「長坂真護展 Still A “BLACK” STAR Supported by なんぼや」異色のアクティビストが美術館で堂々の初個展!

アフリカ・ガーナの環境汚染と貧困にまみれたスラム街を拠点に、そこに集められた電子廃棄物で作品を発表しつづける、異色のアーティスト・長坂真護(ながさかまご)さん。その型破りな取り組みは日本でも注目を浴び、わずか数年で無名の路上アーティストから、年商8億円を達成する売れっ子へと上り詰めました。

まさにアート界の風雲児ともいえる長坂さんですが、現在、大規模な個展が東京・上野の森美術館で開催されています。これまでのアーティスト活動の総決算となるような展示を、長坂さんも登壇されたプレス内覧会にて取材してきました。

アフリカの最貧国で拾った廃棄物でアートをつくる

SDGsなど環境問題に対する問題意識が高まるにつれて、ここ数年、路上や水辺のゴミなどを集めてアート作品を手掛ける作家が増えてきています。

長坂さんが注目したのは、日本から遠く離れたアフリカ・ガーナの首都アクラ近郊にある世界最大の電子廃棄物処分場アグボグブロシーに打ち捨てられた電子ゴミ。

引用:PR TIMES(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001842.000013640.html

現地にはスラム街が形成され、住民たちは世界中から集められた電子ゴミの山を野焼きし、有害物質が充満する苛烈な環境のなかで毎日ゴミを拾って生計を立てています。かつて、アグボグブロシーは自然豊かで野鳥が憩う美しい湿地帯でした。しかし21世紀に入ると、わずか20年足らずの間に世界各国から送られてきた大量の違法廃棄物であふれかえるようになったのです。

貧困、環境汚染、健康問題など、社会の諸問題が凝縮されたようなスラム街を長坂さんがはじめて見たのは、2017年6月。地平線を覆うばかりに電子機器や家電の廃棄物が広がる光景に衝撃を受けた長坂さんは、この現状を多くの人に知ってもらうとともに、アグボグブロシーの人々を救おうと、これらの電子ゴミでアートを作ることを着想しました。

展示風景
「Metallic dinosaur」
展示風景

本展では、長坂さんが2018年以降手掛けてきた、電子ゴミからつくられたアート作品がずらりと登場。電子部品の廃棄物を組み合わせた立体彫刻から、油彩作品の一部に電子ゴミを取り込んで描かれたキャンバス画まで、様々なタイプの作品が展示会場にセットされています。

「真実の湖Ⅱ」/本作は2000万円で売れたそうですが、この作品が売れたことをきっかけに、長坂さんは絵の売上のうち、自分の取り分は5%にする、と決めたそうです。

そんな長坂さんの原点となる作品が、本展チラシのメインビジュアルにも選ばれた「真実の湖Ⅱ」です。つぶらな男の子の瞳がこちらに何かを語りかけてくるような真四角のカンヴァス作品です。

絵の中の男の子の名前は、アビドゥ君。「純真無垢な男の子の眼差しが心に残り、スラムの中で咲く笑顔を一枚の絵にしたくて制作した」と語る長坂さん。憂いをたたえた純真な瞳が印象的です。

「真実の湖Ⅱ」部分

アビドゥ君の顔の周囲には、世界各地で作られたあらゆる電子部品が固めて貼り付けられています。ぜひ、絵に近づいてみてください。VHSテープやゲーム機のコントローラ、テレビのリモコンなど、私たちの身の回りにある生活用品もたくさん混じっていることがわかります。

こちらの作品群は、アグボグブロシーに集まるゴミを各国別に分別し、その国から排出された電子ゴミで国旗を描いた作品シリーズ。日本、中国、アメリカ、英国など、まさに世界各国から電子廃棄物がガーナに集まってきている現状が、非常にわかりやすく可視化されたコンセプチュアルな作品です。

また、近年のファストファッションの伸長などにより、大量生産・大量廃棄を繰り返すファッション産業がもたらす環境破壊が問題視されていますが、ガーナは電子ゴミだけでなく、衣料ゴミによる環境汚染でもよく知られています。長坂さんは、こうした衣料ゴミを素材とした作品も手掛けています。

「I'm Princess」

「I'm Princess」は、山のようにてんこ盛りになった衣料ゴミを、フレアスカートのように見立てて作った小さな女の子の立体作品。廃棄された衣料が山のように積まれて表現された下半身がアンバランスなほど大きく、ガーナに衣料ゴミがあふれかえる現実を象徴づけているかのようです。

「I'm Princess」部分

近づいてみると、世界各国から集められたカラフルな衣服で埋め尽くされていることがわかります。洗濯すれば、普通にまだ着ることができそうな洋服ばかりでした。

また、資本主義の欠陥や歪みが凝縮されたようなアグボグブロシーの現状について、コミカルかつアイロニカルに表現した作品「世界平和のワクチン」も目を引きました。

「世界平和のワクチン」

作品で描かれたのは、廃棄物で満載のテーブルを取り囲むように立つアメリカやドイツ、中国、日本など各国の首脳たち。テーブルの上に載るのは、アグボグブロシーのスラム街です。よく見ると、テーブルクロスの裾のあたりは水色で描かれており、この地が廃棄物で埋まる以前は、かつてここに美しい湖であったことを想起させます。さらに、テーブルには三脚しか脚がなく、右下の脚が欠けています。

「首脳たちが手を離すと、三脚のテーブルが傾き、全てが流れ落ちてしまう。資本主義ってこんな感じです。今の社会は無理やり保たれているんです」と長坂さんは語ります。

このように、様々なアプローチでアートを通してガーナの窮状を訴える長坂さんですが、彼が型破りなのは、こうした一連の問題提起だけにとどまらず、実際に問題解決までを自ら手掛けてしまうところ。社会起業家のような、闘うアーティストなのです。

 

昨今、脱成長、脱資本主義といった、現在の経済活動のあり方を完全否定し、ベーシックインカムや共産主義的な社会へと移行を目指すようなラディカルな考え方が脚光を浴びていますが、こうした性急なアプローチは、やや非現実的にも思えます。

「階段を一段抜かしで駆け上がろうとするようなもので、まだ時期尚早」ではないかと考えた長坂さんは、その代わりに、現状の資本主義を徹底的に利用し尽くして、競争原理主義や資本主義の枠内で、持続可能な仕組みを作り上げることが先決だと考えました。

そこで、長坂さんは「サステナブル・キャピタリズム」という考え方を打ち出します。現状の経済活動の枠組みを”ハック”し、アート活動を通して効率よくお金を集め、そのお金を使って、サステナブルな環境づくりを加速させる。アグボグブロシーで拾った電子ゴミで作ったアートを販売し、集まったお金で現地にリサイクル工場を建て、人々を教育し、雇用を生み出すことでスラム街へと還元する。最終的な目標はスラム街の撲滅です。すでにリサイクル工場は2022年秋現在、現地で第1弾が立ち上がり稼働を開始。着々と長坂さんのプロジェクトは前に進んでいます。

長坂さんの描く「新世界」とは?

そんな長坂さんの提唱する「サステナブル・キャピタリズム」を一つの世界観にまとめ上げたのが、最後の展示室でした。そこには、長坂さんにとっての未来への希望がいっぱい詰まっていました。

「藁の革命」(正面壁の展示作品)

まず目についたのが、展示室の壁いっぱいに展示された、絵画の上に「藁」が貼られた作品。2021年、日本橋三越本展で開催された個展で、2億円で売れた記念碑的な作品「藁の革命」です。

この作品は、長坂さんが日々のルーティーンとして瞑想をする時、決まってまぶたの裏に浮かんできたイメージを絵にしたものでした。瞑想中、長坂さんはいつも巨大な宇宙空間に浮かぶ「藁」になるそうです。

路上の絵描きだった数年前から一気に時代の寵児へと駆け上がりつつある長坂さんですが、怖いのは天狗になってしまうこと。「自分は宇宙を漂うギリギリの”藁”のような存在で、偶然のラッキーの連続で長者になった”わらしべ長者”にすぎないんだ」と、「藁」は、長坂さんにとって、謙虚になって大いなる挑戦をしよう、と気持ちをリセットするための大切なイメージでもあるようです。

また、その絵の横には、長坂さんが新たに作り出したキャラクター「ミリーちゃん」が主人公となるアニメーションムービーも上映されています。

「ミリーちゃん アニメーションプロジェクト」

スラムで生まれた女の子・ミリーちゃんが、ゴミ山からアインシュタインがつくった「相対性理論」が書き込まれたICチップを発見し、それを自分の頭の中にインストールして天才になり、タイムトラベルできる車を発明する、という奇想天外なSFファンタジーです。「僕が死んでも、キャラクターが残れば”アンパンマン”のようにずっとサステナブル・キャピタリズムを体現していってくれるはず」と期待を込めます。将来、ミリ―ちゃんをキャラクターとしたオリジナルグッズなども構想中なのだそうです。

「ミリーちゃん」

そして、こちらの赤い車は、ショートムービーの中で描かれた、ミリーちゃんがタイムトラベルするために発明した未来の車をモチーフにした立体作品です。

「We are same planet」

他の作品同様、電子ゴミなどの廃棄物を活用してつくられていますが、サイドミラーやモニター、ナンバープレートなど、細かいところまで作り込まれており、みどころの多い労作でした。ぜひ、車の周囲をぐるりとまわりながら、すみずみまでチェックしてみてください。

「We are same planet」部分

実は現在、長坂さんは実際にリサイクル工場の建設の次のプロジェクトとして、空を飛ぶ車や、EVバイクの開発などを構想中なのだとか。本展では、長坂さんがイメージした未来の乗り物を描いた絵画作品なども展示されていました。

展示風景

すでに現地では長坂さんのイメージ図などを元に、研究開発がスタート。リサイクル工場よりも遥かに難易度が高そうですが、ぜひ、どんな乗り物に仕上がるのか、今から楽しみですね。

そして、内覧会で最後に長坂さんが説明してくれたのが、「サステナブル・キャピタリズム」の概念を一枚の絵に概念化した作品「相対性理論」です。

「相対性理論」

関数のグラフのように、X軸とY軸が交わる絵の中で、X軸が時間(好き/嫌いの感情)、Y軸が物理的な豊かさを表しています。

この時、アグボグブロシーのスラム街に捨てられた電子ゴミは、カンヴァス上のグラフ左下、つまり貧しくていやなものに位置します。しかし、長坂さんがこれらをアートに加工して日本に持ってくることで、一気に原点を挟んで対角線上の位置、右上へと移動するわけです。つまり、ゴミがアート作品として、愛情をもって好ましく受け入れられる状態に生まれ変わるわけですね。

途上国で-1500万円だったゴミ山が、作品へと変わった途端、1500万円で売れる高額なアートに化ける。これが、資本主義のレバレッジの正体であり、長坂さんの発見した「相対性理論」であり、自身が提唱する「サステナブル・キャピタリズム」の中核部分の考え方なのです。

では長坂さんの仕事はこの図では何にあたるのでしょうか。

それは、カンヴァスの枠外で、画面右上から左下に向かって取り付けられたプラスチック製の透明な管に表現されていました。「僕がやっているのは、”マネーパイプ”を作ることなんだ、と長坂さんは言います。本作をよく見ると、この中を、日本など先進国で長坂さんのアートを販売して稼いだお金が流れていって、ガーナへと還流していくのですね。

 

ちなみにこのマネーパイプには、私たち鑑賞者もお金を実際に入れることができます。キャプションには「世界初、お金を稼ぐアート」と書かれていて、思わずクスリとしてしまいました。ここに入れたお金は、長坂さんが責任をもってガーナを救うために活用してくれることでしょう。

アートの力でサステナブルな未来を!長坂さんの今後に注目

 

今年の夏、話題のNFTアートの制作・販売も手掛けた長坂さん。ニューヨークの路上に捨てられた家電や家具300点をアートへと生まれ変わらせ、それをNFT化して売り出したところ、即日完売を果たすなど、絶好調だったそうです。

まさに飛ぶ鳥を落とす勢いですが、本人は意外にも冷静で「僕なんかが上野の森美術館で展覧会をやれることは、本当はいいことではないんです」と話してくれました。

展覧会にあわせて発売された著書『サステナブル・キャピタリズム』にも、人々が将来長坂さんの作品を見て、「電子ゴミで作品を作るなんて、恥ずかしい時代があったんだね」とつぶやけるような時代が早く来てほしい、と書かれています。

1日もはやくガーナのスラムを撲滅したい、と力強く語った長坂さん。昨年は、毎日休まず描き続けて約600作品を仕上げたそうです。きっと、今日も多忙な中、新たな作品を生み出そうと奮闘されていることでしょう。自分自身の生きる使命に向かって突き進む長坂さんが、アーティストとしてどのような未来を切り開いていくのか、今後がますます楽しみですね!

展覧会情報

 

展覧会名:長坂真護展 Still A “BLACK” STAR Supported by なんぼや
開催場所:上野の森美術館(〒110-0007 東京都台東区上野公園1-2)
会期:2022年9月10日(土)~11月6日(日) ※会期中無休
開館時間:10:00~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
展覧会HP:https://www.mago-exhibit.jp

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