アート

古都鎌倉にある古美術ギャラリー「Quadrivium Ostium」を訪ねて、古美術とのつきあい方、楽しみ方を伺いました!

古美術と聞くと、美術館や古美術店のガラスケースに並んでいるもの、床の間に飾ってあるものというイメージをお持ちかもしれません。古都鎌倉の古美術ギャラリー「Quadrivium Ostiumクアドリヴィウム・オスティウム(「十字路の入り口」の意味)」を訪ねて、コレクターからギャラリストになったオーナーの黒田さんに古美術とのつきあい方、楽しみ方を伺いました。

奥鎌倉に古美術ギャラリーを訪ねて

古美術ギャラリー「Quadrivium Ostium」

神奈川県鎌倉市で古美術ギャラリーを開いているオーナーの黒田幸代さんを訪ねました。ギャラリーのある場所は「奥鎌倉」と呼ばれる鎌倉市の東部、観光客が集まる地域から少し離れて、古刹が点在する落ち着いた雰囲気のところです。ギャラリーは住宅地を見下ろす小高い山にありました。6月、小鳥のさえずりが聞こえ、近くには山百合が咲いていました。

建物は全体が大きな箱のようで柱がない2階建て、屋根の上にある四方の窓から1階まで光が届き、明るく広い空間を感じました。「美術館やホテルのような非日常を感じる空間を」と建築家にリクエスト、2019年に完成してテレビの建築番組や建築雑誌にも紹介されました。そして2021年10月に1階を古美術ギャラリーとして開くことになりました。

「十字路の入り口」に文物が行き交う

玄関を入ると室町時代の木彫獅子・狛犬たちが迎える

古美術ギャラリーの名前は「Quadrivium Ostium」、ちょっと難しい言葉です。漢字の名前だと場所や時代を連想させてしまいそうなので、一見わかりにくい名前にしたそうです。意味はラテン語で「十字路の入り口」です。「さまざまな時代や場所から縁があって集まってきたものを、次に引き継いでいく場所」という思いが込められています。

古美術というと、美術館や古美術店のケースに並んでいるもの、床の間に飾ってあるものというイメージをお持ちかもしれません。オーナーの黒田さんは、古美術を日常で使うことを勧めています。しまっておいた茶碗を使っていると、土臭さがなくなり、艶が出てきたそうです。

ここには異なる時代につくられ、さまざまな地域から来たものが並んでいるのに、調和した空間になっているのは黒田さんのお眼鏡にかなったものたちが集っているからでしょう。

厨子のなかに小さな銅製のマリア観音座像

キャビネットの中央にあるのは「木彫厨子」、李朝初期あるいは明代のものといわれています。内側にすっぽり収まっているのは室町後期~江戸初期頃の「銅マリア観音座像」です。時代も国も違うのに初めからセットになっていたかのように飾ってありました。

展示室で古美術たちが迎えてくれる

展示室に訪問者の好みに合わせた古美術が並ぶ

入り口の左が「展示室」です。その日の訪問者の好みに合わせた古美術が並んでいます。ピンクの札にタイトル、値段がついています。一段高い床になっているのは、初めは寝室として使っていたからです。高さの違いが「展示室」を意識させてくれます。

ここは完全予約制の古美術ギャラリーです。古美術をじっくり見て、触れて、由来や歴史、どのような材料でどのようにつくられたかなどお話を伺うことができます。もちろん購入できます。

まずは「よく見ること」から始めましょう。

加彩犬俑

展示されていた古美術たちを紹介してもらいました。

展示台の中央には陶製の犬がいます。「加彩犬俑(かさいいぬよう)」です。古美術などの名前は素材や制作方法を漢字で表わしたものが多く、この名前も「加彩」色付きの、「犬俑」犬型の副葬品、となります。後漢時代(1~3世紀)の墓に収めた陶製の副葬品で、色彩がところどころに残っています。犬は首に鈴をつけて、上を見上げています。正面から見ると、丸い瞳で語りかけてくるようです。

中国では故人があの世で不自由がないようにさまざまなものを墓に埋葬します。紀元前3世紀につくられた秦の始皇帝の陵墓から等身大の兵士像約8000体、戦車130台などが発掘されたことは有名です。現在でも紙製の電気炊飯器、テレビ、車などを埋葬しています。

伽倻長頸壺

展示室の右壁、低いテーブルの上に土器の「伽倻長頸壺(かやながくびつぼ)」が静かに佇んでいます。名前は、伽倻の国の首が長い壺を意味します。「伽倻」は4~6世紀に朝鮮半島南部にあった国の名前、当時の日本は古墳時代でした。

この壺は名前のとおりに長い頸がきゅっと細くなって、櫛で付けた模様が3段、下部は丸み帯びた落ち着いた形です。少しガラス質が入っているので、光があたるとキラキラします。なんだか貴婦人のような気品を感じました。

応接室は光り溢れる

大きな窓、吹き抜けからも日射しが入る応接室

奥には、緑が目にまぶしい応接室があります。1枚ガラスの窓には庇が長いのでカーテンの必要がありません。吹き抜けからも光りが注いでいます。お伺いした日はモーツァルトのピアノソナタが流れていました。

「神仏像・流仏」時代不明

窓辺には「神仏像・流仏」が烏帽子らしきものを被り、脚を組んで座しています。制作年代はわかりませんが、風雨にさらされて年輪の壁が残り、長い時間を経てきたことを感じさせます。

一本の木からできたテーブル

テーブルにはアフリカのバミレケ族がつくったベッドを使っています。左に枕、その左右に人型が浮彫りで、縁を残して平面を掘り下げ、長辺の横の両側には30ずつ顔がびっしりと並んでいます。下は空洞になっていて、なんと1本の木からできていると伺い、驚きました。

バミレケ族はアフリカ中部・カメルーンに住み、家具や仮面、ビーズ細工などの工芸文化はアフリカを代表し、広く知られています。

初めは小さな器から

応接室のコーナー

応接室の角にあるチェストはイギリス製のアンティークでパイン材にペイントされたもの。チェストの後ろの壁には、古いヨーロッバ製の十字架の壁飾り、その隣には、ロンドンのキングス・クロス駅構内を描いた、布を貼り合わせた布絵キルトの額絵があります。

チェストの上の小さな器たち

チェストの上、左のガラスのボックスは、インドの砂金を量る時に使ったもの、左右に開き戸があり、撮影時に前面のガラスを上に抜きました。後ろのガラスに窓辺の神仏像・流仏が写り込みました。右の木箱は、李朝の箱枕、上部はスライド式に開閉できるので、大切なものをしまっていたのかもしれません。

ベトナム、阿蘭陀、朝鮮半島、日本などさまざまな地域の杯、そばちょこなどの小さな器たち。古美術に興味をもったら、このような小さな器から始めるのがおすすめです。形、素材、色、模様も種類が多く、飾ってもよいし、食器として使ったり、花を活けたり、お気に入りの小物を入れたり、用途もたくさんあります。

「古美術に触れて愛でる会」でおしゃべりしよう

色や形もさまざまな茶碗

古美術に関心があるけど、ギャラリーに行くのはちょっと敷居が高いと感じている方には、「古美術に触れて愛でる会」をおすすめします。だいたい月に1回のペースで、鎌倉市内のワークスペースなどで開いています。

「古美術に触れて愛でる会」は、ふだんはガラス越しに見る古美術を手に取ってじっくり見て、どのように見えるのか、どう感じるかなどを話すおしゃべり鑑賞会です。

「これは何」「どんなふうに使ったのかな」「どこの国のもの」「いつの時代」とさまざまな疑問が湧いてきます。「お皿じゃないかしら」「大切なものをしまうものかな」「この色は中国風だ」と気になったことを話してみてください。そのあとで説明を聞くと、なるほどと感じたり、意外な歴史に驚いたりすることもあるでしょう。

週末のひとときに、古美術の魅力に触れてみませんか。申込などは記事末をご覧ください。

オーナーの黒田さんと古美術との出会い

オーナーの黒田幸代さん

黒田さんは百貨店に勤務し、リビング売場で雑貨のセレクトショップを担当、もともと古いものが好きで、休暇を利用した海外旅行先で日常に使うためにアンティークの食器や家具などを買うようなりました。古美術に興味を持ったのは、ご主人が、古田織部(1544~1615年)を主人公にした漫画『へうげもの』(山田芳裕著 講談社刊 2005~2018年)を読んで古美術に興味をもち、二人で古美術店巡りを始めたことからです。

ふと訪ねた古美術店で、売り物の古美術品の茶碗で抹茶をいただいたことがさらに古美術への興味を深め、黒田さんは少しずつ古美術を買い求めるようになりました。古美術との出会いはタイミング、1点ものなので即決で購入、Webサイトも利用し、お金がなくても買ってしまうこともあるそうです。

古美術は眺めるだけではなく、暮らしに設え使う楽しみを思い描きながら選び、次第にコレクションも増え自宅を建築したのをきっかけに、集めた古美術を共感してもらえる人に継いでいってもらえたらと考えて、とうとう自宅の1階を「古美術を楽しんでいただく」空間、ギャラリーにしてしまいました。

「古美術」とは、古い絵画・書・彫刻・陶磁器・家具・調度などで美術鑑賞を重視したもの、鑑賞目的が強い骨董品のことともいいますが、定義はあいまいでさまざまな見解があるようです。

黒田さんは茶道の雑誌で見つけた言葉が納得できると教えてくれました。「骨董は個人が所有するもの、古美術は公にしているもの。その間の隔たりを埋めるのが茶道具である。」と。茶道具に限らず古美術は箱に入れて大切にしまっておくのではなく、日常で、人の眼に触れ使ってこそ楽しめると、熱を込めておっしゃいます。 

コンパニオンキャットのダンテさんが登場

取材が終わるころ、黒猫のダンテさんがお昼寝から起きてやってきました。イタリアの詩人の名をもつ黒猫は、ちょっと緊張気味の来訪者にやさしく接してくれます。ここには2匹の猫と暮らすための工夫があちこちに施されて、猫たちのリラックスした気持ちが伝わってくるのです。

奥鎌倉に古美術ギャラリー「Quadrivium Ostium」を訪ねてみてください、素敵な空間で古美術の楽しさを感じることができるでしょう。

関連情報

■ワークショップ「古美術に触れて愛でる会」

鎌倉市内のワークスペースで月1回のペースで開催
定員6人、2時間で2~3点の古美術を鑑賞します。
参加費:1000~3500円
募集はFacebookを参照。
https://www.facebook.com/Quadrivium-Ostium-246392620615545
https://www.instagram.com/quadrivium_ostium/

■Quadrivium Ostium ギャラリー情報

神奈川県鎌倉市(住所は非公開)
訪問は完全予約制 土・日曜営業
10:00~12:00 14:00~18:00
平日に訪問希望の場合は要相談
ホームページ https://quadriviumostium.com/
Appointmentからお申し込みください。

■建築設計

森清敏+川村奈津子/MDS
株式会社MDS一級建築事務所
https://www.mds-arch.com/

橋本菜摘

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橋本 菜摘 
美術大好きのアートブロガーです。美術館でボランティアをして多くの仲間と作品に出会いました。面白いものがあったら誰かに話したい、美術作品と出会うきっかけづくりをしたいと思っています。
ブログ「アート ハミングバード」には展覧会で見たこと、考えたことを載せています。
http://hummingbird331.blog.fc2.com/
Instagram:okiron2017

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