おとぎ話の世界を五感で体験!ドイツ・カッセル「Grimmwelt」に行ってみた

「楽活」をご覧のみなさま、こんにちは!

みなさんは、子どもの頃、『グリム童話』に触れたことはありますか?子育て経験がある方は、子どもへの読み聞かせとしてグリム童話集を手に取った経験のあることもあったのではないでしょうか?

世界で100以上の言語に翻訳されていると言われるグリム童話集を作成したヤコブ・グリムとヴィルヘルム・グリムにまつわる博物館が、ドイツ・カッセルにある「Grimmwelt(グリムヴェルト)」です。

今回は、ドイツ・カッセル在住の筆者が、カッセルのランドマークのひとつである「Grimmwelt」を実際に訪れ、その一部を楽活読者のみなさまへシェアしたいと思います。

「Grimmwelt」ってどんな場所?

ドイツ・ヘッセン州カッセルの街の中央に位置する「Grimmwelt」。

「グリム童話集」で有名な、収集家で言語学者のヤコブ・グリムとヴィルヘルム・グリムの2名を中心に、直筆の文書や自伝など彼らの功績や家族や周囲の人物、彼らの魅力的な人生、作品を紹介している博物館です。

グリム兄弟の生涯の作品に関する世界最大の展示センターとしても知られています。

日本では、グリム兄弟といえば、ドイツを中心とした口伝えによるおとぎ話を童話集としてまとめ、本にした人たちというイメージが強いかもしれません。ですが、ヤコブとヴィルヘルムの二人はドイツ語の辞書作成にも大きな功績を残しており、その功績についても展示されているという点が特徴です。

カッセルとグリム兄弟

グリム兄弟および家族は約200年前にカッセル(旧名:Cassel)を故郷とし、中断期間はあるものの彼らの人生の中で最も長い約30年住んでいたと伝えられています。

「Grimmwelt」では、グリム兄弟が当時カッセルでどんな生活をしていたかも楽しめるため、グリム兄弟の人物像を知る良い機会でもあります。特に、グリム童話集の挿絵を手掛けていたとされる5番目の兄弟ルートヴィッヒ・エミール・グリムによるスケッチ展示もありますよ!

ユネスコ世界遺産「世界の記憶」 

出入り口に掲示されている「世界の記憶」に関する記述(筆者撮影)

「Grimmwelt」には、2005年にユネスコの事業のひとつである「世界の記憶(※)」リストに登録されたグリム兄弟による手書きメモ、通称「子どもと家庭のおとぎ話のオリジナルハンドコピー」が展示されています。

「子どもと家庭のおとぎ話のオリジナルハンドコピー」は1812~15年にかけて作成され、ヤコブおよびヴィルヘルムによる手書きのメモと修正が加えられたものです。

貴重な文書が展示されているのも、「Grimmwelt」ならではだといえます。

※世界の記憶とは:世界的に重要な記録物への認識を高め、保存やアクセスを促進することを目的とし、ユネスコの事業の相称

カッセル在住の筆者が実際に「Grimmwelt」に行ってみた!

シールを見えるところに貼りつけ、コートと荷物を預けていざ出発!なお、ロッカーは1ユーロで利用可能です。

カッセルに引っ越して早3年。今までなぜか訪れることのなかった「Grimmwelt」に、今回筆者がドイツ人とともに潜入してみました。

「Grimmwelt」見学当時は日曜日。ドイツ語以外の言葉を話すさまざまな国の見学者が家族連れ、カップル、おひとり様問わず訪れていました。受付でもらった見学者シールを貼り付けて、いざ出発!

建物の屋上や売店、レストランはフリー!

館内受付の様子(筆者撮影)

「Grimmwelt」の屋上は、ちょっとした展望スペース。見学当時は雨が降っており天気が悪かったのですが、天気が良いと小高い丘からカッセルを一望できるスポットです。

屋上へは無料で行けますので、見学前後に訪れてみてください。

グリム兄弟がテーマなだけに、さまざまなグリム童話集も販売。この本は『言葉抜きのグリム童話』。タイトル通り、人物の表情とアイコンで読めるので言語がわからない人も楽しめます。(筆者撮影)

また、館内のレストラン「FALADA」やお土産屋さんも入場料無料で利用できます。ブランチからランチ、カフェタイムだけでなく、夏季はビアガーデンも開催していますよ!

お土産屋さんでは、さまざまなグリム童話集が販売されているほか、カッセルのご当地グッズも入手できます。カッセル観光のお土産にも困りません。

「Grimmwelt」常設展のオモシロ展示を厳選して紹介

中国の芸術家アイ・ウェイウェイのアート作品「木の根」。グリム兄弟の家族のツール、思考のルーツ、そして追求してきたゲルマン語のルーツを木の根に例えたアート作品だそうです。(筆者撮影)

グリム兄弟の文書などが保管されていると聞くと頭を使う博物館というイメージしてしまうかもしれません。しかし、「Grimmwelt」はグリム兄弟の生涯と作品に関する体験型展示が目玉です。

歴史的な文書やイラストはもちろん、現代の芸術作品や五感で体験できるインスタレーションなど、好奇心を揺さぶる多彩な展示の組み合わせ。探検心や探索的な学習、積極的な体験の場を提供しています。

上記に連動して、「Grimmwelt」では教育機関向けのワークショップやグリム兄弟を通した子ども向けの体験学習・イベントの場でもあります。

今回は、特に筆者やドイツ人同行者が面白いと感じた展示をピックアップしてご紹介します。

スタートがAではなくZから!?

WのつぎはV、O、XY……と、不揃いなアルファベットの並び方が斬新でした(筆者撮影)

展示は、グリム兄弟が編纂したドイツ語辞書にちなみ、Ä (アーウムラウト)からZまで25のアルファベットで構成されています。

しかし、パンフレットや案内板をよく見ると、見学順路はアルファベット順ではありません。

なんと、見学順路はグリム兄弟の功績を示す資料やメモ、テキストソース、ノートに合わせてドイツ語の「紙きれ、メモ、ラベル」などを意味する「Zettel」の頭文字「Z」からスタートしています。見学順路は必ずしもルートに沿う必要はなく、自分の見学したい順番で見ることも可能です。

グリム兄弟やグリム童話に影響されたアートも多数展示

複数言語に翻訳されたグリム童話。日本版はなんと1963年版と点字版の1978年の本が展示。ちなみに日本語版での最初の発刊は1887年だったそうです。(筆者撮影)

グリム兄弟に関するエピソードや、彼らが集めたグリム童話集に影響された現代アートが多数展示されている点も魅力的でした。全てを撮影できなかったため、今回は一部のみご紹介します。

シンプルなお菓子のおうち(筆者撮影)

例えばこちら。『ヘンゼルとグレーテル』に登場するお菓子の家を再現したアートです。

誰の家でしょうか?実は赤ずきんちゃんのおばあさんのおうちです!(筆者撮影)

奥には魔女が控えているのですが、回転させることで衣装デザインや表情を変えて遊べます。また、途中に登場するいばらの生垣は、おとぎ話の狭く生い茂った森を再現しています。

いばらの生垣の最奥にあるのは、『赤ずきんちゃん』に登場するおばあさんの家です。

このように、ただ文書や展示解説を読んで終わりではなく、実際に触ったり、声に出したり、聞いたりすることで、おとぎ話の世界を体験できるのが「Grimmwelt」のおもしろさです。

言語学者としてのグリム兄弟が知れる

グリム兄弟の歩みやドイツ語辞書の作成、彼らの死後の歴史などをアートで紹介(筆者撮影)

グリム兄弟は単なる”おとぎ話コレクター”ではありません。彼らは、ドイツ語の歴史においても重要な言語学者で、ドイツ研究の共同創始者とみなされています。

グリム兄弟は1838年に「ドイツ語辞書」を開発することに同意したという歴史があり、それにまつわる内容も展示で学習が可能です。童話を集めた兄弟というイメージが根強いグリム兄弟が、言語学者としてドイツ語の辞書作成に携わった人生を垣間見ることができます。

巨大なメガホンから聞こえてくるのは……?

展示室に突然現れる巨大なメガホン!中を覗いてみると……?(筆者撮影)

展示室内に突如現れる巨大なメガホンのようなもの。

ここに向ってなにか言葉を喋ると、何と聞こえてくるのは当時の”パワーワード”! グリム兄弟が辞書を編さんする際、カジュアルで生の、装飾のない単語(いわゆる汚い言葉達)も含めていました。ドイツ語でここに向って現代の”パワーワード”を投げかけると、当時の言葉で”パワーワード”が返ってくるという仕組みです。

ドイツ人たちは「あ、今僕たち/私たちが使っている”パワーワード”は、グリム兄弟が生きていた200年以上前も同じ言い方で使われていたんだ」などと言語の変遷を学べるため、面白がっているようでした。一方、「楽しさや興味深さについてイマイチ理解できない部分がある」というのが筆者個人の感想でした。

Grimmweltの楽しみ方

一般的な博物館のようにグリム家で使っていたであろう家具や筆記用具、アクセサリーなども展示されています(筆者撮影)

バイリンガル展示の「Grimmwelt」は、大人から子どもまで楽しめる工夫が施されています。

「Grimmwelt」の展示テキストはバイリンガル (ドイツ語と英語) です。現在では、Google翻訳も進歩しており、言語が苦手な方も気軽に展示品などを楽しめるようになりましたよね。

ぜひ、以下の楽しみ方を参考に「Grimmwelt」を見学してみてください。

【大人向け】じっくり自由見学

一般的な博物館などのように、常設展をじっくり自由に楽しむスタイルです。

「Z」のブースから順番に巡るもよし、自分の見たいところから見学するもよし。順路が明確に定まっていないぶん、自由に見学できます。

パンフレットにあるオーディオガイドのQRコード。自分のスマホに読み込めば、いつでもどこでもガイドが聞けます。

展示パネルだけでも楽しめますが、英語やドイツ語に自信がある方は、オーディオガイドを活用しましょう。パンフレットをもらうと、QRコードが印字されていますので、スマートフォンでQRコードを読み取ると無料のオーディオガイドが利用できます。

また、「Grimmwelt」公式サイトからもQRコードを読み取ることも可能です。ヘッドフォンを用意して、ぜひ見学時に役立ててください!

【親子向け】地図で巡ろう!発見を楽しむツアー

メガホンの展示パネル下にオレンジ色のマークが見えます。こちらが子ども向けの謎解きツアーの目印です!(筆者撮影)

親子で来館する方には、公式サイトでも推奨されている、地図を見ながら子どもと一緒に見て回るのがおすすめです。

順路のÄ (アーウムラウト)からZまで25のアルファベットと同じく、館内にはオレンジ色で各アルファベットで示されたグリム兄弟からのヒントがあちこちにあります。

受付で配布している地図を利用した、謎解き感覚で見学を楽しめる仕組みです。Google翻訳機能を使ったり、親御さんが英語やドイツ語ができる場合は翻訳してあげながら一緒に謎を解いても良いですね。

公式サイトでは常設展は6歳以上の小学生のお子様におすすめとしていますが、筆者が見学した日、館内には幼稚園から小学校低学年くらいの子どもたちも、たくさん来館していました。

『グリム童話集』に関する体験型展示が多いことが理由なのかもしれません。

【言語に自信のある方】ガイド付きツアーに参加

言語に自信のある方は、ぜひ常設展の予約制ガイドツアーに参加してみてください。

ドイツ語の他、英語・フランス語、イタリア語、ロシア語で催行しており、60分と90分コースがあります。グループツアーだけでなく、お問い合わせをすれば個人向けのガイドツアーやストーリーテリングも体験可能とのこと。

展示パネルやオーディオガイドだけでは得られない話も聴けるかもしれません。ぜひチャレンジしてみてください!

【教育機関の修学旅行プログラムにおすすめ】学生向けワークショップへ参加

 最近では、日本の学校や教育関係機関でも修学旅行先や研修旅行先に海外を選ぶことがありますよね。

「Grimmwelt」では、ドイツ語と英語、フランス語で学生向けワークショップも各種開催しています。

ワークショップでは、生徒たちがグリム兄弟の生きた時代のように、ペンとインクで手紙を書く、というプログラムがあります。

グリム兄弟の生きた時代に簡単に浸れるだけでなく、消しゴムや修正液・パソコン・スマートフォンなどと異なり、インクで文字を書くことが簡単ではないことを体験するというものです。

また、インクで文字を書くことの大変さだけでなく、グリム兄弟が当時、学者や作家、教授、友人との交流構築をしたことと同じように、「手紙に何を書くべきか」という質問に対する議論や学習も行えるそうです。

カッセルに来たら訪れたい!Grimmweltへ行ってみよう!

メガホンの展示パネル下にオレンジ色のマークが見えます。こちらが子ども向けの謎解きツアーの目印です!(筆者撮影)

今回はカッセル観光の目玉のひとつ「Grimmwelt」についてご紹介しました。

グリム兄弟の童話は、筆者も小さいころに何度も読んでいました。浅はかな知識ではあるものの、カッセルに住んでからというもの、おとぎ話の世界がカッセルの観光を支えていることがわかってきたことが、「Grimmwelt」に行く後押しをしてくれたのかと思っています。

なお、「Grimmwelt」の近くには、「グリム兄弟」と日本語で書かれた紙を貼り付けた場所があります。

なぜ日本人の少ないカッセルにこのような記述が日本語があるのかはまだわかっていませんが、グリム兄弟について研究されている日本の機関との接点があるのでしょうか。

そんなグリム兄弟ゆかりの地カッセルに、ぜひ遊びに来てくださいね!

「Grimmwelt Kassel」基本情報

所在地:Weinbergstraße 21, 34117 Kassel ドイツ
開場時間:火曜日~日曜日 午前10時~午後6時
     金曜日 午前10時~午後8時
休館日:月曜日
公式HP:https://www.grimmwelt.de/en/(英語)

アクセス:カッセル・ヴィルヘルムスヘーエ駅から市内中心部方面のトラム 1、3、または 4 番線に乗り、Rathaus 停留所で下車。標識に従って歩道を約7分進む。カッセル中央駅からRegioTram 1、4、または 5 でRathaus/Fünffensterstraße 停留所まで行き、下車。そこから標識のある歩道を約7分進む。

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