泉屋博古館東京(せんおくはっこかん)の「不変/普遍の造形」展では、3000年前の古代中国で生み出された青銅器の超絶技巧に驚き、かわいい動物型の器に魅了されます。
この展覧会はリニューアルオープン記念展のパート4で、2023年2月26日(日)まで開かれています。
中国青銅器は殷周(いん・しゅう)時代(前17世紀~前221年)につくられました。秦の始皇帝が兵馬俑を築いたのは紀元前3世紀、それよりも古いのです。
筆者は初めて中国青銅器を根津美術館で見た時に、独特の形や幾何学的な文様に、いままでに出会ったことのない文明を感じました。京都の泉屋博古館では階段状の展覧空間に並ぶ青銅器の量に圧倒されました。
「不変/普遍の造形 住友コレクション中国青銅器名品選」展はおよそ100点の中国青銅器が一堂に会する貴重な機会です。
太鼓から青銅器を物語る
ホールの中央には、高さ82cmの太鼓の形をした器「夔神鼓」がどっしりと構え、上には背中合わせの鳥の飾り、正面には角をつけ、両手両足を挙げた人物像があります。地理書の『山海経(せんがいきょう)』に、太鼓に怪物「夔(き)」の皮を張ると音が五百里(約200m)先まで届いたと記されたことに由来する名前といわれています。
中国青銅器は今から約3000年前の殷周(いん・しゅう)時代につくられた、祖先の神々の依り代をもてなすための特別な器です。食器・酒器・楽器などの用途があり、複雑で緻密な造形と高度な機能性を兼ね備えています。
土で型をつくり、厚さ2~3mmの表面に複雑な文様を施し、青銅を流して鋳造します。完成時に型を崩すので、型は1度しか使えません。技術の高い工房が注文を受けつくったものと考えられています。
「第1章 神々の宴へようこそ」で、さまざまな用途の器のバリエーションが楽しめます。
食べ物を入れる器
鼎(かなえ・てい)は肉入りスープを煮るための器で祭祀の中心的な役割を果たし、数多くつくられました。鼎が3本足なので、3人が向かい合って話をする言葉「鼎談(ていだん)」の元になった形です。
ボールのような形の「敦(たい)」は、穀物を盛る器です。半球形の蓋にも乗っている竜のような動物はひっくり返したときに3本の脚になります。表面を磨いて美しい光沢と色があったと想像されています。
酒を入れる器は3種類
酒器は3種類に大きく分けられ、酒を保存するための器、酒を温めるための器、酒を飲むための器があります。
「罍(らい)」は酒を貯めておくための器、ここから銘々に酒を酌み出したとされています。二つの把手、肩部と下腹部の正面には獣の頭部をかたどった犠首がつき、屋根のような形の蓋があります。器全体は饕餮文、龍文などの精緻な文様に覆われています。
祖先の神々をまつるための聖なる器を飾るモチーフは、危険なものであり、それゆえに聖なるものが刻まれました。もっとも多く使われた「饕餮文」は、伝説上の人を食う首だけの獣の顔面模様のこと、正面中央に鼻、その左右に目があります。
酒や水を入れる器、やや丸味のある胴にラッパ状の足があります。表面を埋め尽くすのは渦巻き型の雷模様、渦巻き模様は邪気を祓うために世界各地で使われているといわれています。
大小の渦巻きが太い線、細い線で刻まれて、モダンで洗練された美しさを感じました。
「卣(ゆう)」は酒を入れて運ぶ、あるいは酒に香り付けする香草の煮汁を入れる器ともいわれます。釣り手は内部でロックがかけられ、可動域が決められており、蓋は密封性が高く、機能性も兼ね備えています。
「虎卣」は虎が人を抱えて丸のみにしているような形の器です。虎の姿をした神が人を守っているともいわれ、意味ははっきりしていません。中国古代の人々にとって、虎とは危険な猛獣であるとともに、恵みの仁獣という、二面性のある神聖なる動物として捉えられていたのでしょう。
愛くるしい動物型
「第2章 文様モチーフの謎」では表面を覆う文様に注目します。ここでは動物型の器を紹介します。
4頭の神獣が楽しそうに遊んでいます。頭の上には鳥のようなものがのり、口には板のようなものをくわえています。羽が片面だけなので、台座のようなものに取り付けられ、墓に埋められていたと考えられています。
鴟鴞(しきょう)はフクロウ・ミミズクの類を指すとされ、中国古代では不吉な鳥として嫌われていました。だからこそ邪気を祓うことが期待されたのでしょう。この鴟鴞尊は、頭の上に二つの飾り羽と耳をとらえ、野生のミミズクの特徴を表現し、工人たちが鳥をよく観察していたことがわかります。「尊」と名がつく、酒を入れる器です。羽の中央に蛇の頭から胴体がぐるりと渦巻きになっています。
鴟鴞尊は泉屋博古館のマスコット的存在でもあり、レプリカが季節にちなんだ服を着てツイッターに登場します。また、この展覧会のチラシ、ポスターにも載っています。
こちらも鴟鴞、2羽が背中合わせになっています。鴟鴞から死角にあたるところに目をもつ文様があって邪霊を360度見張っている意味合いがあったといいます。先に紹介した虎卣と同様に酒や香草の煮汁を入れる器だったともいわれます。大きな目が愛らしく、身近に置きたいと思うほどです。
美しい文字で記録を残す
「第3章 古代からのメッセージ-金文-」では、器、楽器、鏡に刻まれた文字を展示しています。青銅器の内側に施された金文は漢字の祖先です。文字の美しさは、後世の書家を魅了してきました。当時の社会の価値観や歴史的事件を記す貴重な資料でもあります。
鐘は複数個を組み合わせて吊り下げ、「編鐘(へんしょう)」と呼ばれます。本来は14個セットで、2個はカナダの美術館に収蔵されています。鐘の中央にある鉦間に銘文があり、武功を立てて王に功績を認められたことが記るされています。
中国青銅器の収集から博物館へ
「第4章 中国青銅器鑑賞の歴史」はロッカーの奥にあり、見逃さないようにしましょう。器をさまざまな方向から見るホログラムもあります。
ずんぐりとした動物型の器は、背中に蓋があり、液体を入れることができます。これは北宋時代に殷周青銅器を模してつくられた「倣古銅器(ほうこどうき)」で、目には赤い宝石、表面には金銀の象嵌文様が豪華です。この器が見つめているのは、住友家15代当主の住友春翠(1864~1926年)の肖像です。
「夔文筒形卣」は住友春翠が煎茶の床飾り用に初めて購入した青銅器です。春翠は青銅器コレクションを築き、泉屋博古館の基礎をつくりました。1960年、京都市に「泉屋博古館」が設立され、2002年に東京都に分館が開設(2021年 泉屋博古館東京に改称)されました。泉屋博古館(京都、東京)が収蔵する古代中国の青銅器は約600点、世界に誇るコレクションです。ほかにも中国・日本の書画約650点、茶道具約800点、能装束・能面が約250点、洋画約150点を所蔵。
中国青銅器グッズをお持ち帰り
コーヒー器具メーカー「HARIO」直営のカフェがオープンしました。展覧会のあと、季節の草木を見ながらコーヒータイムを過ごしましょう。オリジナルのガラス製アクセサリーも購入できます。
東京都港区内で中国青銅器を所蔵・展示している3館(根津美術館・松岡美術館・泉屋博古館東京)をめぐるデジタルスタンプラリーが2月5日(日)まで開催されています。スタンプをすべて獲得すると、「おでかけしきょうそん」(3D ARフォトフレーム)がもらえ、撮影ができます。
また、泉屋博古館東京の会場ではほとんどの作品を撮影できます。気に入った器を好きな方向から撮影して持ち帰りましょう。
この展覧会に関わった学芸員・山本堯さんが執筆した公式ガイドブックにはイラスト、写真がたくさんあり、3000年前の中国青銅器がグッと身近になります。3月からは京都の泉屋博古館で「中国青銅器の時代」が開催されます。
*掲載写真の器はすべて、泉屋博古館所蔵。
展覧会基本情報
泉屋博古館東京リニューアルオープン記念展Ⅳ
「不変/普遍の造形 —住友コレクション中国青銅器名品選―」
会期:2023年1月14日(土)〜2月26日(日)
会場:泉屋博古館東京(東京都港区六本木1丁目5番地1号)
時間:11:00~18:00 ※金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般1,000円、高大生600円、中学生以下無料
入館の予約は必要ありません。
ホームページ:https://sen-oku.or.jp/tokyo/
中国青銅器の時代
会期:2023年3月14日(火)~5月21(日)
*以降、企画展開催期間併催(~2023年12月10日・日曜)
会場:泉屋博古館(京都・鹿ヶ谷)https://sen-oku.or.jp/kyoto/
休館日:月曜日、4月25日(火)
時間:10:00~17:00
観覧料:一般800円、高大生600円、中学生以下無料