021年11月13日(土)~2022年1月16日(日)
会場:大阪市立美術館

【東京展】
会期:2022年2月9日(水)~5月30日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E

※見出しのキャプション:ヨハネス・フェルメール 《信仰の寓意》 1670-72年頃 ニューヨーク、メトロポリタン美術館

「メトロポリタン美術館展」関連記事

本展を思い切り堪能した明菜さん。他にも、ご自身のブログやアートメディア「イロハニアート」でテーマをそれぞれ変えて取材記事を寄稿されていますので、合わせてご紹介します!

ブログのほうでは、お気に入りの作品について、明菜さんならではの鋭い視点で思い入れを込めて解説されています。こちらも必見!


また、こちらは「イロハニアート」さんに寄稿された記事です。展覧会の代表的な作品を例に取りながら、約500年の西洋美術史の中で、人々が絵に求めてきたものは何だったのか。変わったもの、変わらないものについて、わかりやすく、そして少しロマンティックにまとめられています。こちらもぜひ!

また、メトロポリタン美術館展の概要については、こちらの記事でも詳しくまとめられています。予習・復習にいかがでしょうか?

明菜

明菜

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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館めぐりの楽しさを発信。西洋美術、日本美術、現代アート、建築、装飾、ファッションなど、扱うジャンルは多岐にわたる。人間より猫やスズメに好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

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