横浜と万博で展示中 注目の葉っぱ切り絵作家に聞く

みなとみらいの空に、クジラが浮かんでいる。

背中には動物たちを乗せて『行き先は潮風の吹くまま、気の向くまま』――

それは一枚の葉っぱから始まる、小さな旅。

横浜みなとみらいで“リト@葉っぱ切り絵”の世界を体感できる横浜初の長期展覧会『Hello! Leaf Art World in Yokohama』が8月31日まで開かれている。

注目の新作に加え、横浜をモチーフにした作品や、野毛山動物園とのコラボなど、人気の作品を楽しめる。

リトさんは自身のADHDの特性を生かし、繊細な“葉っぱ切り絵”の物語を刻む。SNSをきっかけに広がった作品は、多くの人の心を癒やし、今では国内外で注目を集めている。

「わくわくさせたい。自由に想像してほしい。」

 そう語るリトさんに、作品の裏側と展覧会の見どころを聞いた。

新作は空を飛ぶクジラ船

展覧会の会場の奥には横浜をモチーフにした作品が並ぶ。中でも注目は、初披露の作品『行き先は潮風の吹くまま、気の向くまま』だ。

──作品への想いを教えてください。

リトさん(以下、敬称略):横浜っていうと海。空が海で、船みたいな生き物は何かなって考えてクジラにしました。このクジラ、パイプをくわえてるんですよ。クジラの船頭さんが動物たちを乗せて旅してるイメージです。

初披露の作品『行き先は潮風の吹くまま、気の向くまま』

自由な想像を楽しんでほしい――タイトルに込めた想い

──作品タイトルに込めた思いは?

リト:「横浜」「海」「ワクワク感」を出したくて。でも説明しすぎたくなかった。ランドマークタワーも“もしかして横浜?”ってわかる人だけわかるくらいがいい。旅の途中なのか、帰りなのかとか、自由に想像してもらえたら嬉しいです。感想を聞くのも楽しくて。「なるほど、そんな見方もあるんだな!」って。

会場で楽しめる体験|オリジナルソング&フォトスポットも

会場には新作のほか、横浜をモチーフにした作品、大好評だった野毛山動物園とのコラボ『葉っぱ切り絵いきものずかん』掲載作品などが並ぶ。やさしく、ときにクスっと笑顔になれる物語が広がっている。

実物の作品の精巧さには思わず立ち止まって見入る人も多い

さらに、作品のオリジナルソングが流れるスライドショー、フォトスポット、新作のスタンプやグッズ販売コーナーもあり、 子どもから大人まで、世界観をまるごと楽しめる空間になっている。

中庭にはリトさんの作品の動物たちがいる

──会場の見どころは?

リト:今回、初の試みのスライドショーですね。歌詞が全部、作品のタイトルやテーマになっているんですよ。 僕もびっくりしたんですが、AIが歌っているんですって。今後は会場ごとに違うスライドショーもいいかもしれないなって思っています

モニターの向かいにはベンチもあり、ゆっくり作品を見ながら歌を聴ける

──空間づくりで意識した点は?

リト:会場の空間を活かしてどうやったらワクワクしてもらえるか、導線やモノの配置を何回も話し合いました。会期も長いので、もしかしたら途中で作品か何かを追加するかもしれません。

ポストカードやファイル、キーホルダー、カレンダーなど様々なグッズと作品集が販売されている

──今回、地元横浜で初の長期開催ですが、決まった時のお気持ちは?

リト:ファンの方からもよく要望があったんですが、関東での展覧会って最近なかなかなくて。だから横浜市さんの協力で長期の開催が決まったときは嬉しくて。これは気合い入れなきゃなって思いました。

──展覧会へ来る方へのメッセージをお願いします。

リト:普段から見てくれている方も、アートにあまり興味がない方も、気軽に来てくれたら嬉しいです。僕の作品は、小さな子どもからお年寄りまで、誰でもわかりやすく楽しめると思っています。みんなでストーリーを想像して話しながら、楽しんでもらえる場になれば嬉しいです。

ユニークな作品を見て笑っている子も

アイデアの源は?|2万歩から生まれる物語

──作品のアイデアは、どんなときに浮かぶんですか?

リト:散歩ですね。公園で季節を感じたり、本屋やお店を見たり。トレンドやフォロワーさんとのやりとりの中でも、ひらめくことがあります。思いついたらスマホのメモ帳にすぐ書いていますね。

──毎日散歩されるんですか?

リト:昼と夜で1万歩ずつ、毎日2万歩って決めています。お菓子も控えて13キロくらい痩せたんですけど「大丈夫ですか?」ってファンの方に言われて(笑)ダイエットも兼ねていたんです。

ヒットの秘訣は?|たどり着いた“葉っぱ切り絵の物語”

リトさんは会社員をやめてから、ボールペンイラストなど様々な作品を制作したが、思うような反応が得られなかった。あるとき、海外のアーティスト作品からヒントを得て始めた葉っぱの切り絵がSNSで大きな話題に。

──会社員を辞めてから、どんな気持ちで作品づくりをしていたんですか?

リト:会社員をやめてから貯金もなくなって。必死に試行錯誤したんです。切羽詰まっていたからこそ葉っぱの切り絵にまでたどりつけたんだと思います。

──作品ヒットの秘訣は?

リト:リアルな切り絵を作る人たちはたくさんいて、絵の上手さではかなわなくて。だから自分でも描ける動物にしたんです。それから、ストーリーを入れた物語作品はあまりなかったから、僕でも勝負できるんじゃないかと思ったんです。それが結果的に多くの方に受け入れられたんですよね。

ユーモアのあるストーリー作品『そ、それウチの子です~!』

自然とおだやかな時間から生まれるやさしい作品

──自然との関わりについて教えてください。

リト:子どものころはあまり興味なくて(笑)車や怪獣、は虫類や虫は好きでした。 会社員のときも朝から会社、帰宅時は真っ暗...みたいな。自然とは無縁の生活でしたね。

でも、今は毎日外に出るようになって。季節の花や空の色、日の落ちる早さとかが分かるようになりました。時間の流れも気持ちもおだやかになった気がします。

空を見上げると、やさしいイメージが浮かぶんです。だからこそ、やさしい作品を表現できるのかもしれません。

作品『みんなと遊んだ後は、温かい背中にただいま』

「なんだこれは!?」を世界へ|万博への想い

大阪・関西万博2025では「住友館」にてクリエイターコラボの展示が開催されている。

──大阪・関西万博2025での展示ではどのような想いがありますか?

リト:ふだん僕の作品を知らない人や海外の人にも、知ってもらえるきっかけになれば嬉しいです。
テーマはあるけれど、いつもの自分らしいテイストにしていて。純粋に楽しんでもらいたいですね。万博ならではの演出もあって、びっくりすると思いますよ。

──海外での展覧会にも興味はありますか?興味のある国は?

リト:やってみたいですね。国内だとあまりみんな、驚かなくなってきて(笑)
海外の街の人たちが「なんだこれは!?」ってびっくりしているのを見てみたいです。
実は、海外に行ったことないんです。でも興味はあって。今、アフリカのアートを集めるのにハマっていて、家に仮面がいっぱいあります(笑)アフリカの自然も見てみたいですね。

──世界中での活躍が楽しみですね。今日はありがとうございました!

【インタビューを終えて】リトさんの癒やしの世界観

会場に、ふわりとトレードマークのグレーのハットが現れた。
リトさんだ。サイン会ではファンに、にこやかに応じていた。

リトさんの作品から感じるのは、やさしい世界。

「空を見上げると、やさしいイメージが浮かぶ」

――その言葉どおり、葉っぱの上の物語は、見る人の心をふっとゆるめてくれる。

みなとみらいの街中にひょっこり現れたやさしい葉っぱの世界に誘われて、少しだけ立ち止まり、想像の旅へ出かけてみてはいかがだろうか。

【リト@葉っぱ切り絵 プロフィール】

1986年、神奈川県生まれ。
元会社員。ADHDと診断されたことをきっかけに、自身の偏った集中力やこだわりを前向きに生かすため、SNSで作品投稿を開始。2020年からは独学で葉っぱ切り絵の制作に取り組み、葉に動物や物語を刻む独自のあたたかな作風が注目を集める。

作品集『いつでも君のそばにいる』をはじめとするシリーズは累計25万部を突破。『情熱大陸』(TBS系)、『徹子の部屋』(テレビ朝日系)、『あさイチ』(NHK)などメディア出演も多数。海外メディアにも紹介され、国内外で注目されている。

全国各地で展覧会を開催、福島県には常設ミュージアムを構える。2025年、大阪・関西万博『住友館』ではクリエイターコラボの展示を開催中。
第3回「やなせたかし文化賞」大賞受賞。

【展覧会情報】 横浜みなとみらい

展覧会名『Hello! Leaf Art World in Yokohama』
リト@葉っぱ切り絵展 ~in 横浜みなとみらい~
会場クロス・パティオ(MM21グランモール公園1F)
〒220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい2-1-1
アクセスみなとみらい線「みなとみらい駅」中央口より徒歩約5分  JR線・横浜市営地下鉄「桜木町駅」より徒歩約10分
会期2025年3月29日(土)~8月31日(日)
会場時間平日 12:00〜17:00/土日祝 12:00〜19:00
※最終入場は各日終了30分前
休館日毎週火曜・水曜(祝日を除く)
入場料一般(中学生以上)600円(税込)小学生 300円(税込)※未就学児無料
主催株式会社タヒチプロモーション
共催株式会社オフィス・ハイウェイ
協力公益財団法人横浜市緑の協会
公式サイトhttps://lito-leafart.com/detail/exhibition040_yokohama2025.html
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