都心で仏教美術に出会える静謐な空間:半蔵門ミュージアム
後ろ姿も美しい大日如来坐像

仏教美術に出会える半蔵門ミュージアムは、地下鉄「半蔵門駅」に直結のビルにあります。静かに仏像や仏画と向き合い、仏教の歴史や文化にふれる、憩いの場でもあります。しかも入館料は無料です。

「初公開の仏教美術―如意輪観音菩薩像・二童子像をむかえて―」と題した展覧会が2024年4月14日(日)まで開催されています。

半蔵門ミュージアムは、真如苑が所蔵する仏教美術を一般に公開するために設立した文化施設で2018年に開館しました。皇居に近い、地下鉄「半蔵門駅」と直結したビルの地下1階から地上3階にあります。館内はベージュ色の大理石、白木の温もりによって静かで落ち着いた雰囲気に包まれています。

柔らかな光と大理石の温もり

入口を入るとベージュ色の大理石の壁に囲まれ、やさしい光に包まれます。受付の後ろには2階に向かう吹き抜けの階段があり、ここも光に包まれています。

ギャラリー

受付の右側をまっすぐに進むと大きな窓の開放的なギャラリーがあります。ここでは、半蔵門ミュージアムと姉妹館である「清里フォトアートミュージアム」の作品を展示しています。同館が1995年の開館から続けている、若手写真家を育成する活動「ヤング・ポートフォリオ」の約6千点にのぼる収蔵作品の一部です。

清里フォトアートミュージアム(山梨県北杜市)https://www.kmopa.com

まずは地下1階の展示室に向かいましょう。

常設展示:ガンダーラの仏教美術

地下1階の展示室

展示室は地下にあり、空間の中央に仕切りを設け、ロの字型になっています。天井が高く、壁の下部に光の帯があって落ち着いた雰囲気です。

常設展示の「ガンダーラの仏教美術」には片岩を深く刻んだ仏伝浮彫が並んでいます。ガンダーラとはパキスタン北西部からアフガニスタン東部に及ぶ地域で、ヘレニズム・ローマ文明の影響を受け、紀元1~3世紀にかけて仏陀の姿が現わされるようになって仏教美術が盛んになりました。

「誕生」2~3世紀

釈迦が、中央の摩耶夫人(まやぶにん)の右脇腹から誕生した場面です。左側で釈迦を受け止めているのは帝釈天です。釈迦の生涯をたどる場面も並んでいます。

「初転法輪」 2~3世紀

人物がより立体的で、中央の釈迦に耳を傾けているようです。これは釈迦が初めて説法をした場面「初転法輪」で、苦行を重ねた5人の仲間(剃髪した人物)に説法し、その5人が最初の弟子になりました。地名のサールナート(鹿野苑:ろくやおん)に因んで、釈迦の台座には2頭の鹿が刻まれています。

常設展示:祈りの世界

重要文化財「大日如来坐像」 鎌倉時代 建久4(1193)年か

常設展示の奥まったところは「祈りの世界」です。

ガラスケースに鎮座する大日如来坐像の像高は61.6cm、静かに開かれた眼は玉眼、肩に届くばかりの耳たぶ、高く結い上げた髻(もとどり)を結ぶ2か所の赤い色は鮮やかです。源頼朝と姻戚関係にある足利義兼が足利の鑁阿寺(ばんなじ)に12世紀につくらせたと推定され、作風の特徴から運慶の作と考えています。運慶は鎌倉時代に活躍した著名な仏師です。

後ろ姿も美しい大日如来坐像

後ろ姿も凜とした美しさ、髻の髪筋は上方に束ねられています。坐像の向こうに展示された「両界曼荼羅」は江戸時代、宝永3(1706)年に覚仙によって描かれ、京都の醍醐寺より伝来したものです。2幅の曼荼羅の中心にはそれぞれ大日如来が描かれています。

大日如来坐像の像内納入品原寸模型 協力:文化庁(ボアスコープ撮影)、東京国立博物館(X線断層撮影)

初公開の実物大の内部模型が大日如来坐像の隣に展示されています。内視鏡を耳から入れた調査で明らかになったもので、像の中央部に五輪塔形にかたどった木札が立ち、密教においてすべての根源をなす五大を示す梵字の種字が書かれています。下から地・水・火・風・空です。中央には、蓮華に乗った水晶珠(心月輪)と五輪塔形の舎利容器があります。

初公開の仏像来る

「如意輪観音菩薩坐像」 平安時代 10世紀

「祈りの世界」には、2023年11月22日から初公開で醍醐寺由来の如意輪観音菩薩坐像二童子立像が展示されています。如意輪観音菩薩坐像は醍醐寺より伝来、江戸時代初期(1669年)に修復されたことが知られ、如意輪観音としては珍しく左足を踏み下げたポーズです。髻の正面内部に舎利と舎利容器があることも注目されています。

横から見ると体のボリューム感、額からまっすぐな鼻筋がわかります。この先の赤い旗の向こうに「特集展示」があります。

「不動明王坐像」 平安時代 12世紀

如意輪観音菩薩坐像の右にある、不動明王坐像は醍醐寺普門院の旧本尊で、江戸時代に運慶の流れをくむ仏師・康正が修復して光背と台座を新調したことが、台座の天板に座主・義演によって記されています。義演は豊臣秀吉が「醍醐の花見」を催した時の座主で、不動明王坐像は秀吉との縁がある貴重な像といえます。

二童子立像 左:制吒迦童子(せいたかどうじ)右:矜羯羅童子(こんがらどうじ) 平安時代 11~12世紀

その隣、初公開の二童子立像は醍醐寺よりもたらされたものです。隣に展示された不動明王坐像の脇侍だった時もあり、ここ半蔵門ミュージアムで再会を果たしました。両者の作風には大きな違いがあり、二童子のほうが古く、京都の一流仏師によるものではないかと推定されています。二童子のゆるやかな体の動きは二人で話をしているようにも見えます。衣には彩色切金の模様が確認できます。

不動明王坐像の光背は影も美しい。左には如意輪観音菩薩坐像の影も見えます。

特集展示にも初公開

「如来像」 中国・北斉時代 6世紀

特集展示は、初公開の大般涅槃経如来性品十四音義、当麻曼荼羅も展示されています。上記の写真は初公開の高浮彫りの「如来像」、裏側には人名などが刻まれ、右側には像の裏面の写真パネルが展示されています。

左から:「倶利伽羅不動明王像」 鎌倉時代 13~14世紀 「当麻曼荼羅」 室町時代 16世紀 「刀八毘沙門天像」 江戸時代 天保4(1833)年 「虚空蔵菩薩像」 江戸時代 17~18世紀

このミュージアムでは展示ケースが少なく、直接展示品に対峙することができるのも魅力のひとつです。

2階、3階で障子明かりにくつろぐ

2階 マルチルーム

2階には、マルチルーム、ラウンジ、ミュージアムショップがあります。さまざまな用途のマルチルームには、常設展示をていねいに説明したパネルが並んでいます。

ラウンジでは障子明かりのような柔らかい光に癒やされます。ミュージアムショップには絵はがき、オリジナルグッズのほかに、仏教関連の書籍、名誉館長の水野敬三郎氏、西山厚氏、現館長の山本勉氏の著書も並んでいます。

3階 シアター

シアターでは展示品の解説を高精細な映像で上映しています。スケジュールを確認しましょう。

祈りの空間を知る

このミュージアムを設計した栗生明氏による建物の紹介動画があります。静かなピアノ演奏をバックにして建物のコンセプトや素材に込めた想いを語り、巡ることから祈りにつながる空間をより深く味わうことができます。栗生氏は平等院ミュージアム鳳翔館や国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館などを手がけた建築家です。来館前にご覧になることをおすすめします。

「祈りの空間」建築家・栗生明 約30分

展覧会情報

「初公開の仏教美術-如意輪観音菩薩像・二童子像をむかえて-」

会期 2023年11月22日(水)~2024年4月14日(日)
休館日:毎週月曜日・火曜日(月曜日・火曜日が、祝日や振替休日にあたる場合も休館)、年末年始(2023年12月29日~2024年1月4日)
※その他、臨時休館(ホームページに掲示)あり
開館時間 10:00~17:30(入館は17:00まで)
会場 半蔵門ミュージアム https://www.hanzomonmuseum.jp
   東京都千代田区一番町25
入館 無料
アクセス 東京メトロ半蔵門線「半蔵門駅」下車 4番出口(地上1階)左すぐ
東京メトロ有楽町線「麹町駅」下車 3番出口から徒歩5分
JR「四ツ谷駅」下車 徒歩15分

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