【顔面学講座②】「東大寺の大仏殿の観相窓」~仏像の顔を見比べる楽しみ~

あけましておめでとうございます。

新年ということで、今回は縁起のいい「仏像の顔」をテーマにお話します。初詣で神社や仏閣に行かれた方も多いと思いますが、お寺に行かれた方は仏像をご覧になりましたでしょうか。

池袋絵意知の「顔面学講座」で「いい顔」の一年に!

私の新年は毎年、年が明けてすぐのまだ暗いうちに奈良の東大寺に参拝します。その後、東大阪市の石切劔箭神社(いしきりつるぎやじんじゃ)、枚岡神社(ひらおかじんじゃ)と参拝し、枚岡山展望台に上って大阪の夜明けを見て、また奈良方面に戻っては、南下して飛鳥地方の橿原神宮に参拝。

年によっては、奈良でもう1泊して翌日も奈良の寺社に参拝や、宇治に足を伸ばして翌日は京都。また、西宮や神戸に足を伸ばすこともありますが、基本のこのコースを必ず参拝するのが2013年から10年続けている元旦のルーティンとなっています。

東大寺大仏殿は元旦の午前零時より八時まで入堂無料

年に2回だけ開かれる大仏殿の観相窓

大仏といえば東大寺の「奈良の大仏」を思い浮かべる人がもっとも多いと思います。修学旅行等で行かれた人もいるでしょう。東大寺大仏殿の正面には観相窓(かんそうまど)という小さな扉がついていて、普段、この扉は閉じられています。

年に2回だけこの観相窓が開かれる日があり、それが元旦の0時〜8時、そして盂蘭盆(うらぼん)の最終日である8月15日の夜のみ開いた窓から大仏様のお顔を拝顔することができるのです。

大仏殿(金堂)に入って至近距離で大仏様の大きさを感じるのも良いですが、冬の凛とした空気のなか、世界最大級の木造建築である大仏殿と一体となった大仏の顔を見ると、秘密の窓が開かれたようなプレミアム感とも相まって「ありがたい」気持ちになります。

元旦の東大寺大仏殿。中央の観相窓が開かれ大仏様のお顔が見えます
観相窓から見える大仏様のお顔。自然とありがたい気持ちに。

時代によって違う仏像の顔

みなさん「仏像の顔」というとどんな顔を思い浮かべるでしょうか?「おだやかでやすらぎを与える顔」という人が多いと思いますが、この顔は平安時代の仏像に多い顔です。

仏像の顔は時代によって傾向があります。鎌倉時代に作られた仏像には「男前」が多く、興福寺(奈良県)の阿修羅像は、ほっそりとした輪郭に涼しげな目、そしてちょっと困ったように眉を寄せた憂いを含んだ表情をしています。

その顔はまるで永遠の青春スター、ジェームス・ディーンを連想させる美少年顔です。身体も細身で上半身は甲冑(かっちゅう)もなしでほぼ裸。その姿はコンサートで上着を脱いで踊るジャニーズのタレントのようでもあります。

仏像の目線も造られた時代によって違っています。だんだん上から下に下がってきて、江戸時代の仏像の目は人を見下すような目線になっているのであまり人気がありません。

如来(仏陀)の顔

仏の階層には下から順に「天部」「明王」「菩薩」「如来」とあり、最高レベルの「悟りを開いた者」である「如来(仏陀)」の顔には多くの特徴があります。

  1. 眉間の少し上に白毫(びゃっこう※ホクロではなく白くて長い毛を巻いたもの)がある。
  2. まつげが牛のように長い。
  3. 瞳が青い。
  4. 螺髪(らほつ)というパンチパーマ風の髪型。頭の上の髪の毛を束ねたように盛り上がった部分は「肉髻(にっけい)」という。
  5. 上唇の溝(人中の真下の部分)が発達している。
  6. 舌が長く自分の顔全体を舐めることが出来た。
  7. 耳たぶに穴が開いている。
  8. 二重顎。
  9. 歯が40本ある。
高さ約15メートルの大仏「東大寺盧舎那仏像(るしゃなぶつぞう)」(国宝)

東大寺の仏像

では、実際に東大寺に安置されている仏像の顔を写真とともに見ていきましょう。

奈良公園のほうから歩いてきて最初にある南大門の左右には一対の巨大な金剛力士像(仁王像)があり、国宝となっています。

建仁3年(1203年)造立でそれぞれ高さ8メートルを超える大きさ。口を開けた阿形(あぎょう)像、口を閉じた吽形(うんぎょう)像があり、阿吽の呼吸の「阿吽(あうん)」もサンスクリット語「a-hum」からきていて、口を開けた「阿」は「物事の始まり」、口を閉じた「吽」は「物事の終わり」を表現しています。

東大寺南大門の仁王像:阿形像(国宝)
東大寺南大門の仁王像:吽形像(国宝)

仁王は仏の階層では一番下の「天部」に位置し、言わば「仏教の守護神」にあたります。階層が1つ上の「明王」は、救うのが難しい厄介者を怒りで導く役割があるために怒った顔をしていますが、仁王も寺の門番として眉を上げて目を見開いた威嚇するような表情をしているのかもしれません。

奈良の大仏、東大寺の大仏、大仏の代名詞である盧舎那仏像(国宝)

白毫がくっきりあります。ウルトラセブンの額のビームランプはこれを参考にしたのかもしれません。
目は半目が開いているというよりは薄目を開けているように見えます。牛のように長いまつげは確認できません。上唇の溝はくっきりしています。

仏教と観相学

盧舎那仏像(見る角度によって印象が変わる)

斜め横から見るとわかりますが、鼻は高いけども頬が盛り上がってはおらず、平坦な感じです。日本人のルーツと言われる縄文人と弥生人。縄文顔の四角い輪郭と角張ったアゴ、弥生顔の平坦な顔と細い目を組み合わせたような顔です。

耳たぶに穴が開いているのがわかります。また、耳がかなり下のほうにあるのもわかります。私の観相学では人格者の顔相と見ます。

東洋の観相学は仏教と深いつながりがあるので(達磨大師が「面壁九年」で壁に向かって九年間坐禅を組み、顔と性格や資質の関係について悟りを開いたと言われています)、仏を人間的な姿で像にする際に観相学を使ったのかもしれません。

大仏から左回りで見ていきます。

虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)像

二重顎というか、アゴが角ばっているのがよくわかります。眉は長くアーチ型で眉尻がとても下がっていて女性的な雰囲気があります。

廣目天(こうもくてん)像

目が吊り上がり、口角が下がって怒りを内に秘めたような顔です。

増長天(ぞうじょうてん)像頭部

戒壇院四天王像のうち広目天像と多聞天像は、江戸時代の大仏殿諸仏再興の際に完成したが、増長天像と持国天像は頭部のみが残った。

持国天(じこくてん)像頭部

増長天像よりも持国天像のほうが、眉が上がっていて、小鼻が膨らんでいるのがわかります。観相学的には持国天のほうがより血気盛んでバイタリティはあるのですが、瞬間湯沸かし器のように頭に血が上りやすいと見ます。

持国天像頭部を横から

大仏(盧舎那仏像)と比較すると耳の位置が上のほうにあるのがわかります。大きな耳たぶがありますが、人類学的には南方系縄文人の特徴です。彫りの深い立体的な顔も縄文人の特徴です。

多聞天(たもんてん)像

濃く太い眉や太い鼻など縄文人の特徴があります。広目天同様、怒りを内に秘めたような顔です。

如意輪観音(にょいりんかんのん)像

大仏の向かって右にある如意輪観音(にょいりんかんのん)像。大仏の左にある虚空蔵菩薩坐像と顔は全く同じように見えます(如意輪観音像が白毫の出っ張りが短いだけ)。

東大寺大仏殿の外に出ると進行方向左側にある賓頭盧尊者(びんずるそんじゃ)像

なんとも不気味なビジュアルですが、病人が患っている箇所と「びんずる様」の同じ個所を撫でると病気やケガが治ると言われています。

※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、当分の間、賓頭盧尊者像に触れることは禁止され、2022年1月現在は手前に立入禁止の柵が設けられています。

口が半開きで上の歯がハッキリ作られていて、よく見ると笑っているようにも見えます。赤ずきんで隠れている眉や頭がどうなっているのか気になります。

いかがでしたでしょうか。

仏像の顔は、正面からだけでなくいろんな角度で見ると新しい発見があります。

ぜひ、仏像のお顔で癒されてくださいね。

最後に仏像イラストレーター&文筆家で、丸の内はんにゃ会(女子の仏教サークル)代表、奈良市観光大使を務める田中ひろみさんに「好きな仏像の顔」をうかがったところ、「東寺の帝釈天さま」です「目がきりっとしていて鼻筋が通って、シュッとしてるところが好き♡」とのことでした。

関連情報

イラストレーター田中ひろみのオフィシャルホームページ
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関連情報

「池袋 絵意知の顔面学講座」は月1回の連載シリーズ。他の連載記事はこちらです。あわせてお楽しみください。

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