東名御殿場インターから車で約25分、箱根の国立公園内の森にたたずむ、ポーラ美術館
モネやルノワールなど印象派の作品を中心に、国内外の名作およそ10,000点を所蔵する人気の美術館です。

コンセプトは『都市の美術館にないものを。』
美術館の建物は、自然の光と森の緑をたっぷりと感じる開放的な空間。
美術品を単に鑑賞するだけでなく、空間そのものが美しく、優雅なひとときが楽しめます。

筆者は、国内外・大小問わずたくさんの野外ミュージアムを訪ね歩いた、無類の野外ミュージアム好き。
今回訪れたポーラ美術館は、アート好きな人はもちろんのこと、自然や森の散策が好きな方にもおすすめしたい素敵な場所です。所蔵品の紹介だけではない、森と生きる美術館そのものの魅力をご紹介します!

光と緑で完成する、森と共存する建造物

御殿場インターから箱根町に向かう森のワインディングロードを車で走ること約25分。
ポーラ美術館の正門前に到着です…が、車道からは美術館の建物はほとんど見えません。
それもそのはず、地上部分の高さは周りの木々に合わせた地上2階地下3階の5層からなる建物。展示室のほとんどは地下に造られています。

エントランス以外の建物はほぼ地下にあります

自然に優しい建造物は人間にも優しいのです。
建物の壁が視界を遮らないので、箱根の山々や森や空が遠くまで見渡せます。
美術館でありながら、まずは「あぁ、箱根にきてよかった!」とぐるっと辺りの山々を見渡したくなる、まさに『都市の美術館にないものを』のコンセプトどおりのたたずまいです。

エントランスからは下りエスカレーターで中に入ります

エントランスに入ると、大きな透明ガラスの屋根が出迎えてくれます。室内にいるのにまるで屋外テラスにいるような解放感!青い空と箱根の山の緑、それが映える奥に伸びる白い壁。ここからはじまる名画との出会いの期待感と相まって、ワクワクがとまらない演出です。

ロビーにあった模型で全体を確認してみました。
傾斜地を掘り下げて、地形と一体化するように設計されているのがわかります。

右手の高いところが正門のある車道側

さて、今回は名画鑑賞の前に優先していきたい場所があります。
ロビーでチケットを購入したら、一旦建物の外へ戻ります。

冬ならではの森の遊歩道を歩く

ポーラ美術館の魅力の半分は、美術館周辺の自然にあると思います。

箱根の国立公園内にあるこの美術館は「箱根の自然と美術の共生」を念頭に立てられています。自然にとけこむ建物、元々ある自然をできるかぎりそのまま生かした遊歩道は、実際に歩いて堪能しなければもったいない!

そこで今回は『野外彫刻マップ』を見ながら、美術館周囲の遊歩道をゆっくり時間をかけて歩きます。紙のマップを館内でもらうか、スマホで美術館のサイトを検索して遊歩道の散策マップを手に入れて、野外彫刻作品の紹介を見ながら歩きます。

森の遊歩道『野外彫刻マップ』

全長約1km、所要時間約40分の遊歩道は、ヒメシャラやシャクヤクなどの植物や、たくさんの野鳥が暮らす森。運が良ければ野うさぎやリス、鹿などに遭遇できることもあるそうです。

多様な動植物が生息する自然豊かな森

箱根といえば、桜やつつじなどの春と紅葉の秋がベストシーズンと言われます。私が訪れた1月は、通常ならばこのあたりは雪でおおわれていたり、道路が凍結して通行規制がされていたりする標高の高い場所ですが、暖冬のこの冬は戸外でも暖かい日が多く、森の散策にはぴったり!

遊歩道のあちこちに全部で25もの彫刻作品が点在していますが、落葉し下草も枯れた冬の時期は屋外鑑賞の妨げがないので、遠くからでもよく見えます。地図を頼りに彫刻作品を鑑賞しながら歩くのは、オリエンテーリングのポイント探しに似ています。
時間を忘れて楽しく歩くことができますよ。

森の中には彫刻作品が点在しています

野外展示の魅力は、作品の背景に映りこむ木々や緑、季節や時間によって変わる陰影など、作品そのものだけでなく、周囲の環境も一緒に堪能できる点にあると思います。

天然光により光の当たり方が刻々と変わり、作品の表情も豊かに変化していくので、いつ行っても何度行っても新たな発見ができます。

風の音や森の匂い、踏みしめる砂利や落ち葉の感触など、自分の持つ感覚の全てを使って味わうことができる芸術鑑賞体験。空調の整ったガラスケースの中の作品を鑑賞するのとは違う、素敵な時間になること請け合いです。

森の中は手つかずの自然の雑木林に見えますが、実は作品を効果的に見せるために下草刈りや枝打ちなど、『森の守り人』と呼ばれるスタッフのみなさんが、こまめなメンテナンスをしているそうです。作家の意図・森の持続可能性・来場者の安全などさまざま考慮をしながら、日々の地味で丁寧な作業が、この自然の展示室を守っているのです。

作品の見え方まで考慮した森づくり

冬は背の高い落葉樹もすべて葉が落ちているので、うっそうとした森でも、この時期は日差しが降り注ぐ明るい中を歩くことができます。夏場と違って虫やヘビに遭遇することも少ないですしね。

枯れ木の森は空が近い

この遊歩道、美術館の外周に設計されているので、なんと入場無料!
車でお越しの際は駐車料金が500円/日かかりますが、駐車場から直接遊歩道に向かうこともできます。

せっかく自然豊かな箱根に来たのですから、観光名所やお土産屋さんだけでなく、ぜひ自然に触れる森の散策も楽しんでいただきたいです。

森を愛でるカフェで腹ごしらえ&休憩タイム

森の遊歩道を約1時間かけて散策したので、ここで館内に戻ります。
受付を抜けてエスカレーターで降りると、外光が降り注ぐ、森の散策の続きのような場所にカフェ『チューン』があります。

カフェで歩いて疲れた身体をリフレッシュして、後半の名画鑑賞に備えます。
(B1Fのカフェとミュージアムショップは入館者のみ。1Fのレストランはチケットがなくても利用可能です。)

先程散策した森を眺めながらのコーヒータイム

コーヒーを楽しみながら、受付でいただいたパンフレットで展示作品の予習をして、いよいよ名画とのご対面に出かけます!

モネもピカソもゴッホも!名画が一堂に会する圧巻の展示室

ポーラ美術館にはモネやルノワール、ピカソなど日本でも人気のある作家の作品が数多く収蔵されています。
印象派のコレクションもたくさんあります。さすがは光や自然をテーマにした美術館だけあって、光の魔術師と言われるモネのコレクションは国内最多の19作品!
ひとつのフロアの中にモネとマティスとピカソとゴッホ、ルノワールやドガまで加わる贅沢な空間です。

私の今回のお目当てのひとつは、モネの『ルーアン大聖堂』。
モネは生涯でフランスのルーアンにある大聖堂の絵を30枚以上描いていますが、そのうちの1枚がここポーラ美術館にあるのです。

ルーアン大聖堂(1892年/油彩)

ルーアンは、私が2022年にフランス旅行中に車で訪れた思い出深い場所。
大聖堂前には「モネが大聖堂を描いた場所」というポイントが表示されていました。
屋外にキャンバスを持ち出して描いていたことで知られるモネが、実際にこの場所に立ち、この角度から描いていたことに感動し、いつかモネの描いたルーアン大聖堂を、実際にこの目で観たいとひそかに願っていたのです。

『モネはここで描いたんですよ』的な説明が描かれた看板

フランスで密かにいだいた願いが、地元箱根で叶うとは思っていませんでした、大満足!

企画展『モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン』

『モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン』(一部の作品を除き館内は撮影可能)

現在、ポーラ美術館では企画展『モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン』が開催されています。(会期2023年12月16日(土)~ 2024年5月19日(日))

企画展にあわせた、レストランとカフェの期間限定メニューも、ここを訪れる楽しみのひとつ。画家が好んだメニューやゆかりの地の名産など、毎回趣向を凝らしたメニューが用意されています。

今回カフェでは「モダン・タイムス・イン・パリ 1925」展とコラボした『「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」スイーツプレート』、レストランでは『企画展コースメニュー 「1925-パリの街角」』が提供されています。

『モダン・タイムス・イン・パリ 1925 ― 機械時代のアートとデザイン』

楽活ライターの明菜さんが以前の企画展でのレストラン体験記事を書いてくれています。
『ルドン ひらかれた夢ー幻想の世紀末から現代へ』(2018年7月~12月開催)
https://rakukatsu.jp/pala-museum-20180806/

いかがでしたか?
今回は、ポーラ美術館の、特に美術館周辺にスポットを当ててご紹介しました。

私の地元、箱根をはじめとする富士山周辺には、芸術と自然の両方を満喫できる素敵なスポットがまだまだたくさんあります。
地元民ならではの視点で、ガイドブックでは紹介されていない穴場をこれからもご紹介していきたいと思います、お楽しみに!

ポーラ美術館 基本情報

所在地〒250-0631 神奈川県足柄下郡箱根町仙石原 小塚山1285
電話番号0460-84-2111
開館時間午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
入館料大人¥1,800、大学・高校生¥1,300、中学生以下無料
駐車場500円/日
ホームページhttps://www.polamuseum.or.jp/
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