三島喜美代の東京初個展「三島喜美代―未来への記憶」が開催!

陶にシルクスクリーンで印刷物を転写した多様な立体作品で知られる、現代美術家の三島喜美代の東京初個展「三島喜美代―未来への記憶」が、練馬区立美術館で2024年7月7日まで開催されています。

彼女の70年に及ぶキャリアから初期の油彩画や、新聞、雑誌等をコラージュした前衛的な絵画から、「割れる印刷物」と称される立体作品、約1万個もの耐火レンガを使用した大型インスタレーション、産業廃棄物を素材に取り込んだ近作まで約90点の作品を通して、これまでの三島の創作活動を振り返ります。

見どころを章ごとに紹介していきます。

ロビーに展示されているゴミ箱アート、三島喜美代《Work 21-C2》2021年 陶、転写、彩色、鉄 個人蔵(撮影:筆者)

本展の見どころ

第1章 初期の作品

大阪の十三で生まれた三島喜美代は、高校生の頃から油彩を学び、卒業後には独立美術協会の展覧会に作品を出展していました。その後、後に夫となる画家、三島茂司の影響で、具象画から抽象画へとスタイルを変化させました。二人は吉原治良などの影響を受けつつも、具体美術協会には参加せず、個々にアート活動を進めていきました。

第1章の展示風景より、初期の油彩画作品(撮影:筆者)

三島はコラージュを取り入れた油彩画に取り組みました。コラージュ素材として、「Life」雑誌や海外の新聞など、情報化社会で消費された印刷物、また、復員した義兄が持ち帰った使用済みの毛布など、日常的な物を使用しました。1960年代半ばからはシルクスクリーン技術とポップアートの手法を組み合わせ、新しいアプローチを展開しました。

第1章の展示風景より、コラージュを取り入れた作品(撮影:筆者)

第2章 割れる印刷物

三島は陶土を紙のように伸ばし、シルクスクリーンや手書きで新聞やチラシの文字を陶に転写し、「割れる印刷物」という立体作品を創出しました。彼女はこの技術を「情報の化石化」と呼び、印刷された情報を永続的な形で保存します。陶は見た目は硬いが脆く、これを利用して社会の不安を表現し、半世紀に渡って独自のアートを展開してきました。

第2章の展示風景より、段ボール箱も広告チラシも全て陶製(撮影:筆者)

「割れる印刷物」シリーズは、新聞から日用品に至るまで広がり、実物大のリアリズムと遊び心で情報の洪水と社会の不安を再認識させる試みを行っています。1980年代以降は、作品を巨大化し、新聞紙やビラ、画廊の柱を模した作品を通じて、陶の技術の限界を押し広げ、ポップアートの要素を取り入れました。これらは後に壮大なスケールのインスタレーションやパブリックアートに発展し、三島のアートの新章を築いていきます。

第2章の展示風景より、袋のシワや折れ曲がりなどのシズル感が見もの、三島喜美代《Paper Bag(シリーズ)》1973-1980年 陶、転写 兵庫陶芸美術館蔵(撮影:筆者)

第3章 ゴミと向き合う

三島は、空き缶や段ボールなどの日常のゴミを題材に陶製作品を作り出す一方で、1990年代から素材の多様化を図っていきます。環境に対する意識が高まる中で、陶土が有限資源であることを知り、再生可能な溶融スラグ(産業廃棄物を1,400度で焼成して生成されるガラス状の粉末)と廃土を混ぜた土を使用して作品を制作し始めました。

第2章の展示風景より、ゴミ箱に無造作に入れられた空き缶の作品、三島喜美代《Work 17-2》2017年 陶、転写、彩色 ポーラ美術館蔵(撮影:筆者)

さらに、最近では自分で収集したブリキ缶、鉄くず、廃車のパーツなどの廃材を直接作品に取り入れています。三島はしばしば「ゴミからゴミを作る」と述べていますが、これらの廃材を使った作品にも印刷物の文字が含まれており、彼女の作品の一貫性は保たれています。

ブリキ缶、鉄くず、廃車のパーツを使った作品、三島喜美代《Work 22-P》2022年 陶、転写、鉄、木、ポリプロピレン 個人蔵(撮影:筆者)

第4章 大型インスタレーション

本展覧会の大きな見どころでもある《20世紀の記憶》は、三島の代表作にして最大規模のインスタレーション作品です。1984年に制作が開始され、制作過程での部分的展示を経て、2014年にART FACTORY城南島において完成作が披露されました。それ以降、同地で常設展示が続けられてきました。

展示室3の一室を丸ごと使用しての展示は圧巻、三島喜美代《20世紀の記憶》1984-2013年(部分)耐火レンガに印刷 個人蔵(撮影:筆者)

展示室3の床全体に約1万個の中古耐火レンガが敷き詰められており、それぞれのレンガには20世紀の新聞記事が転写されています。この迫力のあるスケールと、戦災後の景色や情報過多による廃墟を思わせる光景は、訪れる者に圧倒的な印象を与えます。

転写されたレンガには日航機墜落事故も、三島喜美代《20世紀の記憶》1984-2013年(部分)耐火レンガに印刷 個人蔵(撮影:筆者)

最後に

展示を巡りながらキャプションに目を通すと、所蔵先の「●●陶芸美術館」という文字が目に入り、展示されている作品が陶製であることに改めて気づかされます。三島喜美代の作品は、そのリアリズムが本物と見間違えるほどで、非常に視覚的に魅力的です。この明快なビジュアルは、アート初心者も広く楽しめる展覧会となっています。

三島喜美代《Comic Book 03-2》2003年(部分) 溶融スラグ、転写、彩色 ポーラ美術蔵(撮影:筆者)

展覧会情報

展覧会名三島喜美代―未来への記憶
会期2024年5月19日(日)〜7月7日(日)
会場練馬区立美術館
開館時間10:00~18:00(最終入場は17:30まで)
休館日月曜日
料金一般1,000円、高校・大学生および65~74歳800円、
中学生以下および75歳以上無料
障害者(一般)500円、障害者(高校・大学生)400円、
団体(一般)800円、団体(高校・大学生)700円
ぐるっとパスご利用の方500円(年齢などによる割引の適用外になります)
※一般以外のチケットをお買い求めの際は、証明できるものをご提示ください。(健康保険証・運転免許証・障害者手帳など)
※障害がある方の付き添いでお越しの場合、1名様までは障害者料金でご観覧いただけます。
※団体料金は、20名様以上の観覧で適用となります。
※当館は事前予約制ではありません。当日、チケットカウンターでチケットをお求めください。
美術館ウェブサイトhttps://www.neribun.or.jp/event/detail_m.cgi?id=202401281706414617
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