東西文化が交錯する魅惑のトルコ・イスタンブール

トルコのイスタンブールはヨーロッパとアジアが出逢い、さまざまな文化が重なって歴史を刻み、エキゾチックで魅惑的なところです。2024年10月に参加した「4つの世界遺産とイスタンブール充実観光トルコ8日間」から、カッパドキアに続いて、今回はイスタンブールを紹介します。

イスタンブールの魅力

モザイクランプの模様や技術の変遷はトルコの歴史にも重なる

イスタンブールは、ローマ帝国、ビザンティン帝国、オスマン帝国と、3つの帝国の首都として栄え、それぞれの歴史が色濃く残っています。街の名前も、ビザンティオン、コンスタンティノープル、イスタンブールと変わりました。トルコ共和国になって首都はアンカラになりましたが、イスタンブールの魅力は尽きません。

イスタンブールの旧市街と新市街

イスタンブールの旧市街、新市街を紹介します。ボスポラス海峡を挟んで、東側はアジアに、西側はヨーロッパにつながっています。ボスポラス海峡の西の金角湾を挟んで南に旧市街、北に新市街があります。

旧市街にはローマ時代の水道橋、19世紀のジャーミィ

ヴァレンス水道橋 378年建設

旧市街は名所旧跡が点在する観光の中心地で「イスタンブール歴史地区」として世界遺産に登録されています。

ヴァレンス水道橋はローマ時代に造られ、18世紀頃まで使われていました。現在は水が流れていませんが、水道橋の下を道路が通り、ローマ時代が日常溶け込んでいるようです。

ペルテヴニヤル・ヴァリデ・スルタン・ジャーミィ 1872年建設

信号待ちで思わずシャッターを切りました。ペルテヴニヤル・ヴァリデ・スルタン・ジャーミィはオスマン建築と西洋建築を合わせたエレガントな建物です。観光地ではありませんが、そっと覗いてみることはできます。街中ではジャーミィや霊廟などに何度も出逢いました。

数奇な運命のアヤソフィア

アヤソフィア 360年建設

アヤソフィア(ギリシア語で「聖なる叡智」の意)は、かつてギリシアの神殿の場所に建ち、キリスト教とイスラム教が共存し、イスタンブールの歴史を実感することができます。

アヤソフィアは360年、ビザンティン帝国時代のコンスタンティヌス2世(在位337~61年)によって建てられました。537年にユスティニアヌス1世(在位527~65年)により再建され、高さ約55m、直径約31mの巨大ドームをもつギリシア正教の大本山として君臨、ビザンティン建築の傑作として賞賛されました。

また、イスラム教では大勢の信者が一体感もって礼拝する空間が必要なため、アヤソフィアのドーム建築はオスマン建築に影響を与えました。

アヤソフィアの夜景

1453年、アヤソフィアはオスマン帝国によってイスラム教のジャーミィに改修され、4基のミナレット(小塔)などが設置されました。1923年にトルコ共和国が成立し、1935年に初代大統領ケマル・アタチュルクにより博物館になりました。しかし、2020年、エルドアン大統領はアヤソフィアを再びジャーミィに戻し、礼拝が行われるようになりました。

アヤソフィア内部、2階に立つ人物を見て大きさを実感(提供:AC)

見学エリアは2階ですが、1階も2階から見ることができます。ドームの天井や壁にはビザンチィン時代に施された聖人を描いたモザイク画があり、モザイク画の近くにはイスラムの聖人やカリフなどの名前を書いた円板が掲げられ、大理石の床には礼拝用の絨毯が敷いてあります。

オスマン帝国の「トプカプ宮殿」400年

中央の大ドームと4本のミナレットはアヤソフィア、右の城壁から奥にトプカプ宮殿
左にボスポラス海峡、右にマルマラ海 ©GoTürkiye

トプカプ宮殿はマルマラ海、金角湾、ボスポラス海峡の三つの海に囲まれた見晴らしがよい丘の上に建ち、かつて大砲が設置されていたことから「トプ(大砲)カプ(門)」宮殿と呼ばれています。

トプカプ宮殿の城壁と「皇帝の門」

オスマン帝国は13世紀の終わり頃に誕生し、トプカプ宮殿を着工したのは、1453年にコンスタンティノープルを陥落させた第6代スルタン・メフメト2世(在位1444~46、1451~81年)です。その後にも多くのスルタンが増築を重ね、およそ400年間、1853年にドルマバフチェ宮殿(後述)に移るまでオスマン朝の居城になりました。

皇帝の門

皇帝の門の上部の銘文には、アフメト2世が自らを「アナトリアとバルカン、黒海と地中海の王である」と書いています。

第1庭園 アヤナ・イリニ教会 4世紀

宮殿は4つの庭園に分かれ、中心的な建物はなく、小規模な建物が立ち並んでいます。「皇帝の門」から「送迎の門」までが第1庭園です。ここは儀式の広場とも呼ばれ、出陣の儀式が行われました。現在は芝生に大木が陰をつくり、カモメが休んでいます。

写真のカモメの後ろの建物は4世紀・ビザンティン時代に建てられたアヤ・イリニ教会で博物館として公開されています。

送迎の門

「送迎の門」は第10代スルタン・スレイマン1世(在位1520~66年)の時代につくられました。スレイマン1世は46年というスルタン最長の治世において領土を広げました。テレビドラマ『オスマントルコ外伝~愛と欲望のハレム~』では、この門の前でスレイマン1世が兵士たちに命令を下す場面が何度もありました。

第2庭園には、女性たちが暮らすハレム、当時使われた食器や中国磁器を展示する東洋陶磁展示室などがあります。

パンフレット左から:「トプカプ宮殿の至宝展」(京都文化博物館 2007年)
「トプカプ宮殿博物館・出光美術館所蔵 名宝の競演」(出光美術館 2024年)

第3庭園の「宝物館」には日本で展示された「トプカプの短剣」「金のゆりかご」などがあり、「スルタンの私室」にはイスラム教関連の聖遺物など展示されています。第4庭園(皇帝の庭園)からは金角湾を見渡す美しい風景を見ることができます。

トルコ関連の展覧会は日本で2003年から20024年まで5回のあり、宝物をご覧になった方も多いでしょう。今年2024年も「日本・トルコ外交関係樹立100周年記念 トプカプ宮殿博物館・出光美術館所蔵 名宝の競演」が東京・出光美術館で12月25日(水)まで開催されました。

世界でいちばん美しい「ブルーモスク」

スルタン・アフメト・ジャーミィ (通称「ブルーモスク」)1617年建設

スルタン・アフメト・ジャーミィは、第14代スルタン・アフメト1世(在位1603~17年)によって建造され、「ブルーモスク」と呼ばれて親しまれています。イスラム教の礼拝をする場所のことをトルコ語では「ジャーミィ」、英語では「モスク」と呼びます。

旧市街で観光客が最も多く訪れる、オスマン建築の代表的な建物です。直径23.5m、高さ43mのドームの下にいくつものドームが重なり、6基のミナレットが特徴です。

ステンドグラスから光が射す(AC提供)

なかに入ると、約260枚のステンドグラスの窓から太陽光が降り注いでいます。外観、内観ともに見る者を魅了する美しさに、「世界一美しいモスク」といわれるのも納得できます。

「ブルーモスク」と呼ばれるのは、青を基調としたタイルが2万枚以上使われているからです。タイルの模様や調度品には、アラビア文字による銘文、幾何学模様、植物模様が使われています。なぜなら、イスラム教では偶像崇拝を禁止し、人物や動物の形を使わないからです。

このジャーミィの建設を命じたアフメト1世は28歳で亡くなり、幼い息子3人がスルタンとなり、弟3人が殺されたことを思うと、青がさびしい色に感じられます。アフメト1世の妃キョセムを主人公としたテレビドラマ『新・オスマン帝国外伝 ~影の女帝キョセム~』を思い出しました。

旧市街にはさまざまな文化が漂う

細い急勾配の坂道、車やバイクが人を避けるように通る

旧市街の金角湾沿いの北にフェネル地区とバラト地区があります。1463年にオスマン帝国がコンスタンティノープルを征服した時に、フェネルにはギリシア人をバラトにはユダヤ人を招きました。

フェネル・ギリシア高校 1882年建設

急な坂の上に建つレンガ造りの壮麗な建物はギリシア高校、ため息をつくほどの繊細なつくりです。1454年にギリシア正教の学校として、元々住んでいたギリシア人が自分たちの言語で学び、自由に礼拝できるようにと設立されました。

現在の建物は1882年にこの学校の卒業生でもある建築家ディマディスによって建てられました。写真を撮った位置からは見えませんが、中央にはドームをのせた塔があります。

聖シュテファン教会(ブルガリア正教会) 19世紀

フェネル地区、バラト地区には、ユダヤの教会シナゴーグ、イスラム教のジャーミィ、キリスト教の東方教会など、さまざまな歴史や宗教、文化が入り交じっています。カラフルでおしゃれなカフェを目指して観光客も集まっています。

新市街にヨーロッパ風の「ドルマバフチェ宮殿」

ボスパラス海峡から望むドルマバフチェ宮殿 1853年建設

金角湾を渡った新市街のボスポラス海峡に面して建つのはドルマバフチェ宮殿です。海から入れるように大理石の船着き場があります。「ドルマバフチェ」とは埋め立ててできた庭園の意味です。

壮麗なサルタナト門

19世紀後半、西欧に対抗してオスマン帝国の富を誇る宮殿のひとつ、オスマン様式とバロック様式を折衷させた豪華な宮殿です。1853年に第31代スルタン・アブデュルメジト1世(在位1839~61年)が建て、1922年に第36代メフメト6世(在位1918~22)の退位後、トルコ共和国になってからも公邸として使われました。

ヨーロッパの宮殿のような室内(絵葉書)

内部には285部屋、46の広間があり、どの部屋も調度から壁、天井までが豪華に飾り立てられ、床にはトルコ名産の絨毯が敷き詰められています。

1938年に初代大統領ケマル・アタチュルクが亡くなった「アタテュルクの部屋」が公開されています。部屋に置かれたの時計は彼が亡くなった9時5分で止まったままです。「アタチュルク」はトルコの父の称号で、いまでも国民からの尊敬を集めています。

瀟洒なオルタキョイ・ジャーミィ

オルタキョイ・ジャーミィ、全長1.5kmの橋の袂に建つ 1855年建設 

オルタキョイ・ジャーミィはボスポラス海峡をつなぐ「7月15日殉教者の橋」のたもとに建っています。橋の名前は2016年のクーデター未遂事件の時に犠牲者となった多くの人たちの勇気を称えたものです。

華やかな装飾

オルタキョイ・ジャーミィは、18世紀に建てられて荒れていたジャーミィをアブデュルメジト1世が建て替えたものです。オスマン建築の様式を守りつつ、バロック様式の影響が見られる優美な建物です。

窓からボスポラス海峡から明るい日差しが入り、オレンジ色の壁、シャンデリアがますます華やかになります。壮大なジャーミィを見てきたので、ここはこじんまりして親しみやすい印象をもちました。

オルタキョイ・ジャーミィの後ろには高層ビル

イスタンブールの歴史的な建物を中心に紹介したので、近代的なビル、高層建築も立ち並ぶ大都会であることを忘れてしまいそうでした。

イスタンブール空港に向かう高速道路から新市街を望む

旅の終わりにジャーミィの夕陽

ガラタ塔の向こうに金角湾、旧市街を望む ©GoTürkiye

新市街、ガラタ橋とドルマバフチェ宮殿の間、カラキョイの大型客船用埠頭に巨大ショッピングモール「ガラタポート」が2021年にオープンしました。有名ブランドや著名レストランなど約200店舗があり、歴史に浸っていた筆者を21世紀の今に引き戻しました。近くには、1937年開館のイスタンブール絵画彫刻美術館、2004年開館のイスタンブール・モダン美術館があります。

ヌスレティエ‐ジャーミィ 19世紀

ガラタポートを出ると、傍らには19世紀に第30代スルタン・マフムト2世(在位1808~39年)が再建したヌスレティエ・ジャーミーがあり、ドームと2本のミナレットに夕日が射して、旅の最後を飾りました。

もう一度訪ねたいイスタンブール

ガラタ橋の夜景

イスタンブール滞在は丸2日間、ここだけは見せたいというツアーの厳選した見学先でしたが、見所が多く、とても時間が足りませんでした。アジア側、美術館・博物館、少し足を伸ばして古都エディルネ、ブルサ、イズミールなど、再度、イスタンブールを訪れたいと思っています。

見学には時間、条件が変わることもあるので、直近の情報を確認してください。入場に長い行列ができることも多く、予約チケット、セットチケットなども便利でしょう。ブログやYouTubeにも旅行記がたくさん載っているので、要チェックです。

ジャーミィは宗教施設のため、礼拝時間には入場できません。女性は髪を隠すスカーフ、男女とも足が露出しない服装を準備しましょう。

おすすめのガイドブック

左から:『地球の歩き方E03 イスタンブールとトルコの大地2019~2020年』 2024年改訂版 株式会社地球の歩き方 2090円(税込)
『旅のヒントbook改訂版トルコ・イスタンブールへ』 クラリチェ洋子著 2024年 イカロス出版株式会社 1980円(税込) 
『旅する21世紀ブック 望郷編2 イスタンブール』 フランス・ガリマール社の日本語版 1994年 ガリマール社・同朋舎出版編

トルコツアー、記事執筆の参考にしたタイプが異なる3冊の本を紹介します。

基本と実用:海外旅行の定番『地球の歩き方』シリーズはコロナの時期を経て、毎年の更新は出版が難しいようです。地図や交通機関など、役立つ情報が多いので、発行年を確認してご利用ください。この本は2024年6月刊行、2018年8月~19年5月の取材データに基づいています。

楽しさ倍増:『旅のヒントbook 改訂版トルコ・イスタンブールへ』の著者はイスタンブール在住17年のクラリチェさん、街歩き、食事、土産、かわいい工芸品などをカラー写真満載で紹介しています。2024年11月発行の最新版です。

歴史を知る:『旅する21世紀ブック 望郷編2 イスタンブール』はなんと30年前の刊行。イラストと写真で歴史や文化を詳しく説明、ボスポラス海峡の渡り鳥、人々の暮らしなども紹介し、読み物としてもおすすめです。

こちらもご参照ください。

トルコ共和国大使館文化広報参事官室 https://goturkiye.jp/ja/homepage
世界遺産オンラインガイド トルコhttps://worldheritagesite.xyz/middle-east/turkey/

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