今回の「顔面学講座」では、顔は味覚や調味料にたとえることが多いので、顔と味覚の関係についてお話ししたいと思います。
昭和の時代には、濃い顔を「ソース顔」、あっさりした顔を「しょうゆ顔」と呼んでいました。
「ソース顔」と「しょうゆ顔」の特徴
具体的に説明すると「ソース顔」は、眉が濃くて、目は二重まぶたで大きくてまつ毛が長い、そして、鼻が高くて彫りが深い西洋人に近い顔。こちらは『メンズノンノ』でモデルデビューし、のちに俳優として活躍する阿部寛さんが代表。
「しょうゆ顔」は、彫りが浅くて、目は一重まぶたでキリッとした切れ長で、輪郭は細めでシュッとした顔。凹凸はあまりないけど、鼻は高くて鼻筋が通っていて、東山紀之さんが代表です。
1988年の流行語大賞「しょうゆ顔」「ソース顔」
この2つは、1988年の「新語・流行語大賞(現代用語の基礎知識選)」で大衆賞に選ばれていて、当時大人気だった少年隊の東山紀之さんが「しょうゆ顔の代表」、錦織一清さんが「ソース顔の代表」として受賞しています。
※植草克秀さんも見方によっては錦織一清さん以上に「ソース顔」ですけどね。
流行り顔の歴史で見ると、ちょうどこのバブル経済期に、和風の顔立ちである「しょうゆ顔」が人気になりました。
それ以前は、西洋人っぽい顔(=ソース顔)のほうが、「二枚目、男前、ハンサム、カッコいい」という評価を受けやすかったのが、以降「しょうゆ顔」が美男子のもう1つの基準になりました。
「バタくさい顔」がなくなり、「塩顔男子」が定着
「ソース顔」「しょうゆ顔」の言葉が誕生する前は、西洋人っぽい顔は「バタくさい顔」(バター臭い顔)と言っていました。
明治時代に西洋の文明が入ってきて(文明開化)以降、昭和時代でも使われていた言葉ですが、最近は聞かなくなりました。
パンにはバターの時代が、バターは高カロリーで高コレステロールで健康に悪いからとマーガリンが代用品となり、朝食にはパンにバターという家庭も少なくなりました(一方で、マーガリンに含まれるトランス脂肪酸は発がんのリスクを高めるとも)。
「ソース顔」「しょうゆ顔」が流行語になった頃、「マヨネーズ顔」「ケチャップ顔」という言葉も作られたそうですが、こちらは普及せず。
その後、2010年頃から「しょうゆ顔」よりもさらに薄味の「塩顔」「塩顔男子」という言葉が出現し、こちらはその後も定着しています。
自分史で調べてみたところ、2010年3月31日号の『anan(アンアン)』(マガジンハウス)の特別企画【イケメンよりも、味メン!最新版“モテ顔”ビッグバン。】で顔相診断をしていて、その次の号が「胸キュン男子特集」で「スーツ男子」「メガネ男子」などとともに「あっさり塩顔」がありました。
「塩顔男子」の当時の代表は向井理さん。いろんな定義がありますが、基本的に「しょうゆ顔」を色白にして小顔にしたような顔が「塩顔」です(目は「しょうゆ顔」の「キリッとした目」に対して「塩顔」は「あっさりした目」かな)。
綾野剛さんも「塩顔男子」に分類されるようですが、こちらは「ヘビ顔男子」の代表で、顔の専門家としては意義を唱えたいです。
これらの「調味料顔」は、どれも男性に使われる言葉で、女性にはあまり使われません(「塩顔女子」よりも「薄顔女子」のほうが普及しています)。
女性が男性を評価・選別する際に使われる言葉で、女性が文化を作っていく時代に、「女性誌」がそれをリードしていったのだと分析します。
「甘い顔」=「優しい顔」
味覚でいうと顔は「甘い顔」「渋い顔」「苦い顔」と表現されることもあります。
「甘いマスク」は、顔が整っていて優しそうな男性に向けて使われる言葉ですが、英語の「look sweet(かわいらしい)」から来ているのかもしれません。
日本において、「甘い顔」の男性に人気が集まるようになったのは、滝沢秀明さん、小池徹平さん、ウエンツ瑛士さんがブレイクした2000年代前半から中盤です。
昭和の戦中、戦後と違って平和な時代が続いたため、女性が男性に「強さ」ではなく「優しさ」を求めるようになってきました。
そのため、男性歌手も、郷ひろみさんあたりから「甘いマスク」が増え出して、ジャニーズ系は昭和から平成と、どんどん「甘い顔」が増えていきました。
古くは田村正和さん、平成だと福山雅治さんのような男らしさ(強さ、厳しさ、カッコ良さ)の中に優しさ(これも現代では男らしさなんでしょうが、顔的には女性要素、フェミニン、中性的)のある顔を、チョコレートの味に例えてビタースイート、「ビタスイ顔」と名付けたこともあります。
しかし、女性的なかわいさのある顔どころか、子供っぽい顔のかわいい系男子が人気の時代へと移り変わってきました(1990年のティラミスから現在まで続き、今や定着したスイーツブームと共に)。
「マスコミ」と「アニメ」の影響で好きな顔の味覚が変化?
これは、「マスコミ」という添加物によって、味覚(価値観・感覚)が麻痺してしまって、大人の女性が本当の「甘い味(甘い顔の男性)」がわからなくなってしまったのかもしれません(男性にも「アニメ顔女子」が人気のように、漫画、アニメ、ゲームのキャラクターの影響も大きいです)。
2000年代後半に瀬戸康史さんが出てきた時は「まるで女の子みたいな顔」と驚きましたし、2010年代に「Hey! Say! JUMP」の伊野尾慧さんの存在を知った時はさらに驚きました。
苦味成分が多くて甘み成分が少ないのが「昭和顔イケメン」ならば、伊野尾さんは苦味成分がほぼゼロでスイートな甘み成分と優しいミルキー成分が超多い「スーパー平成顔イケメン」だということで、スタバのドリンクで例えて「ホワイトモカ顔」と名付けました。
人間は大人になるにつれて「味覚」も「顔の味覚」も変化する
子供は「味覚」と同じように「甘い顔」は好きだけど、「渋い顔」は好きではありません。若い女性も「渋い顔」の良さがあまりわからないので好きではありません。ところが、社会人になる頃には、かつて“ちょいワルおやじ”と呼ばれたような「渋い(シブイ)顔」の男性を好む女性も出てきます。
しかし、大人の女性でも「苦い味」は好きでも「苦い顔」を好む女性はいません。これは女性に限ったことではなく、大人の男性でも「苦い顔」を好きな人はいません。
むしろ「苦い顔」というのは誰からも嫌われます。なぜなら「苦い顔」とは「不機嫌な顔」「不愉快な顔」「不満の顔」を意味するからです。
添加物だらけの食品を食べることで人間本来の「味覚・感覚」が狂い、味音痴・馬鹿舌が増えてきた今、敢えて嫌われ役になり、この社会に苦言を呈する人が必要です。それができるのは、酸いも甘いも経験した「苦い顔」の人なのです。
最近の若者には「無味無臭な顔」も増えてきましたが、人間たるもの、「自分なりの味のある顔」になりたいものです。