フランス美術の300年を堪能!ヤマザキマザック美術館「秋の所蔵品展」に行ってきました!【展覧会レポート】

気がつけばセミも鳴き止み、すっかり秋の気候になってきました。

「芸術の秋」と言われるように、みなさまも芸術に浸りたい時期なのではないでしょうか。

今回はそんな秋の始まりに鑑賞したい、フランス美術の絵画と工芸品が揃ったコレクション展「秋の所蔵品展」の展覧会レポートをお届けしたいと思います。

「ヤマザキマザック美術館」は、愛知県名古屋市にある私立美術館。2010年に開館し、初代館長の山崎照幸氏が蒐集した絵画やアール・ヌーヴォーの工芸品などを展示している美術館です。名古屋の中心地に建っているので、名古屋に住んでいる人なら一度は外観を観たことがあるのではないでしょうか。

それでは、初代館長である山崎氏がコレクションした絵画、工芸品の数々と、こだわりの展示方法についてご紹介していきます。

圧巻だった国内最大級のフランス絵画コレクション

ピエール・ボナール「薔薇色のローブを着た女」1918年

山崎氏が海外出張の折、休日に絵画を観て回り、最初に購入した作品が、ピエール・ボナールの「薔薇色のローブを着た女」。ヤマザキマザック美術館のコレクションはこの作品から始まりました。展示室に入ると、まずは本作に出迎えられます。

「薔薇色のローブを着た女」は、画家の妻マルトをモデルにした作品。主題から漂うプライベートな空気感から、ボナールの作風は「親密派」と呼ばれました。

次の展示室に入ると赤い部屋にはフランスロココ絵画を代表する、ヴァトーやブーシェらの作品が並んでいます。

ロココ時代を彩った優美な作品たちに圧倒され、美術館独特の緊張感も漂います。

中でもブーシェ「アウロラとケファロス」は、見事な大作。

フランソワ・ブーシェ「アウロラとケファロス」1745年頃

館内では、音声ガイドが無料で利用可能。音声ガイドで、絵画に描かれているものから読み取れる情報やそれぞれの関係性などを知ると、さらに面白く見えてきます。

ニコラ・ド・ラルジリエール「ジャッソ夫人とふたりの子供」1707年頃

こちらは、肖像画を得意としたニコラ・ド・ラルジリエールの「ジャッソ夫人とふたりの子供」。筆跡を残さない写実的な作品は、細かな表現技術が素晴らしく見入ってしまいました。

ニコラ・ド・ラルジリエール「ジャッソ夫人とふたりの子供」(部分)/きらきらとした上質なレースの繊細さ。

次の展示室には、印象派の先駆けとなった、レアリスムを代表するクールベや、印象派の代表格ルノワールの作品もあり、前の展示室とは違ったやわらかい雰囲気の空間になっています。

ギュスターヴ・クールベ「波、夕暮れにうねる海」1869年

葛飾北斎「富嶽百景」に影響を受けているのだとか。

ピエール=オーギュスト・ルノワール 「果物皿」制作年不詳

そして最後の展示室には、エコール・ド・パリで活躍したモディリアーニの作品など、個性ある画家たちの作品が並び、個人的にもとてもテンションが上がったところです。

アメデオ・モディリアーニ「ポール・アレクサンドル博士の肖像」1909年
「女性の肖像」1939年(左)、「ミモザとヒヤシンス」1946年(右)共にモイーズ・キスリング

一つの展覧会で多種多様な絵画を見られるのは、コレクション展ならではの楽しみ。飽きることなく、どれもが興味深い作品でした。

絵画だけじゃない!ガラス工芸も見応え抜群

続いて、4Fはガラスの工芸品や家具の展示空間。

アール・ヌーヴォーを代表するフランス人作家エミール・ガレの作品を多数展示しています。

色鮮やかでどれも透明感があり、独特な雰囲気を放っていました。北斎の絵を参考にしたような作品も見られ、改めてジャポニズムの影響力を感じられます。

エミール・ガレ「緑色の善良な小市民」1900年
エミール・ガレ「蜻蛉文脚付杯」1904年

その他には、美しく装飾された家具なども楽しめます。複数のジャンルにまたがる芸術作品や工芸品が、同じ空間で展示されているのは珍しいのではないでしょうか。

鑑賞者に寄り添った、ヤマザキマザック美術館ならではの展示方法とは?

作品をよりよい空間で鑑賞できるよう、展示室の壁や展示方法にこだわっているのもヤマザキマザック美術館の特徴です。

これだけの素晴らしい作品揃いなので、きっとどんな空間に飾ってあっても美しいと思う方もいるでしょう。しかし、額縁が絵画の一部であるように、展示されている空間もまた、作品鑑賞上の一つの大切な要素。すべてが揃えば、より一層私たちは絵画を楽しむことができるのではないでしょうか。

まず一つ目の注目点は、展示室の壁紙。

作品の写真でもわかるように、展示室によって壁紙を変え、部屋全体の雰囲気が作品に合わせられているのです。時代や様式によって絵のタッチ、色使いもまったく違うため、同じ雰囲気で展示するよりも、それぞれの作品の世界観に没入できるような装飾に仕上げられていました。そんなことを無意識に感じられる空間になっています。

各展示室の壁紙は、展示される作品たちが美しく見えるように、初代館長がこだわって選んだのだそう。ただの一色のカラーではなく、上品に装飾された柄も素敵でした。

そしてもう一つのこだわりは、作品がガラスやアクリルで覆われていないこと。

多くの美術館では、作品を保護するために絵画をガラスのついた額縁やケースに入れて展示しています。しかしヤマザキマザック美術館では、絵の具のリアルな質感や色味を画家目線で見てほしいとの思いで、何も覆われていない状態で作品の細部を鑑賞できるようにしています。

これを知ったとき、以前ある美術館で大好きな作品がガラスのケースに飾られていて、残念な気持ちになったのを思い出しました。その作品は、光と影を巧みに表現している点が見どころになっていたのですが、展示室内の蛍光灯の光が反射してとっても観づらかったのです。

作品を守るために必要な場合もありますが、やはりそのままの色や筆遣いを観たい気持ちにもなりますよね。鑑賞する側の気持ちにしっかりと寄り添ってくれるこだわりに感動しながら、作品を味わうことができました。

さらに、床の素材もこだわって選んでいるなど、全身で芸術を堪能できる空間になっています。

まとめ

愛知県には他にも大きな美術館がありますが、展覧会ごとに展示内容が変わる美術館ではできないような、美しく優雅な空間を演出できるのがヤマザキマザック美術館の魅力だと感じました。

まるで海外の美術館のようで、非日常的な時間を楽しめます。部屋ごとに新鮮な気持ちに切り替えられるのも、高揚感を保ったまま鑑賞でき、私は終始ワクワクしていました。

フランス絵画がお好きな方はもちろん、西洋文化やガラスの工芸品などがお好きな方にもおすすめです。

お読みいただきありがとうございました。

展覧会情報

ヤマザキマザック美術館「秋の所蔵品展」
会期:2021年9月2日(木)~10月24日(日)
開館時間:平日 10時~17時30分/土日祝 10時~17時
(最終入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌平日休館)
所在地:愛知県名古屋市東区葵1-19-30
公式HP:http://www.mazak-art.com/index.shtml

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