旅館、小豆、水彩。この3つのキーワードを見て、「ああ、あれのことね」と滑らかに意味を繋げられる人は、そうそういないと思います。
創業70年を超える東京・谷中の老舗旅館『澤の屋』にて、随分と風変わりで個性の突き抜けた展覧会『アート&ブックプロジェクト ようこそ「えんぎやど」へ』が始まりました。澤の屋でアート展を開催するのは初めてとのこと。この突き抜け方、初回からスピード違反なり。
純和風の旅館を舞台に、和菓子をモチーフにした立体作品や、日本をテーマにした水彩の絵画が飾られる本展。写真からも伝わるとおり、個性×個性×個性で無限遠に吹き飛びそうな展覧会でした!
境 貴雄による小豆と魔除けのアート
メインの展示室である2階の客室25号室「えんぎの間」でまず目を引くのは、小豆や白玉をモチーフにした大きな招き猫! 境 貴雄(さかい・たかお)さんによる作品です。
幼い頃から小豆を食べることが大好きだった境さん。大学生の頃から小豆や和菓子をモチーフとした作品を作っています。
小豆には「魔除け」の意味があり、幸福をもたらす食べ物として、日本では古来から親しまれてきました。本展では、旅館ならではの和の空間に、新型コロナウイルス終息への願いも込めて、小豆を用いた作品を展示しています。
しかし一度見たら忘れられないパワフルな造形です。特に小豆を髭に見立てて身につける「アズラー」ファッションは強烈。
とはいえ小豆は魔除けですし、大昔に「小豆を身にまとって邪悪なものから自分を守ろう」という考え方が生まれるパラレルワールドもあり得ます。その世界線ではアズラーファッションが定着して現在に至っているかもしれず、別世界に接続する作品です。
エリカ・ワードが見つめる日本
エリカ・ワードさんは、カリフォルニア生まれ、東京在住の水彩アーティスト。絵は独学と聞きましたが、そうとは思えない描写力です。
エリカさんは海外から日本を見る視点と、日本の内側から日本を見る視点の両方を持ち合わせています。例えば、どこにでもあるカーブミラーに着目した作品は、日本での暮らしが長い人ほど「目の付け所が面白い!」と感じるのではないでしょうか。
生まれてからずっと日本に住んでいる人の感覚だと、「和」といえば着物や寺社仏閣など伝統的なものを連想します。カーブミラーが日本らしいモチーフとは、誰かに言われなければ気づかないのでは。
《生える・映える》には盆栽など伝統的な日本の要素もありますし、古来から現代に至るまでの日本の時の流れを感じられます。
境さん、エリカさんの作品集も会場で販売中です。
会場は老舗旅館『澤の屋』
本展の会場となるのは、東京・谷中の老舗旅館『澤の屋』です。創業70年以上の歴史を感じる純和風な旅館で、外国人観光客にも人気の旅館です。
2020年、新型コロナウイルスの影響で自由に旅行ができなくなり、澤の屋も外国からのお客さんを迎えられなくなってしまいました。一方、日帰り入浴やデイユースなど、新たな取り組みを始めて賑わいを取り戻しつつあります。今回の展覧会でも新たなお客さんが訪れ、活気が生まれています。
また、澤の屋3代目、澤 新(さわ・あらた)さんは、獅子舞ができるとのこと! 宿泊客のリクエストがあればいつでもやります、とのことでした。獅子舞が見られる旅館なんて、そうそう無いのでは?
まとめ
老舗旅館、小豆、水彩、獅子舞と濃い、非常に濃い展覧会でした。美術館やギャラリーでは味わえない、非日常と癒しが同居する旅館ならではの展示です。
ふらっと立ち寄ってアートを鑑賞することもできるし(無料)、デイユースや宿泊で利用することもできます。1部屋限定で、2人の作品が展示される客室があるので、宿泊しなければ見られない作品もありますよ!
『アート&ブックプロジェクト ようこそ「えんぎやど」へ』
期間:2021年9月1日(水)~9月30日(木)
入場料:無料
時間:
月~木 10:00~18:00
金・土日祝 10:00~20:00
最終日(9月30日):10:00~18:00
展覧会HP:https://honyashan.com/sawanoyaproject-engiyado
旅館 澤の屋HP:http://www.sawanoya.com/nihonngho.html