こんにちは、美術ライターの明菜です。
今回は、村上隆さんの個展『村上隆 もののけ 京都』に行ってきました。本展は京都市京セラ美術館で9月1日(日)まで開催されています。
新作や国内初公開作品を含む約170点が展示される本展は、国内では8年ぶり、東京以外では初めてとなる大規模な個展。会場である「京都」に正面から対峙した作品も、数多く含まれます。
驚きと楽しさに満ちた空間なので、ぜひ足を運んではいかがでしょうか。ユーモラスな「新・村上ワールド」に触れ、「なにこれ面白い〜!」とニヤニヤしてほしいのです。
村上隆さんと「スーパーフラット」
村上隆さんは1962年東京に生まれ、1993年に東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程を修了しました。2000年には、伝統的な日本の絵画表現とアニメ・マンガの平面性を接続し、日本社会の在り様にも言及した概念「スーパーフラット」を提唱。現代美術シーンに大きな影響を与え、以降、世界各地で個展を開催するなど、日本を代表するアーティストとして国際的に認知されています。
村上さんはアーティストであると同時に、コレクターやキュレーター、映画監督など多岐にわたる取り組みをしています。また、ルイ・ヴィトンとのコラボレーションなど、従来の美術の枠組みを超える活動もよく知られ、「美術は詳しくないけど、村上さんの絵は見たことあるよ」という方も多いのでは。
「スーパーフラット」という概念は、「平面性」という特徴をカギとして、日本の伝統的な美術と、アニメや漫画、ゲームといった新たに台頭した大衆文化を結びつけるものでした。それだけでなく、戦前・戦後の日本人の感性や社会の様相、資本主義経済や政治・宗教をもフラットに捉え、アートの本質的な意味を問いかけてきた……とのことです。
村上さんの作品に向き合うと、「スーパーフラット」という言葉に対し、表現方法が「平ら」であることのほか、「均一」「均質」「公平」「協調」「同調」など、さまざまに意味が派生していくように思います。鮮やかに彩られた村上ワールドは一見美しく、未来の明るさを信じているように見えるけれど、本当はどうなんだろう……? と考えてしまいました。
笑顔のお花ちゃんたちに埋もれて泣いているお花は、みんなが笑っているときに笑えない私そのものです。
村上隆さんと「京都」
日本美術に関心を寄せてきた村上さんにとって、京都はゆかりのある土地です。本展開幕の前日に行われた記者発表会では、五山送り火をモチーフにした村上さんのキャラクターなども登壇しました。
会場に入るとすぐに目に入る大作《洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip》は、京都を題材にした新作です。江戸時代に描かれた岩佐又兵衛の《洛中洛外図屏風》をベースに、村上さんのキャラクターが登場するなど、独自の世界観で京都の風景が表現されています。
「洛中洛外図」は、京都の市街と郊外を俯瞰するような構図で、そこに生きる人々の暮らしを描く日本美術の伝統的な主題です。室町時代以降、繰り返し描かれてきた京都らしいテーマであり、令和の今、村上さんが挑戦したということを踏まえて鑑賞したいです。ちょっとした引っかかりやズレを楽しみながら、素直な気持ちで作品と向き合ってみては。
《風神図》と《雷神図》もぜひ注目したい作品です。「風神雷神図」は、俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一らによって、ほぼ100年おきに模写されてきました。直接の師弟関係ではなく私淑によって伝えられてきた画題に、今回、村上さんも向き合ったとのこと。
感想は人それぞれで良い、と信じて私が感じたことを率直に申しますと……とても「ゆるい」印象を受けました。風神も雷神も、やる気があるようには見えない脱力した顔で、テキトーに風や雷を放っているように感じます。
「あの」村上隆が「あの」風神雷神図に挑む! みたいな、見る側は勝手に期待して盛り上がると思うのですが、それに対して村上さんが打ち出された本作は、素晴らしい裏切り方ではないでしょうか。私には史上もっとも弱そうな風神雷神に見えますが、そこに胸を打たれました。能ある鷹は爪を隠す、だなあ、と村上さんにも風神雷神にも感じます。
まとめ
前回の記事で「良い展覧会ほど『良さ』の言語化が難しい」という、職務放棄スレスレの発言をしましたが、本展もまさにそうでした。「真面目なレポートだな」と思ってもらえる書き方では、本展の面白さをお伝えするのは無理だと……私は思います……!
ゆるい・かわいいと思っていたら人並外れた超絶技巧の作品に驚かされたり、終始、村上さんの手のひらで転がされているような感覚でした。コメディなのかシリアスなのか、既存のカテゴリーに入れることのできない展覧会を、ぜひ楽活読者の皆さまも楽しんでくださいませ。
ちなみに本展は、「村上隆の国内最後の個展」とも囁かれている……とのことです!
展覧会情報
展覧会名 | 京都市美術館開館90周年記念展「村上隆 もののけ 京都」 |
会期 | 2024年2月3日(土)〜2024年9月1日(日) |
会場 | 京都市京セラ美術館 新館 東山キューブ |
開館時間 | 10:00~18:00(最終入場は17:30まで) |
休館日 | 月曜日(祝日の場合は開館) |
観覧料 | 一般2,200円など |
展覧会公式ウェブサイト | https://takashimurakami-kyoto.exhibit.jp |
公式X | https://twitter.com/mononoke_kyoto |
公式Instagram | https://www.instagram.com/takashimurakami_mononoke_kyoto/ |
備考 | ※展示作品のうち、一部に展示替えがある可能性あり ※会場の混雑具合に応じて、入場整理券の配布を行う可能性あり |
●京都市内の大学生以下は入場無料
企業版ふるさと納税を活⽤した⽀援により、京都市在住もしくは京都市内の学校に通学している⽅は本展の⼊場料が無料となります。
☆入場整理券の配布状況、先着5万名様限定「Collectible Trading Card」の配布状況など展覧会に関する最新情報は展覧会公式ウェブサイト・公式SNSでご確認ください。
トップビジュアル:
「村上隆 もののけ 京都」展示風景、京都市京セラ美術館、2024年
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