アート

【インタビュー】あれっ?イメージと全然違う?!写真と実物の大きさのギャップを楽しむ金沢21世紀美術館『コレクション展 スケールス』

写真で知ったアート作品を実際に目にしたとき、「思ったより大きいな」あるいは「想像していたより小さい」といったギャップを感じたことはありませんか?

金沢21世紀美術館で2020年10月17日から開催されているコレクション展は、誰もが一度は感じたことがあるギャップをテーマにしています。その名も『コレクション展 スケールス』です。

私も美術館で作品を見て、「写真から想像していたのと違うな~」と思うことが多々あったので、展覧会のホームページを見た段階で「あるある!」と共感してしまいました。どうしてこのようなテーマを考えたのか気になったので、本展のキュレーターである池田あゆみさんにインタビューをさせていただきました。

ス・ドホ《階段》2003

池田さんも、ある作品に対して「思ったより大きい」と感じたことが、企画の原点になっているそうです。その体験と今回の展示で感じたギャップについてお話をうかがったので、展覧会を楽しむための参考にしていただければと思います。

キュレーター・ 池田あゆみさんへのインタビュー

――まずはコレクションの「スケール」に注目したきっかけを教えていただけますか?

池田:今回のコレクション展を担当することが決まったのは、私が当館に着任してから半年くらいのときのことでした。当館のコレクションをまだよく理解していなかったので、カタログで見ることから始めたんです。その中で、過去に勤めていた美術館で「写真で見たときと、実物を見たときのギャップが激しい」と感じた作家の作品を選んでみたのが、最初のきっかけです。

その作家の一人が、宮﨑豊治(みやざきとよはる)さんです。

宮﨑豊治《眼下の庭》1993

池田:前に勤めていた国立国際美術館でも宮﨑豊治さんの同じシリーズの作品を展示したのですが、そのときのギャップの印象が残っていました。私が思っていたより、実物の宮﨑さんの作品は大きかったのです。

展覧会の企画の段階で写真は見ていたし、作品サイズももちろん知っていたのですが、実際の設置のときに作品を見て、思ったより大きかったので驚いてしまいました(笑)。作品自体のサイズではなく、作品が包含する空間の大きさに驚いたのだと思います。

この体験がとても印象に残ったので、宮﨑さんに関心を持って調べていきました。『身辺モデル』というシリーズの作品もあって、これは宮﨑さんの身体のパーツの大きさに基づいて作られているんです。作家自身の身長や手の長さ、膝の高さなどですね。

設置された作品を見て、「人間の身体の大きさに基づいたパーツが地面に並んでいるんだな」と思うと、「思ったより大きい」というギャップに納得がいったんです。それで、当館が収蔵する宮﨑さんの作品も、きっと私が想像するより大きいのだろうな、と思いました。

同じように、スケールのギャップを基準に他の作品も選んでいきました。

――本展では3つの収蔵品が初公開となっていますよね。誰も作品が美術館で展示されたところを見ていないので、展示方法を考える時、スケール感のギャップによる難しさなども感じられたのではないでしょうか?

池田:初公開の作品の一つである福本潮子(ふくもとしほこ)さんの《霞の幔幕》は、作家本人に来ていただいて一緒に設置を行いました。そのため、私の方ですごく迷う、といったことはありませんでした。ですが、予想していたよりも透ける素材だったので、同じ空間で展示している田中信行(たなかのぶゆき)さんの作品との関係性が難しかったです。

福本潮子《霞の幔幕》(部分)2002

池田:作家によってこだわりの箇所が違うので、とても難しいんです。福本さんの場合は、布の透けや重なりによる色の濃淡を重視されています。なので、最初は田中さんの作品を後ろに置き、福本さんの幔幕を手前に置くことで、透け具合を表そうと考えていました。また、2枚の幔幕の間に、田中さんの作品を置くことも福本さんと考えました。

一方で、田中さんはご自身の作品にとってどれくらいの広さの空間が必要かご存じですし、こだわりがある部分です。お二人の作品の兼ね合いを調整して、今の展示方法に落ち着きました。

手前:田中信行《Inner side – Outer side》2005、奥:福本潮子《霞の幔幕》2002

池田:照明の当て方も難しかったです。福本さんの作品の藍色が綺麗に見えるように展示したいのですが、強い光を当てると色が飛んでしまう繊細な作品です。そのため展示室を暗くしないといけないことが分かりました。

――最近はホームページやSNSでアート作品の写真を見てから実物を見る人が多いと思うのですが、実体験を重視したいといったメッセージも含まれているのでしょうか?

池田:実際に見ることの方が、写真で見ることよりも勝っている、ということではないと思うんです。今の時代、写真で見ることと実物を見ることはセットだと考えています。先にSNSやホームページをチェックして、どんな作品があるのか知るのは自然なことです。

逆に、「思っていたより大きい」の前提となる「思う」の部分を作っておいていただき、実物を見たとき、それより大きい・小さいと感じる経験を楽しんでいただければと思います。

――現代だからこそのアートの楽しみ方ですね。親しみやすいので来館者も楽しめる展覧会だと思います。その中でも、特にここは見逃さないで欲しい、といったポイントはありますか?

池田:インパクトがある作品は見てくださると思うので(笑)、細かく見ていただきたいのは展示室1の宮﨑豊治さんの小さなドローイング作品です。

宮﨑豊治《眼下の庭 ―素描―》(部分)2018-2020

池田:小さな文字が書いてあって、金沢や京都の地名などが登場しているんです。宮﨑さんが生まれ育ったのが金沢で、移住されて今住んでいるのが京都なので、川や山、通りの名前が書いてあります。そのあたりも注意して見ていただければ、と思います。

――なるほど、細かい部分まで見ていませんでした…もう一度拝見しないといけないですね。

――「写真を見て作品をイメージする」という当たり前のことに、「自分の経験」を意識したことはありませんでした。ギャップを感じたとき、自分はどうして実物より大きい・小さいと感じたのか、振り返ってみようと思います。貴重なお話をありがとうございました!

池田:ありがとうございました。

【まとめ】自分の経験と実物のギャップを楽しもう!

アニッシュ・カプーア《白い闇 IX》2002

池田さんへのインタビューの中で、「頭の中に作品をイメージするとき、自分の経験から想像する」という考え方が重要だと感じました。ギャップはどこから来るのか掘り下げてみると、作品に対して「これくらいの大きさだろう」と考えるに至った理由となる経験が、隠れているはずですよね。

作品を鑑賞しながら、なぜ作家による作品と自分の頭の中のイメージが異なるのか、考察していくと面白いのではないでしょうか。ギャップに注目することで、新たな美術鑑賞の道が開けるかもしれません!

展覧会情報

展覧会名:『コレクション展 スケールス』
会場:金沢21世紀美術館
会期:2020年10月17日(土)~2021年5月9日(日)
公式HP:https://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=17&d=1784

金沢21世紀美術館では、『ミヒャエル・ボレマンス マーク・マンダース|ダブル・サイレンス』も開催されています。こちらもキュレーターの黒澤浩美さんにインタビューし、展覧会の裏話や現代アートを楽しむヒントをうかがいました!

明菜

明菜

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美術ブロガー/ライター。美術ブログ「アートの定理」をはじめ、各種メディアで美術館めぐりの楽しさを発信。西洋美術、日本美術、現代アート、建築、装飾、ファッションなど、扱うジャンルは多岐にわたる。人間より猫やスズメに好かれる体質のため、可愛い動物の写真や動画もSNSで発信している。

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