伝統芸能

パパン、パン、パン、パン! 究極の話芸『講談』って知ってる?

あなたは講談を知っていますか? 「究極の話芸」と言ったら、誰もが頭に浮かぶのはやはり落語でしょうか。とぼけた話で笑わせたり、人情話で泣かせたり、寄席という独特な空間で楽しいひとときを過ごせるのが落語です。実はもう一つ、究極の話芸と言われるものがあります。それは『講談』です。

落語とはまた違った楽しさのある「講談」ですが、以前は見たことがあるはずの年配の方でも、どんなんだったっけ、それ? という方も少なくないでしょう。着物姿の話者がさまざまなストーリーを、独特な語り口と軽妙なリズムで話を紡いでいく。他では体験できない空間に引き込まれ、いつしか、語られる物語世界にどっぷり浸かってしまう。それが講談です。

講談の独特な世界は寄席ならではかも。写真:ヤナガワゴーッ!

いまから600年ほど前、戦国時代に御伽衆(おとぎしゅう)と呼ばれる、いわば大名の作戦参謀として政治や軍事の相談役を務め、戦国の世が終わると世間話の相手を務めた役割がありました。江戸時代にはいってからは次第に文化の担い手として、彼らの語る講釈話がいつしか庶民に広がり、いまの講談や落語の源流となりました。そうした中、「太平記」を往来で語る「辻講釈」と呼ばれるものにはじまり、これが芸能として進化してきたのが講談です。

歴史ある伝統芸能である講談ですが、一体、どこで楽しめて、どう楽しめるのでしょう? まもなく3月23日(金)に「熱間鍛銀〜銀は熱いうちに打て!vol.3〜」の開催を控えている美しき講談師、田辺銀冶(たなべ ぎんや)さんに講談の楽しみ方について、お話をうかがいました。

着物姿も艶やかな田辺銀冶さん。写真:ヤナガワゴーッ!

ーーまずはじめに講談とはどうゆうものかお聞かせいただけますか?

銀冶:
講談の演者、講談師とか講釈師といいますが、おもに軍記物のような歴史的な読み物をお客様に対して読み上げます。「落語」が会話で成り立っている芸であるのに対し、「講談」は話を読む芸と言えます。もっとも読むといっても、朗読ではなく、高座におかれた釈台(しゃくだい)と呼ばれる小さな机の前に座って、独特のしゃべり調子で語り、時には張扇(はりおうぎ)という扇子のようなもので釈台をパパン、パン、パン、パンと叩いて調子を取りつつ、読んでいくんです。このリズムが講談の命で、「講釈師見てきたような嘘をつき」と言うように、荒唐無稽な話にもどんどんお客様を引き込んでいくというわけです。

ーー講談のネタにはどのようなものがあるのですか?

銀冶:
代表的なのはやっぱり歴史ものですね。大岡越前、国定忠治、柳生十兵衛、清水次郎長…。夏には怪談話、冬には赤穂浪士と、実にさまざまです。みなさんよくご存知の「水戸黄門」のお話は「黄門漫遊記」として江戸時代に講談で人気を得て、その後、映画やテレビになったというわけです。明治以降には講談本という形で本にもなりまして、その講談本を出版していたのがいまの講談社なんですよ。

ーー本当の水戸光圀公は江戸と水戸を往復した程度だったと聞きますが、日本中を旅したことになったのは講談があったからなんですね。

この張扇が講談のリズムを作り、迫力のパフォーマンスを生み出す。写真:ヤナガワゴーッ!

ーー銀冶さんがお得意のネタはどんなものがあるのですか?

銀冶:
田辺一門の得意とするものでもあるのですが、最初の師匠だった田辺一鶴(一鶴亡き後は鶴瑛門下)が人気を博したネタの「東京オリンピック」ですね。田辺一門は創作講談が得意で、実にさまざまな講談を創作しています。私が創作したネタには「古事記」があります。そうです。あのスサノオノミコトとか神々が出て来る「古事記」です。これを「因幡の白兎」とか8本のエピソードに分けて創作しました。「古事記」を創作講談にするためにさまざまな文献を読んだりしました。

ーー「古事記」とは! まるでサーガですね。それにしても、創作をするために取材もされるんですね。講談師はパフォーマーだとばかり思っていましたが、ジャーナリストやノベラーの側面も持ったマルチアーティストなんですね。

銀冶:
たしかにそういうところはありますね。他にはオリンピック講談として、ブラジルのリオ大会の時に日系移民第1号の話を講談に仕立てたのですが、これがリオではなく、サンパウロの方だったんですよね(笑)

ーー創作講談が面白そうですが、他にどんな創作をするんですか?

銀冶:
意外にご依頼が多いのが結婚式の披露宴で、お二人の出会いから愛の軌跡を物語にした「馴れ初め講談」や、企業の設立記念パーティのような場で経営者の方や創業のエピソードを「読む」ことも多いです。

ーー銀冶さんはどうして講談師になったのですか?

銀冶:
私が小学生だった時に、突然母が夢に田辺一鶴が出てきたと言って、講談を見に行くことになったんです。母はすっかり田辺一鶴に参ってしまって、弟子入りすることを決め、私もちびっこ講談師として、弟子入りすることになったのです。その後、一旦は講談から離れ、海外留学をしていた時に「日本」に目覚めて、講談の世界に戻ってきました。

ーー銀冶さんのような女性の講談師はあまりいないんでしょうね。

銀冶:
それが意外にそうでもないのです。私を講談の世界に引き込んだ母であり、師匠でもある田辺鶴瑛も女性講談師として、真打として活躍していますし、他の一門にも多くの女性がいます。女性がやることでより伝わる面もあって、思った以上に女性が多い世界なんですよ。

ーー講談を聞くにはどこに行けばいいのでしょうか?

銀冶:
結構色々なところで楽しめるんです。もっとも確実なのは、講談協会が行っている定期公演で、永谷演芸ホールのうち上野広小路亭、日本橋亭で行っています。講談師が個人で開く会も多数あります。私も23日に浅草木馬亭で行いますし、5月には母の田辺鶴瑛とともに行う母娘会もあります。区民会館のような地域のイベントとして行われていることもあるんですよ。それからテレビの演芸番組なんかにも出ていますので、ぜひチェックしてみてください。

ーー今日はありがとうございました。今度はぜひ寄席におじゃまします!

講談を聞くなら浅草木馬亭などの寄席で。写真:ヤナガワゴーッ!

【興行情報】
「田辺銀冶の会 熱間鍛銀〜銀は熱いうちに打て!vol.3〜」
日時:2018年3月23日(金)18:30 開場 19:00 開演
会場:浅草木馬亭

「鶴瑛のWA!その2」凌天/いちか/銀冶/一乃 鶴瑛「三方ケ原軍記」
日時:2018年3月29日(木)開場17:30 開演18:00
会場:上野広小路亭

「銀冶鶴瑛 母娘会 2018」
日時:2018年5月4日(金)開演18:00
会場:浅草木馬亭

講談協会 http://kodankyokai.com/index.html

田辺銀冶Twitter https://twitter.com/ginyatanabe

チバ ヒデトシ

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アート、デザイン、エンタテイメントとテクノロジーに関連したクリエイティビティについて横断的に取材、執筆活動を行っているフリーランス・ジャーナリスト。メディアやアプリの企画を手がけ、ファシリテーションなども行う。また、さまざまな美術館に足を運び、今後の美術館のあるべき姿を考える美術館研究家としても活動。週4日の美術館、ギャラリー通いは当たり前。デジタルハリウッド大学大学院客員教授(2011〜2016)。元書店員(西武百貨店、リブロ)。仙台出身。

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