多くのサーファーから愛されるサーフィンスクール！プロサーファー塩坂信康さんが湘南・鵠沼海岸で営む「ウォームアップサーフ」の魅力に迫る
サーフィンのメッカとして世界的に知られる湘南・鵠沼海岸。海岸沿いにはマリンスポーツにちなんだ数多くの店舗が立ち並びます。そのなかで、とりわけサーフィン仲間に愛されているのが、プロサーファー・塩坂信康さんが営むサーフィンスクール「ウォームアップサーフ」です。仲間から”ノブさん”と親しみを込めて呼ばれる塩坂さんは、サーフィンのメッカである湘南の鵠沼で生まれ育ち、JPSA公認のプロサーファーとして活躍を続ける地元のヒーローです。
「ウォームアップサーフ」の特徴は、なんといってもアットホームで笑顔が絶えないこと。店内には、ノブさんを中心として、初心者からベテランまでサーフィン好きの人が集い、和気あいあいと早朝から海辺へと繰り出していきます。そのコミュニティはノブさんの明るいキャラクターを反映したかのように朗らかで雰囲気が良く、とても居心地が良い場所となっています。
そこで楽活では、この「ウォームアップサーフ」を訪問し、店主の塩坂信康さんにインタビューを実施。ノブさんがプロサーファーを目指した経緯や、湘南に密着した「ウォームアップサーフ」ならではの取り組み、そしてノブさんの今後の抱負まで、じっくりとお話をお伺いしました。
塩坂信康さんが世界的なプロサーファーとなるまで
ーーノブさんはこれまで長い間、日本を代表するプロサーファーとして活躍を続けて来られましたが、そもそもノブさんがサーフィンを始めたきっかけはなんだったのでしょうか？
ノブ：かっこつけずに素直に言うと、単純にモテたかったからです。中学生のとき、たまたま友達と読んでいたプレイボーイに「サーファーはモテる！」って書いてあったんですよ。もうみんなでその記事に釘付けになって、近くに海もあるし、じゃあサーフィンやってみるかって思ったんですよね。だからもともと海やサーフィンに興味があったわけじゃないんです。不純な動機ですよね（笑）
―ーただ、そこからどんどん上達されて日本有数のプロサーファーになられたのですよね。
ノブ：確かに最初のきっかけとして「モテたい」っていうのがありましたけど、やってみるともう楽しくて楽しくて。毎日夢中になって海に入っているうちに、想像以上に上手くなれましたね。それで、サーフィンをしているうちにプロサーファーの存在を知って、じゃあプロを目指そうかなというふうに、少しずつ気持ちが固まっていきました。
ーーノブさんは今も現役のプロサーファーでいらっしゃるのですよね？
ノブ：はい。今も「ロングボード」（※ボードの長さが274.3cm以上）部門で大会に出続けています。若い頃と比べたら体調が万全ではないときもあるので、以前のように全戦フル出場というわけにはいかないんですが、それでもまだ勝てるチャンスはあるんじゃないかと思ってトレーニングを続けています。
ーー最近は、どのように練習されているのですか？
ノブ：基本は海のみです。シンプルに海でサーフィンの練習をしています。あとはマシンを使ったトレーニングですね。鍛えたい部分が出てきたら、ジムで集中的にその部分の筋肉を動かす…といった具合ですね。
ーーところで、「ウォームアップサーフ」を開かれた経緯を教えていただけますか？
ノブ：もともと、僕のお店は千葉にあったんです。一時期、ランキング上位を目指して練習量を増やすために、湘南よりも波が高くて豊富な九十九里浜に移住していたのですが、その時期にお店を始めました。不況の影響で、企業からのスポンサー料だけでは食べていくのが難しくなったので、その時に活動拠点を置いていた千葉の片貝漁港の近くにサーフショップを開くことにしたのがきっかけですね。
ーーその頃から「ウォームアップサーフ」という店名で運営されていたのですか？
ノブ：そうです。兄の支援を受けてお店を立ち上げたんですが、その際に兄が僕を”育てる”＝”ウォーミングアップ”という意味で、「ウォームアップサーフ」と名付けてくれました。兄が今の鵠沼の今のお店を運営し、僕が片貝での千葉店の店長をやっていました。
ーーすると、その頃は半分海、半分仕事みたいな感じで1日中サーフィン漬けの生活を送っていたのでしょうか？
ノブ：まさにそんな感じでした。午前中に3時間働いたら、午後からはもう仲間と一緒に「サーフィン行こう！」と海に繰り出していましたね。湘南に移ってからはもうちょっと長く働くようになりましたが、不思議なことに、千葉時代のほうが今よりが売上が多かったんです（笑）。
ーー千葉から湘南に移られたのは、なぜなのでしょうか？
ノブ：東日本大震災の影響で、千葉店を閉めなくてはいけなくなったからです。地震当日に起きた津波の被害も大きくて、胸の高さくらいまで波が入ってきました。店内はもうヘドロまみれでぐちゃぐちゃでしたね。ただ、震災直後はなんとか店舗を再開することができました。嬉しいことにお店のメンバーさんたちが自発的に集まって店の掃除を手伝ってくれたんです。1ヶ月半くらいで奇跡的にお店を再開できました。その時は本当に感動したんですが、その後、原発事故の影響もあって、九十九里にサーファーが戻ってこなかったのが痛かったです。必死で復旧を手伝ってくれた常連さんの気持ちにも応えたかったので、貯金なども全部切り崩して、とにかく「石の上にも三年だ」と3年間はお店を頑張ったんですよ。でもやっぱり立て直せなかったです。そんな時にちょうど兄が湘南に戻ってくればって言ってくれて。あ、じゃあ戻っちゃおうかなと思って。2017年から、それまで兄が営んでいた鵠沼店の運営を引き継ぐことになりました。
ーー本当に大変でしたね。でも、お店を支えてくれる人が大勢いたことは、励みになったのではないですか？
ノブ：見ず知らずの人がスコップ持って店内の掃除を手伝いにきてくれたり、遠く東京や湘南からも毎日のように来てくれたましたし、毎日毎日感動しっぱなしでした。サーファー同士の絆の強さとか、人間の温もりを実感しました。でも、それは湘南に移ってからも変わらないです。僕の周りにはみんないい人が集まってくれる。恵まれた環境でサーフィンに向き合えていることに感謝しています。
湘南に戻って仲間と始めた「朝一会」
ーー鵠沼に移られてから、お店の運営方針は変わりましたか？
ノブ：湘南でも、基本的にやっていることは今までと同じです。お店ではボードやウェットスーツなど、サーフィンに関わるいろいろな商品を販売しています。湘南に戻ってから立ち上げた僕のブランド「WAVE LION」以外にも、地元のシェイパーが制作したボードや、サーフィン仲間の手掛けたグッズなども幅広く置いています。あとでインタビューしていただくRyueiさんのイラスト作品も好評ですよ。一方、スクール事業は「ウォームアップサーフ」所属の若いプロにお任せすることが増えました。その代わり、僕はもっぱら平日の早朝から仲間とゆったり海に入る「朝一会」という活動をメインにやっていますね。
ーー「朝一会」って……朝活みたいですね。どんな活動なんでしょうか？
ノブ：平日の朝に海に入れる方限定で、早朝から毎日30人くらい集まってサーフィンを楽しんでいます。みんなが和気あいあいと集まって、技術の上手い下手に関係なく純粋にサーフィンを楽しむ集まりですね。気がつけば、不思議と僕と同年代の50代くらいのメンバーがどんどん増えていますね。女性は…やや少ないかな（笑）。いつのまにか男塾みたいになってます。でも老若男女関係なくどなたでも大歓迎ですよ！
ーーなぜ平日限定なんですか？
ノブ：湘南は人気なので、どうしても土日祝日は混雑してしまうからです。それで、一番波を掴みやすい平日朝限定で試しにメンバーを募ってみようか……と思って始めてみたら、不思議とみんな集まってくれるようになって。「ウォームアップサーフ」ならではの定期イベントになってきています。
ーー朝一会で何か取り組んでいることなどはあるのでしょうか？
ノブ：海に入っているときは、とにかく楽しむだけです！でも、少し前から、「ワンハンドビーチクリーン」という活動を、朝一会のみなさんとスタートさせました。波乗りを楽しんだ後、海から上がる際に、空いている片手分だけでもいいので浜辺のゴミ拾いをみんなでやろうよ…っていう取り組みです。
ーー確かに、湘南は観光客も多いからゴミも多く出そうなイメージがあります。
ノブ：それが、最近はサーファーのみなさんがビーチクリーンを一生懸命やってくださるようになったので、とてもキレイになってきたんですよ。湘南の他のサーフィンスクールやショップのコミュニティの方々も協力してくださるようになってきていて、拾うゴミがなくなってきているんですよ。嬉しい変化ですよね。実は、他にも湘南のサーフィン仲間と一緒に取り組んでいるプロジェクトがあるんです。
サーフィンを通して広がる支援の輪
ーーそれはどんなプロジェクトなのでしょうか？
ノブ：実は2021年から、児童養護施設で生活している子供たちをディズニーランドに連れていってあげるという「湘南ドリームプロジェクト」という活動に取り組んでいます。どうしてディズニーなのかというと、純粋にとても楽しいし、行けば大人も子どももみんな笑顔になれるじゃないですか？子どもたちや、施設職員も含めて、みんなが楽しめるスペシャルな1日があってもいいんじゃないかなって思って企画しました。
ーーノブさんの得意なサーフィンを教えるのではなくて、ディズニーランドに招待するのですね？
ノブ：そこもよく突っ込まれます（笑）。なんでディズニー？湘南の海でサーフィンを教えてあげればいいじゃないって。でもサーフィンって特殊なスポーツですし、参加者全員が楽しめるとは限らないですから。1回目は楽しくても、2回、3回やりたいかといえば、もういいかな…という子もいると思うんです。でもディズニーだったらみんな何度でも行きたいですよね。
ーーこの「湘南ドリームプロジェクト」はどのように立ち上げたのでしょうか？
ノブ：最初は「ウォームアップサーフ」の仲間たちに声をかけて、有志で少しずつお金を集めるところから始めました。するとみんなやろうやろうって賛同してくれて、1ヶ月くらいで200万円以上集まったんです。そこから地域の近くのサーフショップやサーフィン雑誌にも協力してもらえるようになったり、藤沢市の企業回リを自発的にやってくれる人も現れたりして、徐々に支援の輪が広がっていった結果、神奈川県藤沢市の児童養護施設「聖園 子供の家」の子ども達全員、約50名を宿泊つきで東京ディズニーリゾートへ招待することができました。
ーー公式HPを見ると、現在は第3回までプロジェクトを継続して実施されているのですね。
ノブ：そうですね。１回やったら終わり…というのではなく、ずっと続けていくことに意味があると思っています。だって1度行ったら「また行きたい」となるじゃないですか。リピートしたくなりますよね。直近では、2024年10月に同じ施設の子どもたちを今度は「富士急ハイランド」に招待することができました。
ーーサーファーの団結力、すごいですね？
ノブ：サーファーって自然から良い影響を受けているから、人にも優しくなれると思うんですよ。実際、僕のショップに集まってくれる人はみんな優しくて心が豊かな人たちばっかりです。海という圧倒的な自然の前では、僕らの力なんかちっぽけなものなんだって本能的に理解しているから、何かをしてあげるときに、変な打算や承認欲求みたいなものないですし。自然の中で遊ぶスポーツって本当にすごいなと思います。
”人生が変わる”サーフィンの魅力とは
ーーさて、インタビューも終わりが近づいてきましたが、あらためてノブさんが考えるサーフィンの魅力について教えていただけますか？
ノブ：雄大な自然を感じながら、無心になって楽しめるのがサーフィンの大きな魅力だと思います。波に乗る瞬間の喜びや、風を切ってボードを滑らせる気持ちよさは、何者にも得難い最高の体験ですよね。それは初心者でも上手くなってからでも一生変わらないと思います。キアヌ・リーブスが主演した「ハート・ブルー」っていう映画があるんですが、その映画のなかで、キアヌと恋に落ちる女性のローカルサーファーがFBI捜査官に扮したキアヌに「サーフィンしたら人生変わるよ」って言うんですが、このセリフはまさにサーフィンを表した言葉だなって思いますね。
ーーノブさんもサーフィンで人生変わりましたか？
ノブ：すべての価値観が変わったと思います。”ウェーブファースト”ですね。生活もサーフィン中心だし、旅行に行っても、ただ波だけを求めていますから（笑）。美味しいものが食べたい、とか、きれいなホテルに泊まりたい、というよりも、なによりもいい波に出会いたいという気持ちに突き動かされている感じですね。
ーーそんなノブさんを虜にし続けているサーフィンですが、これから始めてみたい初心者の方に何かアドバイスをいただけますか？
ノブ：サーフィンは楽しくて、上手い下手は関係なく生涯続けられるスポーツです。ぜひ一度はチャレンジしてほしいですね。ただ、安全に楽しく始めるなら、サーフィンスクールは絶対必須です。サーフィンに詳しい友達と一緒に行っても、いざ海に入ってみるとサーフィンが楽しすぎて、教えてくれないんです（苦笑）。「じゃあ頑張ってね」なんて置いていかれたりしますから（笑）。もし湘南で始めるなら、ご縁があれば「ウォームアップサーフ」に来てくださいね。僕や専属のプロがしっかり基本から教えますから。朝一会も、もちろん大歓迎です！
ノブさんにとっての今後の抱負とは
ーー最後に、ノブさんのプロサーファーとしての今後の活動の目標などがあれば、お聞かせいただけますか？
ノブ：僕も気がついたら56歳で、若い頃と比べると体のあちこちが痛んだりすることもあります。ですが、まだまだ現役のプロサーファーなので、選手としてもう一花咲かせられればと考えています。僕が得意とするロングボードも、2028年のロス五輪から正式種目になりました。もう一度ランキング上位を目指すために、毎日練習に取り組んでいますので、ぜひ応援よろしくお願いします。
ーーそれでは、最後にノブさんの今後の目標について教えて下さい。
ノブ：正直、今後お店を大きくしなきゃ……といった具体的なプランみたいなのは特にないんです。僕としては、ここに来て良かったよって言ってもらえたらもう幸せなんです。お店の運営だって、皆さんにノブさんこうした方がいいよって教えてもらってるような感じですから。でも、「ウォームアップサーフが好き」「鵠沼が大好き」といった人たちが集まってくれて、その人たちと楽しくサーフィンができる場所と空間を共有できたら嬉しいなとは思います。「ウォームアップサーフ」のメンバーさんは大きな”家族”みたいな感じです。お店としては、”家族”のみんなが安全に怪我なくサーフィンを楽しめるよう、今後もサポートに力をいけたら、という思いでやっていきたいです。
塩坂信康さん・プロフィール
JPSA公認プロサーファー。1967年8月5日、神奈川県藤沢市鵠沼海岸にて誕生。14歳でサーフィンを始め高校時代よりアマチュア大会などに出場し、多くの上位入賞を果たす。高校在籍中にNSA（日本サーフィン連盟）にて1級資格を獲得し、トップアマチュア選手の一人として活躍。全日本メンクラスチャンピオン全日本級別選手権1stクラスチャンピオンとなった後、プロに転向。『とんねるずの生でダラダラいかせて』 でブラザーコーン氏、木梨憲武氏と共に「サーフノリダーズ」に出演。2017年から「ウォームアップサーフ」鵠沼本店の店長に就任。現在は、ロングボーダーとしてもプロ公認を取得し、ランキング上位を保持。2028年ロス五輪出場を目指して研鑽を続けている。
ウォームアップサーフ・基本情報
店舗名称：ウォームアップサーフ
所在地：〒251-0037 神奈川県藤沢市鵠沼海岸1-3－20 1F
休業日：毎週木曜日 ※夏季無休
営業時間：10:00～19:00（月～金）
8:00～19:00（土日祝日、4月～10月）、
10:00～19:00（土日祝日、11月～3月）
アクセス：小田急江ノ島線 鵠沼海岸駅より徒歩約12分、片瀬江ノ島駅より徒歩約14分
TEL&FAX：0466-33-5357
公式HP：http://warmup-surf.com/
