ギリシャ神話は西洋美術の名画で学べばもっと面白くなる!印象的なエピソードを巨匠が描いた名作で解説します!【ギリシャ神話解説シリーズ第二弾】

古代ギリシャから伝わるギリシャ神話は、西洋美術のモチーフとして多くの作品に描かれています。個性豊かな神々や英雄たちの姿は、多くの人たちを魅了してきました。

有名なボッティチェッリ「ヴィーナスの誕生」をはじめ、一度はギリシャ神話モチーフの絵画を目にしたことのある方も多いのではないでしょうか?

しかし、作品を見たことがあったり、神々や英雄の名前を聞いたことがあったりしても、ギリシャ神話の話そのものは意外と知らないものです。

この記事では、ギリシャ神話を描いた名画を3作品ご紹介。もととなったギリシャ神話のエピソードについても解説します。前知識がなくても素晴らしい絵画ばかりですが、エピソードを知ることで、より興味深く鑑賞できます。

スフィンクスの謎かけに英雄が挑む!ギュスターヴ・モロー「オイディプスとスフィンクス」

ギュスターヴ・モロー「オイディプスとスフィンクス」(1864年)

「朝には4本足、昼には2本足、夜には3本足で歩くものは何?」というなぞなぞを聞いたことのある人もいるのではないでしょうか?この世界一有名ななぞなぞは、実はギリシャ神話のエピソードなのです。

オイディプスの身体にしがみつくスフィンクスの挑発的な表情。たくましく端正な姿をしながらも、スフィンクスの命じるままに謎かけに挑むしかない無力なオイディプスの姿。その対比が非常に印象的です。スフィンクスが女性の顔で描かれているので、どことなく官能的な感じがします。

見つめ合うオルフェウスとスフィンクス。男女関係を思わせる雰囲気があります。

さらに、足元に転がる犠牲者たちが、スフィンクスの恐ろしさを見事に表現。恐怖を感じつつも、思わず見入ってしまう不思議な魅力がある作品です。

テバイ王ライオスと王妃イオカステの間に誕生したオイディプスは、生まれてすぐに山に捨てられます。その後、コリントス王子として育てられたオイディプスは、デルポイで「父を殺し母と結婚する」という神託を受け、回避するために旅に出ます。

オイディプスは旅の途中で、人間の頭とライオンの身体を持った怪物スフィンクスに遭遇。スフィンクスは先ほどの謎かけを行い、答えられなかった者を食らっていたのです。

オイディプスは、スフィンクスの謎かけに「それは人間だ」と答えます。人間は、赤ん坊の頃は手足を使って四つん這いで移動し、成長すると2本足で歩き、老人になると杖をついて歩くからです。謎を解かれたスフィンクスは、崖から身を投げて死んでしまいます。生きながらえたオイディプスですが、彼の運命は破滅へと向かっていきます。

ちなみにスフィンクスはエジプトにおいては、ピラミッドを守る権力の象徴でした。それに対し、ギリシャ神話では妖しげな怪物として描かれています。

愛する者を喪ったアポロンの慟哭!ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ「ヒュアキントスの死」

ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロ「ヒュアキントスの死」(1753年)

右腕で顔を覆っている男性が万能の神アポロン、画面右下に倒れている上半身裸の男性がアポロンの寵愛を受けた美少年ヒュアキントスです。今まさに死のうとしているヒュアキントスのうつろな眼差しと、アポロンの絶望の表情が、痛々しく、愛情の深さを感じさせます。

輝くような美しい青年の姿をしたアポロンは、恋多き神です。多くの女性や美少年に恋をしますが、多くは悲恋に終わります。アポロンと美少年のエピソードのなかでも、最も有名なものが本作で描かれているヒュアキントスとのラブストーリーです。

アポロンは美しいヒュアキントスを心の底から愛して、一緒に円盤投げをするなどいつも一緒に行動していました。ヒュアキントスもアポロンを崇拝し、二人は愛し合っていました。

ヒュアキントスに思いを寄せる西風ゼピュロスは、激しい嫉妬に苦しみます。ある日、アポロンとヒュアキントスが仲良く円盤投げをしていると、ゼピュロスは嫉妬心から風を起こし、円盤の飛ぶ方向を変えてしまいます。円盤はヒュアキントスの額に直撃し、彼は血を流して倒れます。

大いなる力を持つアポロンですが、ヒュアキントスの命を救うことはできず「不死である神をやめ、お前とともに冥界に行きたい」と慟哭しました。ヒュアキントスの血は大地に染み込んで、そこからヒヤシンスの花が咲いたといいます。本作では、ヒュアキントスの近くに咲いている白い花がヒヤシンスです。

ヒヤシンスの花のそばには、テニスのラケットとボールがあります。これは、円盤投げを、作品が描かれたルネッサンス期に流行していたテニスに置き換えたものです。こういったところから、当時の流行がわかるのは面白いですね。

テニスのラケットとボール。時代に合わせて設定を変えている点が興味深いです。

ちなみに、アポロンはシンボルである月桂冠をつけていますが実はこの月桂冠は、ダフネという女性との悲恋に由来するものです。アポロンは万能の力と絶世の美貌を持っているにもかかわらず、恋がままならないとは皮肉なものです。

”見てはいけない”タブーを破った代償は永遠の別れ!ジャン・ラウー「オルフェウスとエウリュディケ」

ジャン・ラウー「オルフェウスとエウリュディケ」(1709年)

愛する妻エウリュディケの手を引き、冥界から抜け出そうとするオルフェウス。不安げに後ろを振り返るエウリュディケの視線の先には、冥界の王ハーデスとその妻ペルセポネがいます。

ハーデスとペルセポネのどこか見下しているような表情。画面左側にいる、人間の運命を司る三人の女神。そして、エウリュディケの足元で今にも踏みつぶされそうになっているみずみずしい果物。これらが不穏な空気を醸し出しています。

生命力を象徴するかのようなみずみずしい果物が、今にも踏み潰されようとしています。

また、中央に描かれたオルフェウスとペルセポネがスポットライトを浴びているかのような陰影のつけかたが、画面のドラマ性を高めています。

オルフェウスは、音楽の天才で、彼が竪琴を鳴らしながら歌えば、獰猛な動物も音楽に魅了されて大人しくなり、草木でさえも彼の方へなびいたといわれます。オルフェウスは美しい女性エウリュディケと結婚しますが、彼女は毒蛇に噛まれて命を落とします。

オルフェウスは、亡き妻を救い出すために冥界へと向かいます。ハーデスとペルセポネは、彼の歌に感動し、エウリュディケを生き返らせることを許しました。ただし、「地上に着くまでは、決して後ろを振り返ってはいけない」という条件つきで。

オルフェウスは、エウリュディケが本当に後ろにいるのか不安になり、ついに振り返ってしまいます。その結果、エウリュディケは消えてしまいます。

不安に負けてタブーを破ってしまうオルフェウスの弱さや、愛し合う二人が引き裂かれる悲劇的な結末から、絵画をはじめ多くの芸術でモチーフとなっている題材です。ちなみに日本神話にも「イザナギ、イザナミの物語」というよく似た話があります。

ギリシャ神話を題材とした西洋絵画やアートは、非常にたくさんあります。展覧会などで西洋絵画を鑑賞する際は、ギリシャ神話モチーフに着目してみるのもおすすめです。

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