横浜山手西洋館で「花と器のハーモニー2023」が開催中!日本のいけばな七流派と世界各国の食器が華麗に競演!

楽活では、2022年から継続的に「ガーデンネックレス横浜」の取材を行っているが、会期後半に注目したいイベントが、6月3日(土)~11日(日)まで横浜山手西洋館で開催される「花と器のハーモニー2023」だ。

イベントでは、日本の華道七流派によるいけばな作品と世界各国の食器を取り合わせた展示が行われている。

楽活では開催日前日に行われた合同記者会見と内覧会を取材。イベントの見どころや魅力をまとめて紹介する。

※記事内に掲載した各西洋館の展示風景は、主催者から許可を得て撮影しています。

いけばな七流派の家元と世界各国の食器が彩る洋空間

「花と器のハーモニー」は、2023年度で21回目を迎える。事前に発表されたプレスリリースによると、本年度のテーマは「いけばな七流派の家元が彩る洋空間」となっている。

家元自らの花のおもてなしと、西洋館にゆかりのある国の食器をコーディネートし、いけばなの持つ多様性と魅力、日本の伝統文化である華道の素晴らしさが楽しめるイベントだ。

内覧会に先立って、横浜山手西洋館のひとつべ―リック・ホールにて開催された合同記者会見では、日本いけばな界の錚々たるメンバーが一堂に顔を揃えた。

べ―リック・ホールはスパニッシュスタイルを基調とした昭和初期の邸宅建築だ。戦前の山手外国人住宅では最大規模を誇る美しい洋館であり、建築学的にも価値の高いこの場所で、歴史と伝統あるいけばなの世界がリンクした。

いけばな七流派の家元が勢ぞろいしたべ―リック・ホール。

本イベントを主催する花と器のハーモニー・実行委員会委員長である公益財団法人横浜市緑の協会・理事長の福山一男氏は、

「七流派の皆様の競演は誠に感慨深く、素晴らしいいけばなと日本に現存する西洋館の魅力を世界に伝えることは、GREEN×EXPO 2027(2027年国際園芸博覧会)​​へ向けての流れのひとつになって行くのではと感じています。美しい会場と花で多くの皆さまに感動と喜びを感じていただきたい。」

と会見で強調した。

それでは、7つの洋館で見られる展示とそのみどころを順に紹介していこう。

①外交官の家:華道家元池坊×大倉陶園(日本)

1910(明治43)年建築された国の重要文化財。ニューヨーク総領事やトルコ特命全権大使を務めた外交官・内田定槌の邸宅だった。

日本と外国との心を通わせ、つないだ場であった外交官の家。展示のテーマは「出会う」だ。日本の中で育まれてきた美意識である 「優しさ」「調和する心」を和花に込めている。かつてのにぎわいある情景を思いつつ、そして花と器、人と人、心と心、 それぞれがつながり、そこから生まれるハーモニーを堪能したい。

あえて和花にこだわり、その繊細さゆえ食器に描かれた絵を大切にし、色を最小限にするなど、見事な引き算の美が映える。

流派:華道家元池坊(かどういえもといけのぼう)
西暦587年に聖徳太子が六角堂建立。初代住職は小野妹子。代々家元が住職を務め現代に至る。仏前に供える花がやがて “いけばな” へと発展。室町時代後半に「池坊専応」が花の理論と精神性を確立したことから「いけばなの根源」と呼ばれ、国内のみならず海外でも多くの方が学んでいる。
https://www.ikenobo.jp/

展示担当:池坊 専好(Senko Ikenobo) 
華道家元池坊次期家元。いのちをいかすという精神に基づき、西国三十三所の各寺院やニューヨーク国連本部で世界平和を祈念した献花を行う。また、音楽や能、テクノロジーなどの他分野とのコラボレーション活動も展開している。公益財団法人 日本いけばな芸術協会 副会長、公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 理事・シニアアドバイザーなども務める。 

洋食器:大倉陶園(日本)
1919(大正8)年、「良きが上にも良きものを」という大倉孫兵衛、和親父子のもとに創業された大倉陶園。製品は“セーブルのブルー、オークラのホワイト”と称され、色の白さ、磁器質の硬さ、肌のなめらかさ”に大きな特徴があり、さらに大倉陶園独自の技法である『岡染め』『エンボス』『漆蒔き』などの技法は、他には見られない品格のある個性を醸し出している。
https://www.okuratouen.co.jp/

②ブラフ18番館:龍生派×ヘレンド(ハンガリー)

大正末期に建てられた外国人邸宅。戦後はカトリック山手教会の司祭館として1991(平成3)年まで使われた後、現在は山手イタリア山に移築された。

ブラフ18番館では、龍生派とハンガリーの名ブランド「ヘレンド」が競演。「暮らしの中の小さないけばな」をテーマに、龍生派によって引き出された繊細な花の魅力が楽しめる。見どころは、龍生派が提案する「ひびか」という現代の生活空間にマッチさせた新しいタイプの小さないけばなだ。いけばなの新たな魅力に気付ける展示となっている。

日々の生活のなかにいけばなをという気持ちが現れている。サイズを小さくするという試みのなかにあるやさしい美しさを感じる。

流派:龍生派(りゅうせいは)
1886 年創流の龍生派では、「一枝一葉」の魅力を一人一人の視点で捉えて表現する独自の方法論「植物の貌(かお)」を提唱し、伝承の古典華と、個々の感性をもとに表現する自由花とを展開している。 https://www.ryuseiha.net 

展示担当:吉村 華洲(Kashu Yoshimura)
龍生派家元。1964年東京生まれ。1986年より建築設計事務所に勤務の傍ら、龍生派三代家元吉村華泉に師事。1996年副家元職就任。2003 年個展「リンゴの唄 in Sendai」(せんだいメディアテー ク)、2009 年個展「継がれ継ぐ」(アートスペース VEGA)。2015年四代目家元に就任。一般社団法人龍生華道会代表理事/公益財団法人日本いけばな芸術協会副理事長。

洋食器:ヘレンド(ハンガリー)
18世紀後半にヨーロッパで最初の陶磁器工場のひとつとして設立​​。ハンガリーの伝統と芸術を象徴する重要な文化遺産のひとつとも言われており、細かなディテールと芸術的な装飾が施されている。特にブルー・ヘレンドとして知られる、白磁器に青い絵付けを施されたブルーアンドホワイトのデザインが有名。伝統的なハンガリーのデザインや風景が描かれ、王室や貴族にも愛されている。

③ベーリック・ホール:草月流×マイセン(ドイツ)

1930(昭和5)年、イギリス人貿易商ベリック氏の住居として建てられた邸宅建築。

記者会見も開催されたべ―リック・ホールでは、「明日への贈り物」をテーマに、草月流とマイセン(ドイツ)のコラボ展示が楽しめる。マイセンの器が並ぶ食卓には、色とりどりの花々が美しく並んでいる。瑞々しい初夏の花と伝統あるマイセンの高級食器が出会い奏でる、心躍るハーモニーを味わってみたい。

竹をダイナミックにそして優雅に使った作品は圧巻。それぞれの部屋にある作品も心ときめくものばかり。

流派:草月流(そうげつりゅう)​​
1927年、自由な創造と個性を尊重するいけばなを求めて勅使河原蒼風によって創流。いつでも、どこでも、だれにでも、そしてどのような素材でもいけられることをモットーに、新しいいけばなの魅力を発信し、世界中で親しまれている。
https://www.sogetsu.or.jp/

展示担当:勅使河原 茜(Akane Teshigahara)
草月流 第四代家元。2001年家元就任。自由な創造を大切にする草月のリーダー として、多様化する現代空間にふさわしい新しいいけばなの可能性を追求する。美術、音楽、舞踊など他分野アーティストとのコラボレーションや「いけばなライブ」に取り組む一方、いけばなで子どもたちの感性と自主性を育む「茜ジュニアクラス」を主宰する。 

洋食器:マイセン(ドイツ)
世界的に有名なブランドであるマイセンは、1710年にザクセン選帝侯領のアウグスト強王によって設立。初期のマイセンの陶磁器は、中国の磁器に影響を受けていた。テーブルウェア、飾り皿、花瓶、フィギュリンなど、さまざまなアイテムがあり、独自の技術と職人の手作業によって長い歴史の中で多くの傑作が生み出された。高品質な作りと美しい装飾が特徴で芸術作品としても世界中で高く評価され、美術館やコレクターのコレクションになっている。

④エリスマン邸:未生流×大﨑漆器店(日本)​​

「日本の近代建築の父」と言われたアントニン・レーモンドが設計したエリスマン邸では、1階にカフェレストランがあり、緑を眺めながらランチやお茶を楽しめる。

エリスマン邸では、大きな窓から差し込む光と、大﨑漆器の伝統的な漆器が生み出す陰影の対比が、植物や水、その他色々な素材でアレンジされた未生流のいけばなによってより一層引き立てられている。背の高い個性的なガラスの花器にも注目してみたい。

輪島塗りの持つ美しい艶を生かし、テーブルのフラワーアレンジではない、いけばなとしてのスタイルが外の景色や差し込む光と相まって、輝きをさらに際立たせている。

流派:未生流(みしょうりゅう)
未生流は江戸後期に流祖・未生斎一甫が創流。一甫により華道理論と花型が確立し、二世廣甫によって上梓された伝書に基づき、正しく現在に伝承する流派。未生流は伝統の花を「格花」と称し、また新しい時代の花として「新花」を制定。
https://misho-ryu.com

展示担当:未生流 十世家元 ​​肥原 慶甫(Keiho Hihara)​​
1997年よりいけばなの修業を始め、現在は流の企画・運営に携わる傍ら、数多くの花展出瓶、献花、国内外でのデモンストレーションを行うなど、流派の発展・指導はもとより、日本の伝統文化である「いけばな」の普及に努めている。2014年、未生流十世家元継承し慶甫と称す。 

漆器:大﨑漆器店(日本)
平成26年12月19日に国の有形文化財に登録。創業は江戸末期。代々”庄右エ門”を継承し、現在四代目。創業以来、堅牢を旨とし、木地と漆に徹底的にこだわり、用と美を追求。「輪島塗」の質を高めるために、輪島の塗師屋としての誇りと志を高く持ち、現代の使い捨て時代において、永く使い続けることのできる「暮らしの道具」を目指している。​​

⑤山手234番館:古流松應会×エルキューイ・レイノー(フランス)

1927(昭和2)年ごろ、朝香吉蔵の設計で建てられた外国人向けのアパートメントハウス。ポーチ周りを花々が飾る。

江戸時代、町民の間で嗜まれてきた古流のいけばなが受け継ぐわび、さびの精神性は、透明感のあるレイノーの白磁、高貴な輝きを見せるエルキューイの銀器とも相性抜群。昭和初期に建てられた山手234番館のレトロな美とも見事に調和している。

まさに「空間をいける」という呼び方がふさわしい現代華のスタイルに圧倒される。

流派:古流松應会(こりゅうしょうおうかい)​​
古流は江戸時代中ごろ(1760年代)に一志軒宗普(いっしけんそうふ)によって興され、お生花(おせいか)とよばれる床の間より発生した花形が今日まで伝えられている。また現代では植物の持つ個性を活かし、生け手の感性により空間をいける現代華(げんだいか)があり、古流松應会は創流期から代々伝承し、明治45(1912)年に会組識を設立。昨年、設立111年を迎えた。 いけばな古流松應会 

展示担当:千羽 理芳(Rihoh Semba)
古流松應会 十世家元 
公益財団法人日本いけばな芸術協会理事
一般社団法人帝国華道院監事
一般社団法人いけばな協会理事 JFTD 学園/日本フラワーカレッジ特別講師 

1986年よりいけばな活動を始める。「古流協会展」「日本いけばな芸術展」「いけばな協会展」「大地の芸術祭 越後妻有トリエンナーレ」「神戸ビエンナーレ」など多くのイベントに出品。一般社団法人いけばなインターナショナルを通じ、国内 外にてデモンストレーションを多数行う。

洋食器:エルキューイ(ERCUIS)・​、レイノー(RAYNAUD)(フランス)
「レイノー」は、フランス陶磁器の最高峰、リモージュ焼きを代表する老舗ブランド。透明感のある白磁が、絵柄の発色を鮮やかに彩り、エルキューイの銀器がさらに高級感を演出する。

⑥横浜市イギリス館:小原流×バーレイ(イギリス)​​

1937(昭和12)年に建てられ、英国総領事公邸として使われていた。白が際立つモダンなデザインには風格を感じる。 

木に茂る緑が日増しに深さを増す6月上旬は、山の手全体が美しく染まる季節でもある。横浜市イギリス館では、「万緑」をテーマに、若竹色、萌黄色、柳色、常盤色など様々な「緑」で館内に初夏の涼やかな空気感を演出。イギリス王室にも愛顧される高級洋食器「バーレイ」の「白」とも抜群の相性だ。 

様々な緑色を万緑と表現し、そこに溶け込む美を表現。花の迫力を感じながらも、白磁器の存在がなお引き立つ。

流派:小原流(おはらりゅう)​​
小原流は明治時代に誕生した、比較的新しい流派。花の色彩美や自然美を表現する「盛花」の創始以来、集団授業や女性への教授職の開放など、時代に合った感覚を取り入れて発展してきた。現在ではいけばな三大流派の一つに数えられている。 https://www.ohararyu.or.jp/​​

展示担当:小原 宏貴(Hiroki Ohara)
1988年、神戸市生まれ。6歳にして五世家元を継承し、日本の伝統文化である「いけばな」の普及と芸術家として国内外の活動に力を注ぐ。現在、公益財団法人日本いけばな芸術協会副理事長、大正大学客員教授。 

洋食器:バーレイ​​(イギリス)
高品質で耐久性があり、職人の手作業による細部へのこだわりが特徴。世界中で高い評価を受け、イギリス王室御用達の称号を保持している。​​

⑦山手111番館:一葉式いけ花×サルガデロス(スペイン) 

1926(大正15)年に建てられた洋館は、スパニッシュスタイルの赤瓦と白い壁のコントラストが美しい。建物中心の吹き抜け空間が特徴的。

柔和な光が差し込む山手111番館で、スペインの皇室御用達「サルガデロス」の食器の澄みわたる「青」と、初夏のさわやかな緑と風をイメージした一葉式いけばなのマリアージュが楽しめる。展示を担当した一葉式いけ花四代目家元・粕谷 尚弘さんは、この空間の光を集め「 “清爽の花の間 ( ま )” としていきたい」と抱負を述べている。

まさに和と洋の美しい融合。芍薬の美しさとサルガデロスの伝統的な柄が生み出すコラボレーション。

流派:一葉式いけ花(いちようしきいけばな)​​
一葉式いけ花では、〈植 · 間〉(はなはざま)という理念の元、植物をはじめ、あらゆるものの魅力を見つけ、間(ま)を意識し、独創的な花の世界をつくりあげることを目指している。また、海外に幾つも支部を展開。国際的な流派としても注目されている。
https://www.ichiyo-ikebana-school.com

展示担当:粕谷 尚弘(Naohiro Kasuya) 
1980年生まれ。父一葉式いけ花三代目家元粕谷明弘に師事。2019年1月一葉式いけ花四代目家元を継承。華道指導の側ら諸流派展や個展、他分野の表現者とのコラボ等を行い、また、NYメトロポリタン美術館でのいけ花デモンストレーションをはじめ、国内外で多くのいけ花ライブを行うなど、 “いけ花の魅力” を伝える活動を積極的に行っている。バランスや竹を使ったいけ花を得意とし、作風は力強く軽やか。

洋食器:サルガデロス(スペイン)
スペイン北西部、ガリシア地方の陶磁器メーカーで、滑らかな白い質感が特徴。濃紺のラインで描かれるケルト文化的な伝統的な柄や幾何学模様が美しい。地元の文化、ガリシアの自然や民話などをテーマにしたデザインや絵付けが人気。

おわりに

いけばなと世界各国の食器を組み合わせた個性的な展示が楽しめる「花と器のハーモニー2023」は、横浜山手エリアの7つのクラシカルな洋館で6月11日(日)まで開催中。いけばなファン、食器ファンはもちろん、観光巡りの目玉としてもオススメのイベントだ。

ぜひ、お気に入りの作品をみつけてみてほしい。

「花と器のハーモニー2023」 開催概要  

主催:横浜山手西洋館 花と器のハーモニー実行委員会 
日時:2023年6月3日(土)~11日(日)
   9時30分~17時
   ※開催期間中休館日なし
   ※3日(土)、4日(日)、9(金)、10日(土)は19時まで延長 
場所:外交官の家、ブラフ18 番館、ベーリック・ホール、エリスマン邸、
山手234番館、横浜市イギリス館、山手111番館 
入館料:無料 

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