蓼科の山奥でジャズを聴く機会がありました。
山奥と行っても、かなりの本格的な高地。本格的な粉雪が楽しめる「ピラタス蓼科スノーリゾート」まであと少しのところにある、1700mもの標高にあるペンションがライブ会場です。雲海の絶景を見ることができるほどの場所です。
以前もここのライブで、あるジャズシンガーが、空気が薄いので声が出なくて歌いにくいとおっしゃっていました。空気の薄さをそんな風に感じるのはさすがプロだな……と感心しました。そんな歌手の力量が試される場所でのライブについてのお話です。
人の温もりが感じられる距離感が心地よい「天空のライブ」
「天空のライブ」と聞くとどんなイメージが湧きますか。モダンで洗練された感じ?
ミュージシャンの熱い演奏もさることながら、ここの居心地の良さは持ち寄りパーティのようなアットホームな雰囲気。大きな薪をストーブにくべ、揺らぐ炎の下、お客同士の距離が近いのです。
持ってきた食べ物飲み物自慢をきっかけに、見知らぬ人との距離がぐぐっと縮まります。まさに一期一会。食べ物やらを隣のテーブルに回しているうちに、しだいに安心感のある気持ちのよいファミリアーな雰囲気が漂ってきます。
もし、何も持ってなくても隣の席から何かは回ってきますよ。
今はコロナ対策で、間隔を取るためのアクリルボードも設置され、人数も制限されていますが、その上でマスクしながら楽しく隣とおしゃべりが始まります。感染対策をしつつも、楽しむ気持ちは変わりませんね。
ここで開かれるライブのジャンルはジャズを中心に、沖縄の音楽だったりアコーディオンだったり様々でし。でも、そんな雰囲気が好きな常連さんが多いようです。その上、楽器を弾ける方が多く、時折、即興のセッションが始まることもあります。
壁や天井には、ミュージシャンのサインが所狭しと落書きのように書き込まれています。11月は、ニューヨークで長年活躍しているジャズギタリストとピアノの弾き語りの女性シンガーの二人のパフォーマンスでした。
そして、何よりも「天空のライブ」を特別なものにしている特別な秘密が、ここにはありました。
一期一会のライブに特別感を添える、蓼科高原の絶景
その秘密は、この場所に着くまでの行程にあります。
車を走らせ、徐々に都会の喧騒から離れて八ヶ岳を望む蓼科高原にたどり着くと、鹿や狸の赤ちゃんの群れに出会ったり、ラファエロの天井画のような夕焼け、降るような星空を見たりして徐々に気分が変わっていきます。
会場に着く頃には、すっかり心が解きほぐされ、その上で行われるライブは観客との間で特別な感情が交錯して会場全体に特別の一体感が生まれるようです。特に今回は、コロナ禍でお客さんの前での演奏の機会を奪われたミュージシャンが、観客と向き合って演奏できる喜びのようなものが滲み出ていて、一層特別でした。
終了後、ミュージシャンも観客も、ライブ会場となっているペンションにそのまま宿泊することができます。ライブの後も、時間を気にすることなくゆっくりとミュージシャンと話をすることができます。
そんなこともこの「天空のライブ」の根強い人気の秘密なのかもしれません。しばらく親しく話し込んだ弾き語りの女性シンガーの方から、別れ際に、「あなたに会えてよかった。あなたに会うためにここに来た気がする。」と言われました。
普通は演奏してくれた人に会えて嬉しいのは観客の方です。でも、ミュージシャンから、そんなふうに観客の一人に対して心からのメッセージをくれるなんて、びっくりするほど素敵ですよね。
初めての経験でした。
日頃、嫌なことはいっぱいあるはずなのに、そんなことはすべて忘れてしまいました。人間の心の動きは不思議です。心理の仕事をしていても、不思議なことばかりです。
そんな素敵なライブ会場を営んでいらっしゃるのは、写真に仲良く映ったお二人。最初は、照れて距離を取っていらしたのですが、私からのリクエストに「僕ら仲良し夫婦です。」とおっしゃって、肩に手を回されてこのお写真となりました。
客席は30ほどですので、採算は取れているのやら?
この記事が少しでも貢献できると嬉しいなぁ。
参考情報
天空のライブハウス「ペンションピラタス2」
https://2.p-pilatus.jp/