アート

アーティスト活動10周年の集大成!「切り絵 柴田あゆみの世界」 ~巡るいのちの”Roots”~(展覧会レポート)

2020年の4月にアトリエで取材させていただいて以来、展覧会があるたび展示にお邪魔させていただいている切り絵アーティスト・柴田あゆみさん。8月に銀座・和光で開催された個展「柴田あゆみ 切り絵展 -ひかりの集い-」は非常に好評でした。

★「柴田あゆみ 切り絵展 -ひかりの集い-」速報レポート!
https://rakukatsu.jp/shibata-ayumi-wako-20200808/

そんな銀座での個展の興奮が冷めやらぬ中、9月12日からは早くも次の展覧会が富士川・切り絵の森美術館にて開催されています。

今回は、日本国内では初めてとなる美術館での個展です。彼女の切り絵作家としてのここまでの約10年間のキャリアを総括するような、集大成的な展示が楽しめる必見の展覧会となりました。

それでは、早速展示内容を見ていくことに致しましょう!

アーティスト活動10周年を飾る集大成的な展覧会

富士川・切り絵の森美術館は、山梨県身延町の風光明媚な高台に位置する「山梨県富士川クラフトパーク」の敷地内にあります。東京都心からは高速道路や鉄道で約3時間。ちょとした小旅行気分で、楽しくお邪魔してきました!

ニューヨークへのアーティスト留学中、現地の寿司屋ギャラリーで小さな個展を開催してから約10年。以来、柴田さんは日本はもちろん、パリのギャラリーやイタリアの空港など、世界中を舞台に精力的に作品を発表し続けてきました。

今回の個展「切り絵 柴田あゆみの世界」 ~巡るいのちの”Roots”~」は、彼女にとってのキャリアの区切りとなる集大成的な展覧会となっています。実際、作品発表の場としては、展示点数、展示期間、展示面積、どれをとっても過去最大規模・最長期間となっています。

開催初日の9/12、柴田あゆみさんによるギャラリートークも実施されました。柴田さんのトークは熱いのでおすすめです!

展示室内には、等身大以上の巨大な切り絵から、和綴じされたブックタイプの立体切り絵、銅版画やフォトリゾ、水彩画と組み合わせた作品、瓶の中に入った幻想的な作品まで、多彩な作品がズラリと並んでいました。

今回、はじめて柴田さんの作品を見る、という方も多いことでしょう。そこで、本稿では展示のハイライトとなる作品を中心に、彼女の言葉も交えながらご紹介していきます!

平面も立体も!既成概念にとらわれない、自由でスケール感の大きな切り絵世界

展示室の入り口をくぐると、まず最初に鑑賞者をお出迎えしてくれるのが、こちらの「あまのいわとびらき」という巨大な切り絵作品です。

真ん中に大きな円の空洞をくり抜いた等身大サイズの巨大な切り絵はインパクト抜群。過去、イタリア・マルペンサ空港で展示され、海外で話題になった柴田さんの代表作の一つです。

「あまのいわとびらき」。天井まで届くような巨大な1枚の切り絵。光にぼーっと照らされて、淡い光を放つ切り絵は、絹織物を見ているようでもありました。

取材時、特別に許可を頂いて、僕の息子を切り絵の向こう側に立たせてみました。人間がアート作品を鑑賞するのではなく、アート作品の世界の中に人間がいつのまにか入り込んでいる、というのが面白いですよね。

続いては、柴田さんとしては割とレアな、黒を基調とした切り絵作品「Me and My dear」。2014年の最初期に制作された、柴田さんにとっての記念碑的作品です。

「Me and My dear」

本作では、彼女がまだアーティストを志す以前、ニューヨークで自分自身のやりたいこと、使命とは何なのか答えを探し求めていた時代の自分自身が題材。人生の先行きに展望を見いだせず思い悩んでいた時期の彼女自身が、作品中央に描かれた堕天使ルシファーに仮託して描かれています。

この時の柴田さんの心情について、詳しくお聞きしてみました。

「この時期、実はまだ自分がアーティストになろうとは考えていませんでした。それよりも、どうやったら自分が自分として生きていけるかという展望を見出せずに思い悩んでいました。私は高校の時から、やりたくない仕事に自分の時間を使って、対価として金銭を稼ぐ事が苦痛でなりませんでした。自分が心から愛し喜んで作り上げたものに対して対価をいただけるようになるにはどうしたらいいか?そう考えた時、ニューヨークに行こう、って思ったんです。」

なるほど・・・。でも、なぜ行き先がニューヨークだったのでしょうか。

「自分自身が心から喜んで作り出せるものってなんだろう・・・。それを知るには、まず自分自身を知り、心に柱を立てる事が必要だと考えました。それで、自分自身の心や存り方を探すために今いる環境を変えるなら、自分にとって一番厳しいであろうと思った場所こそがニューヨークだったんです。様々な人間の欲望や、エネルギーが渦巻く街ニューヨーク。その渦の中で揺るがない自分の柱が立つまでは帰らない、と決め渡米しました。」

真ん中に描かれた、悩める表情をした女性の半身像が柴田さん自身。そして、ルシファーの羽と一体化して、バックにぼーっと明るく輝いているのが、柴田さんにとっての「My dear」です。闇の中で浮かび上がるように表現された羽の部分が非常に幻想的で美しいですよね。マグダラのマリアみたいにも見えますし、観音菩薩像のような東洋的なテイストも見え隠れします。

本作を制作した当時、先行きが全く見えずボロボロの心境だったそうです。と同時に、そんな時であっても自分の背後で親愛なる目に見えない何らかの超常的な存在が自分を守ってくれているんだ、という実感があったそうです。

夜は明ける前が一番暗い、とはよく言いますが、柴田さんのアーティストとしてのキャリアは、まさに迷いや苦しみの渦中から始まったのですね。

展示風景

展示室の前半部分だけでも、非常に力作揃いですよね。ちなみに本展では全作品撮影自由。来館者の多くが、スマホでお気に入りの作品を撮影していました。

それでは、いよいよ本展のハイライトとなる、切り絵の森へと入っていきましょう!

「調和の森」「いのちの根」

樹木の枝や根をイメージして制作された、縦が約3mもある切り絵のトンネルは圧巻!巨大な切り絵をドミノのように何十層にも並べた切り絵の中に入っていくと、まるで鬱蒼と生い茂った深い森の中にいるようでした。柔らかい乳白色の光に包まれた空間が、なんとも言えない安らぎを提供してくれます。

柴田さんに今回の展覧会のコンセプトをお聞きしてみました。

「今回は『巡る命のルーツ』と題して、植物も人間も『ねっこ』が大事なんだよ、ということをテーマにしています。樹木や植物が嵐や水害などに遭ってもブレずに立っていられるのは、幹よりも下の根っこがしっかりしているからですよね。普段、根っこは土の中に隠れて見えないけれど、この根っこの部分がしっかり支えているからこそ、生きていけるんです。

そして、それは人間でも同じですよね。仕事や人間関係、生活や子育てなど、全てにおいて、普段の言動では見えていない感情や思考の土台の部分、つまり心がしっかりしていることが大事なんです。今回は、私の10年目の集大成的な展覧会でもあるので、私が普段一番大切にしていること、つまり人間の根っこである心こそが全てを決めている一番重要な要素なんだよ、ということを強調したくて、展覧会のタイトルにしてみました。」

確かに、展覧会場をぐるりと見回してみると、柴田さんの切り絵には「森」や「樹木」がモチーフとして頻出します。中でも、地中の「根」の部分をクローズアップした作品が非常に多いことに気付かされます。

「とわの森・昼」

こちらの作品は、バックライトに照らされて、地中にガッチリと張り巡らされた根の部分が「見える化」されていますよね。地上では別々に分かれていても、土の中では根が絡み合い、ネットワークのように一体化して表現されているのが非常に印象的でした。

また、普段から「見えないところこそ、心を込めて制作するようにしています」と語る柴田さんの制作姿勢がよくわかる銅版画作品がこちら。

「ほしの砂漠」

少し離れたところから見ると、木の根っこ部分を詳細に組み合わせて表現した版画作品だな・・・というのがパッと見の印象。

ですが、柴田さんの作品は、至近距離から見ないと全て味わい尽くすことはできません。ぐぐっと寄ってみましょう。非常に細かいところまで丁寧に切り込まれていたり、描きこまれていたりするのがわかります。

「ほしの砂漠」部分拡大図

もっと寄ってみましょう。根っこの隙間を見てください。それぞれの隙間に、色々と描きこまれていますよね?!どうでしょうか?なにか見えてきましたか?

「ほしの砂漠」部分拡大図

ほら、いました!根っこと根っこのそれぞれの隙間部分には、生命感あふれる様々なモチーフが描かれています。このように、細部まで描きこまれている柴田さんの作品は、見れば見るほど次々に新しい発見があるんです。

柴田あゆみさんの真骨頂!立体感あふれる3D切り絵の面白さ

「かみのやま」/煩悩を表す108枚の切り絵を和綴じの絵本に仕立てた作品。

また、柴田さんの切り絵作品の凄いところは、単に紙を切って整えて、それで終わりではないということ。切リ終えた2次元の紙片に一工夫加えることで、印象深い作品へとヴァージョンアップしていくのです。

その中でも、最もわかりやすく面白いのが、切った紙片を何十枚も重ねて立てることによって、切り絵がまるで立体彫刻のように見える一連の作品群。しかも、左端が糸で和綴じされているので、パラパラマンガや絵本のように1枚1枚めくって楽しむことができるのも味わい深いです。(※繊細な作品なので、館内の展示作品を触ることはできません。あくまでパラパラできるのはコレクターさんの特権です!)

「かみのやま」部分拡大図

続いてこちらは、サヤノタイプ(日光で焼き付けて現像する、機械図面や建築図面を複写する時などによく使われた「青焼き」写真)と切り絵を組み合わせた「ぎんがのおと・誕生」という作品。銀河の渦巻構造や銀河団の泡状構造が、深いブルーで美しく表現されています。

「ぎんがのおと・誕生」

ニューヨークでのアーティスト修行時代、「切り絵の次に好きだったのは銅版画でした」と語る柴田さんは、リトグラフやサヤノタイプといった、印刷系の技術にも明るいのですね。

「歌う木」

また、本展では展示手法も工夫されています。展示室中央部分に展示された巨大な切り絵の森のインスタレーションの中を進んでいくと、森の中にいくつもの別の小さな作品が展示されています。こういった入れ子構造での展示方法も、広い展示スペースが確保できる美術館ならではの見どころです。

光の陰影が幻想的な、瓶に入った切り絵作品

そして、展示室のラストを飾るのが、暗闇の中、柔らかいオレンジ色の光に照らされた、瓶の中に入った一連の作品群です。

「しげみの雫」

柴田さんは、こうしたガラス瓶に入った作品を構想する時、瓶の中の一つ一つが、それぞれ独自の小宇宙を形作っているのだ、というイメージで制作に臨むのだそうです。

瓶の中には、人々が暮らす街や村、植物、森、月や深海など様々なモチーフが封入されていました。もちろん、作品の見方は人それぞれ。柴田さんの切り絵はどれもかなり抽象度が高いので、想像を働かせると色々な見方が楽しめそうです。(ちなみに、僕はこの日はお腹が空いていたのか、ケーキに見えたり、カイワレダイコンに見えたりした作品がありました・・・^_^;)

「深海の壺」

ここまで、本展に展示されている約50作品の中からいくつかピックアップしてご紹介してきました。

縦に幾層も並べたり、銅版画など他の技術と合わせたり、光を当てたりと、様々な工夫を経て制作された作品はどれもオリジナリティ抜群。切り絵の魔術師・柴田あゆみさんが作り出す、慈愛と優しさに満ちた作品世界をたっぷりと味わってみてくださいね。

グッズも多数!全てあゆみさんの手作りです!

見えない子たちの家・まる鏡(各770円・税込)

さて、展示室を出た後はそのまま出口に直行してはいけません!ミュージアムショップもしっかり覗いて行ってくださいね。

なぜなら、本展には柴田あゆみさんが手掛けたオリジナルグッズ(というより作品といってもいいかもしれません)が多数揃っているからです。特に、切り絵のピアスやイヤリングは必見です!

調和の森(機械切り)2,200円(税込)
ときの薬草(ピアス・イヤリング)
中:12,100円(税込)、小:9,900円(税込)
和紙切り絵キャンドルシリーズ(LED・リモコン付き)
大:27,500円(税込)、中・小セット:33,000円(税込)
(※中・小はセット販売のみ、個別販売不可)
専用リモコンで、細かく設定変更もできるのは嬉しい!

柴田あゆみさんの”Roots”が詰まった充実の展覧会をお見逃し無く!

過去のインタビューでも触れていますが、柴田あゆみさんがアーティストを志ざし、徒手空拳でアメリカに渡ったのは25歳の時でした。美大・芸大で正規の教育を受けたわけでもなく、まして社会人になってからアーティストを目指すというのは、まさに無謀ともいえる常識外のチャレンジだったかもしれません。

当然、アメリカでも苦労の連続だったことでしょう。そして、渡米して数年後、追い込まれたギリギリの精神状態の時にふと入った教会で、ステンドグラス越しに差し込んだ幻想的な光に感動したことがヒントになり、とうとう柴田さんは切り絵アーティストへの第1歩をつかみます。

本展では、自分探しの旅を終えて、切り絵アーティスト・柴田あゆみが誕生してから現在までの10年間の軌跡が余すことなく展示されています。切り絵を現代アートへと昇華した規格外の独創性とアイデア力、切り絵だけでなく、版画や印刷などにも通じた豊富な技術の引き出しなどは、間違いなくニューヨークでの修行時代に身についたものであるといえるでしょう。

そういう意味では、来館者から見ると、本展では「切り絵アーティスト・柴田あゆみのRootsを知る」というもう一つの視点もありそうです。

僕をはじめとして、最近になって柴田あゆみさんのファンになったという人は、彼女の初期作品から最新作までを一気に見られるチャンスです。是非、展示室いっぱいに広がる切り絵の森を、あなた自身の五感全体を使ってゆったりと味わっていただきたいと思います!

展覧会基本情報

「切り絵 柴田あゆみの世界」 ~巡るいのちの”Roots”~
開催日時:2020年9月12日(土)~12月20日(日)
開催場所:富士川・切り絵の森美術館
    (〒409-2522 山梨県南巨摩郡身延町下山1597)
公式HP:https://www.kirienomori.jp/art_museum/50/

なお、本展の展示作品は、一部の非売品を除いて全て購入することが可能です。価格表も用意されています。興味のある方は、受付でスタッフの方にお尋ねください。

柴田あゆみさんのプロフィール

横浜出身。2007年にニューヨークに移り、国立アカデミーにて版画とマルチメディアを習得。2015年よりパリに移り、パリ市運営のアトリエ59リボリにて2年間の展示と制作活動を行う。パリ滞在中、フランス最大のペーパーアーキテクト会社より支援を受け、4メートル四方の大型作品の展示やフランス老舗ブランドrepetto本店にて特別展示や、その他多数展示を行う。2018年より横浜を拠点として活動中。同年、イタリアミラノマルペンサ空港での大型作品の展示や、ドイツ国際アートトリエンナーレにて入賞。2020年は、銀座・和光での個展(8月8日~8月19日)、富士川・切り絵の森美術館(9月12日~)など、相次いで個展を開催。アーティスト活動10周年と節目にふさわしい充実した1年となっている。

公式HP:https://www.ayumishibata.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/ayumishibatart/
公式Instagram:https://www.instagram.com/ayumishibatart/?hl=ja

かるび

かるび

投稿者の記事一覧

メーカー、IT企業で勤務後、41歳にして1年間のサバティカル休暇へ突入。現在は、ブロガー&Webライターとしてアートや映画について主催ブログ「あいむあらいぶ」(http://blog.imalive7799.com/)にて日々見聞きした出来事を書き綴っています。

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