オフィス街にアートが並ぶ「丸の内ストリートギャラリー」をレポート!

東京駅の丸の内口から近い「丸の内仲通り」はオフィスに、ショッピングや食事に多くの人が訪れます。また、季節を感じさせる街路樹やプランターの花々があり、冬になるとシャンパンゴールド色に輝くイルミネーションが通りを彩ります。

丸の内仲通りは19点の彫刻を展示する「丸の内ストリートギャラリー」としても知られています。街を歩きながら、思いがけないアートとの出会いを楽しみ、アートからなにかを見つけてみませんか。

約1.2kmのアートギャラリー誕生から50年

丸の内仲通り

「丸の内仲通り」はJR東京駅を通る線路と平行に、晴海通りから永代通りを結ぶ約1.2kmの通りです。「丸の内ストリートギャラリー」として彫刻が設置されたのは1972年、今年2022年は50年目になりました。

丸の内ストリートギャラリーは芸術性豊かなまちづくりを目指した、三菱地所株式会社と公益財団法人彫刻の森芸術文化財団が丸の内仲通りを中心に現代アーティストの作品と彫刻の森の所蔵作品を展示したものです。

ビルの軒が高さ31mに揃い、開放感があふれる

芸術作品を美術館やギャラリーではなく、街中や公園などに設置したものを「パブリックアート」といい、現在では芸術作品を屋外で見かけることはあたりまえのようになりましたが、1972年にはとてもは新しい試みだったのです。

2022年6月に12作品を入れ替え現代作家による新作5点を加え、継続作品2点の合計19点が展示され、この展示は2025年5月まで続く予定です。

細長いケヤキの葉、手のひら型のアメリカフウの葉

道には落ち着いた色調の石畳が敷き詰められています。歩道と車道の石畳は方向が異なり、交差点付近には石が円形に並んだところもあります。街路樹にはケヤキをはじめカツラ、アメリカフウ、シナの木などの落葉樹が植えられ、新緑、紅葉と季節を感じさせてくれます。

7m幅の歩道にベンチがうれしい

丸の内仲通りの道幅全体は21m、中央の車道は幅7m、両サイド歩道の幅もそれぞれ7m、大きなベンチがあっても歩道はゆったりしています。

さまざまな国の作家の作品に出会えます。さあ、作品に会いにいきましょう。

JR東京駅丸の内北口でクマが迎える

三沢厚彦「Animal 2017-01-B2」2017-2019年/ブロンズ、塗料

この彫刻は、JR東京駅と丸の内仲通りをつなぐ場所に立っています。丸の内北口改札を抜け、横断歩道を渡った先にある「丸の内オアゾ」の前でストリートギャラリーへと迎えてくれます。

足先や台座にも鑿跡

高さ3m、ほぼ等身大のクマが立ち上がり威嚇する姿には迫力があります。目は中心部の黒から青、金色、縁には赤が塗り分けられています。像全体に木を刻んだ鑿のあとがあり、ブロンズ像ではありながら、木のぬくもりを感じました。

作者・三沢厚彦(1961年、京都府生まれ)は2000年からクスノキを素材に動物をテーマにした「アニマルズ」シリーズを生み出し、実物とは異なる独自のリアリティーを追求しています。

緑豊かな憩いの場所「一号館広場」

バラとツワブキが咲く、一号館広場

「丸の内」はかつて東京湾の一部でした。江戸時代には入江を埋め立てて大名屋敷を建て、明治時代には陸軍の施設が並び建ち並びました。19世紀末になると日本初の本格的オフィス街が整備されて、赤煉瓦のビル街は「一丁倫敦(いっちょうロンドン)」、1914年に東京駅が完成して鉄筋コンクリートの大型ビルが林立すると「一丁紐育(いっちょうニューヨーク)」と呼ばれました。

2010年にオープンした三菱一号館美術館の建物は、1894年に竣工し、1968年に解体した丸の内で最初のオフィスビル「三菱一号館」を復元したものです。美術館の前に広がる「一号館広場」には建物・庭園を設計したジョサイア・コンドルが母国イギリスをしのんで植えたバラをはじめ、サクラやコブシなどの花が咲き、緑が多く憩いの場所になっています。

ヘンリー・ムーア「羊の形(原型)」1971年/ブロンズ

「羊の形」というタイトルから、親子の羊が首を垂れて草を食んでいるように見えます。作者ヘンリー・ムーア(1898~1986年、イギリス生まれ)はイギリスを代表する彫刻家です。ムーアは手のひらにのるほどの雛型を粘土や石膏でつくり、気に入ったものを拡大して「原型」にし、そのうちいくつかの作品は2~5mの野外作品にしています。この「羊の形」は高さ5.7mに拡大されて、ロンドン北部にあるヘンリー・ムーア財団法人の屋外に展示されています。訪ねてみたいですね。

バーナード・メドウズ「恋人たち」1981年/ブロンズ

植え込みの小径には、ムーアの最初のアシスタントでもあったバーナード・メドウ(1915~2005年、イギリス生まれ)の作品があります。丸みを帯びた形はムーアの影響を思わせます。鏡のような表面には周りの木々や建物が写り込んでいます。「恋人たち」というタイトルからは、どんなイメージが膨らみますか。

アギュスタン・カルデナス「拡散する水」1977年/カラーラ産白大理石

作品は三菱一号館美術館の入口に近く、ベンチに囲まれた植え込みにあります。ベンチに座っていても作品に気がつかない人もいるかもしれません。作品はどこから見るかによって形が異なって見えます。撮影時には強い日差しがあり、影が模様のようにも見えますが、真っ白い大理石の作品です。なにか生き物のように、じわじわと動き始めそうです。アギュスタン・カルデナス(1927~2001年 キューバ生まれ、フランス国籍)。

2022年に新たに加わった作品たち

中谷ミチコ「小さな魚を大事そうに運ぶ女の子と金ピカの空を飛ぶ青い鳥」2022年/ブロンズ、塗料

2022年6月から加わった新作5点から一号館広場に近い3作品を紹介しましょう。

あれ、何かが動いたような、誰かが通り過ぎたような、不思議な気持ちになる作品です。女の子がスカートを持ち上げて、水のなかの魚をそろりそろりと運んでいます。作品を見みながら、一歩ずつ移動してみてください。女の子がゆっくり向きを変え、表情も違って見えます。そっとそっと作品に近づくと、ちょっと秘密が見つかります。

作者・中谷ミチコ(1981年、東京都生まれ)はインタビューで「アーチ型の構造にすることで、見る人の視野が都市から切り離され、一枚の真っ白な紙に描かれた絵の中の人と出会うように彫刻と鑑賞者が一対一になるような場をつくりたかったんです」と話しています。台座のアーチ型のところに立って体験してみてください。

舟越桂「私は街を飛ぶ」2022年 ブロンズ、塗料

大きな瞳が印象的な彫像です。木彫作品が多い作者・舟越桂(1951年、岩手県生まれ)は屋外に置くために初めてブロンズに着色して仕上げました。左から見るとほほの紫色や肩と首の青色が凛とした表情をより引き締めているようです。等身大よりも大きく、大人が向き合える高さに置かれているので、なにか言葉を発するように思えて耳を傾けてしまいました。

頭の上には、教会、並木、本がのっています。インタビューで作者は「記憶や思い、人が抱えながらいきていくものを表したいと思って、これらのモチーフを選んだ」と答えています。

名和晃平「Trans-Double Yana(Mirror)」2012年 アルミニウム 

銀色の泡状のものから、抜け出そうとしているかのように踵を持ち上げ、指を指す方向を凝視したポーズは、現実とヴァーチャルの間を揺れ動く存在を問いかけています。タイトル「Trans」は、「向こう側へ・別の状態へ」を意味します。名和晃平1975年、大阪府生まれ)はさまざまな素材と技術を用いて、彫刻の定義を柔軟に解釈し、表現を続けています。今回の展示にあたって台座を新調したそうです。この場所には丸味のある、この高さが重要なのです。

冬の風物詩、シャンパンゴールド色に煌めく

約120万の電球がシャンパンゴールド色に灯る

恒例の「丸の内イルミネーション2022」は21年目を迎えました。約1.2kmの丸の内仲通りを中心に、丸の内エリア内の340本を超える街路樹がシャンパンゴールド色のLED約120万球で輝きます。

ハンギングバスケットが華やかさを添える

夕日が落ちる頃、イルミネーションを目指して、多くの人が集まり、ストリートギャラリーも昼間とは違って見えてきます。

ストリートギャラリーの昼と夜

パヴェル・クルバレク「ニケ 1989」1991年/鉄、塗料
パヴェル・クルバレク「ニケ 1989」1991年/鉄、塗料

高さ7mの像はフランス・ルーブル美術館所蔵の「サモトラケのニケ」(勝利の女神像/紀元前190年頃)をオマージュした作品です。ルーブル美術館のニケは羽を後ろに向けていますが、クルバレクのニケは羽を上に上げて、そのまま真上に上がって行きそうです。写真は同じ作品の昼と夜の光景です。

クレバレク(1928~2015年 チェコスロバキア生まれ、スイスに移住)は鍛冶屋の7代めだから、鍛冶の技術で古典的で抽象的な彫刻を表現できると、語りました。

ルイジ・マイノルフィ「巨大な町」1987年/ブロンズ

体格のよい人物、クマのようにも見えますが、古代イタリアに発想を得て制作されました。近寄って見ると、窓状や扉形のような模様や穴がたくさんあります。昼間は穴から木漏れ日が差し込んでいます。

街に小さな灯りが満ちる

夜は作品の内側から光を発して、穴からもれる明かりは、後ろのビルの窓明かりとともに、あたたかさを感じさせてくれます。

マイノルフィ(1948年、イタリア生まれ)は、この作品で第5回ヘンリー・ムーア大賞展(1987年、美ヶ原高原美術館)の優秀賞を受賞しました。

レナーテ・ホフライト「凹凸のブロンズ」1989年 ブロンズ

これも見る方向によって見え方が異なる作品です。ていねいに磨いたブロンズの表面に周りの風景が映りこんでいます。

夜は作品と向かい合う店舗のネオンサインを取り込んでよりカラフルになりました。

作者のホフライト(1950年、ドイツ生まれ)は、風景を凹んだところに光学的に縮小・反転して映し出し、作品と周りの景色が一体になることを意識して制作しました。

丸の内界隈に6つの美術館

丸の内ストリートギャラリーはいかがでしたか。アート作品との出会いはありましたか。

ここでは10作品を紹介しましたが、全部で19点の作品が展示されています。歩くだけなら15分ほどの丸の内仲通りですが、季節を感じながら散策を楽しみましょう。平日は11~15時、土日・祝日は11~17時に車道が通行止めになるので、おすすめです。

また、丸の内界隈には6つの美術館があり、「東京駅周辺美術館」として情報を発信しています。6館は、アーティゾン美術館、出光美術館、三井記念美術館、三菱一号館美術館、東京ストリートギャラリー、2022年からは静嘉堂@丸の内が加わりました。丸の内ストリートギャラリーと合わせて美術散歩はいかがですか。

関連情報

丸の内ストリートギャラリー  https://www.marunouchi.com/lp/street_gallery/

丸の内イルミネーション2022 2022年11月10日(木)~2023年2月19日(日)(予定)
点灯時間15:00~23:00、12月1日(木)~31日(土)は15:00~24:00(予定)

東京駅周辺美術館連携 https://6museums.tokyo/

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