カピトリーノ美術館は、世界でもっとも歴史が古い美術館のひとつで、1734年に一般公開が始まった公共美術館です。この展覧会では、建国から2000年を超える「永遠の都ローマ」の美術の歴史と、西洋芸術の源を探ります。
カピトリーノ美術館所蔵作品を中心に約70点の作品を展示し、古代彫刻の傑作「カピトリーノのヴィーナス」(東京会場のみ)と、ドラマチックに描くカラヴァッジョの「洗礼者聖ヨハネ」(福岡会場のみ)は日本で初公開です。展覧会は東京都美術館で12月10日(日)まで、福岡市美術館では2024年1月5日(金)~ 3月10日(日)に開催します。
今回は彫刻作品が多いことも特徴です。作品を正面からだけではなく、さまざまな方向から見ると印象が異なって見えることもあります。試してみてください。5つの章を東京都美術館の展示順に紹介していきます。
第1章 ローマ建国神話の創造
最初の展示室に入ると、牝狼が来館者に気がついて顔を向けたようなポーズで迎えてくれます。この牝狼はテヴェレ川に捨てられた双子の兄弟ロムルスとレムスに乳を与えて育てる神話を表わしています。高さは83センチもあり、黒光りする姿には威厳があります。コインなどの展示品にも同じ絵柄があり、ローマの街中でも牝狼像を見ることができます。
古代ローマの政治・経済の中心は、テヴェレ川の東にある7つの丘に囲まれていました。カピトリーノの丘は「ローマの七丘」のなかで最も高く、古代には最高神をまつる神殿が置かれました。
豹の上に乗りかかる猪、猪の首にかみつく豹の一瞬を捉え、迫力のある彫刻です。ローマ時代に円形闘技場での格闘から着想を得たものです。
第2章 古代ローマ帝国の栄光
皇帝の肖像は厳しい表情が写実的に表わされ、多くの複製が公共の場に置かれました。ここには、初代皇帝のアウグストゥス帝(在位:前27~後14年)、領土を最大にしたトラヤヌス帝(在位:98~117年)、帝国を安定させたハドリアヌス帝(在位:117~38年)、全自由市民にローマ市民権を与えたカラカラ帝(在位:211~17年)の肖像が並んでいます。また、女性の地位は高くはなかったローマで女性の像も数体展示されています。顔の表情や髪飾りにも注目です。
展示室の奥にすすむと、巨大な手、足、頭部があり、驚かされます。とくに足のリアルさには血が通っているようにも見えました。
「コンスタンティヌス帝の巨像」の頭部は高さ約1.8mもあり、全体は高さ12m以上の座像であったと推定されています。「コンスタンティヌス帝の巨像の頭部(複製)」の原作は330~37年(左足は312年頃)同皇帝の在位につくられ、15世紀末に公共建築の遺構から見つかりました。
コンスタンティヌス帝(在位:306~337年)は、皇帝の権力を強化、キリスト教を公認し、首都をコンスタンティノポリスに移しました。偉大な皇帝の巨像が遠くを見つめる眼差しには威厳が感じられます。
巨像は皇帝の権威を象徴するもの、教皇シクストゥス4世(在位:1471~84年)が1471年に、「コンスタンティヌス帝の巨像」や「カピトリーノの牝狼」像など4作品を市民に寄贈し、古代ローマの継承者が教皇であることを印象づけました。
古代ギリシアの偉大な彫刻家プラクシテレスの女神像(前4世紀)に基づいてつくられた2世紀の作品で17世紀に発見されました。ヴィーナス像は典型的な体を隠す恥じらいのポーズをとり、古代ヴィーナス像の傑作として知られています。門外不出の作品で、東京展のみに展示されます。ヴィーナス像の周りをゆっくり歩くと、結んだ後ろ髪、背中などに、大理石とは思えないような柔らかさが感じられます。
カピトリーノ美術館で展示されている八角形の部屋に合わせて東京都美術館でも八角形に仕切られた展示空間がつくられています。ヴィーナスの足下にはカンピドリオ広場の星形のデザインが施されて、後ろには第3章、第4章の絵画が見えています。
第3章 美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想
王冠をかぶり、マントを肩にかけた女性像が、1cmほどの石をぎっしりと並べたモザイクでつくられています。顔の輪郭などにはグラデーションが施され、背景の金色は表面が均一でないため光を反射して輝いています。
河神は右手には小麦の穂、左手には作物がのった豊穣の角を抱えています。この後ろには、カンピドリオ広場を描いた油彩画と版画が展示されています。
このエッチングはミケランジェロの建築プロジェクトを明確に示しています。カンピドリオ広場を囲むように、左にヌオーヴォ宮殿、正面にセナトリオ宮殿、右にコンセルヴァトーリ宮殿があります。現在は、セナトリオ宮殿はローマ市庁舎に、ヌオーヴォ宮殿とコンセルヴァトーリ宮殿がカピトリーニ美術館になっています。3つの建物は地下連絡通路によって繋がっています。
1537年、教皇パウルス3世(在位:1534~1549年)はカピトリーノの丘の整備をミケランジェロに命じ、ミケランジェロは「マルクス・アウレリウス帝の騎馬像」を中心に設置し、騎馬像の眼下から一直線に幅広いコルドナータ(階段状の斜路)を計画しました。ミケランジェロは既存の二つの建物に外被を纏わせ、教会の壁面を隠すように第三の建物を建てました。この時のミケランジェロの構想は変更されることなく1655年に完成しました。
第4章 絵画館コレクション
1748年から1750年にかけて、教皇ベネディクトゥス14世(在位:1740~1758年)の尽力により、イタリア名家旧蔵の絵画コレクションを収集し、絵画館が設立されました。この章には16~18世紀の名画が並びます。「教皇ウルバヌス8世の肖像」は特にレースが繊細に描かれています。
若者がメロンの香りをかぐポーズです。本作は「五感」を表す油彩画に基づくとされており、「嗅覚」を表しています。カラヴァッジョの影響を受けていると思われる、光と影のコントラストにも注目です。カラヴァッジョ「洗礼者聖ヨハネ」(1602年)は、福岡会場だけに展示されます。
第5章 芸術の都ローマへの憧れ─空想と現実のあわい
トラヤヌス帝記念柱をエッチングで細かく描いたものです。実物はトラヤヌス帝がダキア人を征服した記念として106~113年に立てた大理石の円柱で、台座を含む高さは約 38m、直径約 3.9m。表面には戦闘の場面が細かく浮き彫りにされています。
浮き彫りは19世紀と20世紀に石膏板にとられ、ローマ文明博物館などで間近に見ることができます。右は木下でダキア人の王が自ら命を絶とうとしている場面です。
2世紀の著名な大理石群像「アモルとプシュケ」を素焼き陶器で再現したものです。1749年にローマのブドウ園で発見されました。ヴィーナスの息子アモルと人間の美女プシュケの愛のテーマは前3世紀以降大きな人気を博し、さまざまなヴォリエーションが制作されています。後ろ姿も是非ご覧ください。
特集展示 カピトリーノ美術館と日本
2023年は明治政府が派遣した「岩倉使節団」がカピトリーノ美術館を訪ねてから150年の節目にあたります。使節団の訪欧はのちの日本の博物館施策に大きな影響を与えました。
「欧州婦人アリアンヌ半身」像は、イタリアから教材として招来した「アリアス(ディオニュソスの頭部)」を模したもので、1881年の第2回内国勧業博覧会に出品されました。この「アリアス」は工部美術学校の画学科、彫刻学科の教材として活用されていました。
タイトルに「阿蘭陀(オランダ)フランス」とありますが、明らかにローマの遺跡が描かれています。右下に「マルクス・アウレリウス帝騎馬像」、右端にはトラヤヌス帝記念柱などが組み合わされています。
特設ショップでイタリアを持ち帰り
特設ショップは多種多様なイタリアグッズ、展覧会のオリジナルグッズが用意されています。 「ROMA」のロゴがついたTシャツ、パン缶、ビスケット。狼のぬいぐるみ、キーホルダー、アクセサリーなど。
EATALY(イータリー)はイタリアの食文化を伝えるブランド、国内にも5店舗があります。
鮮やかな色と繊細な植物模様が素敵なのは、イタリアのカルスト社の高級ラッピングペーパーで仕立てたカードや便せんなどです。
東京都美術館では、1階からロビー階(地下1階)に向かうエスカレーター前に撮影スポットがあります。「コンスタンティヌス帝の巨像の頭部」は原寸大の約1.8m、並んでみると大きさが実感できます。記念撮影してみてはいかがでしょう。
壮大なローマの歴史と充実した作品群に圧倒された展示でした。彫像の後ろ姿にも魅了されました。
【展覧会基本情報】
「永遠の都ローマ展」
会場:東京都美術館 企画展示室 (東京都台東区上野公園8-36)
会期:2023年9月16日(土)~ 12月10日(日)
休室日:月曜日
開室時間:9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料(税込):一般2,200円、大学生・専門学校生1,300円、65歳以上1,500円
※土日・祝日のみ日時指定予約制(当日の空きがあれば入場可)
問い合わせ:050-5541-8400(ハローダイヤル)
巡回展
会場:福岡市美術館 特別展示室(福岡県福岡市中央区大濠公園1-6)
会期:2024年1月5日(金)~ 3月10日(日)
開館時間:9時30分~17時30分(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日 1月9日(火)、2月13日(火)
※ただし、1月8日(月・祝)、2月12日(月・祝)は開館
展覧会ウェブサイト https://roma2023-24.jp
参照記事:【Webで旅気分】古代からの歴史が幾重にも重なる「永遠の都・ローマ」で最初の一歩を踏み出そう—すべての道はローマに通ず | [楽活]rakukatsu - 日々楽シイ生活ヲ