和巧絶佳展レポート!令和時代の精鋭若手工芸家12名が集結した、日本の工芸力の底力を体感できる画期的な展覧会!

パナソニック汐留美術館で、現代工芸の最前線で活躍する若手工芸作家を特集した特別企画「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」が開催中。

展覧会では、陶磁器、ガラス工芸、漆芸、金工、染織など多彩な分野で活躍する12名のアーティストを順番に紹介。照明をぐっと落として落ち着いた展示空間の中で、各作家の個性と技巧を思う存分楽しみながら、工芸の面白さ、可能性を味わうことができる画期的な展覧会となりました。

楽活では、開催前から本展に着目。出展作家も出席した内覧会を取材してきましたので、展覧会の魅力や見どころについてレポートしてみたいと思います!

和巧絶佳展で展示されている12名のアーティストとは?

和巧絶佳展で特集されている12名のアーティストは以下の通り。

・安達大悟
・池田晃将
・桑田卓郎
・坂井直樹
・佐合道子
・髙橋賢悟
・舘鼻則孝
・新里明士
・橋本千毅
・深堀隆介
・見附正康
・山本茜

各工芸分野において、将来を嘱望されている錚々たるメンツが揃いました。現代工芸が好きなアートファンなら、思わず「凄い!」と唸ってしまうようなラインナップでしょう。

橋本千毅「螺鈿”鸚鵡”」

もちろん、「一人も知らない・・・」という方でも大丈夫。現代工芸といっても、難解さはありません。ひと目見ればその洗練された美しさや手仕事の緻密さがストレートに伝わってくるような作品揃いなので、工芸初心者の方でもしっかり楽しめます。まさに楽活のテーマとする「はじめの半歩」を踏み出すためにふさわしい展覧会になっています。

それでは、早速その展示の見どころを紹介していきましょう。

展覧会の3つの見どころ

1)繊細かつ驚異的な手仕事!日本工芸の底力を感じよう!

山本茜『截金硝子長方皿「流衍」』

まず展覧会場に入って気付かされたのは、驚異的な手仕事によって成し遂げられた作品だけが持つ繊細な美しさ。和巧絶佳の「巧」にあたる部分ですね。たとえば、こちらは山本茜さんの『截金硝子長方皿「流衍」』という作品。海のような青さがじわじわと心に染みる素敵な作品でした。

しかし、この幾何学形の現代的なオブジェには、とんでもない繊細な手仕事が隠されていたのです。試しに、部分的に原寸大以上に拡大してみましょう。

山本茜『截金硝子長方皿「流衍」』部分拡大図

すると、現れたのは無数のキラキラした金箔でつけられた極細の線。これは、鎌倉時代の彫刻などでもおなじみの「截金」(きりかね)という手法です。何重、何百もの金箔の細密な直線を丹念にガラスの中に埋め込んでいくのは、途方もなく時間がかかる大変な作業。まさにこれぞ日本人がDNAとして受け継いだ「超絶技巧」ですよね。

橋本千毅「”蝶”」

こちらは、漆工芸作家・橋本千穀さんの制作した蝶のオブジェ。写実的な造形はもちろん、手作業で1枚1枚張り込まれた、羽根の部分の精密な螺鈿細工に注目。瑠璃色に輝く鱗粉1枚1枚が、手作業で張り込まれています。

わずか数センチ四方の作品に対して、とてつもない工数をかけて作り込まれているのがわかります。人を驚かす粋な仕事が尊ばれた江戸時代、殖産興業の柱として国を挙げて技術力向上に励んだ明治時代などを経て、細密工芸が、日本伝統の職人技として現代のアーティストにもきっちりと受け継がれているのだな、としみじみ拝見していました。

深堀隆介「百舟」

続いては、アクリルで表現された水槽の水の中に、まるで生きているかのような金魚を描く深堀隆介さんの作品。2018年に巡回した「金魚絵師 深堀隆介展 平成しんちう屋」 巡回個展で、その人気を不動のものとしました。筆者もブームに沸く平塚市美術館に駆けつけ、現場の熱気を肌で実感した一人でもあります。

今回、本展のために深堀さんが用意した新作の中で一際目を引いたのが、水面の揺れる水面を表現したこの部分。

深掘隆介「百舟」水紋部分の拡大図

水面に舞い降りた落葉によって波紋が水面の四方へと静かに広がっていくまさにその決定的瞬間をリアルに表現した傑作。深堀さんの新境地です。そこで、このアクリルをどうやって表現したのだろう?と思ってお聞きしてみました。

「ひたすら、アシスタントと一緒に1週間ずっと紙やすりでこすり続けて水面に凹凸をつけ、水紋を表現しました。ものすごく大変でしたね。もう2度とやりたくないです(笑)」

と、答えてくださいました。涼しい顔をして笑いながらさらっと話して下さいましたが、一つの表現にこだわって、単純作業をひたすら1週間続けるという作家のプロ意識を感じました。

髙橋賢悟「flower funeral -cattle-」

こちらは髙橋賢悟さんの作品。2017年、三井記念美術館で開催された「特別展 驚異の超絶技巧! -明治工芸から現代アートへ-」で監修を担当した山下裕二先生も、当時髙橋さんの作品を大絶賛。超絶技巧工芸マニアもこれに反応し、アートファンの間で髙橋さんは大きく知名度を伸ばしたのでした。

髙橋賢悟「flower funeral -cattle-」各部分拡大図

見て下さい、この圧倒的な作り込み。

作品を構成する無数のパーツ一つ一つは、型にアルミニウムを流しこんで「鋳造」されています。それを聞いただけでもクラクラとしてしまいそう。どれだけの根気と技術が必要なのか計り知れません。

是非、会場のやわらかなLEDライトの下で実物を直接見てください。徹底的に作り込まれた一つ一つの花模様や、鈍色に淡く輝く素材の繊細な美しさを堪能できます。

特別な鑑賞眼も事前知識も不要で、誰にでもすぐにその凄さが体感できる「超絶技巧」系作品は、まさに工芸展ならではの醍醐味。精魂込めて作者が作り上げた力作に出会えると、それだけでなんだか嬉しくなってしまいます。

2)日本的美意識とモダンな感覚が融合したスタイリッシュなデザインが凄い!

展示風景・新里明士さんの作品群

続いて感銘を受けたのが、「和」の伝統的な文様やモチーフを大切にしつつも、非常にスマートかつスピード感のあるデザインに仕上がっていた作品の数々。

新里明士「穿器」部分拡大図

新里明士さんの作品で非常に驚かされたのが、中国陶磁の伝統技法「蛍手」の再興を追求する中で生み出された洗練されたマットな質感。

これ、どう見てもプラスチックにしか見えないですよね?僕の家族や友人にも画像を見せてみましたが、「えっ、これやきものだったの?!」と驚かれました。

小さな穴が連続的に並んだミニマムなデザイン、伝統的な陶磁器らしからぬ釉薬のモダンな色使いで、まるで高級プラスチック樹脂製品のような雰囲気をまとった逸品。良い意味で、陶磁器の野暮ったさや古臭さを完全に振り払った凄い作品だと感じました。

続いては、金属工芸作家・坂井直樹さんの作品。

坂井直樹『「侘び」と「錆び」のカタチ』

一見地味に見えますが、非常に高度かつ忍耐力の必要な「鍛金」(鍛造)という技法で制作されています。幾何学的に構成された図形によるシャープなイメージと、鉄の表面に浮いた錆の効果による枯れた美しさが同居する不思議な作品です。

茶道具や壺といった典型的な古美術品のように床の間でもフィットしますし、洋間やリビングなどのカジュアルな空間でも違和感なく寄り添えそうです。

こちらは、見附正康さんの九谷焼の大皿です。江戸後期以来、伝統的に細密線描で美しくうつわを彩る九谷焼の赤絵を、現代的なセンスでアート作品へと昇華させた達人です。

展示風景・見附正康さんの作品群

その最大の見所は、見附さんのインスピレーションから生み出される独自の細密文様。大皿の中にぎっしりと埋め尽くされた緻密な描画は、本当に見ごたえがあります。

せっかくなので、ぜひ展示ケースギリギリまで寄って、細部を鑑賞してみて下さい。要所要所では日本の伝統的な文様が取り入れられつつ、複雑で幾何学的なパターンの文様が規則正しく整然と描かれています。

見附正康「無題」部分拡大図

見附さんが凄いのは、この周到に計算されたかのような秩序だったデザインを、全くの下絵なしで完成させるところ。その場でひらめいた着想に基づいて、製作中に絵柄を変更することもよくあるそうです。焼き上がるまで、ご自身でもどんな作品が出来上がるのかわからないという、スリリングな制作工程も面白いなと思いました。

続いては、未来的な世界観で漆・螺鈿作品を作り続ける池田晃将さんの作品。

池田晃将「Neoplasia-engineering」

図録に収録されたアンケートで、感銘を受けた作品として「2001年宇宙の旅」「風の谷のナウシカ」「攻殻機動隊」など、異世界や近未来をテーマとした映画やアニメからの影響を全く隠そうともしない池田さん。その近未来的でSF的世界観を色濃く反映したような作品群は、「サイバーパンク螺鈿」と呼ばれることも。熱心なファンに支持されています!

https://twitter.com/yam_pet/status/1287996352618668033

また、展覧会がオール撮影自由だからこそ楽しいのが、SNS上に溢れているアートファンの感想。サブカル通からも絶賛されている池田さんの作品は、アートファンの垣根を超えて、若い人からも注目されているようでした。まさにSNS時代らしい支持のされ方ですよね。

3)作家の個性が爆発!伝統を超えたアートの力!

現代は「アート」と「デザイン」の境目が曖昧になってきているといいますよね。同様に、現代アート、現代工芸の世界では、もはや「工芸」と「アート」の境界線はほぼなくなってしまったと言っても過言ではありません。

少なくとも、本展で集められた作品群は、生活の最前線でヘビーに使い倒してなんぼ…といったコンセプトとは対極にあるような作品ばかり。「工芸」というよりは完全に「現代アート」のカテゴリに入るといっても過言ではありません。

そこで、最後に、作家性が100%前面に出たような、面白い工芸作品を一挙紹介。どれも強烈なインパクトがあるので、作品が置かれることによって空間の雰囲気がガラッと変わってしまうような力を持っていました。

桑田卓郎「茶垸」

16世紀以来茶人たちに圧倒的な支持を受けてきた美濃焼の志野茶碗にルーツを求めながら、超現代的な感性で伝統の表現技法を完全に換骨奪胎してしまった作家が桑田卓郎さん。

見て下さい、この超ビビッドな色彩と装飾!ショッキングピンクのド派手な色彩に器面に、ほぼ反対色となるマリンブルーの大粒の水玉が無数に埋め込まれています。美しさと気持ち悪さが同居した異色すぎる器に度肝を抜かれました。

もしこのうつわを四畳半の茶室に持ち込み、お茶を点ててみたら面白そうですよね。かつて黄金の茶室、黄金の天目茶碗でお茶を頂いたという豊臣秀吉も真っ青なアヴァンギャルドな体験ができそうです。

続いては、安達大悟さんの染色作品。折り畳んだ生地を木の板に挟んで染色する「板締め絞り」という技法で制作された壁面5面を使った大きなインスタレーションです。

安達大悟「つながる、とぎれる、くりかえす」

こちらも、池田晃将さんの作品同様、非常に現代的でデジタルなイメージ。整然と横一列にリズム感をつけて染め抜かれた布をじーっと全体を見ていると、人間の染色体のパターンや半導体チップの配線のようにも見えてきます。

続いては、斬新なデザインの靴やバッグなどの革製品で、世界を驚かせる作品を作り続けている舘鼻則孝さんの、巨大なかんざしのインスタレーション。

舘鼻則孝「Hairpin」

人間の血の色でもある、生々しさが漂う真紅を基調として、無数の散り椿のフィールドに巨大なかんざしが突き刺さるように立て掛けられたインスタレーション作品。

潔く美しいまま散りゆくことをよしとする武士道の美学に、かんざしが象徴する日本女性のしなやかな美しさが加わり、絶妙の味わい深さでした。りんとした美しさの中にも一抹の寂寥感が見いだされ、その場でじーっと言葉にならない味わい深さを堪能させて頂きました。

最後にご紹介したいのが、本展の展示フィナーレを飾る佐合道子さんの陶芸作品。生命が生々しく脈動しているような有機的なかたちが非常に印象的。

佐合道子「玉華蓋付飾壺」

決して「ばえる」タイプの直接的な美しさを持っている作品ではありません。生き物を直視したときに感じる、ある種のグロテスクさも含めて、リアルな命のカタチが陶磁器で再現されているのです。

佐合道子「脈打つ」(左)、「還る」(右)

佐合さんいわく、「ある動物に見えたり、なにかの植物に見えたり、人間の内臓に見えたりと、見る人によって自由に解釈して頂けるよう、敢えて抽象的なかたちを作っています」とのこと。乳白色で統一された釉薬の効果もあって、僕には、「はるか昔に絶滅してしまった謎の古代生物」みたいに見えました。ぜひ、自由にイマジネーションを羽ばたかせて鑑賞してみてくださいね。

写真撮影自由!展覧会場を出たあとでも楽しい!

本展は、なんと展示作品が全て撮影自由。これは嬉しいですよね。好きな作品があれば、どんどん撮影してSNSで拡散してOKだそうです。特に、工芸は立体作品なので、角度によって見え方が全く違ってくることも多いはず。お気に入りの角度から、ガンガン激写してしまいましょう!

そうそう、ミュージアムショップでは、各作家ゆかりのグッズが用意されていました。中でも印象的だったのは、板締め絞りの面白さが詰まった安達大悟さんの作品。庶民にも手が届く手頃な価格で購入できるのも嬉しい!

ミュージアムショップでは、安達大悟さんのグッズが多数揃っています!

まとめ:令和時代の工芸の最前線を俯瞰できる稀有な機会。オススメです!

本展を見終えて改めて感じたのは、現代工芸シーンの最先端で活躍する作家の絶妙なバランス感覚でした。古来から伝わる日本的な美意識や伝統技術をベースに、現代的なセンスや自らの作家性をしっかり融合させていく。そうして各作家が研究と研鑽を重ねて作り上げた個性豊かな作品には、ひと目見たら忘れることができない強烈なインパクトやスタイリッシュな美しさが宿っていました。

本展は、お気に入りの作品をSNSでシェアしたり、気になる作品を徹底的に掘り下げて鑑賞したりと、初心者から上級者まで様々な楽しみ方ができる展覧会となりました。

現代工芸という、一見とっつきにくそうに見えるジャンルの作品をわかりやすく、かつ洗練されたスタイルで魅せてくれる素晴らしい展覧会です。ぜひ「実物」を至近距離で味わってみてくださいね!

展覧会基本情報

展覧会名:特別企画「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」
会場:パナソニック汐留美術館
会期:2020年7月18日(土)~9月22日(火・祝)
公式HP:https://wakozekka.exhibit.jp/

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