本を好きにさせてくれてありがとう。伊坂幸太郎さんのおすすめ小説5選

先日、大きめの本棚を買ったのですが、どうやら勝手に縮んでいるようです。どうして本は本棚に入りきらないんだろう? 真剣に悩んでいる、美術ブロガーの明菜です。

ギチギチに詰まった本棚を眺めると、伊坂幸太郎さんの小説が多いことに気づきました。好きなんですよね、伊坂さんの作品。15年ほど前に初めて伊坂さんの小説を読み、本を読む楽しさに目覚めました。

というわけで、今回は伊坂幸太郎さんの小説から、おすすめの作品を5つ紹介します。

伊坂幸太郎さんってどんな作家?

伊坂幸太郎(いさか・こうたろう)さんは1971年生まれの小説家。ミステリーを中心に、ユーモラスなキャラクターが活躍する作品を数多く執筆されてきました。

人が死なないミステリーはもちろん、銀行強盗やバラバラ殺人など恐ろしい事件が起こる物語でも、伊坂さんの紡ぐ話はどこかおかしく、どこか優しい空気をまとっています。売れに売れている作家ですし、著作も多数あるのですが、この記事では厳選した5冊をご紹介します。

①マイクロスパイ・アンサンブル

『マイクロスパイ・アンサンブル』は、2022年4月に刊行された待望の新刊。福島県の猪苗代湖を会場とした音楽イベント「オハラ☆ブレイク」で配布された小説をまとめ、一部書き下ろしを加えた作品です。イベントは年に一度、7年にわたって開催されたため、伊坂さんも1年に1作ずつ7年間執筆したそうです。

本作の主な主人公は2人。「松嶋君って、エンジン積んでないよね」と恋人に振られた社会人と、元いじめられっ子のスパイです。2人に接点はなく、別々にストーリーが進むのですが、読み進めるうちに違和感が。「そういうことか~!」と読者が察知したとき、2人の物語は交錯し、伏線を回収して互いの幸せに向かって収束していきます。

音楽イベント「オハラ☆ブレイク」に絡め、作品にはThe ピーズとTOMOVSKYさんの楽曲が取り入れられています。白い紙の上にキッチリ並んだ明朝体の文字を目で追っていると、突如として、〈飛び込んじまいたい空 気持ちいいぐらいなんだし この天気ならいいだろ 何もかも揃ってる〉など、太字の歌詞が登場! こうした仕掛けが作品に深みを持たせているような気がしますし、よくわからなくしているような気もするのですが、なんでもいーや、音楽に身を任せようと思える作品です。

②チルドレン

『チルドレン』は今まで伊坂さんの作品を読んだことがない人におすすめ!はじめての伊坂作品ならコレを推します。

『チルドレン』の主人公は、独特の正義感を持つ男、陣内。彼が大学生の頃の話と、家庭裁判所調査官になってからの話を集めた連作短編です。

陣内さんは型破りすぎるので、現実にこんな人がいたら困るのですが、伊坂ワールドにいると自然だし憎めないから不思議。例えば、少年事件を担当する家裁調査官は、面接などを通して非行をした少年少女のことを調査し、裁判官に報告するのですが、扱う件数が膨大なわけです。「早く事件を片づけろ」「少年犯罪のパターンは経験上分かるだろう?」と上司に言われた陣内さんは、少年少女のことを指して「あいつらは統計じゃないし、数学でも化学式でもない」「誰かに似ているなんて言われるのはまっぴらなんだ」と言い返します。

惚れ惚れする陣内さんの演説に、読者が「うんうん、そうだよね」と涙ぐみながら頷いたあと、しかしそれから10分も経たないうちに陣内さんは報告書に消しゴムをかけながら「いいんだよ、こんなのは。適当でいいんだ。少年なんてさ、みんなやることは一緒。ワンパターンなんだよ」と真逆のことを言い出し、読者も仰天。軽薄に感じられますが、彼には彼なりの人生哲学があります。陣内さんは現実世界にいたら困る人ですが、1冊を読み終えると、陣内さんのように生きられたら良いのに、と思ってしまうから不思議です。

『チルドレン』が気に入ったら、続編『サブマリン』もぜひ。家裁調査官の陣内さんが無双します。

③死神の精度

『死神の精度』は、担当する人間の死について「可」または「見送り」の報告する死神、千葉さんの視点で進む連作短編。人間に化けた千葉さんが1週間かけて1人の人間を調査する様子が描かれるので、読んでいると人間のほうにも愛着が湧いてしまうのですが、「可」になっても暗い気持ちにはなりません。ああ、この人の人生は素晴らしいものだったな、と感じられる美しい人生の終わり方が描かれているのです。

ユーモラスな伊坂節も炸裂。人間どうしの暗黙の了解がわからず、とんちんかんな言動を取ってしまう死神の千葉さんが面白いです。

例えば、自分がパッとしないことを気にしている女性が、「わたし、醜いんです」と言うと、千葉さんは「いや、見やすい」「見にくくはない」と返事をします。人の生死を扱う物語なのに優しい印象を受けるのは、こうしたユーモアがあるからかもしれません。

『死神の精度』がお好きな方は、続編『死神の浮力』もどうぞ。

④バイバイ、ブラックバード

『バイバイ、ブラックバード』は伊坂作品のなかで一番好きかもしれません。太宰治の未完の作品『グッド・バイ』に着想を得た小説です。主人公の星野くんは、〈あのバス〉で連れて行かれてしまう運命で、その前に5人の恋人たちに別れを告げたいと申し出ます。見張り役の繭美ちゃんとともに、それぞれの女性のところに出向き、別れ話を切り出すお話ですが……キャラクターが最っっっ高なんです!

星野くんは「これぞ伊坂ワールド」な飄々としたところがあるけど、めちゃくちゃ優しい男性です。ただし、優しすぎて交際を断ったり別れたりできないので、5人と同時に付き合ってしまう始末。

繭美ちゃんと結婚することになったから……という理由で女性たちに別れ話を切り出すのですが、この繭美ちゃんが曲者でして。図体が大きいし粗暴だし言葉遣いも荒々しいし、正直、他の5人の女性たちのほうが素敵なんです。星野くんと付き合っていた女性たちも、なぜ自分が振られるのかわからず唖然。

しかし、優男な星野くんと行動を共にするうちに、横暴な繭美ちゃんにも変化が表れて……。〈あのバス〉に連れて行かれる運命の星野くんはどうするのか、美しい結末が見事な作品です。

⑤フーガとユーガ

『フーガとユーガ』は、双子の兄弟、風我と優我が主人公の物語。ネタバレになりそうなので書けないのですが、2人には他の双子にもない特別な能力が備わっていました。本作はその能力を駆使して、邪悪な存在に立ち向かうお話です。

虐待やひき逃げ、お金や権力による犯罪のもみ消しを扱うので、本作はダークな空気をまとっており、『マイクロスパイ・アンサンブル』や『チルドレン』とは異なる路線の作品です。全体的に不幸な記憶の影がちらつくので、もしかしたら人を選ぶ作品かも。

ですが、鮮やかな伏線回収の手腕は見事ですし、ハッピーエンドでもバッドエンドでもない美しいラストはさすが伊坂さんです。現実には存在しない架空の特殊能力を、現実世界を舞台にしたミステリに馴染ませているので、特殊設定ミステリとしてもレベルの高い作品です。

伊坂ワールドに浸ってください!

伊坂幸太郎さんのおすすめ作品を5つ紹介してきました。伊坂さんは悲惨な事件を題材にすることがあるのですが、可哀想さが作品の前面に出ることはなく、弱い立場にいる人の強さを感じられるのが素晴らしいです。独特なユーモアでキャラクターをリアルに描いているからでしょうか。

『オーデュボンの祈り』『アヒルと鴨のコインロッカー』など、他の作品も面白いです。新刊『マイクロスパイ・アンサンブル』をはじめ、伊坂ワールドに身を委ねていただければと思います。

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