アート

知識ゼロでもOK!ギリシャ神話のとっておきのエピソードを西洋美術の名画で解説します!

遥か古代から伝わるギリシャ神話(ギリシア神話)は、数多くの西洋美術作品のモチーフに使われています。ゼウス、アポロン、ヴィーナスなど個性豊かな神々が、熱烈に恋愛したり、ケンカをしたりとまるで人間のような愛憎劇を繰り広げます。

ギリシャ神話をモチーフにしたアートには、ボッティチェッリ 「ヴィーナスの誕生」をはじめ、有名な作品も少なくありません。しかし、その作品のもととなるギリシャ神話のストーリーは、意外と知らないことも多いのではないのでしょうか?

この記事ではギリシャ神話をモチーフにしたアート4つと、それにまつわる非常に興味深いエピソードをご紹介します。ギリシャ神話を知ることで、より作品に魅力を感じられるようになりますよ。

美の女神の衝撃的すぎる誕生秘話!ボッティチェッリ 「ヴィーナスの誕生」

サンドロ・ボッティチェッリ 「ヴィーナスの誕生」 (1483年頃)

ヴィーナスは、神々のなかでも特に優れた美貌で知られる、愛と美と豊穣の女神です。

ボッティチェッリの最高傑作である 「ヴィーナスの誕生」は、誕生したヴィーナスがキプロス島に上陸した光景を描いたもの。身体をくねらせ恥じらいを感じさせるポーズで立っているヴィーナスの姿が印象的です。風になびくウエーブがかった髪の毛、とろりとした眼……。まさに美の女神にふさわしい優美な姿です。

そんなヴィーナスですが、誕生時のエピソードは、その姿からは想像できないほど衝撃的!

ギリシャ神話の最高神であるゼウスの父・クロノスが、その父であるウラノスの性器を切り取り海に捨てました。すると性器から出てきた泡から、あの美しいヴィーナスが誕生したのです!

「ヴィーナスの誕生」に描かれた、優雅で美しい姿とのギャップに驚かされますが、愛と美と豊穣の女神の誕生と考えるとなんとなく納得できる気もします。

オリンピックの月桂冠は、アポロンの悲恋から生まれた!ベルニーニ「アポロンとダフネ」

ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ「アポロンとダフネ」(1622-1625)

まばゆいばかりの美青年の姿をした万能の神・アポロン。

数々の恋をした彼ですが、意外にも悲劇的な結末に終わるケースがほとんどでした。その美しさからバロック期彫刻の傑作といわれるベルニーニ『アポロンとダフネ』は、アポロンとダフネの悲恋をモチーフにしています。透けるような繊細な葉の表現、鮮烈な臨場感、柔らかな質感が素晴らしい作品です。

アポロンに立腹した愛の神・キューピッドは、金の矢でアポロンを、鉛の矢で川の神ペネウスの娘ダフネを射抜きます。金の矢の力によりアポロンはダフネに熱烈に恋をして、鉛の矢の力でダフネはアポロンを嫌悪します。

アポロンはひたすらダフネを追いかけ、ダフネはひたすら逃げ続けます。

ついに川辺に追い詰められたダフネは、父親であるペネウスに「清いままでいられるように、私を変身させてください」と願います。するとアポロンにダフネが捕まった瞬間、彼女の身体は月桂樹の木に変化していきます。

ダフネの下半身を見てみましょう。まさに今、樹木へと変わりつつある身体が彫刻で表現されています。

ダフネのことを諦められないアポロンは、ダフネに自分の神木となるよう懇願。ダフネは枝を揺らして葉をアポロンの頭に落としました。アポロンはこの葉で月桂冠をつくり、肌身離さず身につけます。オリンピックチャンピオンの頭に載せられる月桂冠は、この時の月桂冠が由来です。

今の感覚からすると、アポロンの行動はちょっとストーカーじみていますが、それだけキューピッドの矢の力がすごいということ。

万能の神でもままならないとは……恋のパワーはすごいですね。

女神たちの争いがトロイア戦争の引き金に!ルーベンス 「パリスの審判」

ピーテル・パウル・ルーベンス 「パリスの審判」 (1632-1635)

ギリシャの王国連合とトロイア王国の間で、繰り広げられたトロイア戦争。ギリシャ軍が屈強な兵士たちを巨大な木馬のなかに潜ませてトロイア王宮に送り込み、戦争に勝利した「トロイの木馬」のエピソードでもおなじみです。

ですがこのトロイア戦争の発端は、意外に知られていません。

ルーベンス 「パリスの審判」は、トロイア戦争の原因となったエピソードを描いています。

海の女神ティティスと英雄ペーレウスの結婚式には、神々たちが祝福に訪れましたが、争いの女神エリスだけは招かれませんでした。エリスは怒り、神々の集まっているところに「最も美しい女神へ」と書かれた黄金のリンゴを投げ入れました。

争いの火種となった、エリスが投げ入れた黄金のリンゴ。ちゃんと「黄金色」で描かれていますよね。

自分こそが一番の美女だと思っている三人の女神、最高神ゼウスの正妻であるヘラ・知恵と戦争の女神アテナ・美の女神ヴィーナスは、黄金のリンゴをめぐって大ゲンカ。困ったゼウスは、トロイアの王子パリスに誰が一番美しいかを判定させることにします。

女神はそれぞれパリスに取引を持ち掛け、ヘラは「ヨーロッパとアジアの王の座」を約束し、アテナは「全ての戦いでの勝利」を、ヴィーナスは「世界一の美女」を与えると言いました。パリスは世界一の美女を選び、ヴィーナスが勝利しました。

ヴィーナスは約束通り、世界一の美女・ヘレネーをパリスに妻として与えますが、実はヘレネ―はスパルタ王メネラーオスの妃。当然メネラーオスは激怒し、ギリシャ王国連合軍をつくり、トロイアに侵攻。トロイア戦争が勃発しました。神々の介入もあり、戦争は10年も続きます。

作品には、左から武具を持っているアテナ、愛の神キューピッドを従えているヴィーナス、孔雀を連れているヘラが描かれています。ルーベンスによる女神たちは優美で神々しいですが、冷静に考えると人間たちはとんだとばっちりですね……。ルーベンスは「パリスの審判」のモチーフを好んでいて、何枚も同じ題材の絵を残しています。グラマラスな肢体と明るい雰囲気を理想とする、ルーベンスらしいエピソードです。

女神の逆鱗に触れた狩人の末路。ティツィアーノ「ディアナとアクタイオン」

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「ディアナとアクタイオン」(1556‐1559)

ギリシャ神話の神々が人間に罰を与えるエピソードは数多くありますが、なかには厳しすぎるのでは?と思ってしまうものも。

代表的なのが、ティツィアーノ「ディアナとアクタイオン」に描かれたエピソードです。臨場感たっぷりなこの絵画は、ティツィアーノの最高傑作ともいわれています。

ディアナとは狩猟の神、アルテミスのこと。絵画の画面右側に腰かけているのは女性がアルテミスで、頭にはシンボルである三日月の飾りをつけています。裸体を見られたことに激怒しており、とっさに衣で身体を隠そうとしています。そして画面左側で、驚いて一歩後ずさっている男性が狩人のアクタイオンです。

アクタイオンは人の頭と馬の身体を持つケンタウロスに育てられた狩人で、この日は50頭の猟犬を連れて狩りに出ていました。森の奥の洞窟で泉を見つけ、身体を洗って水を飲もうとしたのですが、実はその泉は、女神アルテミスとアルテミスに仕えるニンフたちがいつも水浴びを楽しんでいる場所だったのです。ちょうどこの時も、アルテミスは一糸まとわぬ姿でいました。

潔癖な処女神で男嫌いなアルテミスは、裸を見られたことに大激怒。「アルテミスの裸を見たとふれまわれるならするがよい!」と叫びながら、泉の水をアクタイオンに浴びせます。するとたちまちアクタイオンは、一頭の鹿に変身。アルテミスが猟犬たちをけしかけ、アクタイオンは凄惨な最後を迎えます。

アクタイオンの運命を暗示するモチーフ「牡鹿の頭蓋骨」。一見目立たないところにも、神話を楽しむための手がかりが隠れていることがあります!

いくら女神の裸を見たからといって、悪気のないうっかりミスの代償としては、あまりにもむごい気が……。アルテミスの潔癖さ、プライドの高さをよく現すエピソードです。ちなみに、画面のアルテミスの上に描かれているのは牡鹿の頭蓋骨。これからのアクタイオンの運命を暗示しています。

今回ご紹介した以外にも、ギリシャ神話をモチーフとしたアートは非常に多くあります。ギリシャ神話はストーリーそのものが、単体でも非常に魅力的です。気に入った作品に関係するエピソードを調べることで、より楽しみが広がります。

参考図書

吉田 敦彦『名画で読み解く「ギリシア神話」』
Amazon:https://www.amazon.co.jp/dp/4418132244/

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本記事が非常に好評なので、川瀬ゆうさんに「西洋絵画で読み解くギリシャ神話の解説記事」第2弾の執筆をお願いしました。こちらの第2弾解説記事では、魅力的なエピソード3篇を巨匠の作品を引き合いにじっくりとわかりやすくご紹介。ぜひ、合わせてお読みくださいね。

川瀬ゆう

川瀬ゆう

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アート好きのライター。大学時代は能楽部に所属し、実際に舞台に立ったことも。能や歌舞伎といった伝統芸能、絵画、映画など、興味の赴くままに楽しんでいます!楽活ではわくわく感のある記事を発信していきたいです。

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