湯河原ワイド劇場PartⅢ~秘境にたたずむ隠れ家にて。おくゆがアジール、読書のスゝメ。
漆黒の珈琲もまた読み物。

ここは秘境、奥湯河原。観光客が周辺の小田原、箱根、熱海などにほどよく散っていってくれるおかげで喧騒から離れた穴場でもある当地には、ちょっとふしぎなカフェがたたずんでいる。その名は、cafe haku(カフェ ハク)

しっとりと風情ある自然に抱かれた奥座敷アジール、隠れ家と呼ぶにふさわしい。閑静な場所柄とも相まって、何ともいえないふしぎな感じのする一軒である。親しみを込め、愛称はおくゆがアジールで決まりかもしれない。通常、カフェと名のつくお店はアルファベット表記がアクセント付きで”café”が常であるところ、アクセントなしでcafeというのもまたレアである。

バスは前回に引き続き、相変わらず駅前から奥湯河原行きに乗車。前回の不動滝のさらに先である。
目指すはこのまちのどん詰まりにして秘境。乗客の少なさの割に日中は15分間隔で便がある。
地図上では前回の不動滝よりさらに奥になる。藤木川もすっかり山奥の渓流の様相を呈してくるころ、いよいよ秘境にやってきた感も2倍増し以上に増幅する。
乗客も少ないバス。奥湯河原に近づくにつれ、ついに乗客が自分一人だけになった。秘境へ向かい、ぐんぐん進んでいく。
藤木川のどん詰まりにしてバス経路のどん詰まり、バス停奥湯河原。いよいよ秘境にやってきたというわけである。
cafe hakuのある山道梺。これより湯河原パークウェイとなり、箱根へと抜けていく。
周辺には年季の入った奥湯河原温泉郷の案内看板も佇み、こいつがまたいい味を出してなかなかニクい。
湯河原パークウェイを進んですぐに、このたびの穴場cafe hakuが見えてきた。
ユニークな八角形がポイント。オクタゴンである。
cafe hakuのエントランス部分。訪れる人に入ってもらいやすいよう、ドアをALL見えない仕様ではなく半分をガラス窓にし、中が見えるようにしたという。
ドアを開けてすぐに飛び込んでくる、木の温もりと窓からのダイナミックな映りこみ。一枚の素敵な絵葉書のような窓は周辺の緑を大胆に写し込む。この大窓を前に写真を撮るお客さんは多く、店内フォトスポット的存在となっている。
自然との一体感も十分。おくゆがハグ独占である。新緑の時期に緑が萌えるのは言うまでもない。
おくゆがハグ独占席を確保。この日は貸し切り状態であった。
窓越しに臨む藤木川はこの通り。

オープンした理由は「暇だから」!?cafe hakuあらかると。

ドアを開けた瞬間、出迎えてくれるのはふわりといい香り。そしてそれに違和感なく乗っかるようにして、ゆるやかなボサが流れていた。

そんな独特の空間からサッとナチュラルにお姿を現わしたのは、店員の木平(きひら)さん(男性)。やわらかい物腰に、あたたかく親しみやすい笑顔が素敵だ。

今年(2024年)1月にオープンしたcafe haku。お店は木平さんお連れの渡辺さんという方との家族経営だという。このたびこの地でカフェを始めたきっかけを伺うと、「暇だからカフェでもやるか~」なノリで奥湯河原でお店をやる方向になったというので驚きだ・・・!

「湯河原、穴場だと思いますよ」。元々東京で暮らしていたという木平さん。人混みが嫌いだという木平さんご自身、落ち着いた湯河原が肌に合ったと話す。

「暮らしが少しお洒落になる」雑貨や食器類も取り扱われている店内。なるほど確かに共存するモダンとクラシックのふしぎな空間に仕上がっている。
窓席側から見た店内。この日は貸し切り状態だったが、土日はやはり多少混むという。

店内を流れる、ゆるめのボサと相まっておくゆがゆるっと時間独占だったこの日。とはいえこれは平日金曜だからこそ。「土日はやっぱり(お客さんが)たくさん来てしまいますから」と木平さん。開店当初は土日のみの営業だったが、3月から金土日営業がスタートしている。今年1月にオープンした新しいお店とはいえ、やはり穴場の隠れ家を知る人は知るということだ。随時演奏会なども開催される一方、湯河原が文豪の街であることを踏まえた上で、「いずれ本のあるお店にしたいと思っています」と木平さんは話した。

店内奥には船の模型も展示されている。入口にある模型ともども、一緒にお店をやっている方のお父様が7年もかけて創られたという。ひとしきり拝見しているだけでも相当模型作り好きであることが伝わってくる。
足元にもぽちっと灯る温もり。こうした温もりある灯りづかいが、やわらかな店内をつくり出していた。
こちらがメニュー。最近になり試作品だったオムライスもついにメニュー化されたという。加えてアップルケーキはバニラ付きでパワーアップした。
しっとりした秘境での、しっとり濃厚なベイクドチーズケーキ。音楽を乗せ、運ばれてくる。
食べ物、飲み物ともども昔ながらの喫茶店をモチーフにしているというメニューにはキーマカレーも健在。大きめのお皿に盛られたボリュームはなかなかのもの。空腹は最高の調味料、来店時の腹ペコレベルはMAXに近いレベルで来て間違いない。
かねてよりカレーとたまごは摩訶不思議関係にあるが、このキーマにおいても上に乗った卵の黄身をほぐすと魔法がとろけ出るようにカレーに溶けだしていった。味はマイルドなピリ辛。ふんだんに使われた玉ねぎと挽肉、カレーとの絡みがよく、歯ごたえも含めたウマ味が沁みる。
カトラリーもホワイト×ゴールドの素敵配分。やさしい温もりを落とす店内の灯りがきらめく。持ち手部分が長~く、持ちやすい。
出される水もこんな素敵なオシャレボトルでやってくる。女性ウケもかなりよさそうだ。

読書との蜜月タイムー深煎り、両者の蜜月関係

ここでおすすめしたいのが読書だ。日常の喧騒から離れ、スマホをしばしオフにしてかばんの中へしまいこむ。そうしてネットやIT機器とはしばし距離を置き、何者にも何事にもジャマをされず、いよいよ解放的に珈琲と活字との蜜月タイムを愉しむのだ。
そんな時間を意識して持つようになってから暫くの時が経ったいま。このたびアジールへ持参した一冊本の「使い方」(出口 治明 著)にもあるように、「読む」という行為が好きかどうかは、ひとつの嗜好かもしれない。

漆黒の珈琲もまた読み物。

「食後に一杯飲みたいでしょうから」。キーマを食したあと、あたたかなひとことを添えられてふたたび運ばれてきたhakuブレンド。この一杯は食後にサービスで出しているという。ケーキセットのときとは一風変わり、こんどはまた違うティーカップでそれはやってきた。お皿ともども、フチ部分に装飾されたゴールドとエメラルドグリーンが上品に煌めく。

ゆるやかな昼下がりの、ゆるやかなボサ。お店側のやさしい心づかいにふたたび癒され、同時に実家にあったものと同じティーカップ(これまた湯河原ワイド劇場、思いがけぬ再会もまたミステリーである)に親近感を覚えつつカップに唇を添えると、ここでの秘境時間が珈琲の漆黒に溶け出していった。珈琲もまた、お店から差し出された読み物だ。

つづいて、本を開く。本、新聞、週刊誌などの雑誌、インターネット。これらは文字の情報源としておもなものだが、どれも読むためのメディアでありながらその役割や得意技が違っている。どれがよくて、どれが悪いということではない。このたびの一冊でも、各媒体の違いを述べた上で特性ごとにそれぞれをうまく使い分けていけばいいと言及されている。本について著者は趣味として読む場合のほか、まとまった知識を得るために読む場合があり、あるジャンルについて体系的に勉強しなければいけないときも本を活用しているという。これには個人的にも同感である。

便利な一方、情報の取捨選択難易度が意外と高いインターネット。他の媒体に対しその速報性はピカイチで、世界のどこでいま何が起きているかが瞬時に分かるようになった。電波が届くかぎりいつでも、どこでも情報が取り出せるようになったことは大変便利だが、一方で断片的、表面的な浅い情報しか取得できていない上、ヘタしたらそれで全部を分かったような状態にも陥りかねない危うさも孕んでいる。

この記事は、誰が、どういう目的でどういう人に向け発信されているのか?

果たしてこれは本当なのか?

誰でも簡単に情報発信ができる時代になったいま、自分の頭で考え、判断すること、自分で考える力をつける訓練自体がいっそうもとめられるようになった。玉石混交の情報ハイウェイ化しているネットにおいては、正確性の乏しい情報も多々流れている。もちろんネットにも良質な内容の記事はあるが、こうしたデメリットも十分留意の上、信頼できる情報ソースを見極める賢さも必要だ。

 

それに対し、本はあらかじめ情報量が一定に絞られた形で入ってきてくれる。紙媒体ならではの得意技として印象に残りやすく、同じ内容でも味わいや認識力を深められる点もネットとはひと味もふた味も違う。ネットにありがちな広告類もないぶん、読んでいる途中で画面いっぱい突然の広告出現に「うわぁ」とジャマされることもなく、最後までストレスフリーで読める優しさも嬉しい。

ネット記事も文字を読むことには変わりないのだが、ゆったりと腰を据え、一枚ずつ紙のページを質感を確かめるようにしながら捲る本は体感的にも印象に残りやすい。ネット記事は重々にして読むというよりはササーッとうわべだけを舐めるように画面を追いがちではないかと思う。内容をほとんど噛み砕かず、「なんか、つまらないな」と思ったらすぐに切り捨てられてしまう。同じ活字には違いないのだが、ネット記事読みと読書では「読む」に対する向き合い方そのものが違うため、得るものも違ってくる。

文字通り穴場、おくゆがアジールでの心地よい穴にすっぽりおさまった私は、ひそやかで自由な世界での読書を通し、同じ「読む」でも紙媒体を読む行為と画面を読む行為はやはり違うように感じた。腰を据え、内容が腹に落ちるまで何度でもじっくり咀嚼できることこそが紙媒体の最大の持ち味ではないだろうか。深い見識をもつ著者によって書かれた良書であれば著者の思考のプロセスや感覚など他者の世界を疑似体験・追体験し、質のいい教養や認識力、思考の枠組みを手に入れたり、考えるきっかけを与えてくれる。

それにしても、本と珈琲はつくづく相性がいい。誰が最初に考えたのか、ベーコンンエッグやハムたまか? はたまたチョコとクッキーか??というレベルで抜群の組み合わせだ。いずれにしても長年連れ添った夫婦のような蜜月関係には違いない。

本と珈琲、両者の切っても切り離せない関係が、おくゆがアジールにおいてさらに密になる。この蜜月関係に深入りならぬ深煎りする中、珈琲の向こう側にあるお金以上の価値へのまなざしをいま一度呼び起こされ、私は丁寧に本を読み込んでいった。

それぞれの窓から臨む藤木川。窓側は特等席と言わずして何というだろうといった秘境独占席である。こちらは橋も映りこみ、おくゆがアジール度が高い。

静けさや、秘境にたたずむ、秘密基地(by 詠み人知らず)・・と詠みたいところだが、じっさいには前回触れたとおりの水量をもつ藤木川。奥湯河原に近づくにつれ渓流の呈をなしているとはいえ、変わらずその水量のゆたかさは健在である。隠れ家での閉め切った頑丈なガラス窓を隔ててもその流水音、せせらぎというよりはなかなかのザザーぶりだ。でもこれがうるさいと思わないのもまた秘境のなせる業なのだろう。(私自身もまた、この環境と波長が合うためかもしれない)。店内に流れるゆったりボサと相まって、うるさいどころか終始ふしぎなゆるやかさに満ちた川時間が流れていた。

指針の定まらないいまのような時勢と情報化社会だからこそ、意識して読書との蜜月時間をもつといいように思う。しずかな秘密基地での、しずかなる読書。読書との蜜月時間は、未知の世界を静かに開示し、考察を深める優しい導き手になってくれる。

本とともにお腹がいっぱいになると、私はふたたび大きな窓に目をやった。この窓にも奥湯河原の四季折々の姿が巡るのだ。

未知の2F部分やいかに・・・!?

お店を入ってすぐのところには2Fへつづく階段が。このたびトントントン・・と上がらせていただいた。

かたや2F部分。1Fの設えも十分素敵だが、お店には2Fもある。「それこそ本を置くか、何にしようかなぁ~と考え中です」と木平さんは話した。

このたびは了承を得た上、未だ考え中だという2Fがどうなっているか、拝見させていただいた。

階段部分の途中に設置されたスピーカー。お店のゆるやかBGMの出どころはここである。
リラックス度全開の2Fフロア。スパにしようかとも考えているという。
窓辺にはこのリラックス空間で座ったが最後、起きられないであろう椅子もあった。そして・・・
そんなリラックス空間の一角にはまたまた未知の扉が。これはどうなっているのだろうか。
ガラガラガラ・・・おお・・!?
おおお・・・!?
おおおおお~・・・!

ということで扉の向こうに現れた布団。窓辺のカーテンを開けると、やはりここからも清流が臨めた。これは・・・もしかして今後宿泊できる方向にも・・!?思わず伺うと、これは時折カフェのお手伝いに来てくれるというお知り合いの方が泊まっていけるようにしているという木平さん。遠くから来てこちらでしばし過ごしたあと、避けられない「さてもう帰らなきゃ・・・」のしんどさを思い、一泊できるよう布団を用意してあるということだった。納得のしんどさに、やはりあたたかいお心づかいである。

最後いま一度2F全体を見渡す。改めて一望しても温もリラックス度は十分には違いない。

いやはや、今後の可能性が楽しみになる2F部分。店内をあちこち移動するタイプの人、静かにくつろいでいたい人、はたまた長時間濃厚自分時間に沈潜する私のような人間もいるように、顧客もいろいろであることを踏まえた上で未だ保留中だという。

そして、やはりオクタゴン・・・見上げると改めて造りが八角形であることを確認できる2Fの天井にファンはついていなかったが、代わりに脳内ファンが今後への期待値MAXでぶん回った。ちなみにお店のメールアドレスにもオクタゴンの文字がある。

掲載許可をいただき、今後2F部分も含めたお店全体がどうなるか、あたたかく見守っていきたい思いとお礼のご挨拶とともに、このたびはお店をあとにした。木平さんご自身そのものがこのお店のサーモスタットのようでもあることから、今後2F部分も含めた全体の温度を察知しつつバランスのとれた素敵な一軒になるのではないだろうか。そんな気がした。

終わりに

このたび取り上げた湯河原の観光スポットのひとつに、西村京太郎記念館がある。近年になり、コロナ禍を機に閉館がつづいている。再開を願う西村京太郎ファンの声も多く、氏のご存命中にお目にかかることの叶わなかった私自身もまた当館の復活を願ってやまない。飾らない、素朴で温厚なお人柄に直に触れるとともに、これまでの作品などについてもぜひ取材に伺いたかった。今後当館関係者とも連絡がつき、再開が分かった暁にはぜひ取り上げたい。

文豪たちを抱いてきた湯河原。街には今回取り上げたような新しい風が続々と吹き込みつつあるが、そのふところは静かでお忍び感があり、閑静でひっそり、しっとりとした落ち着きに満ちている。湯河原の見どころについて世間で多々聞く「温泉以外はっきり言って何もない」というお声も、言い換えれば誰にも何にも邪魔されず、しずかな自然との蜜月タイムを持てる穴場と言えそうだ。それこそが文豪たちを惹きつけて離さなかったのだろう。いいお湯も沸き、食べ物はウマい、その上で年間を通し温暖な気候にも恵まれているともなればなおさらではないだろうか。まさに文豪たちがペンをとるにふさわしい秘境といえそうだ。

静かなる威厳のようなものを随所に放つこの街の空気感に触れると、なぜ湯河原が文豪たちに愛されるのかが分かった気がした。周辺の箱根、熱海といった観光地に客足が散っていってくれるおかげでいつも混みすぎない、コテコテに観光地化しすぎない。ふところ奥湯河原を源泉とするような閑静さはそのまま創造との蜜月タイムでもある。これほど創造に打ってつけの街はないかもしれない。地味で落ち着いているからこその隠れ家的な魅力は、繰り返しおとずれていよいよそのよさが分かる街でもある。

湯河原シリーズ1本目「サスペンスドラマに見る世相と新しい風」につづき、私自身、湯河原ならではのふところを慕い、同時に書き手でありながらいっこうに進まない筆を急かすべく、このたびは当地へとやってきては材を取った。隠れ家での読書との蜜月時間も含め、来た甲斐があったということは、徐々に構成や文章がまとまりを見せてくること、それが加速をつけていくことにも現れていた。ひとたび執筆のリズムに乗ってしまえばこちらのもの。記者として「スイッチが入った」状態である。うまいこと「乗れたな」感覚を掴んだら、この執筆リズムを見逃さないようあとは一気に書き上げていく。そうして入稿当初わずか数百文字足らずだったほどの文章に次第に肉がつき、徐々にでも確実に加速をつけながら2000字、4000字・・・となってゆく。文豪たちに愛され続けてきただけの地であり、やはり周辺には閑静な自然以外余計な雑音などは何もないというところが功をなしたかもしれない。結果、筆と向き合う時間を密にし、執筆との蜜月時間にもなった次第である。しっとりと濃厚なひとときであった。

氏はこの街の再建の槌音を天国でどんな思いで聞いているだろうか。亡き西村京太郎氏にもうお逢いできないのは残念でならないが、終の棲家として湯河原の地を選んだ氏の思いに自らの思いをかさね合わせるようにして当地を巡ると、文体に宿るままの氏のあたたかい人格に触れているような気もした。

こちらはヤマメ解禁の立札だが、「熱海・湯河原殺人事件」では鮎解禁の立札が出てくる。作品内ではこうした地元描写が抜かりなく、さすがお膝元。

なお、小説がはじめてという方にもぜひ一度、氏の鉄道ミステリーを一読していただきたい。スッキリとわかりやすい文体は氏のあたたかい人格を宿しており、初心者の方にもやさしい。また、本記事で取り上げた「熱海・湯河原殺人事件」においては、氏のお膝元湯河原だけに、駅周辺から地元の描写があるがまま描かれており、読みながら見事に光景がうかぶ一冊である。氏の鉄道ミステリーは鉄道ファンにも人気を博しているが、これは湯河原探訪の手引きとしてもおもしろい一冊でもあるように思う。(作品には湯河原PartⅠでも触れた土肥なども出てくる)。ちなみにPartⅠ冒頭で湯河原ゆかりの人物 土肥実平が小早川秀秋を輩出した件に触れたが、「熱海・湯河原殺人事件」で事件のカギを握る登場人物名もまた小早川である!

作品はスッ、スッと読み進めていきやすく、「第六章 襲撃」あたりに差しかかると「おぉ~~!」。サスペンス緊迫感がスピーディに増幅されてくる。登場人物たちの間に交差する疑心暗鬼。随所にその存在が見え隠れするものの、最後までなかなか分からない真犯人。そして、唸るラスト。西村サスペンスともに、当記事でも触れた湯河原にも親しみながらぜひご一読いただければと思う。

時代の移ろいの中、私自身もまた、自分の言葉でものを書く仕事に就いている。人生もまた、ミステリーだ。敢えて箱根や小田原、熱海を外し、素朴な人間味が濃厚な湯河原のふところに飛び込みに来てみてはいかがだろう。湯河原行きがはじめてという方にも、本記事が一助になれば幸いである。

♪トゥルルル、トゥルルル、トゥルルル・・・(西村京太郎鉄道ミステリー路線紹介BGM)

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