【顔面学講座㉗】 ヒゲを剃る行為は男性の女性化? 男のヒゲについて考えてみた。

「男はヒゲがあるほうがモテる。」と聞いて「エビデンスはあるのか?」と思ったそこのあなた。

この私が実証しているではありませんか(笑)。

1999年からヒゲを生やした池袋絵意知

しかし、日本においては「男はヒゲが無いほうがモテる。」が正解です。

日本では髭を生やした男性がマイノリティ

山口大学人文学部 高橋征仁教授の研究「女性の配偶戦略と男性平均顔の脱男性化との関連についての検討」によると、女性の好みは「時代別平均顔」の中で最新の【眉弓の低下、顎の小型化、色白、女性化などが見られる顔画像】に集中しているのがわかりました。

画像を見た限り、時代ごとの「平均顔」の元画像に、そもそも「ヒゲのある顔」が使われてなかったようですが、日本では男性も「ヒゲがない顔」が一般的です。

近年の日本においては美容クリニックのメディアを使ったプロモーションにより、男も女も「頭髪以外は脱毛してツルツルの肌にするのが良い=美しい=モテる」と洗脳され、それが多くの日本人の価値観にまでなっています。特に若い世代は。

人間の男と違って猫は全身毛だらけでヒゲもあるのに女子に人気

メンズ脱毛ビジネス真っ盛りの現代日本

昔の「男が女を選ぶ時代」から、現代は「女が男を選ぶ」時代に。

日本では、男に身体的強さや経済的強さよりも、優しさを求める時代になったことで、いわゆる男臭いゴツゴツした顔や、濃い顔よりも、あっさりした「塩顔男子」が人気です。

体毛やヒゲはないほうが女性からは好かれるので、メンズ脱毛が流行るのもわかります。

ヒゲを生やすことで一人前の男性に

ところが文化が違うと価値観も変わってくるもので、イスラム教の文化圏では、成人男性のほぼ100%がヒゲを生やしています。

これには理由があって、イスラム教徒において「コーラン」と同じく重要な聖典「ハディース」に「イスラム教徒の生活規範として男性はヒゲを生やしなさい」と書いてあるためで、イスラム教圏にはヒゲを生やした男性=一人前の男性として認められる文化があるのだとか。

インドにおいては人口の1.7%のシーク教では、髪の毛とヒゲは「神から与えられたもの」として切らずに伸ばす習慣があります。また、人口の79.8%と圧倒的に多いヒンドゥー教の男性には、伸ばし放題のシーク教とは違ってヒゲをきれいに整えてデザインし、髪型同様ファッションとして楽しんでいる人も多いです。

日本人でここまでヒゲを伸ばした人はまず見ません。そもそもヒゲの濃さや密度が違います。

欧米はもともと日本と比べるとヒゲ人口が高い傾向がありましたが、10年ほど前からヒゲを生やすハリウッド俳優が増えてきて、それに比例するようにさらにヒゲ男子が増えてきました。

日本でも市民権を得たヒゲ

私が会社員をしていた1980年代後半から1990年代後半までは、会社員がヒゲを生やすなんてもってのほかで、会社員でヒゲを生やすことが許されるのは、クリエイター職の中でも特別に優秀な人だけという空気がありました。

また、スポーツ選手にもヒゲがある人は珍しく、プロボクシングの渡辺二郎さんくらいでした(それ以前の選手だと今もタレントとして活躍中の具志堅用高さん)。

プロ野球では読売ジャイアンツが「巨人軍は常に紳士たれ」のモットーから、選手の長髪、茶髪、ヒゲをご法度にしていたくらいです(たぶん、今でも)。

それが2000年以降、徐々にヒゲを生やす人が一般男性でも増えてきました。

きっかけは、海外に活躍の拠点を移したサッカーの中田英寿選手や野球のイチロー選手です。

彼らがヒゲを生やすようになった理由は、日本人はヨーロッパやアメリカの選手と比較して童顔なので、子供っぽくみられたくない、ナメられたくないためだと思われます。

彼らに影響されて、日本でも少しずつヒゲ人口が増えてきました。

最近ではヒゲを生やしたビジネスマンをよく見かけるようになり、営業職の人でもアゴ先だけヒゲを生やした人など、かなりの確率で見かけるようになりました。

時代が変われば価値観も変わる。

そもそも、なぜ、ヒトのオスの顔にはヒゲが生えるのか?

体の構造的に言うと、主要な男性ホルモンである「テストステロン」の影響です。「テストステロン」の役割には、男らしい骨格、筋力量のアップ、性欲の維持と向上、闘争心や競争意欲などとともに、ヒゲや体毛(胸毛、ワキ毛、腕毛、すね毛、陰毛など)の成長促進が挙げられます。

ちなみに「テストステロン」は女性にもあります。女子小学生で鼻の下にヒゲのようなうっすらと太い産毛が生えることがありますが、あれもホルモンのバランスの乱れによる影響です。

しかし、どうして男性ホルモンがヒゲを生やす機能に進化したのかは未だにわかっていません。

科学的に多く支持されている説は、「進化論」のチャールズ・ダーウィンが提唱した、性的特徴を進化させたという考え。

ライオンのオスのたてがみ、雄鹿の立派な角、色鮮やかなオスのクジャクの羽根などは、より魅力的な装飾、より強い武器を持つ個体は、配偶者選択で有利になり、遺伝子を残しやすい。人間も同じように、男には女性を引きつけるためのセックスアピールとしてヒゲがあると。

ライオンのオスにたてがみがあるのと人間の男にヒゲが生えるのは同じ理由?

もう1つは、配偶者選択におけるライバルを威嚇するためで、ライオンのオスのたてがみにはこの機能もあるように、人間におけるヒゲもそうだという考え。

「ヒゲをわざわざ長く生やす」という意味においては、5月6日に東京ドームでボクシングスーパーバンタム級4団体統一王者、井上尚弥選手に挑戦するルイス・ネリ選手(メキシコ)などは威嚇のためにやっているのかもしれませんね。

「顔学」的には、人間以外の他の哺乳類は顔に毛が生えているのに対し、人間は助け合っていくために顔面から眉毛以外の毛をなくし、表情を発信することでコミュニケーションを図っていった。

それを考えると、男にヒゲが生えるのは矛盾して謎が深まりますし、ヒゲの伸ばしっぱなしは「人間的なコミュニケーションの邪魔」と考えることもできます。

女性のメイク時間と比べたらマシですが、ヒゲを剃るのって時間がかかりますよね。特に朝出かける前は時間との勝負になりますし。

逆に顔に毛がたくさんあるのは野生的(動物的)な印象になり、「生物としては正しい」と考えることもできます。

話が少し逸れますが、頭髪は人間にとって最も大切な器官の1つである「脳を守るためにある」と言われているのに、男性型脱毛症があるのは何故なのか?

身だしなみとしての「化粧」、おしゃれとしての「化粧」。身だしなみとしての「ひげ剃り」、化粧としての「ひげ剃り」。身だしなみとして「ひげをデザインして整える」、化粧として「ひげをデザインして整える」。化粧としての「ひげの伸ばしっぱなし」。

毛に覆われた獣。

脱毛やヒゲを剃る行為は、より人間らしく生きるため? ヒゲを剃る行為は、男性らしさの拒否?

結論を安易に求めずに、「顔」と「人間」を考えるのは面白いです。

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