アート

【ミュージアム・プレイリスト】第4回「美のはじまりの音楽:縄文1万年の美の鼓動」

絵画と音楽には、時代ごとの空気感やメッセージに満ちた「物語」があります。近年関心が高まりつつある、美術とクラシック音楽のコラボレーション。このコラムでは、音楽キュレーター高野麻衣が、展覧会のために選曲したプレイリストをご紹介いたします。

静謐な、美しい音楽が響いた!

夏休みの終わり、東京国立博物館(東京・上野)で開催中の特別展「縄文 1万年の美の鼓動」を再訪しました。
「縄文」といえば、骨太な縄文土器や、ユニークな土偶のイメージ。それらはこれまで、「素朴」とか「生命の躍動」といったフレーズと結びついてきました。私も実際に展覧会を訪れるまでは、プレイリストに「ゴジラのテーマ」のような音楽を想定していたくらいです。

★2018年8月のプレイリスト
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しかし会場に足を踏み入れた瞬間、頭の中に響いたのは、あまりに静謐な、美しい音楽だったのです。

1万年の時間旅行のはじまり。入口には門番のように、微隆起線文土器が鎮座している。薄く整えられたに施された、さりげない文様がエレガント。

1曲目は、静寂を音にしたようなストラヴィンスキー『春の祭典』から「序奏」(spotify: Tr.1前半)でスタートしましょう。『春の祭典』は20世紀初頭のパリで初演されたバレエ音楽ですが、作曲家の故郷ロシアの古代の信仰を描いた題材と、どこか東洋的な音階、とぼけたようなバソン(ファゴットのフランス版)の音が、太古の美の目覚めと響きあいます。

つづく第1章「暮らしの美」は、狩猟や採集を行っていた縄文時代の人びとが、日々の暮らしのなかで作り出したさまざまな道具――「古代の日常」がメイン。とくに目を引かれたのが、土製の耳飾りの数々でした。なかには胸飾りやブレスレット、勾玉のようなものをセットアップした女性リーダー(呪術にたけた巫女のような存在?)の遺物や、美しい翡翠の硬玉製大珠も。

2曲目は、ミニマル・ミュージックのように展示されたアクサセリーに合わせ、エリック・サティの『5つのノクターン』から第1番を。古代に憧れた音楽家サティのシンプルな音と、無国籍で不思議な和音がマッチするはずです。

ピアスは当時の一般的なアクセサリーだった。耳たぶに穴を開けてはめ込み、徐々に大きなものにはめ替えていく。成人になるための通過儀礼や結婚式には、精巧な文様の儀礼用を身につけた。

火焔型土器には重厚で力強いストラヴィンスキー

展覧会中で最も印象深かったのが、第2章「美のうねり」で登場した火焔型土器・王冠型土器の展示でした。

3曲目は、再びストラヴィンスキー『春の祭典』から「大地の讃仰:春の兆し」(spotify: Tr.1後半)。大地から湧きあがるマグマように激しいオーケストラの音は、変拍子のリズムもあいまって、国立博物館の威信を感じる圧巻の展示にぴったりです。

縄文時代中期の代表的な器、火焔型土器が一同に。すべて新潟県十日町市の野首遺跡で発掘された。

重厚で力強い印象は、粘土を幾重にも貼りつけた独特の装飾から。渦巻や幾何学文様の、大胆なリズムはまさにストラヴィンスキー。

真っ赤な空間で、震えるほどの美の衝撃

第3章「美の競演」で同時代のアジアからヨーロッパを旅したあとは、いよいよ第4章「縄文美の最たるもの」。縄文の国宝6件すべてが集結した赤い空間では、震えるような美の衝撃を味わいました。

再訪してよかったと感謝したのが、後期展示で登場した国宝、土偶「縄文のビーナス」に出会えたこと。国宝第1号となったのも頷けるほど、彼女はあまりに尊い、切ない美を湛えています。

国宝は真っ赤なコーナー「縄文国宝室」に。

こちらは「縄文の女神」。

4曲目には、マックス・リヒターの『The Trees』をセレクト。ストラヴィンスキーの激しさから一転、悠久の時の流れを感じるストリングスを聴きながらあの赤い部屋を歩くと、古代の人々の祈りが胸に迫るようです。
土偶は、人々の祈りの形。命を育む存在である女性がどれほど敬われていたかを知り、現代を顧みたり、思索にふけったりもしました。

かわいい動物たちの土偶も

土偶たちが一堂に会した第5章に合わせたい5曲目は、ホルスト『惑星』から「火星」。有名な「木星(ジュピター)」でおなじみの組曲『惑星』の銀河系から、いま最も熱い火星の音楽を、どこか宇宙人のような土偶たちの印象に添えてみました。

第5章でのお気に入りは、後半の動物たちの造形の数々です。「安産や豊穣」を祈った土偶のほかに、海や山といった大自然への「畏敬」をこめて作られた動物造形。なかでもこの猪型土製品は、部屋に飾りたい愛らしさでした。

第5章「祈りの美、祈りの形」は土偶まつり。こちらは「ハート型土偶」。

縄文時代初期の小さなお守りから、晩期に作られた「にほんで最も有名な」遮光器土偶までが勢揃いしている。

6曲目はサン=サーンス『動物の謝肉祭』から。「カンガルー」という短い曲ですが、飛び跳ねる様子が「縄文のイノシシ」にもぴったりではないでしょうか。

猪は、縄文時代の人気モティーフだった。狩猟儀礼のほか、多産への願い、あるいは勇猛果敢なさまへの畏怖の意味もあったという。

「縄文」が芸術を爆発させた?

最終章は「新たに紡がれる美」。明治時代にはじまった考古学の歴史と「縄文」の発見、「縄文」に魅入られた作家や芸術家たちの言葉や名品とともに、その魅力を見つめます。
たとえば「芸術は爆発だ!」と語った岡本太郎は生前、本展の会場である東京国立博物館で縄文土器に出会い、「思わず叫びたくなる凄み」に衝撃を受けました。

「縄文土器の最も大きな特徴である隆線紋(中略)をたどって行くと、もつれては解け混沌に沈み、忽然と現れ、あらゆるアクシデントをくぐり抜けて、無限に回帰し逃れていく」と論じた岡本太郎(本展図録より)。その美文にも酔う。写真は顔面把手。

最後の7曲目は、南米を代表する音楽家ヴィラ=ロボスの『ブラジルのバッハ』より第5番。どこか昭和の香りがするこの曲は、岡本や川端康成、柳宗悦ら先達たちの「縄文への憧れ」とともに流れるエンドロールのようです。

平成館、という名ながらわずかな懐かしさを醸し出す会場にて。週末金曜、土曜は夜間も21時まで開館している。静謐な美とともに、平成最後の夏を締めくくろう。

まもなく閉幕となる「縄文 1万年の美の鼓動」ですが、まだの方はもちろん、すでに行かれた方もいま一度足を運んで、音楽とともにJOMONの世界を楽しんでください。アートを味わう上質な時間のおともに、ミュージアム・プレイリストをぜひ、ご活用ください。

選曲・文・写真:高野麻衣
写真:チバヒデトシ

【展覧会開催概要】
展覧会名:特別展「縄文 1万年の美の鼓動」
会期:2018年7月3日(火)~9月2日(日)
開館時間:9:30~17:00(金曜・土曜は21:00まで、日曜は18:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
会場:東京国立博物館 平成館
展覧会ホームページ:http://jomon-kodo.jp/

高野 麻衣

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コラムニスト。上智大学文学部史学科卒業。歴史をベースに音楽、美術、マンガやアニメについて​幅広く執筆・講演。著書・CDに『フランス的クラシック生活』(PHP新書) 『マンガと音楽の甘い関係』(太田出版)『マリー・アントワネットの音楽会』(ワーナーミュージック)などがある。ラジオ『Memories & Discoveries』(JFN系列)出演中。

Instagram:https://www.instagram.com/_maitakano

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